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伝説の光龍でしたが、目覚めたら美少女になっていました ~英雄の末裔と巡る王国再建の旅~  作者: 九二重


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第三話 光龍、覚醒

読んでいただきありがとうございます!

 意識が浮かび上がる。長い、長い眠りから目覚めるように。


「……う。」


 思わず漏れた声に、ディメトロは小さく眉をひそめた。

 ずいぶんと高い声だ。龍であった頃の重く響く咆哮とは似ても似つかない。鈴を転がしたような、か細い声。

 だが、それを気にするより先に周囲へ視線を巡らせた。


 暗い。


 石造りの壁。

 ひんやりとした空気。足元には複雑な紋様を描く巨大な白い魔法陣が広がっている。


「……ここは。」


 戦場ではない。

 剣士と共に魔王軍を討ち果たした、その後の記憶もない。


 我は……確か、死んだはずではなかったか。


 ゆっくりと上体を起こす。その瞬間、違和感を覚えた。

 龍であれば、夜でも昼と変わらぬように見えるはずなのに、今はぼんやりと輪郭しか映らない。しばらくすると、わずかに闇へ目が慣れてきた。


「……夜目も利かぬか。」


 そう呟きながら立ち上がる。驚くほど自然に、二(・)本(・)の(・)脚(・)で。まるで何年もそうして歩いてきたかのように。

 数歩進んだ、その時だった。


 ごつ。


「む。」


 足先が何かに引っ掛かる。

 そのまま勢いよく前方へ倒れこみ__


 ぺたん。


 床へ突っ伏せて転んだ。


「……痛い?」


 転ぶ程度で痛みを覚えるなど、龍だった頃にはなかった。ディメトロは転んだままの姿で考えて結論を出した。


「鱗がないからか。」


 納得したように呟く。次に視界へ入った自分の手を見る。

 白く細い指。鋭い鉤爪はなく、柔らかな肌が露わになっている。思わず指を曲げたり開いたりしてみる。


「……ふむ。」


 何事もなかったかのようにすっくと立ちあがると、今度は背中へ手を回した。

 そこにも鱗はなく、滑らかな肌があるだけだった。


 もう一度確認する。

 やはりない。


「翼もない。」


 尻尾もない。少しだけ首を傾げる。


「どうやら我は、本当に龍ではないらしい。」


 至って冷静だった。不思議にこそ思えど、慌てる理由が分からない。現状を確認し、受け入れる。それだけのことだ。

 立ち上がると、今度は慎重に歩き始める。石壁をぺたぺたと触りながら進んでいると、何か大きなものに触れた。

 つるりとしている。


 磨かれた石……ではない。


「ん?これは何だ。」


 試しに得意の光魔法を灯す。

 ぽう、と星のような小さな光がいくつも宙へ浮かび上がった。柔らかな光が室内を照らす。


「魔法は問題なく使えるようだな。」


 体の勝手は変わらなかったようで少しだけ安心する。その光に照らされ、目の前に立つ誰かと視線が合った。


「……。」


 見知らぬ少女だった。

 少女は黙ってこちらを見返している。


 腰まで流れる白金の髪。


 雪のように白い肌。


 そして、龍だった頃と変わらない黄金色の瞳。


 柔らかい光に照らされたその顔立ちは女神像を思わせるほど整っている。


 細い首筋。


 華奢な肩。


 しなやかな四肢。


 腰まで流れる長い髪が白い肌を覆い隠し、絵画の一枚かのような幻想的な光景を作り出していた。


「……。」


 少女もこちらを見ている。


 ディメトロは一歩動く。

 少女も動く。


 首を傾げる。

 少女もこてんと首を傾げる。


「……水鏡と同じ理屈か。」


 ディメトロは納得した。それは人間用の鏡だった。改めて見知らぬ少女__もとい自分の姿を鏡越しにジッと見る。

 髪、顔......と上から順に改めて観察しながら胸元へ視線を落とす。


「……。」


 しばらく見つめ、記憶にあるそ(・)の(・)生(・)き(・)物(・)の特徴と照らし合わせる。


「メス......いや女か。」


 短く呟いた。そして自分が龍ではなく何の生き物になってしまったのかの仮説を立てながら部屋を歩き回っていたが、ようやく仮説は確信へ変わった。答え合わせをするようにぽつりと呟く。


「人になるなら、あの剣士のような男になるものだと思っていたのだがな。」


 ディメトロは少しだけ考え込んだのち、


「……まあ、別によいか。」


 あっさりと結論を出した。


「如何様な姿になったとしても、我は我だ。」


 そう言うと少し誇らしげに鏡の前でくるりと一回転する。

 体の動きに追従して長くつややかな髪がふわりと舞った。存在しない尻尾は、舞わなかった。思わず後ろを振り返って鏡越しに背中を見る。もちろん、そこに尻尾はない。鏡越しに見えるのは、すらりとした少女の背中だけだった。


「……やはり少し物足りぬな。」


 翼がなくなったことも少し寂しい。だが何より、剣士から褒められ、ひそかに自慢に思っていた立派な尻尾がなくなってしまった。それを思うと、ほんの少しだけ肩が落ちた。

 そんな時だった。部屋の外から、微かに風の音が聞こえた。はっと周囲へ意識を向ける。生き物の気配はない。

 静まり返った建物のどこかで、古びた扉がきしむ音だけが響く。


「さて。」


 ディメトロは風が吹き込む方向__扉へ視線を向ける。


「ここがどこであれ、まずは外へ出るとしよう。」


 そうして白銀の龍は、一人の少女として、最初の一歩を踏み出した。

 この時、ディメトロはまだ知らない。

 剣士と別れてから、数千年という時が流れたことを。

 自らが護ったヴェルディア王国が、大陸有数の大国となっていることを。

 そして__

 あの日交わした約束を、もう一度果たす日が訪れることを。

いよいよ現代編です!人になっても中身は相変わらずなディメトロを楽しんでいただけたら嬉しいです。

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