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【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


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ディアへ

 翌朝、空が白み始めた頃、私はガウルと一緒に宿を出た。

 ディートムの街はまだ深い眠りの中にあるが、市場の近くやギルドの周辺だけは、朝の冷たい空気の中に微かな活気が混じり始めている。


「セリアさん、まずはバルカスさんのところに行きましょう」

「うん!」

「まずはバルカスさんの店までお送りしますね。セリアさんが用事を済ませている間に、私が馬車を用意してきます」


 ガウルと私は、まだ人影もまばらな大通りを進む。

 やがて見えてきたバルカスの店は、早朝にもかかわらず既に店が開いていた。

 入り口付近には、これから遠征に出るのであろう数人の冒険者たちが、注文していた武器の受け取りや、砥石などの消耗品を買い求めに訪れている。

 使い古された革鎧の擦れる音や、重々しい鉄製品が触れ合う音が店内に響き、独特の鉄とオイルの匂いが鼻をくすぐった。


「では、私は一度失礼しますね。馬車の手配が終ったら、こちらに迎えにきますね」


 ガウルは微笑んで、馬車の手配へと向かった。

 私は一人、バルカスの店の扉を押し開けた。

 カウンターの中では、バルカスが無表情で手際よく冒険者の相手をしていたが、私が店に入るとすぐにその鋭い視線がこちらに向いた。


「おっ、セリアお嬢ちゃんか。こんな朝早くにどうした?」


 バルカスは少し驚いた様子で、接客の合間にこちらへ歩み寄ってくれた。


「バルカスお兄ちゃん、おはよう! あのね、今日からガウルお兄ちゃんとディアに行くことになったの。それで、せっかくだから地竜の鱗の加工もお願いしたいと思って……。昨日聞いた防具職人さんの名前、教えてもらえるかな?」


 私が尋ねると、バルカスはニヤリと笑った。


「ちょうどいいタイミングだな。実は昨夜、お前に紹介してやろうと思って手紙を書いていたところなんだ。俺の友人は、ガリウスっていう防具職人だ。腕は確かだ」


 そう言ってバルカスはカウンターの下から一枚の羊皮紙を取り出し、私に手渡してくれた。


「これを持って行けば話は早い。俺の紹介なら無下には扱わんだろうよ。おっと、手紙の前に地竜の鱗を見せるなよ。そんなことしたら、こっちの話も聞かずに地竜の鱗を奪われちまうぜ」

「うん、気を付けるね! ありがとう、バルカスお兄ちゃん! 手紙大事に持っていくね!」


 私は手紙を両手で受け取ると、バルカスに小さく手を振って店を出た。


(手紙は……ガウルお兄ちゃんに見られないように隠しておかなきゃ! アイテムボックス、収納)

 

 手紙をアイテムボックスへ収納し、店の前で少し待っていると、蹄の音とともにガウルが二人乗りの馬車を操ってやって来た。

 ガウルが貸し切りで用意してくれた馬車は、清潔で二人には十分すぎる広さがある。

 これなら移動中、ルクがずっとバッグの中で窮屈な思いをすることもないだろう。


「お待たせしました、セリアさん。用事は済みましたか?」

「うん! バルカスお兄ちゃんに挨拶してきたよ!」


 私たちは馬車に乗り込み、ディートムの西門を目指した。

 大きな石造りの門をくぐりしばらく馬車を走らせる。

 周囲に人の気配がしなくなると、ずっと鞄の中にいたルクがひょっこりと顔を出した。


「ふぁあ……腹減ったなぁ」


 ルクは力なく項垂れている。

 そういえば、早朝から出発したので、まだ二人とも朝食を食べていなかった。


「ルク、お腹空いたの? ガウルお兄ちゃんは朝食食べた?」

「いえ、まだです。馬車で食べようと思って干し肉を持ってきました」


 ガウルは馬車の荷台から干し肉を取り出し、私とルクに勧めてくれた。

 しかし、ルクはそれを見るなり、鼻先をひくつかせて露骨に嫌そうな顔をした。


「干し肉なんて美味しくないやん。もう匂いで分かるわ。前世で何回食べたことか……もう飽き飽きやねん」


(そういえば、聖獣の魂は同じだから、前世の記憶があるんだよね。今度、前世の話も聞いてみたいな)


 しかし、今は空腹を訴える相棒を満足させるのが先決だ。

 私はガウルに微笑みかけると、自分の鞄を軽く叩く。


「私パン持ってきてるから、それにしよう! ガウルお兄ちゃん、ちょっと待っててね」


 私は「アイテムボックスオープン」と唱え、焼きたての食パンを取り出した。


(んー、何かつけたいな)


