伝わり過ぎる言葉 壱
「気持ちは嬉しいけど・・・ごめん」
「そ・・・そんな・・・」
俺はいつも通りのセリフを言い、
女の子に背を向けて校舎裏を離れた。
遠くから啜り泣きの声が聞こえる。
最初は結構堪えていたが、今ではそんなに感じることはなくなった。
慣れって怖いな・・・。
「・・・ふむ。一週間だな」
「それで十分だ。それより今週は一段と多いな・・・ハァ~・・・」
実はと言うと今週でもう六人目だ。
普通は二週間で一人か二人なのだが、
今週でもうその三倍はきている。
なぜこんなに積極的に告白されているかというと、
来月あたりにあるクリスマスだ。
そのおかげで収穫が捗っている。
「いい事ではないか。しっかりと罪滅ぼしをするんだな」
―――ドン―――
「おっと」
前を向いてなかったから誰かにぶつかってしまったな。
「・・・・・・」
女子か。
一年生の子だな。
よかったな。俺に出会えて。
声を掛けてもらえて触れられるチャンスだぞ?
「ごめんね。余所見してて気がつかなかったよ。立てる?」
尻餅をついている女子に手を差し伸べた。
「・・・・・・」
「?」
しばらくその子は俺の顔を暫し見つめていた。
何か顔についているのかな?
美しくて誰もが惚れてしまうパーツしかついてないんだけどな。
それより、早く俺の手を取りな。
「・・・・・・」
しかし、その女子は俺の手を取らず自分で立ち上がり、
何も言わず去っていった。
「・・・え・・・?」
予想外の行動に驚いた。
「残念だったな」
傍でニヤリと笑っている褥。
「・・・うるせぇ・・・」
こんな事初めてだ。
俺に話もかけないで無視して、
手を取らなかった女子は・・・。
差し伸べていた手を収め、さっきの女子を見た。
その女子は図書室に入っていった。
「・・・・・・」
「どうかしたのか?」
「別に、・・・ただ俺の事を無視した女子を久しぶりに見たなぁ~って」
「・・・そうだな。お主に興味がなかったのではないのか?」
「それはちょっと傷つくな」
「あ、先輩!」
後ろから声が聞こえ振り返ると、
元気良く走って俺の元に来た由紀ちゃんの姿が見えた。
「由紀ちゃん。奇遇だね」
「そうですね!あ、ここ誰か通りませんでした?」
「女の子ならと通ったよ」
「多分その子だと思います。どこに行ったかわかりますか?」
「図書室に入っていったよ。知り合い?」
「はい。同じクラスの私の友達です」
へぇー由紀ちゃんの友達なのか。
「そうなんだ。じゃあさお願いしてもいいかな?」
「何でしょう?」
「さっき俺の不注意でぶつかってね。ごめんねって伝えてほしいんだ。いいかな?」
「わかりました。伝えておきますね。それじゃ先輩また部活で!」
図書室に向かって行った由紀ちゃんを見送った。
「相変わらず由紀ちゃんは元気で可愛いなぁ~」
「先ほどの女子も美人だったではないか」
「・・・そうだが、俺に興味のない女性はだめだ」
「なるほどな」
「標的でもない限り俺も極力関わりたくない」
標的になった子には悪いが、
俺はそれを成し遂げるためには何でもするつもりだ。
前の件もそうだしな。
「・・・あ」
・・・そうだ前の件って言えば・・・。
「どうかしたか?」
「忘れてた・・・報酬の事」
「褒美?・・・ああ閻魔様のか」
「そうだよ!それって何時くれるんだ」
あの時白黒さんから報酬があるって聞いたから頑張ったんだ。
「そうだな。何時もで与えることは出来るらしいが、内容は余にもわからん。・・・今ほしいのか?」
褥にも教えてないとは、・・・一体どんなものなんだろうか。
何時でもいい感じらしいが、俺は楽しみを後に取っておく趣味はない。
「今すぐくれ」
「わかった。連絡するので待っておれ」
褥は白黒さんに連絡を始めた。
楽しみだな~。
どんなのだろう。
「はい。わかりました。そのように伝えます。・・・亮治」
おっとどうやら終わったらしいな。
「どんな内容なんだ?」
「・・・死ね」
「それが褒美なのか!?」
死ぬ事がご褒美とか聞いたことないぞ!
それともあれか?
死んで新しい人生を歩めってことか!?
それは嫌だ!
次に生まれ変わった時、
この美形・頭脳・運動神経・体格・気品を兼ね備えてる可能性はほぼ0%だ。
俺はこの俺で人生を楽しみたいから罪滅ぼししてるのに、こんな仕打ちはあんまりだ!!
