19)各個撃破
錬斗と沙耶は防壁の下まで来ると、揃って上を見上げた。
「上空に……物凄い数のゼノイドがいるわ」
沙耶は空を見上げながら、険しい表情を浮かべる。
「どうして急に、こんな数が現れたのかしら……?」
「沙耶さん、とりあえず上に急ごう!」
「ええ!」
沙耶は頷くと、すぐさまXギアを解放する。
「『天を駆ける靴』!」
白い光を纏った脚で、まるで空を駆けるように防壁を一気に駆け上がっていく。
錬斗もアーツの力を解放する。
「『戦闘機械形態』!」
ナノマシンが錬斗の全身を覆い、身体能力を大幅に強化する。
二人はそれぞれの力を使い、防壁の頂上を目指して駆け上がっていった。
そして──
防壁の頂上へ辿り着いた二人は、目の前に広がる光景に絶句した。
「…………」
「…………」
そこには──
人間の子供ほどの大きさをした、トンボのような姿のゼノイドが無数に飛び交っていた。
空を埋め尽くすほどの数。
その羽音が、辺り一帯を不気味に震わせている。
「な、なんだよ……これ!?」
錬斗が驚きの声を上げる。
沙耶は驚きを抑えながら、周囲の状況を素早く確認していく。
すると、少し離れた場所でゼノイドと交戦している『イージス』の隊員たちが目に入った。
「錬斗!」
「あっちよ!」
「うん!」
沙耶が指差した方向へ、錬斗もすぐに駆け出す。
二人は防壁の上を走り、戦闘が繰り広げられている場所へと向かっていった。
戦場へ到着すると、そこでは第十門の隊員たちが必死に戦っていた。
その中でも、一人だけ突出して奮闘している男がいる。
「おらぁぁぁぁ!!」
ボカァァァァン!!
乱波のXギア――『爆撃の龍拳』から放たれた爆発が、トンボ型のゼノイドを次々と撃ち落としていく。
「ちっ……キリがねぇな!」
「乱波!」
錬斗が叫ぶと、乱波もこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「錬斗! それに沙耶も!」
「援護に来てくれたのか!?」
「ええ、そうよ!」
沙耶が頷く。
「乱波、状況を詳しく教えてちょうだい」
「ああ!」
乱波は他の隊員たちに戦闘を任せると、すぐに状況の説明を始めた。
「一時間ほど前、前線から五体のゼノイドが防衛ラインを突破したって報告があったんだ」
「それで迎撃準備をして外に出てみたら……これだよ」
乱波が空を見上げる。
「何百体っていうトンボ型のゼノイドが、一気に押し寄せてきやがった」
「えっ?」
錬斗が驚いて尋ねる。
「でも、そんな報告……こっちには来てないよ?」
「十体以下のゼノイドなんて日常茶飯事だからな」
「わざわざ基地に報告なんてしねぇよ」
乱波は苦々しい表情を浮かべる。
「だが、何百体ものトンボ型ゼノイドが現れて、基地に報告しようとしたときには……すでに通信機を壊されていたんだ」
「そんなことって……」
錬斗が驚愕する。
その隣で、沙耶は静かに状況を整理していた。
そして、乱波へ問いかける。
「おそらく、最初にラインを突破した五体は『ランクA』のゼノイド……」
「何らかの能力で、このトンボ型ゼノイドを生み出していると考えた方がいいわね」
「それに、先に通信機を破壊していることから考えても……」
沙耶は周囲を見渡す。
「完全に計算して戦っているわ」
「……ああ、その通りだ!」
乱波も頷いた。
「うちの部隊長二人もそれに気づいて、その五体を倒そうとしたんだ」
「だが……二体が限界だった」
「俺が陽動で暴れている間に、隊長たちが二体のゼノイドを倒したんだが……」
乱波は悔しそうに拳を握る。
「残り三体の『ランクA』には、侵入を許しちまった」
「部隊長たちは無事なの?」
「ああ」
乱波は頷く。
「負傷して、もう戦えねぇが……生きてる」
「俺と残ったメンバーで何とか踏ん張っていたが……この有り様だ」
「……面目ねぇ」
乱波が頭を下げる。
すると沙耶は静かに告げた。
「頭を上げなさい、乱波」
「あなたたちがここで頑張ってくれたから、まだこの程度で済んでいるのよ」
「……!」
乱波が顔を上げる。
そして、いつもの豪快な笑顔を浮かべた。
「ありがとよ!」
「お前に慰められるなんて……俺もまだまだだな!」
そう言うと、乱波はすぐに表情を引き締めた。
「でも、こっからどうすんだ?」
沙耶は迷うことなく答える。
「その三体の『ランクA』を、わたしたち三人で各個撃破する」
「「えっ!?」」
錬斗と乱波が目を丸くする。
「確かに、それしかねぇとは思うが……」