 アイテムボックスの中には、地球調味料セットから取り出して移しておいたイチゴジャムがあった。


「ガウルお兄ちゃんは甘いの好き?」

「はい……」


 ガウルは甘い物が好きというのが恥ずかしいのか、少し照れている。


「ワイは、もちろん好きやで」

「ふふ。じゃあジャムつけるね」


 この世界のジャムは砂糖が使われていない、果物の甘さだけで作られるジャムが多い。

 砂糖は高く、貴族でもない限りは砂糖を使用した料理やお菓子を口にすることは、ほとんどない。


 私は、アイテムボックスからジャムの瓶を取り出す。


「その綺麗なビンにジャムを詰めているのですか?」


(あ、ガラス製の瓶も高いんだった)


「うん…はい、どうぞ。甘くて美味しいよ!」


 瓶のことを聞かれても答えるのが難しいので、ジャムをさっと塗り、二人にパンを差し出す。


 一口頬張った瞬間、二人の表情が変わる。


「……っ!? 甘くて美味しい!」

「なんやこれ! ジャムの甘さが絶妙やんけ! 主、めちゃくちゃ美味いやん!」

「セリアさん、このジャムは砂糖が使われていますか? こんな高級品をどこで…?」

「あはは……鱗でお金はあるからね!」


(さすがにこの甘さは、砂糖が使われているのがばれちゃうか)


≪セリア様、地球調味料セットのリストにあるものは、その全てがこの世界では高級品といえるでしょう。気を付けてください≫

(はい……ナビ)


 どうやら二人ともかなりの甘党だったようだ。

 アッという間に完食すると、二人から熱烈なおかわりを要求され、私は思わず笑ってしまった。


 朝食でパンを二枚食べたガウルとリクは、お昼でもジャムを塗ったパンを求めた。

 私は、イチゴジャムだけでは飽きるかと思い、リンゴジャムを塗ったパンも二人に披露した。


 これに二人は大興奮で、イチゴジャムとリンゴジャムの食べ比べといいながら、ガウルは五枚、ルクは三枚も食べていた。

 食べ終わって我に返ったガウルから、高級なジャムを沢山食べてしまったことを謝られ、代金として小金貨五枚渡されそうになり、馬車の上で小金貨がガウルと私の間を往復し、ルクに「いい加減にせい!」とつっこまれたりしながらも、三人で楽しく過ごしていた。


 馬車は順調に進んでいく。

 街道の両側には豊かな緑が広がり、南国らしい鮮やかな色彩の植物が目を楽しませてくれる。


 そんな中、ルクが急に耳をピンと立てて、進行方向の茂みをじっと見つめた。


「主、あそこの草むら、嫌な気配がするで。……三匹やな」


 御者台のガウルも同時に異変に気づいたようで、馬の手綱を緩めて警戒態勢に入る。


「……サーチ!」


 サーチを使うと、ルクが指した茂みの方向に三つの赤い点がはっきりと浮かび上がった。


≪魔物です。セリア様、お気を付けください≫


「せっかくやし、レベル上げでもするか。一匹はワイが仕留めたるわ。ウィンドカッター!」


 ルクが小さく前脚を振るうと、鋭い風の刃――≪ウィンドカッター≫が放たれ、茂みにいたゴブリンの一体を一瞬で仕留めた。


「すごーい、ルク! かっこいい!」

「当たり前やろ。主、自分も魔法使えるんか? 一匹やってみ」


 ルクに試すような視線を向けられ、私は「まかせて!」と気合を入れた。


(ルクに見せる初めての魔法だもん。しっかり頑張らなきゃ!)


 私は魔力を練り、ゴブリンの一体に向けて意識を集中させる。


「アイススピア!」


 その瞬間、横で見ていたガウルが顔色を変えて叫んだ。


「待って、セリアさん! それは不味い――!」


 しかし、ガウルの制止よりも早く、私の指先から巨大な氷の槍が撃ち出された。

 気合を入れすぎた魔法は、もはや「槍」というより「巨大な氷柱」と呼ぶべき質量で放たれ、ゴブリンがいた場所を根こそぎ粉砕し、地面に深く突き刺さった。

 跡形も残らないほどのオーバーキルだ。


「…………」


 ガウルは額を押さえて天を仰ぎ、ルクは突き刺さった巨大な氷柱と私を交互に見て、激しく怒鳴った。


「主! ドラゴンでも倒す気か! 加減っちゅーもんを知らんのか!」

「えへへ……ちょっと頑張りすぎちゃった」


 気まずそうに笑う私の横で、ルクは呆れ果てたようにため息をついた。


「はぁ……レベル上げの前に魔法の練習やな」

「はい……ごめんなさい」




 昼下がりの心地よい揺れに揺られながら、私たちは再びディアを目指して進んでいく。

 気づけば周囲の景色は夕暮れの色に染まっていた。

 陽が沈み、地平線が濃い青へと変わっていく中、前方についにディアの巨大な城壁が見えてきた。


「セリアさん、見てください。ディアに到着しましたよ」


 十二時間の旅路を終え、陽が沈んだ直後のディアの正門へと、私たちの馬車は静かに吸い込まれていった。

お楽しみ頂けたら幸いです。

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