15)決着
乱波のXギア──『爆撃の龍拳』の猛攻に、錬斗は逃げることすらできず、防戦一方となっていた。
ボカァァァン!
再び爆発が起こり、錬斗の身体が吹き飛ばされる。
そのまま地面を転がり、錬斗は苦しそうに顔を上げた。
(何度やっても乱波に近づけない……)
(それどころか……爆発を利用して、僕の動きを誘導してるみたいだ……)
乱波は豪快な性格から、一見すると力任せに突撃するだけの戦士に見える。
だが、その実は頭も切れる。
戦況を冷静に分析し、相手の動きを読みながら戦う判断力も持ち合わせていた。
それは、幼い頃から続く十文字家の厳しい教育によって培われたものでもある。
「どうした、錬斗? もうおしまいか?」
乱波が拳を構えながら問いかける。
「手詰まりなら、降参しろ」
「一方的に痛めつけるのは、俺も心苦しいからな」
乱波の言葉を聞き、錬斗は自分の姿を情けなく感じていた。
(アーツ……何か打開策はない?)
(このままじゃ……負けちゃうよ)
錬斗はアーツへ問いかける。
だが──。
アーツからの返事はなかった。
(アーツ……?)
しばらくして、ようやくアーツが口を開く。
(レント……ここでワタシが助言や助力をするのは簡単だ)
(だが、これはオマエの戦いだ)
(そして、オマエ自身が乗り越えるべき試練でもある)
(オマエは心に決めたのではなかったのか?)
("強くなる"と……)
(だからこそ、ワタシに教えを請うたのではないのか?)
アーツの言葉が、錬斗の胸に深く突き刺さる。
(レント……今のオマエのそれは、ただの"甘え"だ)
(それを理解した上で、それでもワタシに協力を仰ぐのであれば……力になろう)
その言葉を聞いた瞬間──。
錬斗の脳裏に、一年前の出来事が蘇った。
死を待つことしかできなかった自分。
アーツと出会い、生き延びることができたこと。
そして──。
何もできなかった自分。
錬斗は歯を食いしばると、ゆっくりと立ち上がった。
「ごめん、アーツ……」
「僕が間違ってたよ……」
錬斗の瞳に、強い光が宿る。
「僕の全力を乱波にぶつける」
そして、真っ直ぐ前を見据える。
「だから、しっかり見ててよ、アーツ!」
アーツは笑って答えた。
(もちろんだ)
(ラッパに見せてやれ!)
(オマエの力を!)
立ち上がった錬斗は、後方へ跳躍すると、壁際まで乱波との距離を取った。
乱波は、そんな錬斗の顔をじっと見つめる。
(まだ目は死んでねぇ……何か仕掛けてくるか……?)
一瞬、警戒する乱波。
だが、すぐに口元を吊り上げて笑った。
「はははっ! 何を企んでるか知らねーが、かかってきな!」
「全部、吹き飛ばしてやるよ!」
そう言って、乱波は身構える。
そんな乱波の姿を見て、錬斗は嬉しそうに微笑んだ。
(やっぱり、乱波はいい人だな……)
(これで最後だ……僕の渾身の一撃を叩き込む!)
錬斗は乱波へ向かって、勢いよく駆け出した。
(威勢の割に、最後は捨て身の突進か……?)
(いや……突進はフェイントで、何か仕掛けてくるか?)
乱波は迫り来る錬斗を見据えながら、必死に思考を巡らせる。
(考えても分からねぇな……)
(なら──全部まとめて爆発させるまでだ!)
乱波は拳を地面へ向ける。
『噴火させる爆拳』の構えを取った。
その瞬間だった──。
錬斗から放たれる気配が、明らかに変化した。
「『戦闘機械形態』──」
「『音速で動く者』!!」
錬斗の『武を修める者』が解除される。
次の瞬間──。
錬斗の両脚が、緑色の光に包まれた。
そして──。
錬斗の姿が、乱波の視界から消えた。
正確には、消えたのではない。
あまりにも速すぎて、目で追うことができなかったのだ。
「なっ!?」
乱波もすぐさま反応する。
「だったら……!」
乱波は"噴火させる爆拳"を地面へ叩き込んだ。
だが──。
その瞬間には、すでに乱波の腹部へ錬斗の蹴りが突き刺さっていた。
「がはっ!」
乱波の身体が、大きく後方へ弾き飛ばされる。
ドカァァァン!!
一瞬遅れて、地面から凄まじい爆発が噴き上がった。
しかし、その爆発の中に錬斗の姿はない。
錬斗は──完全に爆発そのものを置き去りにしていた。
「はぁ……はぁ……」
錬斗は荒い息を吐きながら、吹き飛んだ乱波の方を見つめる。
(『音速で動く者』は速すぎて、まだ直線的な動きしか制御できない……)
(でも……これなら、乱波の爆発よりも早く攻撃を叩き込める!)
錬斗の考えは、見事に的中した。
そして──。
錬斗は、渾身の一撃を乱波へ叩き込むことに成功した。
しばらくすると、乱波がゆっくりと立ち上がった。
「なっ……あれを受けて、まだ立てるの!?」
錬斗が驚いていると、アーツが静かに告げる。
(いや、よく見てみろ、レント)
(ラッパも立っているのがやっとだ。ギリギリの状態なのだ)
よく見ると、乱波は膝に手をつき、肩で荒く息をしていた。
口元からは、一筋の血が垂れている。
「やるじゃねーか……錬斗……」
満身創痍の状態にもかかわらず、乱波は笑みを浮かべながら錬斗を見据えていた。
錬斗も覚悟を決め、追撃の準備を整える。
その時──。
ブーーーーーーッ!
