21)沙耶の実力
──洞窟内の開けた場所。
沙耶は『天を駆ける靴』を駆使し、ゼノイドの攻撃を次々と躱していた。
ドガッ!
ゼノイドの拳が、先ほどまで沙耶が立っていた岩壁を砕く。
「器用なやつダ……」
ゼノイドが苛立たしげに呟く。
狭い洞窟内では、空中を自由に飛び回ることは難しい。
しかし、沙耶はそんなことなど意に介していなかった。
壁を。
天井を。
まるで平地であるかのように、軽々と歩き、そして駆け回る。
「『天を駆ける靴』は、ただ空を駆けるだけのXギアじゃないわ……」
沙耶は壁を蹴ると、今度は天井へと移動する。
「壁だろうが、天井だろうが……空や海でさえ、どこだろうと重力を無視して、平地のように駆け回ることができるのよ」
「チィッ!」
ゼノイドが沙耶へ向かって腕を振り抜く。
しかし──
「はっ!」
沙耶は天井を蹴り、一気にゼノイドへと急降下する。
「ナニッ!?」
ガッ!
沙耶の蹴りを、ゼノイドが咄嗟に腕で受け止めた。
「捕まえタ!」
ゼノイドが口元を歪める。
だが──
「……それが狙いよ」
「ナ……!?」
沙耶はそのまま身体を捻る。
そして、ゼノイドの腕を足場にするように蹴り上がると、空中で素早く宙返りした。
「"三日月の蹴刃"!!」
ズバァッ!
「グアッ!」
鋭い蹴撃がゼノイドの腕を捉える。
その腕が、根元から切断された。
ドサッ。
切断された腕が地面へと落ちる。
「グ……ッ!」
ゼノイドはすぐさま傷口から新たな腕を再生させる。
そして、怒りに満ちた視線を沙耶へ向けた。
「この程度、すぐに再生すル……!」
「何のダメージにもならんワ!」
「そうでしょうね……」
沙耶は再び天井へと立つ。
そして、逆さまになることすら意に介さず、ゼノイドを見下ろした。
「でも……」
沙耶は軽く微笑む。
「わたしも、あなたを蹴飛ばさないように手加減するのが大変なのよ……」
「……ッ!」
ゼノイドの表情が引きつる。
沙耶はゆっくりと腰を落とし、次の攻撃へ備える。
「今度はちゃんと……」
その瞳が鋭くなる。
「コアを切断してあげるわ」
「口の減らない小娘ガ……!」
ゼノイドは怒りを露わにすると、岩壁を蹴った。
ドンッ!
そして、沙耶目掛けて凄まじい勢いで突進していく。
「その減らず口……二度と叩けないようにしてやル!!」
──その頃、錬斗は森の中でゼノイドを一方的に攻め続けていた。
ドカッ! バキッ! ドゴォォン!
「はぁっ!」
錬斗の猛攻を受け、ゼノイドの身体が木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。
しかし──
錬斗の表情は晴れなかった。
(……十分、手応えはあるんだけど……)
錬斗は拳を握り直しながら、ゼノイドを睨む。
(何か……分厚いタイヤを殴っているような感じだ……)
やがて、吹き飛ばされたゼノイドがゆっくりと立ち上がる。
傷らしい傷は、ほとんど見当たらない。
「気づいたカ……?」
「……!」
ゼノイドは不気味な笑みを浮かべた。
「オレのこの黒い外皮は、ゴムと同じ性質を持っていル……」
自身の身体を指差しながら、淡々と告げる。
「いくら殴ろうが……オレに打撃は効かないゾ」
「…………」
錬斗は警戒するように身構える。
ゼノイドはニヤリと笑う。
「今度はこちらから行くゾ……!」
ゼノイドは近くに生えていた太い木を両手で掴んだ。
「………?」
そのまま身体を後方へ引いていく。
すると──
ビヨォォン……!
「なっ!?」
ゼノイドの両腕が、ゴムのように長く伸びていく。
そして──
「喰らエェェェッ!!」
パチンコのように引き伸ばされた腕が、一気に元へ戻る。
ズバァン!!
その反動を利用して、ゼノイドの身体が凄まじい勢いで錬斗へ飛んでいく。
「うわっ!?」
ドカァァン!!
「ぐはぁっ!」
予想外の速度から繰り出された体当たりが、錬斗を真正面から捉えた。
錬斗の身体はそのまま後方へ吹き飛ばされ──
ドゴォォン!!
大木へ激突した。
──洞窟内。
ゼノイドは怒り狂ったように暴れ回っていた。
ドカァァン!
巨大な拳が岩壁を砕き、天井から大量の瓦礫が落下する。
ガラガラガラッ!
