Phase28. 異世界修学旅行
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
ユウ達の住む地域はすっかり秋の色も深まり、気温の低さがより身体に染み入る頃となっていた。
そして明日からは土・日・祝の3連休。これをチャンスとして旅行を企画している人々も少なくない。
そんな中で部屋で旅支度を整えたユウとレミア。いよいよ異世界修学旅行への出発だ。ユウの母親シイナには「奨学金を受けるための合宿」ということで外出許可を得ている。ユウがあらゆる魔法を使いこなしたり、既に夢世界や魔界と深い関わりを持ったりしていることを母親には知られていない。もし知ってしまったら卒倒して寝込んでしまうだろう。
「ゆうちゃん、外にミナミさんとスミレさんが来たみたい。あたし先に行くね」
「うん、あたしもすぐ行くから」
白いニットセーターの上にチャコールのハーフコート、小豆色ベースのスカートにハイソックス、そして胸元に輝く緑のペンダント。左手に白い旅行用スーツケース、右手に傘を持つレミア。持っていた傘を開くと同時に、瞬間移動で姿を消した。外は雨が降っているようだ。
ユウも支度を整えている。濃い紫色のニットカーディガンにピンクのロングスカート。そして首に巻いたスカーフとそこから垣間見えるしずく型の魔法のペンダントという出で立ち。旅行用のスーツケースを引きずって部屋を出る。
ピンポーン。ドアチャイムの音。
「ハーイ」
シイナの声。ユウも玄関へと向かう。
「夜分恐れ入ります。ユウさんをお迎えに上がりました」
鍵の開いていた玄関のドアを開け、顔をのぞかせるスーツ姿のミナミとスミレ。
「迎えに来てありがとうございます」
ユウが2人の顔を見て会釈。
「ユウ。忘れ物はない?」
「大丈夫」
「それではユウのこと、よろしくお願いしますね」
「かしこまりました」
笑顔で答えるミナミ。シイナには街の中心部のホテルに宿泊すると伝えてある。
ユウは玄関でブーツを履き傘を手にする。
「じゃ、行ってきます」
「気をつけてね」
ユウは傘を差して外に出る。隣に傘を差したミナミとスミレもいる。そして先に瞬間移動で外に出ていたレミアも雨の中傘をさしてユウを待っていた。
「それじゃ、行きましょうか」
「お願いします」
ミナミとスミレが顔を見合わせて頷く。その瞬間ユウ、レミア、ミナミ、スミレの4人は地面に現れた黒い異世界転移ゲートに飲み込まれて姿を消した。
4人が姿を現したのはホテルのスイートルームのような部屋。いくつもの部屋があるようで、大きな窓からは街の夜景とライトアップで浮かび上がる王宮の建物が見える。そう、ここは幻想王国宮殿の来訪者用スイートルーム。部屋全体に魔法がかかっていて、室内の調度品や部屋の大きさまでも自在に変更できるとユウたちが受け取った『旅のしおり』には書いてあった。
そしてその部屋には既にミズキとサツキが上着を脱いで、ソファーで談笑していた。
「お、来たね、ユウ姉とれーちゃん」
天井に現れた異世界転移ゲートに気づき、微笑むミズキ。
ゲートから傘を差していたユウ、レミア、ミナミ、スミレが現れ、ゆっくりと舞い降りる。
「天井から傘をさして舞い降りてくるなんて、まるで『メリー・ポピンズ』みたい」
にこやかに語るサツキ。サツキの組織では当初、ユウやミズキ達をコードネームで呼んでいた。その名前は過去の魔法使い登場作品のキャラクター名を使用。その中には『メリー・ポピンズ』の登場人物「メリー」を使ってもいたが、ユウに付けられたコードネームは『奥様は魔女』のサマンサ、そしてレミアにはサマンサの娘である『タバサ』のコードネームが振られていた。ちなみにコードネーム『メリー』はミズキに付けられていた。
床に着地し傘を畳む4人。ユウとレミアは上着を脱ぎ、空いている応接ソファーに腰掛ける。サツキとミズキも既に上着を脱いでいる。
