20)三つの戦場
乱波は地上へ飛び降りると、すぐさま『ランクA』のゼノイドがいる場所へと走っていった。
「よう! 散々、好き放題やりやがって!」
「この落とし前、つけさせてもらうぜ!」
乱波の目の前に立つゼノイドは、人間に近い姿をしていた。
しかし、その顔には大きなトンボの複眼があり、背中には巨大なトンボの羽が生えている。
その異様な姿に、乱波は一切ひるむことなく無線機へ手を添えた。
「沙耶、錬斗……『ランクA』と接触した!」
「こっちは一足先に始めるぜ!」
ザザッ。
〈了解。無茶だけはしないでね〉
〈乱波! がんばって!〉
「おう! お前らもな!」
通信を終えると、乱波は両拳を構える。
すると、ゼノイドが不気味に笑った。
「クックック……愚かな人間たちダ……」
ゆっくりと乱波へ顔を向ける。
そして──
背中の羽を大きく広げた。
「キサマ程度の人間に……ワタシを止められると思っているのカ?」
羽音が周囲に響き渡る。
乱波は口元を吊り上げた。
「へっ……言ってくれるじゃねぇか」
「その余裕、すぐにぶっ壊してやるぜ!」
──森の中。
錬斗は森の中に入ってもアーツから共有した青い光の方へまっすぐに向かう。
しばらくすると木の上にいる人型のゼノイドを発見した。
手が足元につくほど長く、全身が黒色になっていた。
「オマエ……なぜオレの場所が分かル?」
「イヤ……それよりオマエ……本当に人間カ?」
錬斗はゼノイドの言葉を無視して無線に手を当てる。
ザザッ。
「沙耶さん、僕の方も接触したよ」
〈了解、錬斗も油断しないよう気をつけて〉
「うん」
通信を終えると錬斗はゼノイドの方を向いた。
「『武を修める者』!!」
錬斗の手足が黄色い帯に包まれる。
いつものように構えをとる。
それを見たゼノイドが言う。
「まあいい、オマエが何者だろうと排除するだけダ」
──森の中。
錬斗は森へ入ってからも、アーツから共有された青い光を頼りに、迷うことなく進んでいた。
しばらくすると──
「……いた」
錬斗が足を止め、木の上を見上げる。
そこには、一体の人型ゼノイドがいた。
手が足元に届くほど異様に長く、その全身は漆黒に染まっている。
ゼノイドは木の枝に腰掛けたまま、錬斗を見下ろしていた。
「オマエ……なぜオレの場所が分かル?」
「イヤ……それよりオマエ……」
ゼノイドの目が細められる。
「本当に人間カ?」
「…………」
錬斗はその言葉には答えず、無線機へ手を添えた。
ザザッ。
「沙耶さん、僕の方も接触したよ」
〈了解。錬斗も油断しないよう、気をつけて〉
「うん」
短く答えると、錬斗は通信を切った。
そして、改めて目の前のゼノイドへ向き直る。
「『武を修める者』!!」
次の瞬間、ナノマシンが錬斗の全身を駆け巡る。
手足が黄色い光の帯に包まれ、錬斗はいつものように構えを取った。
それを見たゼノイドは、ゆっくりと木から降りる。
「まあいい……」
長い腕をだらりと垂らしながら、錬斗を見据える。
「オマエが何者だろうと──」
「排除するだけダ」
森の中に、二人の殺気がぶつかり合う。
──岩壁。
『ランクA』のゼノイドは、地上から約十メートルもある高い岩肌に張り付いていた。
「クック……バカな人間どもが、まだあんなところで戦っているノカ」
「その間に基地を落としてくれるワ……」
人型のゼノイドの両腕には、無数のトゲのような突起が生えている。
それらを岩肌へ深く食い込ませ、まるで蜘蛛のように容易く岩壁を登っていく。
そのとき──
上空から二本の光線が、ゼノイド目掛けて飛来した。
ガンッ! ガンッ!