会場にブザーの音が鳴り響いた。
「両者、それまで!」
「制限時間の十五分を経過したため、これにて模擬戦闘試験を終了する!」
試験官が二人の間に入り、戦闘終了を宣言する。
「えっ……? もう終わり?」
錬斗が状況を飲み込めずにいると、観客席から拍手が聞こえてきた。
パチパチパチパチ。
錬斗は呆然と立ち尽くす。
「勝てなかった……」
そして、不安そうに呟いた。
「僕……不合格ってことなのかな……」
錬斗ががっかりした表情を浮かべていると横から大きな声が飛んできた。
「そんなわけねーだろ」
錬斗が振り向くと、そこにはぼろぼろになりながらも笑っている乱波がいた。
「俺とこれだけやり合えた奴が、不合格になるわけねぇ」
乱波はそう言って、錬斗へ笑いかける。
「それに、沙耶から聞いてねーのか?」
「俺たちのこの模擬戦闘試験は、推薦候補者の実力を『イージス』に示すのが目的なんだ」
「不合格になる奴なんて、ほとんどいねーよ」
「あっ……」
錬斗は沙耶の言葉を思い出す。
「そう言えば……そんなこと言ってたような気が……」
錬斗は頭をかきながら、苦笑いを浮かべた。
「戦いに必死すぎて、忘れてました……あはは……」
「はっはっは! やっぱりお前、おもしれぇな!」
乱波も豪快に笑う。
そして、乱波は『爆撃の龍拳』を解除した。
すると、両腕を覆っていた赤い装甲が光に包まれる。
次の瞬間──。
装甲は消え、両腕には元のリストバンドだけが残っていた。
乱波はそのまま錬斗へ手を差し出す。
「改めて──これからよろしくな! 錬斗!」
「うん! よろしく!」
錬斗は少し照れながらも、その手をしっかりと握り返した。
二人は固い握手を交わす。
こうして──。
鋼崎錬斗と十文字乱波。
二人の熾烈な模擬戦闘試験は終わった。
──控え室。
錬斗は、残り二試合が終わるまで控え室で待つことになった。
『イージス』からは傷の手当てを受けるように言われたが、錬斗は自分でできるからと丁寧に断った。
「さっきの戦闘でできた傷……もう治っちゃった」
錬斗は自分の身体を見渡す。
アーツと融合したことにより、錬斗の体内にあるナノマシンは、負った傷を瞬時に修復してしまうのだ。
「これ、バレるとマズいし……適当に包帯を巻いておこう」
錬斗が救急箱を取り出した、その時──。
コンコン。
控え室のドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
錬斗が返事をすると、ドアが開き、沙耶が入ってきた。
「沙耶先輩っ!」
沙耶の姿を見た錬斗は、嬉しそうに立ち上がる。
「ふふっ、お疲れさま。錬斗」
沙耶は微笑みながら、錬斗を労う。
「まさか……あの乱波と引き分けるなんて、びっくりしたわ」
「あれなら審査員たちも納得の実力よ」
沙耶の言葉に、錬斗も嬉しそうな表情を浮かべた。
「あ、ありがとうございます!」
「無事に受かりそうで、本当に良かったです」
そう言った錬斗だったが、なぜか少しだけ俯いた。
「どうかしたの?」
沙耶が尋ねる。
「乱波は、本当に強かったです……」
「だけど……」
錬斗は少し迷うように言葉を続ける。
「なんとなくですけど……乱波は、本気で戦ってなかったんじゃないかなって思って……」
「どこか僕を気遣っているような……試しているような感じがしました……」
錬斗の言葉を聞き、沙耶は少し考えてから答えた。
「そうね……確かに乱波は、あなたを試していたと思うわ」
「すぐに追撃しなかったのも、最後の一撃を避けずに受けて立ったのも……そういうことだと思う」
沙耶はそう言って、錬斗を真っ直ぐ見つめる。
「でもね、乱波は本気で戦っていたわ」
「乱波も全力を出し切って……そして、あなたと引き分けた」
「錬斗……あなたの力は、ちゃんと成長してる!」
「だから、自信を持って!」
その言葉に、錬斗の顔が赤くなる。
「沙耶先輩……」
二人の視線が重なった、その時──。
「まあ、全てワタシのおかげだがな!」
突然、錬斗の口を使ってアーツが話し始めた。
「ふふっ、そうね……アーツとの特訓の成果よね」
沙耶は笑いながら、アーツに答える。
「うむ……サヤはちゃんと分かっているな」
「今回もレントが甘えたことを言い出すから、大変だったん──」
「わー! わー! わー!」
アーツが余計なことを言おうとするのを、錬斗が慌てて遮る。
(アーツ! 勝手に出てくるなよ! せっかくいい雰囲気だったのに、台無しじゃないか!)
(それに、余計なことは言わないでよね!)
(ほう? レント、ワタシにそんな口を聞いていいのか?)
(レントのあんなことや、こんなことをサヤに言ってしまうかもしれないぞ?)
頭の中で始まった、いつもの二人の言い合い。
その様子を察した沙耶は、思わず笑みをこぼした。
「錬斗、本当にお疲れさま!」
「とりあえず、これで試験は無事に合格ね!」
こうして──。
錬斗の戦いの第一歩。
『イージス』への入門は、無事に幕を下ろした。