沙耶はそれらを軽々と躱していく。
しかし、そのたびに洞窟全体が大きく揺れた。
「避けていいのカ?」
ゼノイドが不敵に笑う。
「もうそろそろ、この洞窟が耐えられないかもナ!」
「……!」
沙耶は周囲を見回す。
岩壁には無数の亀裂が走り、至るところで岩がボロボロと崩れ始めていた。
「オラァァァ!!」
ゼノイドが再び襲い掛かる。
沙耶はその攻撃を、片脚で受け止めた。
ガキィン!
「はぁぁぁぁっ!」
そのまま身体を翻し、ゼノイドへと連続して蹴りを叩き込む。
「"三日月の蹴刃"!!」
シュバッ! ズバッ! ズババババッ!!
「グアアアッ!」
鋭い蹴撃がゼノイドの身体を次々と切り裂いていく。
ゼノイドは咄嗟に両腕でコアだけを庇う。
だが、それ以外の身体は容赦なく切り刻まれていった。
「クッ……!」
たまらずゼノイドは大きく後方へ飛び退き、距離を取る。
(クソッ……!)
(この小娘は一体なんなんダ!?)
切り刻まれた身体を再生させながら、ゼノイドは沙耶を睨みつける。
(そこらの隊長と呼ばれる人間よりも……全然強イ……!)
そのとき、沙耶が静かに口を開いた。
「そろそろいいかしら?」
「……?」
「いい加減、ここも崩れそうだから……もう終わりにしましょう」
沙耶は鋭い眼差しでゼノイドを見据える。
「……ッ!」
その圧に耐えきれなくなったのか、ゼノイドは咄嗟に岩壁へと向き直った。
そして──
ズガガガガガッ!
新たな岩壁を掘削し、そのまま岩の中へと逃げ込んでいく。
(こうなったら最終手段ダ……!)
(オレが自らここを崩壊させて、生き埋めにしてやル……!)
ゼノイドは岩の中を掘り進みながら、不気味に笑う。
(クックック……だから最初に言っただろ)
(『ここに入ってきた時点で、オマエに勝ち目はない』ってナ……)
(自分の愚かな判断を後悔しながら、死ぬがイイ!)
それを見た沙耶はため息をつくと地面に置いていた二丁の銃を拾い上げた。
カチャ
そして、切断されたゼノイドのボディパーツへ銃口を当てると銃が青白く光り出した。
「やれやれ……」
沙耶は小さくため息をつく。
「ここまで来て逃げるなんて……」
そして、クスッと微笑んだ。
「とんだ臆病者ね」
青白い光が収まると沙耶は立ち上がり、ゼノイドが逃げ込んだ穴へ銃口を向けた。
「下手に撃つと崩れるのなら……」
その瞳が鋭く光る。
「上手に撃てばいいだけよ!」
「"追跡する光線"!!」
ガンッ! ガンッ!
二丁の銃から放たれた二本の細い光線が、ゼノイドを追うように穴の中へ飛び込んでいく。
「フフッ……」
ゼノイドは岩の中を掘り進みながら笑う。
「あの小娘も、これで終わりだナ……!」
その瞬間──
ピカッ!
「……?」
背後から、青白い光が差し込んだ。
「ハ……?」
ゼノイドがゆっくりと振り返る。
「オイ……」
迫り来る二本の光線を見て、ゼノイドの顔が引きつった。
「オイオイ……ウソだロォ!?」
「クソッ!」
ズガガガガガッ!!
ゼノイドは慌てて岩を掘り進み、再び広い空間へと戻ろうとする。
そして──
ドゴォォン!!
岩壁を突き破り、ゼノイドが広い空間へと飛び出した。
「あら?」
沙耶は穏やかな笑みを浮かべる。
「おかえりなさい」
「……ッ!」
「でも、残念」
沙耶は二丁の銃を構え直す。
「もう、さよならだわ」
ガンッ! ガンッ!
前方から二本の青白い光線が飛来する。
そして──
ピカッ!
「ナッ!?」
背後の穴からも、二本の光線が飛び出した。
「バ、バカナッ!?」
前方から二本。
後方から二本。
合計四本の光線が、ゼノイドを挟み込む。
「クッ……!」
逃げ場はない。
「クソガァァァァァ!!」
ズバンッ!!
四本の細い光線が、寸分違わずゼノイドのコアを撃ち抜いた。
次の瞬間──
パァァァ……
ゼノイドのコアを破壊した青白い光線は光の粒子となって、静かに霧散していった。
洞窟内に、静寂が戻る。
沙耶は消えていく光を見つめながら、静かに銃を下ろした。
「……これで終わり」
「錬斗……乱波……無事でいてね……」
そう言い残し、沙耶は洞窟の外へ駆けていった。
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