「俺は何が何でも生き延びるぞ!!」
「・・・何か勘違いしてないか?」
「・・・違うのか?」
「死んでくれたら助かるが、お主の思っていることは違う」
「よかった・・・。で、報酬の内容を教えてくれよ」
「家に帰ったらわかる」
「今は渡せないのか?」
「そうだ」
う~ん。
ここでは渡せない物なのか。
なら仕方がないかな。
「わかった。家に帰るまで待っといてやる・・・ってどうした褥?」
俺を見る目が怒ってるいうか妬んでるように見えた。
「・・・・・・何でもない・・・」
それだけ言うと褥は消えた。
「・・・あいつどうかしたのか?」
もしかしてあいつも欲しいほどの物なのか?
・・・残念だったな。
そいつは俺の物だ!
まあ、あいつの分までしっかりと堪能しといてやるか。
・・・さて、そろそろ教室にでも戻ろうかな。
もうすぐ期末試験もあることだしな。
いい点取って女子への注目をまた一段と上げないとな。
・・・ぶっちゃけると別に勉強しなくても取れるんだよなぁ~。
ではなぜ勉強するかと思うだろ?
簡単な理由だ。
勉強している俺の姿を見て惚れる奴がいるからだ。
自分でもいうのは何だが、
窓際の席で静かに教科書を開いて涼しい目で勉強をしている俺の姿。
そして、たまにくる秋風で艶やかで柔らかい髪が靡き、
教科書が少しペラペラとめくられるその風景。
惚れ惚れするほどいい姿なんだぜ。
そんな姿を見た女子達は自然と俺に群がり俺の餌食になる。
言うなれば、
花の蜜に誘われた蝶が花に近づき蜜を吸おうとした時、
擬態していた蟷螂に捕まって食べられる感じだな。
うん。我ながらいい例えだな。
お、もう着いたのか。
ではさっそく授業に励みますか。
体に気合を入れ、扉を開けた。
まだ先生は来ていない。
俺は席について教科書を出し授業の準備をしようとした時
「亮治。この時間は自習になったわよ」
隣の席の麗香に言われた。
「は?まじか?」
「ええ。さっき先生が来てね。体調が悪いらしくて自習になったのよ。よかったわね・・・どうしたの?」
俺は机に頭を突っ伏した。
せっかくのチャンスが無駄になった・・・。
体調管理ぐらいしっかりやれよ!
俺のやる気を返してくれ!!
「何か下らない事でも考えていたようね。それよりどうするの?」
俺は辺りを見渡した。
女子はグループに分かれて雑談を楽しんでいる。
それ以外は寝てたり、遊んだりしている。
俺も出鼻を挫かれてやる気をなくしてしまってはいるが・・・。
折角やろうとしたものを途中で投げ出したくはない。
ここでは静かにできそうもないな。
・・・仕方ない。
「・・・図書室行って勉強してくるわ」
そう言って勉強する教材を持った。
「麗香も来るか?」
席を立って声をかけた。
別に何かやましい事があって誘ったわけではないぞ。
ただ何となく声を掛けただけだ。
「あら。それってデートのお誘いかしら?」
悪戯っぽい笑顔を向けてきた。
「そう思ってもいいが、・・・死ぬぞ俺」
「冗談よ。亮治が死んだら私も生きてられないからね」
それは本心で言ってくれてるのか、
冗談なのか、その表情からは読み取れないな。
でも、言葉にして言ってるくらいだしきっと本心なんだろうな。
「そりゃどうも。で、どうする?俺はもう行くぞ」
「少ししたら行くわ。先に行っててちょうだい」
「わかった。先行ってるわ」
俺は教室を出て図書室に向かった。
「ここで静かに勉強するか・・・」
図書室に到着し扉を開けた。
「相変わらずここの図書室は無駄に本が多いな」
室内の本棚を一通り眺めた。
うちの学校は本がとても多い。
正直図書室というより図書館といってもいいくらいだ。
本の種類も様々でマンガから哲学的な本までずらりと並んでいる。
その為利用する学生も結構いるが大体はマンガやファッション雑誌が目当ての学生だ。
「さて、どこでしようか・・・」
奥に進んで良さそうな場所を探した。
「・・・・・・あれ?」
探していると誰かがいることに気がついた。
「あれは、さっきの」
その人物に見覚えがあった。
てか忘れるはずがない。
ついさっきぶつかった子だもんな。
でも、何でここにいるんだ?
