7)"Xギア"の力
「沙耶先輩っ!!」
錬斗は叫ぶと同時に、人型ゼノイドへ一直線に駆け出した。
ゼノイドは錬斗を一瞥すると、鬱陶しい虫でも払うかのように腕を軽く振るう。
ドゴォンッ!
「かはっ……!」
咄嗟に腕を交差させて防御したものの、その衝撃だけで錬斗の身体は宙を舞い、背後の大木へ激突した。
(レント!大丈夫か!?)
アーツの焦った声が頭の中へ響く。
「うん……大丈──」
言いかけた錬斗の視線が、不意に足元へ落ちた。
「……っ!」
そこには、血に染まり動かなくなった『イージス』の隊員たちが倒れていた。
折り重なるように横たわる亡骸。
地面を赤く染める大量の血。
(うそ……)
(みんな……死んでる……)
初めて目の当たりにした人の死。
胃の奥から込み上げる強烈な吐き気に耐え切れず、錬斗はその場に膝をついた。
「おぇっ……!」
(レント!しっかりしろ!深呼吸するんだ!)
しかし、アーツの声は錬斗の耳には届いていなかった。
「なんダ?」
「あのゴミみたいな人間ハ……」
ゼノイドが錬斗へ視線を向けた、その一瞬だった。
「はあっ!」
沙耶の鋭い蹴りが閃き、ゼノイドの長い舌を根元から切り裂く。
拘束から解放された沙耶は、そのまま錬斗のもとへ駆け寄った。
「錬斗っ!どうしてここへ来たの!」
錬斗をかばうように、その前へ立つ。
「僕は……沙耶先輩が心配で……」
「あなたが心配することじゃないわ!」
沙耶はきっぱりと言い放つ。
「ここに隠れていて!」
そう言い残すと、『天を駆ける靴』で一気に空へ駆け上がった。
「フフッ……まだ懲りないのカ」
「そうだったナ。人間には"意地"というものがあル」
「本当に愚かな生き物ダ」
切断されたゼノイドの舌が、不気味な音を立てながらみるみる再生していく。
完全に修復すると、ゼノイドは悠然と宙へ浮かび上がった。
「ハハハハッ!」
「ワタシは空を飛べル!」
「オマエの足では、ワタシを捕らえることはできなイ!」
「それに、リーチもワタシが上ダ!」
「オマエに勝ち目はない!」
ゼノイドは高らかに笑いながら、長い舌を何本もの槍のように振るう。
沙耶は空中を縦横無尽に駆け、紙一重で攻撃をかわしていく。
しかし、攻めに転じる隙はなく、防戦一方となっていた。
──地上では、アーツの励ましもあって錬斗は少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「ごめん、アーツ……。もう大丈夫」
顔はまだ真っ青だったが、錬斗はしっかりと前を向く。
その時、不意に倒れている隊員の一人へ目が止まった。
「……あれ?」
「動いてる……!」
錬斗は目を見開く。
「もしかして、まだ生きてるのかも!」
急いで駆け寄り、男の隊員へ声を掛けた。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
その呼びかけに応えるように、隊員はゆっくりと薄く目を開けた。
「ゼ……ゼノイドは、どうした……?」
「人型のゼノイドなら、今、沙耶先輩が戦っています!」
錬斗が答えると、隊員はゆっくり首を巡らせ、上空の戦いへ視線を向けた。
「そうか……」
「沙耶が来てくれたのか……」
安堵したように小さく息を吐く。
錬斗が心配そうに様子をうかがっていると、隊員は苦しそうに口を開いた。
「少年……悪いが、私をあの木のところまで運んでくれないか」
「ここでは……足手まといになる」
「で、でも……」
錬斗は大量の血を見て、動かしていいものか迷った。
「心配するな……」
「致命傷は避けている。
傷も浅い……出血も思ったほどではない」
(レント。この男の言っていることは本当だ)
アーツが静かに告げる。
「……うん、分かった」
錬斗は隊員を慎重に抱え上げ、近くの大木まで運ぶと、幹にもたれ掛からせた。