「ユウもレミアもスーツケースと上着はあそこに並んだ寝室に入れたら? 一番右がユウ、その隣がレミアの部屋なんだって」
サツキが2人に説明。
「そういう事なら…」
(スーツケースと上着、あたしの寝室へ…)
ユウがそう思った瞬間、スーツケースと上着がふわりと宙に浮き上がり、ユウの寝室の扉をすり抜けて中へと入っていった。これはユウのまごうの力ではなく、この部屋全体にかかった魔法の力によるものだ。レミアも同じようにスーツケースと上着を自分の寝室へ送り込む。
「皆さん、よろしいかしら?」
スミレが4人に声を掛ける。
「はい?」
「何でしょう?」
「この後皆さんには、『謁見の間』でユニ女王様に到着の報告をしていただき、併せて『旅立ちの儀』という儀式に参加していただきます。儀式は皆さんの旅の無事を神に祈り加護を受けるというものです」
「儀式なんてやるんだ…」
素っ気ない返事をするミズキ。
「『謁見の間』ではユニ女王様も皆さんがよくご存じの普段着姿ではなく、正装で臨まれます。そこで皆さんにも謁見のために正装…ドレスを着用していただきます」
「ドレス?」
「そんなの…持ってないよ。ね?」
「うん。ミズキやレミアは?」
「もちろん…無いよ」
「そもそもそんな話聞いてなかったし…」
「ご安心ください」
ミナミが4人に向かってにっこり微笑む。
「ドレスはこちらで用意してあります。今この場で着替えていただきます」
「ここで?」
驚くユウ。
「皆さんにこれから魔法を掛けます。恐らく身体が勝手に動くはずですが、抵抗せずに身を委ねてくださいね」
「あたし達の能力を使うわけじゃないんだ…」
ぽかんとするレミア。
「それじゃ行きますよ。[皆さん、正装になりなさい]」
ミナミがそう告げた瞬間、4人の身体がそれぞれ魔法の光に包まれた。
「わ、わ…」
「身体が勝手に…」
「抵抗しないで!」
魔法の光の中で、上からドレスが現れ、それぞれの身体に被さる。着ていた服は下着を残して全て消え、身体が勝手に動いてドレスを纏う。ドレスの大きさも身体に合うように自動調整され、皆それぞれ美しいドレス姿に変身していく…。
そして魔法の光が消えたとき…。
「わっ!」
「うそ!」
「これがあたしのドレス?」
「…み、みんな、凄く綺麗!」
ユウのドレスは赤みがかったオレンジ色を基調として、スカートの上に夜の星空を象徴するようなスパンコールのある黒いベールを纏っている。レミアのドレスがライトグリーンと白を基調としつつ、レミアのシンボルである緑色のジュエルが散りばめられたボリュームのあるスカートのドレス。ミズキのドレスはサイバーブルーを基調とし、スマートさとエレガントさを両立させたようなドレス。サツキのドレスはナイトパープルと黒を基調としつつ、スカートの上にはスパンコールやビーズで様々な星座が描かれたペールを重ねたミステリアスでエレガントなドレス。
先程までビジネススーツ姿だったミナミやスミレも、いつの間にかドレス姿に変身していた。
「皆さん、よろしいかしら」
スミレが4人に声を掛ける。スミレは扉の右側に立ち,ミナミは扉の左側に立っている。まだ扉は閉まったままだ。
「何でしょう?」
応えるユウ。
「これから一緒に『謁見の間』にご案内します。神聖な場所なので、ちょっとだけ気を引き締めてくださいね」
続いてミナミが口を開く。
「この扉は魔法の扉で、宮殿内の行きたい場所にどこでも行けるようになっています。行きたい場所を言ってから扉を開くと、すぐそこに行けます。こちらから直接謁見室に入ります」
ユウ、レミア、ミズキ、サツキの4人は立ち上がり、扉の方へと近寄った。
「中に入る前に、少し段取りについてせつめいしますね」
ミナミがドアの方に手をかざすと、そこに魔法でできたスクリーンが現れる。そこに映し出されたのは、とても厳かで美しく広いホール。奥には玉座らしき豪華で大きな椅子が置かれている。
「…ここが『謁見の間』?」
