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【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


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再会

 昼食を終えた後、ガウルから冒険者ギルドへ拠点変更の報告に行くと告げられた。


「セリアさんも一緒に行きませんか?」


 誘われた私は二つ返事で頷きかけたが、ふと前世の知識が脳内をよぎって足を止める。


「……ねえ、ガウルお兄ちゃん。冒険者ギルドって、私みたいな子供が行っても大丈夫かな? 怖い人に『ガキの来る場所じゃねえ!』って絡まれたり、お酒を頭からかけられたりする定番のイベントは発生しない?」


 心配そうに尋ねる私に、ガウルは「イベント……ですか?」と不思議そうな顔をした。


「そのような光景は見たことがありませんね。冒険者ギルドには一般の依頼者の方々も出入りしますし、公共の場で不祥事を起こせば即座に冒険者資格の停止処分を受けます。そもそも、そんな非効率なことをする冒険者はまずいません」


(……そっか、そういうイベントは起きないんだ。なんだかちょっと、お約束が見られないのはがっかりかも)


 そんな勝手な期待を抱きつつ、外出の準備を始めた。

 一応、ルクにはフードの中に隠れていてもらうことにする。


「じゃあ、ルク。フードの中で大人しくしててね」

「まかせとき。ワイは賢い聖獣やからな」


 準備を調え、私たちは家を出た。


 冒険者ギルドの重厚な扉を開けると、そこには活気ある光景が広がっていた。

 掲示板を凝視する人々、テーブルで酒を飲みながら打ち合わせをするグループ。

 私たちが足を踏み入れた瞬間、ガヤガヤとしていたロビーが一瞬だけ、しんと静まり返った。


(やっぱり絡まれるの!?)


 身構えた私だったが、誰も立ち上がってこない。

 ただ、チラチラとこちらを窺う視線だけが刺さる。

 ……実はこれ、一匹狼で有名なガウルが、小さな女の子を連れているからだった。


「……おい、あの子は誰だ?」

「まさか……隠し子か?」


 周りのヒソヒソ声が聞こえてくる。


(ガウルお兄ちゃん、そんな風に思われてるよ! 訂正してこようか?)


 私は一人でガウルの心配をしていたが、本人は気にしていないのか受付へと真っ直ぐ歩いていく。

 受付はあいにく混み合っているようで、私たちは列に並ぶことにした。

 ガウルが列を進む間、手持ち無沙汰な私が周りをキョロキョロ見渡していると、ある三人組が目に留まった。


 テーブル席に座っているその三人組は、全員が地球でいうボディビルダーのような筋骨隆々な肉体の持ち主だった。

 タンクトップからはち切れんばかりの大胸筋や、丸太のような腕……まさに「仕上がってる」という言葉がぴったりだ。


(おぉ……すごい筋肉。ナイスバルク!)


