第一話 英雄と光龍①
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黒煙が空を覆っていた。
焼け焦げた草原から立ち上る煙が風に流れ、血と土の匂いが戦場を満たしている。
魔王軍との戦いは、ついに最後の局面を迎えていた。
この大陸を支配していた魔王軍最後の大将を討ち倒すために。
そして、人々が平穏に暮らせる大地にするために__それが、ヴェルディア軍最後の戦いだった。
兵士たちは、命を賭けて剣を振るっていた。
だが戦いは長い。
盾は砕け、剣は欠け、幾人もの仲間が傷つき、地へ倒れていく。
まだまだ押し寄せる魔物の群れを前に、誰もが疲れ切っていた。
__もう限界だ。
そんな諦めが、戦場を覆おうとした、その時だった。
「まだ終わってねぇぞ!」
その力強い声だけが、戦場を貫いた。
一人の青年が剣を振るいながら駆ける。
彼が手に持つ聖剣が閃くたび、たくさんの魔物が次々と吹き飛ぶ。
くすんだ戦場のなかでも輝く鮮やかな緑の瞳は、少しも諦めていなかった。
青年は兵士達を強く鼓舞する。
「お前ら! ここで勝てば俺たちの国に平和が来る!」
「帰ったら新しく出来た酒場で酒飲む約束しただろ!」
「奥さん泣かせる気か!」
「だから全員、生きて帰るぞ!」
そんな明るく前向きな言葉の数々に、兵士たちから笑いが漏れる。
その笑いが、不思議と力を取り戻させた。
「ははっ!」
「英雄殿が言うなら仕方ねぇ!」
「行くぞぉぉ!続けぇぇっ!」
再び勇気が宿った雄たけびとともに、剣が掲げられる。
まだまだ戦える。そう皆が前を向いた瞬間だった。
曇天を裂くように、一筋の光が差し込む。
誰かが空を見上げた。
激しい轟音。
そして突風。
土煙が巻き上がり、兵士たちは思わず腕で顔を覆う。
黒雲を突き破り、一頭の白銀の龍が舞い降りた。
羽ばたき一つ。それだけで近くにいた魔物の群れが枯葉のように吹き飛んでしまう。
黄金の瞳が戦場を見渡し、龍は大きく咆哮した。
「ディメトロ様だ!」
「光龍様が来てくださった!」
「なんて心強いんだ......!」
歓声が戦場を揺らした。
龍は応えるように大きく口を開く。
その口元に光が集まり__
次の瞬間。
放たれた閃光が魔物の群れを一直線に飲み込み、数十体もの魔物を一瞬で消し飛ばした。
焼け焦げた極太の一直線の跡を見て、青年はニッと笑う。
「相変わらず派手な攻撃だな。」
白銀の巨体が青年の前へ降り立つ。
陽光を溶かしたような金色の瞳だけを彼へ向けると、静かな念話が頭の中へ響いた。
『待たせたか。』
「大丈夫だ」
青年は龍の目を見上げて言った。
「まったく、魔物がばっさばっさ倒れるもんだからずいぶん暇だったよ。大体500体は倒したね。」
『そうか。』
龍は真顔で頷く。
『我も国から向かう道すがら五百......いや五万体ほどばっさばっさと片付けてきた。』
「張り合うなってば。しかも数ちょっと盛ってるだろ。」
『……やはり五千だったかもしれぬ。』
「いやいや、ま~だ大げさに盛ってるな」
念話を用いた光龍の言葉や、それに笑う英雄。そんな二人のやり取りの内容は兵士たちには聞こえない。二人とも傷だらけだというのに、そんな2人の姿を見るだけで、不思議と肩の力が抜けた。
何を話しているのかは誰にも分からない。
それでも、その空気だけはいつも通りの安らぐものだった。
二人を見た兵士たちから、自然と笑みがこぼれる。
「英雄殿も光龍様も、相変わらずだ。」
「だったら俺たちが怖気づくわけにはいかねぇな。」
誰かのその一言に、皆が剣を握り直した。
「それで、国は?」
青年の問いに、龍は静かに目を細める。
『安心しろ。国を襲った敵将は討ち取った。
今は聖女たちが結界を維持している。司祭も魔導士団も、皆まだ戦っている。我らは前だけ見ればよい。』
青年は力強く頷いた。
「やっぱり、お前が相棒で良かったよ。ディー。」
表情の読めない龍の黄金の瞳が細くなる。
ほんの少しだけ。
嬉しそうに。
『……丘の向こうだ。』
その声色が凛とした、厳しいものに変わる。
『総大将の魔力を感じる。
背中に乗れ。この戦い。終わらせようぞ。』
「ああ、もちろん。」
青年は慣れた動きで白銀の背へ飛び乗る。
龍が翼を広げた。その姿は神々しく頼もしかった。兵士たちはその姿に歓声を上げる。
「行くぞ!」
『うむ。』
そして、一筋の光が、丘の向こうで待つ敵将へと駆け抜けた。
過去編となります!無双ゲーみたいにちぎっては投げする英雄と極太レーザーブレスのドラゴン......好きですね~!!