今は授業中だ。
普通なら教室で授業を受けているはずだ。
もしかして授業が始まっている事に気がついていないのか?
彼女はただ黙々と本を読んでいる。
結構分厚そうな本だな。
一体なんの本なんだ?
・・・それに。
結構積んでるな・・・。
その子の左右には同じくらい分厚い本が何冊も積んであった。
そして、また一冊積まれて積んであるもう一方を手に取り読み始めた。
すげー・・・。
あんな難しそうな本をよく読めるな。
俺だったら枕変わりにして寝てるな。
・・・それにしても、
変わった読み方をしてるな。
別に彼女が可笑しな読み方や持ち方をしているわけではない。
ただ、静かに黙々と読んでいる。
でも、なぜかそれが変わった雰囲気がした。
いつの間にか俺は彼女から目を離せなくなった。
彼女を見ているだけで心が安らかになっていくのを感じた。
今が授業中だからなのかも知れないが、
静寂が体に一段と染み渡る感じがする。
この広い図書室に聞こえるのは時計の進む音と風、
そして彼女が捲る本の音だけだった。
・・・ポト。
「・・・ん?」
何かが落ちた音が聞こえた。
それは俺の足元にあった。
「・・・紙くず?」
足元にはクシャクシャに丸められた紙があった。
・・・いつこんなもんが?
この静寂しきった図書室でこんなもんを作ろうとしたら音が聞こえるはずだが、
俺はその紙くずを手に取った。
ノートの一部を破いたみたいだな。
その紙くずを徐に開いてみた。
『いつまでそこにいるの』
広げた紙にはそうかいてあった。
「え?」
俺は彼女の方に視線を戻した。
彼女は黙々と本を読んでいた。
しかし、暫くすると本を読んでいた顔を上げこちらに向けた。
「・・・・・・」
多分だが、気づかれていたらしい・・・。
俺は彼女が座っている向かい側の椅子まで近づき。
「ここいいかな?」
俺はいつも通りの営業スマイルで話しかけた。
「・・・・・・」
彼女のからの返事は返ってこない。
おいおい、無視かよ。
せっかく俺が声を掛けてあげたのに感じが悪いな。
・・・場所を移すか・・・。
そう考えもしたが、
いや、ここで移動したら敗北感に包まれそうだ。
そう思い彼女の向かい側に座った。
もちろん許可は取ってない。
「・・・・・・」
一瞬だけ俺に顔向けたがすぐに本へと視線を移しなおした。
俺よりも本が優先か。
生物以外に負けるとかありえん。
どうにかして俺に視線を向けなおしてやる。
「さっきはごめんね。怪我してない?」
―――コクリ―――
おお。頷いてくれた。
顔無視ってわけではないのか。
「よかった。心配したよ」
こう言えば大方の女は何かしら反応してくる。
それによって話を振っていく。
「・・・・・・」
―――ペラ―――
彼女からの反応はなくただページを開く音が虚しく聞こえる。
・・・無反応は予想外だ。
だが、俺の心は折れていない。
「いつもここにいるの?」
「・・・・・・」
「本が好きなんだね」
「・・・・・・」
「家でもずっと本読んでるのかな?」
「・・・・・・」
「今、授業中だけど授業は受けなくていいの?」
「・・・・・・」
「本読んでる姿がとっても似合ってるね」
「・・・・・・」
「・・・そういえば、由紀ちゃんとは知り合いなの?」
―――コクリ―――
「いつもどんな話をしてるの?」
「・・・・・・」
「綺麗な手をしてるね」
「・・・・・・」
「・・・そんなに読み続けて目が疲れない?」
「・・・・・・」
・・・あ、あかん。
俺の心がもうもたん。
何なんだこの女は・・・。
俺の問いかけを無視か頷くかだけで片付けるとは。
普通の女子なら大喜びで食いつくぞ!?
それをこんな形で無下にしやがって!
・・・待てよ。
もしかして、話したくても恥ずかしくて話せないとかか?
あるいわ話す事が出来ないか。
後者の場合だったら申し訳がなかったな。
前者の場合は全然OKだ。
むしろ萌える!
「ねぇ。ちょっといいかな?」
「・・・・・・」
やっと視線を向けてくれたよ。
「君って、もしかして話す事が出来ない?それか極度の恥かしがりやなのかな?」
「・・・・・・・・・」
俺の顔を見る時間が長いな。
一体どう応えるか考えてるのか?
