9)アーツと錬斗、二人の力
アーツが拳に力を込めると、ゼノイドは押し負け、大きく後退した。
「ハッハッハッ!おもしれぇ!」
「オレが競り負けたのは何十年ぶりだ?」
ゼノイドは両腕を、片方は鋭い刃へ、もう片方は巨大な鈍器へと変形させた。
距離は十分に離れている。
──だが次の瞬間。
刃へと変形した腕が蛇のように伸び、アーツの胸元へ突き刺さる。
ガシッ。
しかしアーツは、その刃を難なく受け止めた。
さらに横から唸りを上げて迫る鈍器を、鋭い蹴りで粉砕する。
ドカァァァン!
受け止めた刃にも力を込める。
ミシッ……バキィッ!!
ゼノイドの腕は握り潰され、そのまま引きちぎられた。
ブチィッ!
「……こんな小手先の変形じゃ意味ねぇか」
ゼノイドが吐き捨てるように呟く。
ちぎれた両腕は銀色の粒子を散らしながら瞬く間に再生していく。
「ガアァァッ!」
咆哮とともに、アーツが一気に懐へ飛び込んだ。
拳、肘、膝──怒涛の連撃がゼノイドへ叩き込まれる。
ドゴォッ!
バギィッ!
ズドォン!
ゼノイドは木々をなぎ倒しながら吹き飛び、腕は裂け、全身のパーツは次々と砕け散っていく。
それでもゼノイドは倒れない。
傷ついた箇所は瞬く間に修復され、銀色の肉体が元の姿を取り戻していく。
「……あまり調子に乗るなよ」
低く呟くと、ゼノイドの両腕がみるみる巨大な砲身へと変形した。
「消えちまいな……」
直後──。
轟音とともに、エネルギー砲が放たれる。
アーツは寸前で身をひねり、直撃を回避した。
しかし──
左腕だけが、肩口から跡形もなく消し飛んでいた。
ゼノイドは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりとアーツへ歩み寄った。
「ハッハッハッ!腕が消し飛んじまったなぁ!」
「次は右腕、その次は両脚……一本ずつ消し飛ばしてやろうか?」
勝利を確信したように笑うゼノイド。
しかし、その笑いを受けるようにアーツも口元を緩めた。
「フフッ……」
「まさか、この程度で勝ったつもりか?」
次の瞬間──。
消し飛んだはずの左腕が、赤い光をまといながら瞬く間に再生した。
ギュゥゥン──。
数秒も経たず、左腕は元通りの姿へと戻る。
「……なに?」
ゼノイドの表情から笑みが消えた。
目の前の光景に、さすがに言葉を失う。
(人間ではあり得ない……)
(だが、ゼノイドの再生とも違う……)
ゼノイドは眉をひそめ、アーツをじっと見据えた。
「お前……いったい──」
そこまで言いかけた瞬間、何かを思い出したように動きを止める。
辺りは静寂に包まれた。
そして、ゼノイドはゆっくりと口角を上げる。
「……そうか」
「そういうことだったのか……」
確信を得たように、アーツを指差した。
「お前……さては人間と融合したな?」
その言葉に、アーツの瞳がわずかに揺れる。
その一瞬の反応を、ゼノイドは見逃さなかった。
「ククッ……やっぱりそうか」
「なるほどな……これまでの不可解な現象、全部つじつまが合う」
ゼノイドは愉快そうに肩を震わせる。
「オレはな……」
「機能停止したお前のボディパーツを回収しに来たんだよ」
そして、嘲笑を浮かべながら言い放つ。
「──"反逆の個体"である、お前をな」
辺りの木々がざわめく。
二人はしばし動きを止め、互いを見据えた。
やがてゼノイドが静かに口を開く。
「お前を排除したと報告は受けていた。
だが、ボディパーツは回収されていなかった」
「お前ほどの力を持つゼノイドのボディパーツを人間に回収され、『Xギア』として利用されるのはこちらも面白くねぇ……」
「とはいえ場所は本土のど真ん中だ」
「雑魚どもじゃ、たどり着く前に人間に見つかっちまう」