 私が感心して眺めていると、その中で一番小柄な男性がおもむろに立ち上がり、こちらへ歩いてきた。

 そして、私の前まで来ると立ち止まった。

 男の手はギュッと固く握りしめられ、うっすらと汗をかいている。


「こ、こ、こんにちは!」


 絞り出すような挨拶。私は反射的に、最高の営業スマイルを浮かべて返した。


「お兄ちゃん、こんにちは!」


 その瞬間、男は弾かれたように回れ右をすると、ぎこちない動きでテーブルへ戻っていった。

 仲間たちが「やったな!」「よく言った!」と彼の肩を叩いて喜び合っている。


 呆気にとられていると、今度は二番目に大きな男がやってきた。

 彼もまた私の前で立ち止まると、顔を真っ赤にして口を開いた。


「こんにちゃわ!」


 盛大に噛んだ。

 でも、一生懸命なのは伝わってくる。


「お兄ちゃん、こんにちは!」


 私が再び笑顔で返すと、彼は感極まったような顔で席に戻り、仲間たちと力強くハイタッチを交わしていた。

 周囲の冒険者たちもざわざわとこのやり取りを見守り始めた。


 最後の一人、三人組の中で最も大きな大男が席を立った。

 背丈はガウルと同じくらいあるが、筋肉の厚みのせいで威圧感がすごい。

 大男は私の前まで来ると、仁王立ちのまま固まってしまった。

 しばらく見つめ合って待っていたが動く気配すらないので、私の方から声をかけてみることにした。


「お兄ちゃん、こんにちは!」


 私が首をかしげて挨拶した瞬間だった。


「……っ、う、うわぁぁぁん! こっ、こっ、ごんにぢわぁ!」


 大男がダーッと滝のような涙を流し始めた。

 あまりの号泣っぷりに、私の方がびっくりして慌ててポケットからハンカチを取り出す。


「お、お兄ちゃん、泣かないで!これ使って?」


 そう言って、大男を見上げるように私が上を向いた、その時だった。

 頭を覆っていたフードが、ふわりと後ろへ滑り落ちてしまう。


 露わになったのは、光を吸い込んで煌めく美しい金色の髪と、深く澄んだサファイアブルーの瞳。

 大きな瞳を瞬かせ、驚きでほんのりピンクに染まった頬は、幼い子供ならではのぷくぷくとした愛らしさを見せている。

 誰がどう見ても文句なしの美少女。


 さらに、彼女の肩の上には、フードの脱落と同時に姿を現したルクが乗っていた。

 真珠のように輝く白い毛並みに、セリアと全く同じサファイアブルーの瞳を持つ不思議なリス。

 そのあまりに神秘的で愛くるしい組み合わせに、ギルド内は水を打ったようにシンと静まり返った。



 張り詰めた沈黙を破ったのは、一人の女性冒険者だった。


「かんわいぃぃーー!」


 彼女が黄色い声を上げたことで、静寂は一気に吹き飛んだ。


「おい見ろよ、なんだあの美少女!」

「天使か!?」

「あの綺麗なリス、魔獣か?」

「あの子はディートムの宿屋のセリアちゃんっていうんだ」


 中には私のことを知ってる冒険者もいるようだが、ギルド内はちょっとしたお祭り騒ぎのようになっていく。

 さっきまで滝のような涙を流していた目の前の大男も、あまりの衝撃にすっかり驚いてしまい、ピタリと涙が止まっていた。



 すると、その喧騒の中で、聞き覚えのある懐かしい声が響いた。


「セリアちゃん……?」


 ハッとして振り向くと、そこには獣人のロイドが立っていた。


「ロイドお兄ちゃん! 会いたかった!」


 私は嬉しさのあまり、ロイドに向かって一直線に駆け寄り、その体に思い切り飛びついた。

 ロイドは目を丸くして驚きながらも、大きな腕でしっかりと私をキャッチし、そのままひょいと抱きかかえてくれた。


「本当にセリアちゃんだ。元気にしてたか?」


 そう言ってロイドが私を高く持ち上げたとき、ふいに鼻先を私の首筋に近づけて、くんくんと鼻を鳴らした。


「……ん? なんだか、すごくいい匂いがするな。こんな匂い初めてだな。何の匂いだ?」


 獣人であるロイドの鋭い嗅覚には、隠しきれなかったらしい。

 恐らく料理をしたので、その時の匂いが髪などに残っているのだろう。

 間近で首元の匂いを嗅がれた私は、あまりの恥ずかしさに一瞬で顔が真っ赤になった。


「ふ、ふえぇ!? や、やだ! 恥ずかしいよぉ!」


 私がロイドの胸をぽかぽかと叩いて抗議すると、彼は「すまない。ついな」と楽しそうに笑った。


 その微笑ましい(?)光景を見て、周囲の冒険者たちはさらに大騒ぎになった。


「おい、あの子、Aランクパーティの『ランド・エッジ』のロイドに飛びついたぞ!」

「マジかよ……ってことは、ガウルの子じゃなくてロイドの子供だったのか?」


 勝手な憶測でヒソヒソと話し合う声が耳に飛び込んでくる。

 私はむっと釈然としない気持ちになり、その噂話をしている冒険者の方へビシッと指をさして大声で訂正した。


「ガウルお兄ちゃんは親友で、ロイドお兄ちゃんは恋人です!」

「恋人ではないでしょ」


 抱っこされたまま胸を張る私に、ロイドが即座に呆れたようなツッコミを入れる。

 私はガーンと衝撃を受けたような表情を浮かべ、ロイドの顔を見つめた。


「結婚しよーよ」

「だから早いって」


 苦笑するロイドの後ろから、さらに見知った顔が三人口を開きながら現れた。

 ランド・エッジのパーティーメンバーだ。


「セリアちゃん、なんでここにいるんだ?」


 不思議そうに声をかけてきたのは、リーダーのカイ。


「私に会いにきたのよね! セリアちゃん」


 ローラが嬉しそうに身を乗り出す。


「久しぶりね、セリアちゃん。肩に乗っているのは、新しいお友達?」


 リズも優しく微笑みかけてくれた。


 すると、ちょうど手続きの受付を済ませて戻ってきたガウルが、ランド・エッジという大物パーティに囲まれている私を見て、どうしたらいいのかわからず後ろでそわそわと見守っているのに気づいた。


