12)特訓の成果
第二章始まりました。
楽しく読んで頂けたら嬉しいです。
僕の名前は鋼崎錬斗。
十八歳の高校三年生です。
死ぬ運命だった僕は、偶然出会ったゼノイド──アーツと融合したことで、生き延びることができました。
しかし、その後の僕を取り巻く環境は一変し、いろいろなことが起きました。
だから僕は、一年前に心に決めたんだ。
アーツが助けてくれたこの命を失わないため。
自分の未来を、自分自身の手で切り開くため。
──必ず強くなる、と。
ドカァァァァン!
「ちょ、ちょっと待ってよ、沙耶先輩!」
「そんな本気の攻撃、当たったら死んじゃうって!」
錬斗は以前、廃屋があった林の中で沙耶と組み手をしていた。
「本気でやらなきゃ、訓練にならないでしょ!」
そう言うと、沙耶は自身のXギア──『天を駆ける靴』で空を駆け上がる。
逃げ回る錬斗を追いかけ、上空から一気に距離を詰めていく。
「逃げてるだけじゃ、わたしに一撃入れるなんて夢のまた夢よ!」
沙耶はそのまま錬斗めがけて、強烈なかかと落としを繰り出した。
ドゴォォォォン!
錬斗は紙一重で攻撃をかわし、地面を転がる。
すぐさま立ち上がって沙耶を見上げると、地面には大きな穴が開き、もうもうと土煙が立ち込めていた。
(何をしている、レント!)
(久しぶりに帰ってきたサヤに、特訓の成果を見せるんだろう?)
頭の中にアーツの声が響く。
(そうだ……)
(沙耶先輩に、僕の成長を見てもらわないと……)
「そうだった……ごめん、アーツ」
錬斗はアーツに謝ると、目を閉じて大きく深呼吸する。
そして、ゆっくりと構えを取った。
その変化に気づいた沙耶も、錬斗を見て微笑んだ。
「いくよ、アーツ! 準備はいい?」
(ああ、いつでもオッケーだ!)
錬斗は地面を蹴った。
一気に加速し、沙耶へ向かって一直線に駆け抜ける。
「戦闘機械形態──」
「『武を修める者』!!」
錬斗の手足を、黄色く光る帯状のナノマシンが瞬時に包み込んだ。
次の瞬間──。
錬斗の速度が一気に跳ね上がる。
「はあぁぁっ!」
渾身の右ストレートを沙耶へ叩き込む。
沙耶は咄嗟に『天を駆ける靴』で受け止めた。
ドゴンッ!
しかし、その衝撃を完全には殺しきれず、沙耶の身体が後方へと吹き飛ばされる。
「やった!」
錬斗が思わず声を上げる。
だが、すぐにアーツが釘を刺した。
(まだだ、レント!)
(サヤはしっかりガードしていた。今のは一撃入れたことにはならない! 追撃だ!)
「えっ!?」
錬斗が沙耶へ目を向ける。
すると沙耶は、吹き飛ばされた勢いを利用して空中で軽やかに宙返りし、瞬時に体勢を立て直していた。
そして、そのまま再び空を駆け上がっていく。
「さすが沙耶先輩……」
錬斗もすぐさま、上空の沙耶を追って走り出す。
すると沙耶が、再び上空からかかと落としを繰り出してくる。
「今度は逃げないぞ……!」
錬斗も負けじとその場でしゃがみこみ、脚に力を入れると、いっきに上空へ跳躍する。
そして、沙耶へ向かって渾身の蹴り上げを放った。
アーツの力によって全身の身体能力が強化された今の錬斗には、人間では到底あり得ないほどの身体機能が備わっている。
だが、それはXギアを扱う沙耶も同じだった。
二人の蹴りが、空中で激しくぶつかり合う。
ドゴォォン!
