3)友達との再会
錬斗を襲ったゼノイドは、コアを破壊されたことで完全に機能を停止した。
「た、助かった……」
緊張の糸が切れたのか、錬斗はその場にへたり込む。
荒い呼吸を整えながら俯いていると、不意に頭の中へ聞き覚えのある声が響いた。
(おい、レント。
この程度で何を手こずっているんだ)
「えっ……?」
錬斗は勢いよく顔を上げる。
「あっ! そうだ!」
「僕の体を勝手に動かしてたのって、やっぱりアーツだったの!?」
「いったいどうなってるの!?」
突然、大声を上げる錬斗。
端から見れば、誰もいない空間に向かって話しかけている危ない人間にしか見えない。
(少し落ち着け。脈がかなり速くなっているぞ)
「落ち着けるわけないだろ!」
「あのあと、僕がどれだけ心配したと思ってるんだよ!」
錬斗は珍しく感情をあらわにした。
一か月もの間、返事のないアーツを想い続けてきたのだ。
(フフッ……すまない、レント)
(今からちゃんと説明する)
アーツは少し申し訳なさそうに笑うと、静かに語り始めた。
(まず、融合した時に予想外のことが二つ起きた)
(初めての試みだった以上、多少の誤算は覚悟していたが……)
(それでも想定を超えていた)
錬斗は思わず息を呑む。
「予想外……?」
(まず一つ目だ)
(本来ならワタシのコアをレントの心臓へ寄生させるはずだった)
(だが、結果は逆だった)
「逆?」
「じゃあ……僕がアーツに寄生したってこと?」
(少し違う……)
(ワタシのコアがレントの心臓へ接触した瞬間──)
(レントの心臓が、ワタシのコアを取り込んだ)
「ええぇっ!?」
錬斗は思わず胸を押さえる。
「だ、大丈夫なの!?
なんか……ごめん」
(謝る必要はない)
(誰にも予測できなかったことだ)
(だから仕方がない)
アーツは落ち着いた口調で続ける。
(取り込んだとは言っても、支配しているわけではない)
(今のワタシたちは共生しているような状態だ)
(レントの心臓はワタシのコアであり、ワタシのコアもまた、レントの心臓となった)
錬斗は難しい顔で首を傾げる。
「うーん……」
「つまり、一心同体ってこと?」
(ああ、その認識で問題ない)
(ワタシはレントの心臓を介してエネルギーを受け取り、コアを維持している)
(そのおかげでボディパーツの修復も完了した)
「あっ!」
「じゃあ、僕がお腹が空いてばかりだったのって……」
(その通りだ)
(人間は食事からエネルギーを得る)
(ワタシも、そのエネルギーを共有させてもらっていた)
「なるほど……」
錬斗はようやく腑に落ちたように頷く。
「じゃあ、もう一つの予想外って何なの?」
アーツは一拍置いてから、静かに答えようとした。
(二つ目は、レントの心臓が今度は逆に、ワタシのエネルギーを全身へ運んでいるということだ)
「運んでる……?」
錬斗は頭をかきながら首を傾げた。
「ごめん、全然分かんないや……」
(融合する前にも話したが、今のレントの身体は、癌に侵された臓器の一部をワタシのボディパーツがナノマシンとなって代替している)
「うん。僕の体を治してくれたんだよね」
「ありがとう、アーツ」
錬斗は素直に頭を下げた。
(礼には及ばない)
(原因は不明だが、レントの心臓はワタシのコアからエネルギーを抽出し、血液に乗せて全身へ循環させている)
(融合してから、身体能力が大きく向上したと感じなかったか?)
「感じたどころじゃないよ!」
「体力も力も、全部別人みたいになった!」
「えっ……それって、アーツの力だったの?」
(その通りだ)
(融合直後、ワタシはレントの臓器を修復すると同時に、心臓へ大量のエネルギーを供給した)
(その結果、ワタシ自身のエネルギーは枯渇し、一時的に機能を停止していた)
「機能停止って……」
「それって死んじゃったってこと!?」
(死ぬか、バカ!)
アーツは呆れたように返した。
(心配するな)
(人間で言えば"眠り"のようなものだ)
(腕を見てみろ)
錬斗は言われた通り、自分の腕へ視線を落とした。
「……傷が消えてる」
さっきまでゼノイドに切り裂かれていた傷は、跡形もなく治っていた。
(これがワタシの力だ)
(レントの体内へ散ったナノマシンが傷を修復し、必要に応じて身体能力も飛躍的に高める)
(もちろん、それはワタシの意思でも制御できる)
「ああ……」
「だからさっきは、アーツが僕の体を動かしてたんだね」
(少しは理解してきたようだな)
アーツは満足そうに笑う。
(だが、この力は万能ではない)
(当然だがエネルギーは無限ではない……)
(コアのエネルギーを消費し過ぎれば、ワタシは"眠り"につかざるを得ない)
(そしてレントは、その不足分を補充ため強い空腹に襲われる)
「なるほど……」
錬斗は頷きながら、ふと疑問を口にした。
「あれ?」
「でも、アーツが眠ってる間も僕は力持ちのままだったよ?」
(それはレントが、すでに取り込んでいたエネルギーを消費していなかっただけだ)
(日常生活程度では、大してエネルギーは必要ない)
(だが、先ほどの戦闘で見ただろう)
(あれほどの力を使えば、消費量も桁違いになる)
錬斗は、ゼノイドを一撃で吹き飛ばした瞬間を思い返した。
「あんな力……自分でも信じられなかった」
(そういうことだ)
(細かい説明はまだあるが、現時点で重要なのはこの二点だ)
少し間を置き、アーツは静かに続ける。
(……とはいえ、ワタシもまだ目覚めたばかりだ)
(まだ本調子ではない)
(悪いが、しばらく眠らせてもらう)
「えっ!?」
「そんな……せっかくまた話せたのに!」
(案ずるな)
(ワタシはもう、お前の一部だ)
(いつでも……話せる)
(また……な……)
その言葉を最後に、アーツの気配は静かに眠りへ落ちていった。
「……アーツ?」
返事はない。
静寂が戻る。
錬斗は小さく笑った。
「今さらだけど……前よりずいぶん話すのが上手くなったよね……」
「もうほとんど人間と一緒だよ」
夜空を見上げる。
さっきまで感じていた孤独は、もうなかった。
「僕も帰って寝よう」
「おやすみ、アーツ」
そう呟き、錬斗はゆっくりと廃屋への帰り道を歩き出した。
──錬斗が廃屋へと戻っていく、その頃。
闇夜に紛れるように、一人の少女が静かに立っていた。
月明かりに照らされた黒髪が、夜風になびく。
少女は物陰から、去っていく錬斗の背中をじっと見つめていた。
その瞳に宿るのは、警戒でも好奇心でもない。
まるで"ゼノイド"を見つめるかのような、鋭く冷たい敵意だった──。
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