14)十文字乱波
「──はじめっ!!」
開始のアナウンスと同時に、乱波が錬斗へ向かって真っ直ぐ突っ込んできた。
(来るぞ、レント!)
「うん!」
錬斗は身構える。
「戦闘機械形態──『武を修める者』!」
黄色く光る帯状のナノマシンが、錬斗の手足を包み込む。
そして、拳を握り締めて構えを取った。
それを見た乱波は、嬉しそうに笑う。
「へぇ……それがお前のXギアか?」
乱波は一気に錬斗の懐へ飛び込む。
顔面へのパンチと見せかけ、その狙いをボディへと切り替えた。
ガシッ!
錬斗は咄嗟に腕を下げてガードする。
そして、そのまま反撃の蹴りを放った。
ブンッ!
しかし──。
ついさっきまで目の前にいたはずの乱波の姿が、突然消えた。
「えっ?」
錬斗の蹴りは空を切る。
(下だ! レント!)
アーツの声に、錬斗が視線を落とす。
そこには、足を大きく開き、身体が地面につきそうなほど低く沈み込んだ乱波の姿があった。
錬斗の蹴りをかわした乱波は、そのまま一気に懐へ潜り込む。
「オラオラオラオラオラオラァッ!」
「ぐっ……!」
乱波の拳が、錬斗の身体を次々と打ち抜いていく。
錬斗はまともに攻撃を受け、そのまま大きく後方へ吹き飛ばされた。
「な、なんて重い攻撃なんだ……」
「とても生身の人間の攻撃とは思えないよ……」
『戦闘機械形態』によって強化された錬斗の身体に、これほどのダメージを与える。
錬斗だけではない。
その威力に、アーツも驚きを隠せなかった。
「おいおい、何を驚いてんだよ、錬斗!」
「俺だってXギアを持ってんだ。これくらいは当然だろ?」
「……え?」
乱波の言葉に、錬斗は意味が分からなかった。
(どういうこと? 乱波はXギアを使っていたの?)
錬斗が疑問を抱いていると、アーツが答える。
(おそらく、Xギアには所持者の身体能力を向上させる効果があるのだろう)
(えっ? そうなの!?)
(一年前、ゼノイドとの戦いで見せたサヤの異常なまでの身体能力と耐久力を、ワタシも不思議に思っていた)
(ワタシは、Xギアを使用していたからだと思っていたが……)
(ラッパの言葉を聞く限り、Xギアは所持しているだけでも、ある程度の身体能力向上効果があるのだろう)
アーツは乱波の動きと先ほどの攻撃を分析する。
そして、錬斗へと力強く言い放った。
(だが、レント! それがどうした!)
(こんな程度で、お前を止められるはずがないだろう!)
アーツの激励に、錬斗は力強く頷いた。
「うん!」
錬斗は再び構えを取る。
「いくよっ! 乱波!」
「こいっ! 錬斗!」
錬斗は地面を蹴り、大きく跳躍する。
そのまま上空から乱波めがけて、無数の蹴りを繰り出した。
「はあぁぁぁっ!」
ドドドドドッ!
乱波は錬斗の蹴りを、一つ、また一つと丁寧にかわしていく。
そして、蹴りが地面を捉えるたびに、砂煙が次々と巻き上がった。
やがて錬斗が着地すると、その姿は砂煙の中へと消える。
(……そういうことか)
乱波は、錬斗の狙いを察した。
砂煙に紛れて奇襲を仕掛けるつもりだ。
乱波は身構える。
(お前の狙いは分かっている……)
(奇襲を仕掛けるつもりだろうが、避けることだけに意識を集中すれば、俺は簡単に避けられる)
(そして、躱した直後のカウンターで仕留める!)
乱波は砂煙の中から現れる錬斗の姿を待ち構える。
そして──。
砂煙の向こうから、錬斗が姿を現した。
「ああぁぁぁぁっ!」
錬斗が拳を振り抜く。
乱波はそれを見切り、身体を横へずらして拳をかわした。
(もらった!)
そのまま乱波はカウンターの拳を繰り出す。
錬斗の身体へ拳が届く、その瞬間──。
──錬斗の姿が消えた。
「!?」
(いない!?)
乱波は驚きながらも、すぐに周囲を確認する。
下。
上。
右。
左。
──どこにもいない。
「……どこだ!?」
乱波の動きが止まった、その瞬間──。
「ああぁぁぁぁ!」
背後から錬斗の声が響いた。
「なっ!?」
振り向くよりも早く──。
錬斗の拳が、乱波の背中へと叩き込まれた。
ドカァァァァン!