「ロイドお兄ちゃん、一回降ろして?」


 私はロイドにお願いして地面に着地すると、ガウルの手を引いてみんなの前に出た。


「ガウルお兄ちゃん、こっちがランド・エッジのカイお兄ちゃん、ロイドお兄ちゃん、ローラお姉ちゃん、リズお姉ちゃん! みんな、こっちはガウルお兄ちゃんと、ルクだよ!」


 私がそう言って肩の上の相棒を指差すと、ルクはさっと姿勢を正し、喋らない代わりに前足を揃えて「ぺこり」と器用にお辞儀をして見せた。

 そのあまりの賢さと愛らしさに、リズたちが「わぁ……!」と歓声あげる。


『主に大人の女性の友達がおったなんてな。はよ、教えてくれても良かったんちゃうか?』


 すかさず頭の中にルクの抗議するような念話が飛び込んできて、私は内心で苦笑いする。

 私を介して、ガウルとランド・エッジの面々がお互いに挨拶を交わし始める。


 そこへ、先ほどハンカチを借りた大男が、大きな体を小さく丸めるようにおずおずと近づいてきた。


「は、ハンカチ、ありがとう……。洗って、返すから……」


 大きな手で私の小さなハンカチを大切そうに持っている姿がなんだか微笑ましくて、私は笑って答えた。


「ううん、ハンカチはあげるよ!」


 それを見たローラが、にやにやとした笑みを浮かべて私の肩を突っついた。


「セリアちゃん、もう男性を泣かせてるの? さすがね!」

「ち、違うよー!」


 すると、近くで一部始終を見ていた女性冒険者が、おかしそうに笑いながら話しかけてきた。


「さっきはこいつらが驚かせてごめんね、お嬢ちゃん」


 彼女が教えてくれたところによると、あのマッチョ三人組はもともと田舎出身で、稼いだお金を孤児院に寄付するほど大の子供好きらしい。

「強くなって子供を守りたい」と筋トレに励んだ結果、今のマッチョ体型になり、街の子供達には顔を見ただけで泣かれるようになってしまった。

 子供を見つけては挨拶をしようとするが、毎回一人目で泣かれるか逃げられてしまう状況が続いていた。

 今日、ようやく私と挨拶が成功したのが彼らにとっては奇跡だったそうだ。


(筋肉も愛も重たすぎるよ! でも、そんな理由だったなんて……いい人たちなんだなぁ)


 私は彼らの純粋すぎる想いに、ちょっぴり目頭が熱くなるのを感じた。


 そんな話をしながらふと周囲を見渡すと、ギルド内のほぼ全員の視線が私たちに集まっており、かなり注目を浴びていることに気が付いた。

 すると、カイもその状況に気が付いたのか、私とガウルを交互に見ながら提案してくれた。


「セリアちゃんとガウルがよければ、今日の夕食でも一緒に食べないか?」

 なんと、彼らのパーティーの拠点に招待してくれるというのだ。

「拠点は冒険者ギルドのすぐ近くなんだ」

 私とガウルは顔を見合わせ、嬉しくなって頷いた。

「わあ、行く行く!」

「ありがとうございます、お邪魔させていただきます」


 拠点の場所を教えてもらい、夕方ごろに彼らの拠点へお邪魔することになった。

 約束をした私たちは、一度そこでランド・エッジのみんなと別れた。


 冒険者ギルドの重い扉が閉まり、外の涼しい風に当たると、ガウルが少し疲れたように息を吐いた。


「……セリアさん、やはりイベントは起きるようですね。あのような形ですが」

「うん、なんだか想像してたのと違うけど、大満足かも」


 ガウルの呆れたような呟きに、私は苦笑いを返すしかなかった。

 再びフードの中に隠れたルクが「……人間、見かけによらんもんやな」としみじみ漏らしていた。




本日もお楽しみいただければ幸いです。

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