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6)ゼノイド襲来

 沙耶の屋敷に居候するようになってから、早くも三週間が過ぎようとしていた。


 季節は十二月。


 吐く息は白く、日に日に冬の寒さが厳しさを増している。


 今日は期末テストで学校は昼には終わっていた。


 学校の帰り道、錬斗はいつものようにアーツと他愛もない話をしながら歩いていた。


「最近、一気に寒くなってきたなぁ……」


 錬斗は両手に息を吹きかけ、こすり合わせる。


(あのまま廃屋で暮らしていたら、今頃は凍えていただろうな)


(ほんとだよね。でも、いつまでも沙耶先輩の家にお世話になるわけにもいかないし……)


(早く自分の家を見つけないとなぁ)


 するとアーツが小さく笑った。


(まあ、今のお前は完全に"ヒモ"だからな)


(むっ……)


 錬斗は頬をぷくっと膨らませる。


(アーツって、本当にどうでもいい人間の知識ばっかり覚えていくよね!)


 二人がそんなやり取りをしていると、不意に錬斗が空を見上げた。


「ねぇ、アーツ……」


「沙耶先輩が言ってた、あの時のゼノイドが"ランクD"っていう話、本当なのかな?」


 あの日、錬斗とアーツがゼノイドと戦っていた様子を、沙耶は物陰から見守っていた。


 助けに入ろうとした矢先、錬斗が圧倒的な力でゼノイドを撃破したため、沙耶は錬斗こそゼノイドなのではないかと疑ったのだった。


("ランク"とは、人間が便宜上つけた危険度の基準だ)


(だから、その評価が正しいかどうかはワタシには判断できない)


 アーツは淡々と続ける。


(だが、あの個体がゼノイドの中でも下位だったことは間違いない)


(ゼノイドは上位個体になるほど知能が高くなる)


(それに伴い、変形能力や特殊能力も増えていく)


(あの程度では、下位個体と呼ぶのが妥当だろう)


 アーツ以外のゼノイドを知らない錬斗にとって、あれほどの相手ですら十分に脅威だった。


「……そっか」


 錬斗は冬空を見上げたまま、小さく呟いた──。



 

 錬斗が沙耶の屋敷へと戻ってきた、その時だった。


 ウゥゥゥゥゥゥッッ――!!


 街中に重々しい警報が鳴り響く。


「……っ!」


 錬斗は思わず立ち止まり、周囲を見渡した。


「これって……」


「ゼノイド襲来の避難警報……!」


 錬斗たちが暮らすここは東京。


 現在、日本でゼノイドに占領されているのは北海道と沖縄だけである。


 本土でもゼノイドの出現は、度々報告されてはいたが、基本的にはゼノイドの侵攻は北と南から本土へ押し寄せるのが常であった。


 本州の中央部、ましてや首都の東京へ突如現れるなど、これまで一度もなかった。


 当然、錬斗が実際に避難警報を耳にするのも初めてだった。


「そんな……」


 呆然と立ち尽くしていると、屋敷の扉が勢いよく開いた。


「錬斗様!」


 慌てた様子の執事が駆け寄ってくる。


「お戻りになられていたのですね……ご無事で何よりです」


 執事は安堵したように息をつくと、すぐに表情を引き締めた。


「お聞きの通り、ゼノイド出現により避難警報が発令されています」


「急ぎお荷物をまとめ、私どもと一緒に避難してください」


 そう言って錬斗の手を取ろうとした、その時だった。


「……沙耶先輩は?」


 錬斗の静かな問いに、執事の動きが止まる。


「沙耶先輩は……もう戻ってきてるんですか?」


 執事は一瞬だけ目を伏せた。


 そして、覚悟を決めたように口を開く。


「……お嬢様は『イージス』の命令を受け、お役目を果たすため出撃されました」


「それって……」


 錬斗の声が震える。


「はい」


「ゼノイド討伐へ向かわれました」


 その瞬間、錬斗は執事の手を静かに振り払った。


「どこですか……?」


 拳を強く握り締める。


「沙耶先輩は、どこへ向かったんですか!」


 執事はそんな錬斗を見つめ、ゆっくりと首を横に振った。


「錬斗様……」


「お願いします……」


「教えてください……!」


 その瞳には、不安と焦り、そして沙耶を案じる強い想いが宿っていた。


 執事はそんな錬斗の表情を見つめると、小さく微笑む。


「……お嬢様は、良い方と出会われたのですね」


 そう呟くと、沙耶が向かった場所を静かに錬斗へ告げた。




 ──その頃。


 沙耶は『イージス』の命令を受け、ゼノイド討伐のため錬斗が暮らしていた廃屋へと向かっていた。


 林へ足を踏み入れると、ほどなくして"ランクD"のゼノイドと遭遇する。


 狼や熊、猪など、さまざまな獣の姿をしたゼノイドが林の中を徘徊していた。


(……かなりの数ね)