そう思っていた時、
彼女は、徐にノートを取り出し何かを書き始めた。
書き終えると俺にそのノートを見せてくれた。
どれどれっと・・・。
書いている内容は
『恥ずかしがりやでも、声が出せない訳でもないです。普通に喋れますよ』
「だったら話せよ!!」
俺は思わずその書かれたノートに突っ込んでしまった。
・・・ハッ!!
いかんいかん。
ついいつものメンバーがいる時の感じで言ってしまった。
ノートを彼女に返して
「・・・ゴホン。どうして話さないの?」
何事もなかったかのように演じて聞いてみたが、
「・・・・・・」
「・・・話さなくていいので教えてください・・・」
汚いものを見る目で見つるのは勘弁して下さい。
もう俺の心はズタボロです。
「・・・・・・」
面倒くさそうに彼女はノートに書いてくれた。
・・・何々・・・。
俺に渡してくれたノートを読んでみた。
『言葉に心が入っていない人とは話す気はないです』
・・・どういう意味だ?
言葉に心?
そんなもんはあるわけないだろ。
それともなぞなぞか?
・・・・・・。
まるでわかんねぇ。
ノートに書かれている意味を考えていると
「・・・・・・」
「・・・あ」
彼女にノートを取られ、
再び書き始めた。
「・・・・・・」
書き終わると俺に渡し、読書に戻った。
ヒントでも書いてくれたのか?
ノートを見てみる。
『あなたの言葉は何も生まない。何も感じない。出来る事は相手を傷つけるだけ。だから私はあなたと話したくない』
「・・・・・・」
ますますわからん。
誰か答えを教えてくれ。
彼女は何が言いたいんだ。
俺と話をしたくないのはわかった。
だけどわかったのはそれだけだ。
俺は彼女を見た。
「・・・・・・」
しかし、彼女はもう俺を見ようともしない様だった。
いや、違うな。
・・・言いたくないが、俺をいないものとしている。
そう感じ取れた。
多分だが、話しかけても駄目だろう。
彼女は俺を見てくれない。
もう一度ノートに視線を戻した。
『あなたの言葉は何も生まない。何も感じない。出来る事は相手を傷つけるだけ。だから私はあなたと話したくない』
書いてある文字は変わっていない。
変わっていないけど、
・・・俺なんで冷や汗かいてるんだ・・・
さっき読んだときは何も異常はなかった。
でも、彼女を見て、もう一度これを読んだら急にきたぞ。
・・・緊張、してるのか?
自分の手を見た。
・・・震えてる?
手は微かに震えていた。
これは緊張とは違った。
・・・怯えているのか。
それがわかったと瞬間、
俺は誰かに追われてる感じがした。
この室内には俺と彼女しかいないのに、
俺の後ろに誰かいる気がした。
―――ぺラ―――
静寂の空間に響き渡る本の捲れる音。
さっきまではその音が定期的に聞こえるのが気持ちがよかったが、
今は徐々に恐怖を増す音に変わってきていた。
―――ペラ―――
音が大きく聞こえる気がする。
―――ペラ―――
体が動かない。
―――ペラ―――
息が苦しい。
気分が悪くなってきた。
「・・・・・・」
「っ!?」
いつの間にか彼女がこちらを見ていた。
「・・・・・・大丈夫?」
「・・・・・・あ」
初めて彼女が言葉を発した。
その声は小さく集中しないと聞き取れないくらいだったが、
ここは図書室で俺と彼女しかいなから普通に聞き取れた。
でも、それよりも驚いたのが、
先ほどまでの恐怖感や気分の悪さが一気に消えた事だ。
俺は自分の体を見渡した。
震えも止まっている。
いつも通りの体だ。
「・・・・・・」
彼女は俺をずっと見ていた。
心配してくれたんだ。
お礼。言わないとな。
「あ、ああ。大丈夫だよ。・・・心配してくれてありがとう」
「・・・・・・よかった」
そう言って彼女は読書を開始した。
「ちょっと待ってくれないかな?」
俺は彼女の行動を止めた。
「・・・・・・」
再び俺に顔を向けてくれた。
「どうして話してくれたのかな?ノートでは話したくないって書いてあったから・・・」
「・・・・・・」
彼女はノートに書き始めた。
『あなたが辛そうな顔してたから。それだけ』
そう書いてあった。
さらにその下にも続いていた。
『もう大丈夫ならどこかに行ってくれないですか。読書の邪魔です』
冷たい言葉が書かれていた。
彼女は読書に戻っっている。
・・・これ以上は無理だな。
そう思った俺は彼女の元を離れて違う席に座り勉強を始めた。
しばらくすると、
「ごめんなさい。ちょっと遅れたわ」
そう言って麗香が隣の席に座った。
「・・・あら?何かあったの?」
俺に何かが会った事を察知した。
「別に・・・」
そっけない返事で返した。
「・・・そう」
しばらく俺を見ていたが何も話しそうにないと判断したのか、
自身が持ってきた教材を開き勉強を始めた。
こういう時の女って本当に鋭いよな・・・。
もしかして、顔に出てるのか?