「だから、このオレが借り出されたんだが、どうりで見つからないわけだ……」
「まさか人間と融合していたとはな……」
話を聞き終えたアーツが静かに答える。
「そうか……なら無駄足だったな」
「ワタシのボディパーツは、すでにこの人間の一部となっている」
「もはや回収は不可能だ」
ゼノイドは喉の奥で笑った。
「クックック……確かに回収は無理だ」
「だが、これは実に面白い……」
値踏みするようにアーツを見つめ、やがて結論を口にする。
「だが命令は絶対だ」
「どんな姿になろうと、お前が破壊されていない以上、オレが始末するだけだ!」
言い終えると同時に、ゼノイドは先ほどを上回る速度でアーツへ襲いかかった。
近距離では拳と刃による連撃。
距離が開けば、両腕を砲身へと変形させてエネルギー弾を放つ。
先ほどのように腕を無理に伸ばすことはせず、変形した腕の硬度も格段に高めていた。
怒涛の攻撃に、アーツはしばらく防戦一方となる。
しかし──。
次第に攻撃を見切り始め、一撃、また一撃と紙一重でかわしていく。
「なにっ!?」
攻撃が当たらなくなるにつれ、ゼノイドの表情に焦りが浮かぶ。
「お前……いったい何をした!」
怒鳴るゼノイドに、アーツは攻撃をかわしながら静かに答えた。
「ワタシは何もしていない」
「この身体がオマエの動きに順応し始めているだけだ」
「人間には"慣れ"というものがある」
「同じ経験を積み重ね、その中で学習する力だ」
「ゼノイドでいうアップデートに近いが、人間のそれは個体差が極めて大きい」
「ワタシはレントの細胞と複雑に結びついている」
「つまり、これは人間──レントの力なのだ」
ゼノイドは激しく顔を歪めた。
「そんなはずはない!」
「人間は愚かな生き物だ!」
「なにも学習せず、同じ過ちを何度も繰り返す!」
「同じ人間同士でさえ争い続けるような種族が、戦いの最中に強く、進化するなどあり得るかぁっ!」
怒りに任せた攻撃は大振りになっていた。
その隙を、アーツは見逃さない。
ドゴォッ!
鋭い一撃がゼノイドの腹へ突き刺さる。
「グッ……!」
ゼノイドが大きくよろめいた。
アーツは静かに笑う。
「フフッ……進化ではない」
「人間はこれを"成長"と呼ぶ」
「だからこそ──人間は面白い」
ゼノイドは忌々しそうにアーツを睨みつけると、一気に大空へ跳び上がった。
「……もういい」
「お前も、その女もまとめて消し去ってやる!」
両腕の砲身を地上へ向け、膨大なエネルギーを収束させる。
一方、アーツも大きく口を開いた。
錬斗の口元へ赤い光が集まり、巨大な光の渦を形成していく。
それを見たゼノイドの表情が変わる。
「まさか……!」
アーツが放とうとしているものを悟ったのだ。
「上等だ!まとめて消し飛びやがれぇぇっ!!」
轟音とともに、ゼノイドの砲身から極大のエネルギー波が放たれた。
「ガアァァァァァァッ!!」
アーツも咆哮を響かせる。
次の瞬間、錬斗の口からさらに巨大な深紅のエネルギー波が迸った。
バリバリバリバリッ!!
二つのエネルギーが激突し、凄まじい衝撃波が周囲一帯を飲み込む。
大地は砕け、木々は根こそぎ吹き飛ばされ、空気そのものが震えていた。
しかし──。
均衡は長く続かなかった。
少しずつ、確実に。
アーツの放つ深紅の奔流が、ゼノイドのエネルギーを押し返していく。
(なぜだ……!?)
(なぜ押し負ける……!?)
(これも……人間の力だというのか!?)
ゼノイドは目の前の現実を理解できず、目を見開く。
「くっ……くそったれがァァァァ!!」
ドカァァァァァァァン!!
絶叫は爆音に飲み込まれ、ゼノイドの姿は眩い閃光の中へ消えていった。
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