(目の前にいるだけでも十体はいるわ)


 沙耶は周囲を冷静に見渡す。


(わたしより先に『イージス』の部隊が到着しているはずだけど……)


 考えを巡らせている間にも、ゼノイドたちはじりじりと距離を詰め、沙耶を包囲していく。


 そして次の瞬間、一斉に襲い掛かった。


「──『天を駆ける靴(ヘブンズウォーカー)』!」


 沙耶が跳躍すると同時に、足先から太ももまで白い光が駆け抜ける。


 それは沙耶が装備するXギア──『天を駆ける靴(ヘブンズウォーカー)』。


 人間離れした跳躍力を生み出し、さらに空中を蹴ることで自在に軌道を変えていた。


 まるで空そのものを駆けるように、沙耶の身体が宙を舞う。


「はっ!」


 ドゴォォン!!


 一閃の蹴りが、一体のゼノイドを吹き飛ばした。


 直撃を受けたゼノイドは十数メートル先まで弾き飛ばされ、木々をなぎ倒しながら地面へ叩きつけられる。


 沙耶は着地することなく空中を駆け続け、次々とゼノイドを撃破していった。


 やがて周囲の敵を一掃すると、警戒を解かないまま廃屋へ向かって走る。


(……何、この嫌な感じ)


 胸騒ぎが消えない。


 言葉では説明できない不気味な気配が、全身を包み込んでいた。


 そして廃屋へたどり着いた瞬間──沙耶は目を見開く。


「……そんな……!」


 『イージス』から先行していた隊員たちが、全員血を流して倒れていた。


 誰一人として立ち上がる者はいない。


 静まり返った廃屋跡には、鉄臭い血の匂いだけが漂っていた。


「オヤ?また来たナ」


 その声に沙耶が顔を上げる。


 そこには、人型のゼノイドが立っていた。


 地面に届くほど長く伸びた舌をだらりと垂らし、倒れた隊員たちをまるで玩具のように踏みつけている。


 そして、不気味に口元を歪めて笑った。


 


 ──一方。


 沙耶が廃屋へたどり着いた頃、錬斗もまた林の入口へ到着していた。


 アーツの力で身体能力を強化し、常人では考えられない速度で駆け抜けてきたのだ。


 それでも錬斗は焦る気持ちを抑えつつ、慎重に林の奥へと足を進める。


 やがて視界に、機能を停止したゼノイドの姿がいくつも飛び込んできた。


「これ……きっと沙耶先輩が倒したんだ」


 錬斗は安堵したように息をつく。


「やっぱり沙耶先輩は強いね、アーツ」


(ああ……サヤが強いことは分かっている)


 だが、アーツの声にはいつもの余裕がなかった。


 何かを探るように沈黙したあと、低い声で告げる。


(レント……急いだ方がいい)


(とてつもなく強いゼノイドの反応を感じる)


 その一言で、錬斗の表情が引き締まる。


「……っ!」


 地面を蹴り、さらに速度を上げて林を駆け抜ける。


 木々の間を抜けると、見慣れた廃屋の広場が視界に入った。


「アーツ!廃屋が見えてきた!」


 そして次の瞬間──。


 錬斗の目に飛び込んできた光景は、あまりにも衝撃的だった。


 人型のゼノイドが伸ばした長い舌で沙耶の身体を絡め取り、宙へと吊り上げていたのだ。


「……っ!」


 一瞬、息が止まる。


 だが次の瞬間には、胸の奥から感情が溢れ出していた。


「沙耶先輩っ!!」


 悲痛な叫びを響かせると同時に、錬斗は一直線にゼノイドへ向かって駆け出した。


 

読んで頂きありがとうございます。

☆下記、連載中の作品も是非読んでみてください☆

【Zero】特殊警備部隊公安第零課

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