それとも・・・いや、どうでもいいや。
今は何も考えたくない。
・・・考えたくないが、考えてしまう。
彼女の事を。
正確的には、彼女が何をやったかだ。
少し整理してみよう。
図書室に入ると彼女がいた→彼女を観察→ばれる→会話を試みる→成果なし→急に気分が悪くなる→彼女が話しかけた→元気になる→そして嫌われる。
・・・・・・。
俺ってそんなに嫌われる顔なのかな?
それとも話し方か?
いやいや、第一印象か?
行動か?
・・・・・・。
とりあえず、一番重要な事を聞いてみよう。
もし、それだったら今後も困るしな。
「・・・なあ麗香」
俺は隣で勉強している麗香を呼んだ。
「どうしたの。亮治」
麗香は勉強を中断し、俺に振り向いてくれた。
俺は真剣な顔で麗香の肩を掴んだ。
「えっ!?ちょっとどうしたのよ!?」
突然のことで対応が出来ないであたふたする麗香。
でも、俺はそんな事関係なしに麗香に顔を近づけた。
「えっウソ!?こんな所で・・・!!」
「俺の顔って変か?」
「・・・・・・はあ?」
「いや、だからさ。俺の顔って変かな?嫌われそうな顔してるとかさ」
「・・・・・・・・・」
「自分ではわからない所でキモイ顔してるとか、何でもいいから言ってみてくれ」
「・・・・・・亮治。私の事どう思ってるの」
「どうって、俺の事が好きで態々転校して尚且つ俺の隣の席を占拠して挙句の果てには俺の罪滅ぼしを手伝うとか言って自分をアピールしている可愛くて美人なお嬢様だろ?」
「よく息継ぎなしでいえたわね・・・。じゃあこの光景はどう思う?」
そう言われて俺は自分と麗香の状況を確認した。
「・・・キスしようとしている」
「はい。正解。する気はあったの?」
「あるわけないだろ。したら死ぬ」
「・・・そうよね。・・・少しでも期待した私が馬鹿だったわ・・・」
「それよりも俺の返答に応えてくれ。どうなんだ?」
もし変な顔やキモイって言われたら・・・整形しよう!!
「別にいつも通りよ」
「いつも通りってどういうことだ」
「・・・私の理想通り。皆があなたに注目する素敵な顔よ。・・・どう?満足かしら?」
「OK。大満足だ。あ、勉強に戻っていいぞ」
「・・・今のは駄目ね。聞きなれたセリフでは・・・もっと違う表現を考えましょ・・・」
「ん?今何か言ったか?」
「いいえ。何も言ってないわよ」
麗香は勉強に戻った。
良し。
一番重要な所は問題なしっと!
じゃあ話し方が悪かったのか?
それも違う気がするな・・・。
行動は・・・というか動いてないしな・・・。
どこに俺の不手際があったんだ・・・。
―――キーンコーンカーンコーン―――
授業の終わるチャイムが鳴ったか。
仕方ない。
家に帰って考えるとするか。
・・・あ、そうだった!
帰ったら報酬があるんだ。
早く帰るとするかな♪
「にやにやしてどうしたのよ。いい事でもあったの?」
「まあな。さて、教室に戻るぞ」
麗香を急かし図書室からでようとしたが、
少しだけ、俺は彼女の方を少し覗いて見た。
「・・・・・・」
彼女はチャイムが鳴ったのに本を読んでいた。
黙々と静かに、この風景に溶け込むかのように。
―――ペラ―――
そして、本を捲る音だけが無性に響いた。
まただ・・・。
俺はその場から動けなくなっていた。
この場に溶け込んで、一体化しそうな感覚。
でも、先ほどとは違う。
恐怖や緊張感はない。
けど動けない。
この感じは一体何なんだよ・・・。
「亮治。早く行きましょ」
「・・・へいへい」
麗香の声で意識が戻された。
体も動く。
さっきのは一体・・・。
彼女が何かしたのか?
「・・・・・・」
しかし、彼女はずっと本を読んでいる。
静かに、黙々と読んでいる。
「・・・また風邪引いたのかな?」
独り言を呟き、俺は彼女を見るのを止め、
廊下で待っている麗香の所へ向かった。