乱波の身体が吹き飛んでいくのを見た見物人たちは、驚きを隠せなかった。
「まさか、あの乱波に一撃を入れるとは! あの小僧はいったい何者だ!?」
「それより、今の動きはなんだ!? 奇襲と見せかけた一撃は、囮だったのか!?」
「去年の沙耶といい、この小僧といい……七代家の推薦候補者には驚かされてばかりだな」
周囲が錬斗を評価していく一方で、沙耶の表情は険しかった。
(乱波は武道の心得もある。こういう展開になることは、ある程度予想できていたわ)
沙耶は、吹き飛ばされた乱波を見つめる。
(だからこそ……できれば、今の一撃で決めたかった)
そして、険しい表情のまま心の中で呟く。
(乱波がXギアを使う前に……)
錬斗は、吹き飛ばされた乱波の方へ視線を向けた。
(思いっきり殴っちゃったけど……大丈夫かな? 結構、手応えもあったし……)
心配そうに乱波を見つめる錬斗に、アーツが言った。
(本気でやらなければ、今のレントがラッパに勝つのは困難だ……それほどにラッパの実力は本物だ)
(それより、自分の心配をしろ)
(そろそろ立ってくるぞ)
「えっ……?」
その直後──。
砂煙の中から、乱波の笑い声が聞こえてきた。
「ははっ……はははっ……はっはっは!」
砂煙をかき分けるようにして、乱波がゆっくりと立ち上がる。
「錬斗っ! お前……最初はセーブして戦ってやがったな!」
「さっき俺の背後に回った動き……あれが本来の力ってわけか……」
乱波は口元を吊り上げ、楽しそうに笑う。
「この十文字乱波を相手にいい度胸してやがるぜ! ますます気に入った!」
そして──。
「こっからは──俺も全力だぁぁぁぁ!」
乱波は両手のひらを錬斗へ向けると、両腕を合わせるようにして前方へ突き出した。
「『爆撃の龍拳』──」
その瞬間──。
錬斗の目の前で、凄まじい爆発が巻き起こった。
ボカァァァン!
「うわっ!」
突然の爆風に、錬斗は反射的に目を閉じ、両腕で顔を覆う。
吹き飛ばされそうになる身体へ必死に力を込め、腕の隙間から乱波の姿を確認しようとする。
だが──。
「……っ!?」
乱波は、すでに錬斗の目の前まで迫っていた。
錬斗は咄嗟に迎撃しようと、拳を構える。
その瞬間──。
「爆ぜろ!」
乱波が拳を前へ突き出した。
次の瞬間、拳の目の前で再び爆発が起こる。
ボカァァァン!
「がはっ!」
何が起こったのか理解する暇もなかった。
凄まじい爆発が錬斗の身体を襲い、そのまま後方へと吹き飛ばされていく。
「うわぁぁぁぁっ!」
錬斗の身体が、砂煙を巻き上げながら地面を転がった。
錬斗はすぐさま立ち上がり、乱波の追撃に備える。
だが──。
結果は同じだった。
錬斗の攻撃が届くよりも先に、乱波のXギアによる爆発が襲いかかってくる。
(くっ……正面からじゃ駄目だ……)
(何とかして、裏をかかないと……)
錬斗は再び跳躍する。
そして──。
沙耶の戦いを思い出しながら、錬斗はかかと落としを勢いよく地面へ叩きつけた。
ドゴォンッ!
地面が大きく抉れ、砂煙が一気に舞い上がる。
錬斗はその砂煙を利用し、乱波の視界を奪う。
「おいおい、錬斗……」
砂煙の向こうから、乱波の声が響く。
「俺に二度も同じ手が通用すると思うなよ!」
乱波はそう言うと、右拳を勢いよく地面へ叩きつけた。
ドゴンッ!
「"噴火させる爆拳"!!」
次の瞬間──。
乱波の拳が叩きつけられた地面を中心に、辺り一帯から凄まじい爆発が地面から噴き上がった。
ドカァァン!
ボカァァン!
ズゴォォン!
大地が次々と爆ぜ、砂煙と土塊が空高く舞い上がっていく。
まるで──。
大地そのものが噴火したかのような、凄まじい爆発だった。
その光景に、会場で見ていた誰もが息を呑んだ。
「これが十文字家の跡取り……十文字乱波の力か……」
「なんて……凄まじい力だ……」
堂々と立つ乱波の両腕には、指先から肘にかけて赤色の装甲が纏われていた。
その表面には、まるで龍の鱗を思わせる模様が刻まれている。
まさに──龍を彷彿とさせるXギアだった。
そんな乱波の姿を見て、沙耶は驚きの表情を浮かべる。
(わたしの知っている乱波じゃない……)
(格段に強くなっている……)
(あんな全方位への攻撃……以前は使えなかったはず……)
沙耶の脳裏に、先ほどの光景が蘇る。
大地の至るところから噴き上がった、凄まじい爆発。
(このままじゃ……錬斗に勝ち目はない……)
沙耶は心配そうな表情で、戦場に立つ錬斗を見つめ続けた。
読んで頂き、ありがとうございます。
どんなことでも構いませんので感想を頂けたら嬉しいです(*^o^)/




