22)切り開いた未来
──森の中。
「いててて……」
吹き飛ばされた錬斗は、ゆっくりと身体を起こした。
(レント、大丈夫か?)
アーツの声が頭の中に響く。
「うん。ギリギリでガードできたから、何とか大丈夫……」
錬斗は身体の状態を確認しながら立ち上がる。
「でも……ゼノイドって、本当にいろんなやつがいるね」
「これじゃあ、『武を修める者』の攻撃が何も通じないよ」
すると、アーツが答えた。
(それは人間も同じだろう?)
「え?」
(男もいれば女もいる。大きいものもいれば、小さいものもいる)
(知能に優れたものもいれば、体力に優れたものもいる……)
(全く同じ個体というものが存在しない)
(年齢まで考慮すれば、ゼノイドよりも人間のほうが、はるかにバラエティー豊かだと思うがな……)
「バラエティーって……」
錬斗は思わず苦笑する。
そして、ゆっくりと立ち上がると、大きく深呼吸した。
脳裏に浮かぶのは、これまで過ごしてきた日々。
アーツとの特訓。
沙耶との時間。
乱波との戦い。
幹人との寮生活。
そして、第七門の仲間たちとの日常。
「……アーツの言う通りだね」
錬斗は小さく笑った。
「人間って、本当にいろんな人がいるよね」
そんな錬斗を、アーツは不思議そうに感じ取っていた。
(レント……)
(今回は、あまり動揺したり焦ったりしていないな)
(いったい、どうしてだ?)
アーツは、錬斗が吹き飛ばされたことで、慌ててしまうのではないかと思っていた。
しかし、予想に反して錬斗は落ち着いている。
「なんでだろう……」
錬斗自身も不思議そうに呟く。
「自分でも、よく分かんないや……」
そして、一年前のことを思い出す。
「一年前の戦いのときは、何がなんだか分からなくて……どうしていいのかも分からなかった」
「試験のときは、乱波を倒さなきゃ不合格になるって思ってたし……」
錬斗は、これまでアーツと共に積み重ねてきた特訓の日々を思い返す。
何度も失敗した。
何度も倒れた。
それでも、強くなるために立ち上がってきた。
「でも、今は違う……」
錬斗は、自分の拳を強く握りしめる。
「ずっと、この瞬間を思い描いて……アーツと特訓してきたんだ」
そして、前を向く。
今、自分はずっと思い描いていた未来の中に立っている。
そのことが、錬斗には嬉しかった。
「アーツ……」
「僕は……自分の未来を、自分で切り開けたのかな……?」
すると──
アーツが、どこか嬉しそうに笑った。
(フフッ……何を言っているんだ、レント)
(まだ、切り開いたばかりだろ?)
(オマエの未来は……まだまだこれからだ)
「……うん」
錬斗も笑って頷く。
「そうだね……」
「ありがとう、アーツ」
そのとき──
ガサッ。
「……!」
森の奥から、ゼノイドが姿を現した。
(さあ、レント!)
(アイツに、オマエの力を見せてやれ!)
「うん!」
錬斗は両手を左右に広げる。
そして──
身体から無数のナノマシンが展開される。
「戦闘機械形態──」
「『武器を造る者』!!」
ゼノイドは錬斗の姿を見つけると、先ほどまでとは明らかに違う雰囲気に気づいた。
(なんダ……?)
(さっきまでと様子が違ウ……変身したのカ?)
しかし、すぐに首を横に振る。
(イヤ……人間にそんな機能はなイ……)
よく見ると、錬斗の両腕が青く輝いていた。
その表面には、まるで機械の装甲のような線が幾重にも走っている。
(さっきまでは、あんなもの無かったはズ……)
(それに、あの妙な反応……)
(今の姿といい……変わった人間だナ……)
ゼノイドが攻撃態勢に入った、そのとき──
錬斗が両腕を大きく振りかぶり、真っ直ぐ向かってきた。
(……何してんダ? コイツは?)
ゼノイドは錬斗の不可解な行動を気にすることなく、長い腕を伸ばして殴りかかる。
しかし──
「ブレード!」
ズバンッ!!
「ナッ!?」
錬斗の言葉と同時に、ゼノイドの腕が真っ二つに切り裂かれた。
「グアッ!」
ゼノイドが驚愕しながら錬斗を見る。
すると──
錬斗の右手の掌から、鋭い剣の刃が直接生えていた。
「な、なんダ……それハ!?」
ゼノイドが動揺した、その一瞬。
錬斗は間髪入れずに踏み込む。
「おおおおっ!」
ズバババババッ!!
伸びてきたゼノイドの腕を次々と輪切りにし、そのまま懐へと潜り込む。
「グッ……!」
ゼノイドは逆の腕を伸ばして後方の木を掴むと、
錬斗から大きく距離をとった。
(大丈夫ダ……)
(すぐに再生すル……!)
切断された腕が、瞬く間に再生していく。
ゼノイドは再生した腕を動かし、異常がないことを確認する。
(ヨシッ!)
そして、反撃に移ろうと錬斗へ視線を戻した瞬間──
ズドドドドドドッ!!