そして再び空を見上げる。
激しく飛び交う攻防を見つめる錬斗の表情には、不安が色濃く浮かんでいた。
そんな錬斗へ、隊員が穏やかな声で言う。
「そんなに心配するな……」
「沙耶には、特別な力がある」
「特別な力……?」
錬斗は隊員を振り返る。
「それって、"Xギア"のことですよね?」
「でも、もう使っているじゃないですか」
その言葉に、隊員は少し意外そうな表情を浮かべた。
「お前……Xギアのことを知っているのか」
そして、小さく笑う。
「確かに、その力もXギアによるものだ」
「だが、私が言っている"特別"とは、それだけじゃない」
隊員は沙耶を見上げながら、誇らしげに続けた。
「沙耶は──人類で初めて、二つのXギアを同時に扱える唯一の存在なんだ」
──沙耶は空中を駆けながら、冷静にゼノイドを観察していた。
(おそらく……こいつは"ランクA")
(飛行能力を持ち、長い舌による遠距離攻撃を得意とするタイプ……)
(だいたい分かったわ)
沙耶はゼノイドとの距離を大きく取ると、その場で動きを止めた。
「なんダ?降参カ?」
「マア、降参したところで殺すがナ!」
ゼノイドは勝ち誇ったように笑う。
その時、沙耶は静かに両手を前へ掲げた。
「──『日輪の双銃』」
両手にはめられた指輪が眩く輝き、その光は二丁の拳銃へと姿を変える。
そして──。
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
引き金が引かれた瞬間、銃口から光の弾丸が一直線に放たれた。
まるでレーザーのような閃光が空を切り裂く。
「ナニッ!?」
予想外の攻撃に反応が遅れたゼノイドは、その身に何発もの光弾を受けた。
「グッ……!」
身体を構成するボディパーツが次々と砕け散る。
沙耶は静かに銃口を向けたまま言い放つ。
「これで、わたしの方がリーチは上」
「大人しく降参したらどうかしら?」
そして小さく微笑む。
「まあ、降参しても破壊するけどね」
「ナメるなァッ!!人間風情ガ!!」
怒号とともに、砕けたボディパーツが一瞬で再生する。
ゼノイドは怒りに任せ、一気に沙耶との距離を詰めた。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
光弾が次々と放たれる。
ゼノイドは高速で飛び回りながら攻撃をかわすが、その合間にも何発かは身体を撃ち抜いていく。
「この程度……!」
「多少撃たれても、すぐに再生できル!」
「コアさえ守れば問題ナイ!」
沙耶は表情一つ変えず、静かに照準を合わせる。
「そうでしょうね」
「でも……これはどうかしら?」
次の瞬間──。
無数の光弾が放たれた。
まるでマシンガンのような弾幕がゼノイドへ向かっていく。
「チィッ!」
ゼノイドはその場で身を丸め、防御姿勢を取る。
ドドドドドドドォォン!!
凄まじい爆発が連続し、辺り一面が爆煙に包まれた。
「クックック……」
「所詮は人間──」
そう言いかけたゼノイドは、目を見開く。
「……いなイ?」
先ほどまで正面にいたはずの沙耶の姿が消えていた。
「ドコへ行ッタ!?」
その時──。
背後から銃を構える音がした。
カチャ。
ゼノイドが振り向く。
そこには、二丁の拳銃を重ねるように構えた沙耶がいた。
「──"断罪の光線"」
二つの銃口が一つに重なる。
次の瞬間、極太の光線が放たれた。
轟音とともに放たれた閃光はゼノイドを一瞬で飲み込み、空を白く染め上げる。
「バ……カ……ナ……」
断末魔の声を残し、ゼノイドのボディパーツもコアも、すべて光の中へ消え去った。
読んで頂きありがとうございます。
☆下記、連載中の作品も是非読んでみてください☆
【Zero】特殊警備部隊公安第零課