凄まじい衝撃が周囲へと広がり、二人の身体が同時に弾き飛ばされた。
錬斗はそのまま地上へ落下する。
一方、沙耶は『天を駆ける靴』を使って空中で姿勢を制御し、ゆっくりと高度を落としていく。
そして、ふと自分の服に目を向けた。
「あら……」
沙耶のスカートの一部が、蹴りの衝撃で破れていた。
それを確認した沙耶は、思わず小さく笑う。
「ふふっ……」
「しばらく見ない間に、ここまで強くなってるなんて……」
沙耶は地上にいる錬斗へ視線を向けた。
「たった一年で、わたしに一撃入れるなんて……大した成長だわ」
そう言って微笑むと、沙耶はゆっくりと地上へ降りていった。
二人は組み手を終えると、かつて廃屋があった場所で一休みすることにした。
「本当に強くなったわね、錬斗」
「えへへ……ありがとうございます」
沙耶に褒められ、錬斗は照れくさそうに頭を掻いた。
「最後に組み手をしたのは、いつだったかしら……。確か、お盆のときだったから……」
「五ヶ月前ですよ」
錬斗は嬉しそうに沙耶の顔を見つめて答える。
「たった五ヶ月で、ここまでアーツの力を使いこなすなんて……凄いわね」
「あなたが考えた『戦闘機械形態』も、お盆に見たときは全然使いこなせていなかったものね……」
沙耶も嬉しそうに錬斗の顔を見つめた。
去年、沙耶は高校を卒業すると、正式に地球防衛機構『イージス』へ入門した。
その優れた実力はすぐに認められ、今では彼女の名はイージス内でも広く知られるようになっている。
卒業するまでの間、沙耶は錬斗の特訓にも付き合っていた。
そして卒業後も、仕事の合間を縫って帰ってきては、こうして錬斗の組み手の相手をしている。
「あはは……あのときは、まだ全然でしたけど……」
錬斗は少し照れながら笑った。
「沙耶先輩を驚かせたくて、頑張ったんです」
「まだ完全にコントロールできるわけじゃないですけど、今では七つの形態を使えるようになりました」
そう言うと、錬斗は嬉しそうに笑った。
「ちょっとは自信がついたみたいね」
「はい……」
錬斗は一度俯き、そして静かに顔を上げる。
「こんな僕でも、頑張ればできることがあるんだって……思えるようになりました」
「それも全部、沙耶先輩のおかげです」
以前よりも逞しくなった錬斗の真剣な表情に、沙耶は少し驚いた。
そして、なぜだか顔が熱くなり、頬がほんのりと赤く染まる。
「……錬斗」
静寂が二人の間を包み込む。
沙耶が何かを言おうとして錬斗へ近づくと、錬斗も無意識に沙耶の顔を見つめた。
いつの間にか、二人の距離がゆっくりと近づいた、そのとき──。
錬斗の口が、突然勝手に開いた。
「おい、レント! サヤだけではなく、ワタシのおかげでもあるだろう!」
「えっ?」
アーツが錬斗の身体を借り、その口を使って話したのだった。
突然のアーツの乱入に、沙耶は一瞬呆気に取られる。
そして──。
「あははははっ!」
思わず吹き出した。
「ムッ、急にどうしたのだ、サヤ?」
「いえ、何でもないわ」
沙耶は笑いを堪えながら答える。
「アーツも久しぶりね。元気だったかしら?」
「見ての通りだ。日々、軟弱者のレントを鍛えるため、気苦労が絶えないのだ」
「あははははっ!」
アーツの言葉に、沙耶は再び大笑いする。
(せっかくいい雰囲気だったのに、邪魔するなよ、アーツ!)
(フンッ! まだ一人前にもなっていないレントに、接吻は早すぎる!)
(ワタシもこの一年で学んだのだ!こういうことには順序があるとな!)
(いったい、アーツは何を学んでいるんだよ!)
錬斗の頭の中で、いつものように二人の言い争いが始まる。
そんな二人のやり取りを、沙耶は楽しそうに眺めていた。
「そうそう、今回は錬斗に報告があって帰ってきたの!」
沙耶はそう言うと、PDAを取り出して錬斗に見せた。
「『イージス』入門への推薦枠の件……正式に七代家の候補者が、錬斗に決まったわ」
「ほ、本当ですか!?」
あまりのことに、錬斗は勢いよく立ち上がった。
「ええ。一昨日、おじいさまから直接聞いたから間違いないわ」
「錬斗に直接伝えようと思って、帰ってきたのよ」
沙耶の祖父である七代源治は、『イージス』の中枢を担う人物の一人であり、七代家の代表でもある。
沙耶は錬斗を『イージス』へ推薦するため、半年前から祖父に何度も嘆願していたのだった。
大喜びする錬斗を見ながら、沙耶はさらに続ける。
「でも、喜ぶのはまだ早いわよ」
「正式に入門するには、審査員が見ている中で模擬戦闘試験を行って、自分の実力を示さなきゃいけないんだから」
「そ、そうでした……」
錬斗は途端に不安そうな表情を浮かべる。
「大丈夫かな……」
そんな錬斗を見て、沙耶は微笑んだ。
「ふふっ。今の錬斗の実力なら大丈夫よ」
「それに、推薦枠で選ばれた者たちなんだから、形式的な確認みたいなものよ。過去に落ちた人なんて、ほとんどいないわ」
「だといいですけど……」
それでも錬斗の表情から、不安が完全に消えることはなかった。
この一年、錬斗は特訓に励むと同時に、自分がこれからどう生きていくのかについても考え続けていた。
そして、いろいろと悩んだ末に──。
錬斗は、人間として生きること。
そして、人間を守ることを決めた。
そのために、沙耶の力を借りて『イージス』へ入門できるよう、推薦をお願いしていたのだ。
「心配しすぎよ」
沙耶は優しく笑った。
「これは、あなた自身の力で勝ち取った結果なんだから」
「錬斗に実力がなければ、わたしもおじいさまも推薦なんてしないもの……」
そして、先ほどの組み手を思い出したように、錬斗の背中をポンと叩く。
「さっき、わたしに一撃入れたときみたいに、自信を持って!」
「はいっ!」
錬斗は力強く返事をした。
こうして錬斗は、一ヶ月後の二月。
『イージス』で行われる、推薦候補者たちによる模擬戦闘試験に、七代家の候補者として参加することになった。
読んで頂き、ありがとうございます。
どんなことでも構いませんので感想を頂けたら嬉しいです(*^o^)/