「グッ……!?」
無数の矢が、ゼノイドの身体へ突き刺さった。
「グアアッ!」
ゼノイドは苦痛に顔を歪めながら、矢が飛んできた方向を見る。
そこには──
左腕をボーガンへと変形させた錬斗がいた。
(……馬鹿ナ)
(人間の持つXギアに、こんな多機能なものは存在しなイ……)
さらに、先ほどの剣を思い出す。
(それに、あの刃……アイツの掌から直接生えていタ……)
ゼノイドは目の前の錬斗を理解できず、完全に混乱していた。
(アイツは……本当に人間なのカ……?)
錬斗がゆっくりとゼノイドへ近づいてくる。
「……!」
ゼノイドは逃げようと身体を動かす。
しかし──
(……!?)
身体が思うように動かない。
(ナゼ……!?)
その瞬間、ゼノイドの視界に、身体へ突き刺さった無数の矢が映った。
「これカ……」
「この矢のせいなのカ……?」
ゼノイドは、さらに混乱していく。
そんなゼノイドを見つめながら、アーツが錬斗の中から念波を送る。
(オマエの負けだ……名もなきゼノイドよ)
(これは、レントがゼノイドと戦うために、ワタシと共に編み出した形態……)
(オマエなんぞが勝てる道理はない)
「クソッ……!」
ゼノイドは錬斗を睨みつける。
「やはりオマエは……人間ではないのだナ!」
「……!」
その言葉に、錬斗の足が止まる。
「僕は……」
錬斗は拳を握りしめる。
「僕は人間だっ!!」
叫びと同時に、錬斗は右腕を大きく振りかぶった。
「ランス!!」
シュンッ!
アーツが瞬時に右手へ槍を形成する。
錬斗はその槍を掴み、大きく振りかぶった。
「どぉりゃぁぁぁぁ!!」
そして──
ブォンッ!
渾身の力でゼノイド目掛けて投げつける。
ズドォォン!!
「グガァァッ!!」
放たれた槍はゼノイドの胸部を貫き、そのまま大穴を穿った。
そして──
槍の先端が、ゼノイドのコアを完全に破壊する。
「……ガ……ッ」
ゼノイドの身体から力が抜ける。
次の瞬間──
ドサッ。
その身体は地面へと崩れ落ちた。
──ズドォォン!
森に響き渡る大きな音。
錬斗を探して森の上空を飛んでいた沙耶は、その音を聞いて振り返った。
「……あれは?」
沙耶は音が聞こえた方角をじっと見つめる。
やがて、微かに立ち上る土煙が視界に入った。
「きっと、あそこに錬斗がいる……」
沙耶はそう呟くと、すぐさま身体を傾ける。
そして──
ヒュンッ!
一気に急降下し、音のした場所へ向かって飛んでいった。
錬斗が『戦闘機械形態』を解いていく。
全身を覆っていたナノマシンの光が消えていくと、錬斗はアーツに声をかけた。
「ありがとう、アーツ。うまくいったね」
(うむ。『武器を造る者』は、我らの息を合わせることが重要だからな)
「はは……。練習では、たくさん失敗したからね……」
(だが……その甲斐はあったのではないか?)
錬斗は、機能を停止したゼノイドへ視線を向ける。
(オマエの特訓の成果だ……レント……)
「うんっ!」
錬斗は拳を握り締める。
そのとき──。
上空から、一人の人影が降りてきた。
「錬斗、大丈夫?」
沙耶だった。
「沙耶さん!」
錬斗は、沙耶の姿を見つけると笑顔を見せた。
「良かった! 沙耶さんも無事だったんですね!」
「ええ。わたしは大丈夫よ」
沙耶は微笑む。
「ここに来る前に、乱波のところにも行ってきたわ。あいつも心配ないわよ」
「本当ですか?」
「ええ。ボロボロにはなっていたけれど、命に別状はないわ。今は第十門の人たちが手当てをしてくれている」
それを聞いた錬斗は、ホッと胸を撫で下ろした。
「良かった~……。みんな無事だったんですね」
だが、錬斗はふと何かを思い出したように顔を上げる。
「あ、でも……まだトンボのゼノイドがいるんじゃ……」
錬斗が尋ねると、沙耶は笑顔で答えた。
「ふふ……それも大丈夫よ」
「え?」
「どうやら、乱波が倒したゼノイドがトンボのゼノイドを生み出していた元凶だったみたいなの」
「それなら……」
「ええ、乱波が本体を倒したとき、トンボのゼノイドも、すべて機能を停止したわ」
「そうだったんですね!」
錬斗は再び安堵の表情を浮かべる。
すると、沙耶は錬斗へ向かって手を差し出した。
「錬斗!」
「はい?」
「お疲れさま!」
沙耶は満面の笑みを浮かべる。
「初陣で、これだけの戦果を上げるなんて……なかなかできることじゃないわよ!」
そう言って、沙耶はウインクした。
「……っ!」
その仕草に、錬斗の胸がドキッと跳ねる。
錬斗は少し照れながらも、差し出された沙耶の手を取った。
「ありがとうございます……!」
二人は固く握手を交わす。
初めての実戦。
命懸けの戦いを乗り越えた錬斗にとって、その握手は何よりも嬉しいものだった。
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