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伝説の光龍でしたが、目覚めたら美少女になっていました ~英雄の末裔と巡る王国再建の旅~  作者: 九二重


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第四話 まぶしい外の世界

読んでいただきありがとうございます!

 意識を取り戻したディメトロは扉を押した。


 ぎいぃ......


 壊れてしまわないかとおそるおそる力を入れると、重い音とともに自然に開かれた。長い年月閉ざされていたようだ。半開きのドアからひょこっと顔をのぞかせる。


 先ほどの部屋より広くて薄暗い通路には、規則正しく並んだ立派な石柱が生えている。

 壁を見ると、色あせてボロボロになり、額縁の中身がわからない壁画がかけられていた。

 視線を上へやると、亀裂が入ってあちらこちらボロボロの天井が目に入った。

 更に目を凝らすと、部屋の内側にまで入り込んだ蔦や蜘蛛の巣があちらこちらに見える。


「......人族の巣穴か。」


 じっと観察して危険がないことを確かめると、ひんやりした床を裸足でひたっと1歩目を踏み出した。


 巨躯の龍だった頃、ディメトロは人間の建物など入ったことがない。外から眺めるだけだった建物の内は、見るもの全てが珍しい。小さな星々のような魔法の光を携えながら、ディメトロは寂れた建物を優雅に歩いていく。だが途中で壁を撫でたり、ときおり太い柱をこんこんと叩いてみたりしている。その様子はどこか子どものようだった。


「このような石をよく積んだものだな。手先の器用な一族よの。」


 精緻な柱のレリーフや凸凹をまじまじと見つめ、妙なところで感心した。通路を歩き回り、ディメトロはやがて広い空間へ出る。


 その部屋の天井はずっと高く、色褪せたステンドグラスから暖かい光が差し込んでいた。

 正面には巨大な祭壇が設けられている。


 そして、祭壇のさらに奥。数段高くなった台座の上に、大きく翼を広げた白銀の龍の像が鎮座していた。


「......ほう。」


 像の前まで歩いてくるとその龍の翼を見る。

 次に、ぐるりと曲がった大きな角を見る。

 そして、つるりとすべらかな尾を見てから、ようやく何の像かを言い当てた。


「これは我か。」


 満足そうに頷く。


「よく出来ておる。我を称えた名匠がいたようだな。」


 嬉しそうにふふんと胸を張る。自分の像に気を取られていたが、像をよく見ると、龍の背中に剣を掲げる青年の像が乗っていることに気が付いた。


「む、坊主。おぬしまで像になったのか。ふふん、なかなか男前に彫られておるな。よい像だ。」


 思わず笑みが漏れる。


「だが我の体はずっとシャープだったはずだぞ。もう少しキバは鋭くて、翼もこう......ぐわっとおおきくて尻尾もこんな細くなくてぎゅいーんとしなるように立派で太くてな.......。」


 ディメトロは見事な出来栄えの像にもかかわらず、自分の再現度には甚だ不満そうにあーだこーだと言いながら手に届く像の脚に手を当てた。その時。


 触った像の脚から、ぽろりと小さな石片が落ちた。

 よく見ると、ステンドグラス越しの柔らかな光に照らされた像の表面は風雨に削られ丸くなり、ところどころ欠けている。祭壇にも薄く埃が積もり、チラチラと舞う埃が光に照らされてキラキラと輝いた。その様子から、この建物には誰も訪れていないことが分かる。


 ディメトロは静かに辺りを見回して、ある結論を出した。


「......どうやら、我は先の大戦からずいぶん長く眠っていたらしい。」


 祭壇の脇には石板があり、何やら文字が刻まれているようだ。近寄って石板の文字をじっと眺める。


「......読めぬ。」


 どうもディメトロの知らない文字だった。剣士から「もし俺以外の人と話せるようになるときが来たら役に立つから」とゆる~く文字とその読み方を教わったことがあり、ある程度の読みは記憶にあるはずなのに、さっぱり分からない。


「文字まで変わってしまったのか。」


 少しだけ目を細める。ディメトロはそれだけで理解した。どうやら自分の知る時代ではない。そして、かつての相棒も、もう......。しばし目を細めたまま沈黙したが、ディメトロは慌てはしない。