「ッ!」
ゼノイドは間一髪で光線を躱すと、飛んできた方向へ視線を向ける。
「あれは……」
そこには、二丁の銃を構えて宙に浮かぶ沙耶の姿があった。
「逃がさないわ!」
沙耶は間髪入れず、追撃の光線を放つ。
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!
「チィッ!」
ゼノイドは舌打ちすると、両足を鑿岩機のような形状へと変形させた。
そして──
ズガガガガガッ!
そのまま岩肌を削りながら、岩の中へと潜り込んでいく。
「くっ……!」
沙耶は悔しそうに眉を寄せた。
「『日輪の双銃』で、さっさと決めるつもりだったのに……」
そして、ゼノイドが潜り込んだ岩壁を見つめる。
「さすがに『ランクA』といったところかしら……」
沙耶は岩肌を確認しながら移動すると、やがて洞窟の入口らしき穴を発見した。
「ここね……」
そのまま警戒しながら、洞窟の中へと入っていく。
(中は真っ暗ね……)
しばらく進むと、洞窟の奥に少し開けた空間へ出た。
天井も高く、周囲は岩壁に囲まれている。
暗闇の中で、沙耶は周囲を見回す。
(ここで『ランクA』を逃がすわけにはいかない……)
少し考えたあと、沙耶はその場で立ち止まった。
そして、片方の銃を前方へと構える。
すると──
パァァァ……
銃身からまばゆい光が放たれ、瞬く間に洞窟内が明るく照らされた。
(危険だけど……うまくいけば、おびき出せるかしら……)
その瞬間だった──
ドガァァン!!
「ッ!」
突然、沙耶の横にあった岩壁が吹き飛んだ。
岩の中からゼノイドが飛び出し、沙耶へと襲い掛かる。
「くっ!」
沙耶は間一髪で身を翻し、その攻撃を回避する。
そして着地すると同時に、すぐさま銃口をゼノイドへ向けた。
「おっと……下手に撃つなヨ」
「……!」
その言葉に、沙耶の指が引き金の前で止まる。
「フフッ……察しがいいナ」
ゼノイドは不敵に笑う。
「オマエが今思ったとおりダ。ここの岩は、ほどよい衝撃を与えれば崩れるように、オレが今掘削しておいタ」
「さっきみたいな光線を乱発したら、すぐに崩れるだろうサ……」
ゼノイドは勝ち誇ったように笑った。
「ここに入ってきた時点で、オマエの負けダ」
「なんなら、試しに撃ってみるカ?」
「数発程度なら、耐えられるかもしれないナ!」
高笑いするゼノイド。
しかし──
沙耶はその言葉を聞いても、表情を変えなかった。
そして、ゆっくりと二丁の銃を足元へ置く。
「……?」
その行動に、ゼノイドは怪訝そうに首を傾げた。
「……何の真似ダ?」
沙耶はゆっくりと顔を上げる。
「何って……」
そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「明かりがないと、見えないじゃない……」
沙耶は一歩、ゼノイドへと歩み寄る。
「あなたがボコボコにされて、破壊される姿が」
「……ッ!」
不敵な笑みを浮かべる沙耶。
その瞬間──
ゼノイドの表情が怒りに塗り潰された。
──一方その頃、防壁下。
乱波は『ランクA』のゼノイドを相手に、苦戦を強いられていた。
ボカァァン!
「ハッハッハ! 爆破するしか脳がない猿なんて、簡単ですネェ!」
ゼノイドはそう言うと、口から小さなトンボ型のゼノイドを吐き出した。
地面へ落ちたそれは、瞬く間に子供ほどの大きさへと膨張する。
そして──
ブゥゥゥゥン!
周囲一帯が、無数のトンボ型ゼノイドで埋め尽くされた。
「行けェ!」
ゼノイドの指示と同時に、トンボ型ゼノイドが一斉に乱波へ襲い掛かる。
「くそっ! これじゃあ、上にいたときと何も変わらねぇ……!」
ボカァァァァン!
乱波は迫り来るトンボ型ゼノイドを次々と殴り飛ばし、爆発させていく。
しかし──
その隙を狙い、本体のゼノイドが翼を大きく広げた。
ブゥゥゥゥン!