乱波が周囲を見渡す。
「ここはどうすんだ?」
「それに、そのゼノイドがどこにいるのかも分からねぇぞ」
「第十門のみんなには、この防壁の上の戦闘に専念してもらうわ」
沙耶は迷いなく指示を出す。
「ここだけなら、何とか抑えられるはずよ」
「地上は、わたしたち第七門の部隊に任せて!」
乱波は沙耶の作戦に納得しながらも、仲間をこの場に残していくことに迷いを見せた。
そのときだった。
「乱波!」
背後から声が響く。
振り返ると、全身に包帯を巻いた二人の男がこちらへ歩いてきた。
「た、隊長!?」
「まだ休んでなきゃ駄目ですよ!」
そこに現れたのは、先ほどまで戦っていた第十門の二人の部隊長だった。
「なに……心配するな、乱波」
一人が笑う。
「この程度のゼノイド相手なら、今の俺たちでも十分戦える」
「そうだぞ!」
もう一人も拳を握る。
「あんまり部隊長を見くびるなよ、乱波!」
そう言うと、二人は再び戦場へ飛び出し、トンボ型のゼノイドを次々と蹴散らしていく。
「だから乱波──」
「お前はそいつらと一緒に、『ランクA』どもを倒しに行け」
「十文字家の跡取り息子なんだから、負けたりしたら承知しねぇからな!」
二人の隊長は笑いながら、他の隊員たちと共に戦場へ戻っていった。
「……ったく」
乱波は二人の背中を見つめ、拳を握る。
そして、沙耶と錬斗へ向き直った。
「沙耶、錬斗……もう大丈夫だ」
「行こう!」
「ええ!」
「うん!」
三人は頷き合うと、防壁の上を移動した。
三人が移動を続けていると、沙耶が乱波に聞こえないよう、錬斗へ小さな声で問いかけた。
(錬斗、アーツなら『ランクA』の居場所が分からないかしら?)
その言葉に、錬斗は何かを思い出したように答える。
(あ……そうだ! 確かにアーツなら、ゼノイドの反応を感じ取れる)
(お願い……今は、あなたたちが頼りよ)
(うん!)
錬斗は小さく頷くと、頭の中でアーツへ問いかけた。
(アーツ、今戦ってるんだけど、『ランクA』のゼノイドの居場所が分からなくて……)
(アーツなら、あいつらの居場所が分かる?)
(皆まで言うな、レント……)
(全部聞いておる)
アーツの声が頭の中に響く。
(ワタシが感知した情報を、お前の視覚に共有しよう)
(なにそれ!? そんなことできるの!?)
(フフッ……前にも言っただろう)
(ワタシとオマエは一心同体だ。これくらい、なんてことはない)
アーツが言い終えた瞬間──
錬斗の視界に、三つの青い光が浮かび上がった。
「沙耶さん! 乱波! 止まって!」
錬斗の声に、二人も足を止める。
「どうした、錬斗?」
乱波が不思議そうに錬斗を見る。
「二人とも、『ランクA』のゼノイドの位置が分かったよ!」
「なんでお前にそんなことが分かるんだよ?」
乱波が問いただそうとする。
しかし、沙耶がそれを制した。
「乱波、それは今は後回しよ」
「錬斗、教えてちょうだい」
「うん!」
錬斗は三つの青い光を確認しながら、順番に指を差していく。
「あっちの森の中に一体……」
「それと、向こうの岩壁のところに一体……」
「それで──」
最後に、すぐ近くを指差す。
「すぐそこに一体!」
二人が錬斗の指差した方向を見る。
すると──
そこには、一体のゼノイドが立っていた。
「あっ! 本当にいやがった!」
乱波が驚き、すぐさま飛び降りようとする。
「ちょっと待ちなさい!」
沙耶が制止すると、左耳に装着している無線機へ手を添えた。
ザザッ。
「こちら沙耶。応答願います」
〈こちら辻堂。何かございましたか?〉
「『ランクA』のゼノイド三体の位置を確認したわ」
「これより、わたしたち三人で各個撃破に向かいます」
沙耶は現在の状況と、これからの動きを簡潔に説明する。
───。
〈分かりました〉
〈地上のゼノイドどもは、私どもにお任せください〉
〈沙耶様も、どうかご無事で〉
「ええ。頼んだわよ」
通信を終えると、沙耶は二人へ向き直る。
「二人とも、『ランクA』と接触したら無線で連絡してちょうだい」
「岩壁の方は、飛べるわたしが行く」
「乱波は下のゼノイドへ」
「錬斗は、見失いやすい森の方をお願い」
「おう!」
「うん!」
三人はそれぞれの標的を確認する。
沙耶が前へ出る。
「それじゃあ──行くわよ!」
「「了解!!」」
号令と同時に、三人はそれぞれの方向へ一斉に飛び出していった。
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