「ならば剣士達の国が、彼らが作ってきたものがどうなったかは、これから見て回れば直に分かるか。」


 いつもの調子だった。大切な剣士達や仲間はいないが、彼らと一緒に築き上げてきた絆や思いは、こうして形に残っていたことがわかり、ここから外では自分たちはどうなっているのか、この像のように昔の物になっているのかそれとも、もっと違う物になっているのかどうかをこの目で見たくて胸が高鳴っていた。

 その後、軽くくしゃみをすると、ディメトロはほぼ裸であることを思い出した。人は分厚い毛皮や鱗ではなく、服を着る生き物だったことを思い出し、そういえばそれと思しき物体があったような気がすると、先ほど目覚めた部屋__控室にすたすたと戻ってきた。そしてガサガサと棚やタンスを漁った結果、多少埃っぽいが生地のしっかりとした丈の長い白い麻のワンピースを発見した。


「鎧......ではないな。」


 とりあえず記憶を辿りながらその服を着てみることにした。だがどうもうまく着れなかった。


 袖に腕を通すが前後逆になってしまい、ボタンで留めてあった襟元も取らずに無理やり頭を通したので襟口はヨレヨレでビヨンビヨンになってしまった。

 次に一緒にしまわれていた帯を体に巻いてみる。うまく結べずに、固結びでウエストに結び付けられ、長い帯の両端がひきずられている。

 背中を留めるはずが前後左右に着てしまったことで、前に来た引っ張られて無残に伸びている襟のボタンが気になり、力任せに取ろうとしたらパチンとボタンがいくつか取れてしまい、大胆にも鎖骨や肩が露出してしまった。そんなヨレヨレでめちゃくちゃな着こなしの末に、ディメトロはふむとつぶやき、


「よし!動けるな。」


 満足げに、誇らしげにうなずいた。

 鏡を見ると、袖や裾から覗くすらりとした手足や、黄味がかって白く輝く髪といい、女神のような見た目をしたディメトロは、よれよれの服を着ても堂々としていた。


「うむ、なかなか上手く着こなせている。これで人に会った時もヘンではないだろう。」


 裸足の足で建物を歩き回り、外へと続きそうな光や風を感じる大きな扉を見つけた。ゆっくりと開ける。


 外への1歩を踏み出そうとすると、外はうすぼんやりとした明かりと違ってとても眩しい。ディメトロは目をぎゅっと細めた。光に目が慣れるとゆっくりと目を開ける。


 時間は夕方にさしあたろうとしているのだろうか、傾き始めた陽が石畳を金色に染めていた。そしてすずしげな風がざっと通り過ぎていく。

 風に揺られる地平線の先までおおわれている草と、ちらほらとみえる白い花弁の花々も見える。

 空には鳥がさえずりながら向こうに飛んで行く。


 ディメトロはその美しい自然に思わず立ち止まった。

 魔王軍の瘴気で埋め尽くされ、暗く曇っていた大地は、どこまでも緑に覆われていた。


「......。」


 しゃがみこんで建物のそばに咲いていた花へ触れる。

 指先ほどしかない白い、百合の様な花。龍だった頃なら、気にも留めなかったような花。

 今は顔を近付けてにおいをスン、と嗅いでみた。ほんのりと甘い香りがする。


「小さいが、そなたは美しいな。」


 ふわりと顔をほころばせると、立ち上がって地平線のずっと奥、丘の向こうをじっと見つめる。


 向こうには、巨大な城壁や街、中からはわずかに煙の色が見え、鐘の音が聞こえる。龍のころよりはずっと目や耳が衰えているようだが、それでもディメトロは普通の人間よりも優れた視力や聴覚を持っていた。


「坊主。」


 小さく笑う。


「おぬしは、ちゃんと約束を守ったのだな。」


 風がざあっと吹いた。無意識に尻尾で身体を支えようとして、少しだけよろける。


「む。」


 またちらと後ろを見るが、当然、髪と服のみが見えるのみで、尻尾はない。


「......人の体にはまだ慣れぬな。」


 すとんとした背中を見ながら、ディメトロは苦笑した。そして丘を降り始める。とにかくあの街を目指して歩こう。そして剣士のことをだれか知っているかを聞いてみよう。そう目標を決めてサクサクと木々や深い茂みのある獣道を通っていく。裸足でもなんのそのだ。そのとき、


 ガサッ。


 近くの草が揺れた。


「む?」


 ディメトロは音のした方へ振り返る。

 すると茂みの奥で、きらりと金色の目が光った。

いよいよ建物から出たディメトロ!次回慣れない人間の姿での戦闘シーンです!

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