翼から放たれた鋭い衝撃波が、乱波の脇腹を掠める。
「ぐっ……!」
乱波の服が切り裂かれ、傷口から血が滲む。
「いつまで耐えられるか、見物ですネェ!」
(悔しいが、奴の言う通りだ……)
乱波は歯を食いしばる。
(このままじゃ、いずれ潰される……何か手を考えねぇと……!)
その瞬間──
乱波の動きが一瞬止まった。
それを隙と判断したのか、本体のゼノイドが一気に距離を詰める。
「もらったァ!」
「ぐはっ!」
ドゴッ!
乱波の背中に強烈な蹴りが叩き込まれる。
「ぐあああっ!」
乱波は地面を転がりながら吹き飛ばされた。
さらに──
ブゥゥゥゥン!
無数のトンボ型ゼノイドが一斉に襲い掛かる。
「これで終わりですネ」
ゼノイドが勝ち誇ったように笑った。
その瞬間──
ドゴオオオオオン!!
「"噴火させる爆拳"!!」
地面から無数の爆発が噴き上がった。
ドゴォン! ドゴォン! ドゴォォン!
「なっ!?」
爆炎に巻き込まれたトンボ型ゼノイドが次々と吹き飛ばされる。
ゼノイドは咄嗟に上空へ退避した。
そして、煙に覆われた地上を見下ろす。
「無駄な足掻きをしやがっテ……」
「だが、上空ならオマエの攻撃は届かない」
ゼノイドの複眼が不気味に輝く。
「さらにワタシの複眼なら、全方位すべてを見通せル」
「どこから来ようが、死角はなイ!」
ゼノイドは勝ち誇ったように笑う。
すると──
ボカァァァァン!!
煙の中から、再び巨大な爆発が巻き起こった。
「……?」
その直後。
煙の中から、一つの人影が凄まじい勢いで飛び出してきた。
乱波だった。
「ナッ……!?」
あまりの速度に、ゼノイドはその姿を捉えていながらも反応できない。
次の瞬間──
ガシッ!
「はっ! やっと捕まえたぜ!」
乱波がゼノイドに飛びつき、その身体をしっかりと抱きしめる。
「な……!?」
ボロボロになった乱波の姿を見て、ゼノイドはようやく理解した。
「オマエ……まさか、爆発の爆風を利用して自ら飛んできたのカ!?」
「ああ、そうだ!」
乱波はニヤリと笑う。
「おかげで、体中が痛ぇけどな!」
「クソッ……!」
ゼノイドが乱波を引き剥がそうとする。
しかし──
「逃がすかよ!」
乱波は両腕に力を込め、ゼノイドをがっちりと拘束した。
「今度は俺の番だ……」
そして、ゼノイドを真正面から睨みつける。
「しっかりくらいやがれッ!!」
乱波がゼノイドの身体を両手で掴み、至近距離から爆撃を叩き込む。
「"爆殺の一撃"!!」
ドゴォォォォォン!!
ゼロ距離から放たれた凄まじい爆発が、ゼノイドを包み込む。
「グ……ガ……ッ!」
ゼノイドの身体が大きく弾け飛ぶ。
そして──
内部に存在していたコアまでもが、粉々に砕け散った。
ズゥゥゥン……!
ゼノイドはそのまま地面へ叩きつけられた。
乱波も地面へ着地する。
すると、それまで周囲を飛び回っていた無数のトンボ型ゼノイドが、一斉に動きを止めた。
そして──
バタバタバタッ!
次々と地面へ落下していく。
それを見た乱波は、安堵したように息を吐いた。
「はは……試験のとき、錬斗が俺にやった戦法が役に立ったな……」
乱波は錬斗が爆破よりも速いスピードで自分に突っ込んできたときのことを思い出す。
そして、嬉しそうに拳を握り締めて笑った。
だが──
限界を迎えた乱波の身体が、ゆっくりと傾いた。
ドサッ。
「沙耶……錬斗……」
乱波は薄れゆく意識の中で、二人の名を呟く。
「あとは……頼んだぜ……」
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