「すごい・・こんなところに入るの?」
ユウとサツキが思わず溜息。
「西洋のお城風なのね」
ミズキは落ち着いている。おそらくこういった情報はAIの持つ情報の中にあるのだろう。
豪華な大広間。全体に美しい装飾が施されている。左側の大きな窓からは明るい光が差し込む。天井には星座や宇宙を模したと思われる光が揺らめいている。そして部屋の奥の段が高くなった場所に女王が座ると思われる豪華な椅子が置かれている。これがおそらく、いわゆる『玉座』と言うのだろう。
「今いる部屋の窓の外は夜なのに、この部屋の窓の外は昼間みたいに明るいのね…」
呟くサツキ。
「それは魔法で窓に昼間の光景を映し出しているからですよ」
ミナミがそう教えてくれた。さらに話を続ける。
「皆さんは奥にある玉座の前まで歩いて、横一列に並んでいただきます。そしてユニ様が入場される際に私がその事をお伝えします。そしたら、女王様への敬意を示す姿勢『カーテシー』をしていただきます」
「カーテシー?」
「こうやるのよ」
ミズキがスカートの裾をつまみながら少し腰を低くする。
「あ…よくアニメとかで見たことあるお姫様の挨拶の姿勢だ」
呟くユウ。
「スカートの中はどうなってるの?」
レミアがミズキに尋ねる。するとミズキは大胆にスカートをめくって足の様子を見せた。片方の足をもう片方の足の斜め後ろの内側に引き、両膝を外側に向けて曲げている。
「…こ、こうね」
レミアもミズキの姿勢をまねてみる。
その時だ、カーテシーの姿勢を取ろうとしていたユウがよろけて転びそうに…
「危ない!」
ミナミがそう叫んだ瞬間、ユウの身体が白い光に包まれ、その光に身体を支えられる。
「…あ、あ、ありがとうございます」
再び直立姿勢に戻り,ミナミにお礼のお辞儀をするユウ」
『カーテシーって、慣れない人って転ぶことがあるのよね」
クスッと笑うミナミ。
ユウはある事を思いついて、胸のペンダントを握りしめる。
(あたしよ、カーテシーが上手にできるようになれ!)
ユウは自分で自分の身体に魔法を掛けたのだ。
「ゆうちゃん、心の声丸聞こえだよ。自分で自分に魔法掛けたのね」
レミアがクスクス笑う。
「だって…あたし不器用なんだもん。こうでもしないとまた転んじゃうよ」
「ユウ姉の運動神経の低さは折り紙付きだからね」
クスクス笑うミズキ。
ここでスミレがかしこまった表情で,ユウに語り掛ける。
「それでは次に、ユニ様が玉座にお出ましになった際に述べる挨拶の言葉…これは代表としてユウさんに述べていただきますね」
「…あたしが?」
「あなたならできます」
そしてスミレはユウに挨拶の文言を告げた。
「…難しいな」
「ユウさん、あくまで形式的な物なので、もし何なら一言一句そのまま述べるよりも、あなた人の思いをありのまま伝えればいいかも知れませんよ。…その方がむしろあなたらしいかも」
ミナミのその言葉でユウの気持ちがかなり楽になった。
「わかりました。私なりに…やってみます」
「それではそろそろ行きましょうか」
スミレの言葉に皆が頷く。と同時に,ドアの前に現れていた魔法のスクリーンが消失。
スミレが魔法の扉をコンコンコンとノック。
「謁見の間」
スミレがその魔法のドアに語り掛けると、少し時間をおいてドアの向こうからコンコンコンとノック音が返ってきた。
「これでドアの向こうは『謁見の間』よ。行きますね」
ミナミがドアを開く。そこには先程魔法のスクリーン上で見たより遥かにスケールの大きい空間が広がっていた。
ミナミとスミレが先導し、4人は広い『謁見の間』へと進む。ホールの大きさは大きな体育館程だろうか。
「…すごい」
周囲をキョロキョロ見回しながら呟くユウ。
「お静かに」
ミナミが静かにユウをたしなめる。
「…ごめんなさい」
謝るユウ。それを見てスミレは穏やかに微笑みを浮かべた。
「皆さんはここで横一列に並んでください」
玉座までの距離は6mほどだろうか。玉座から見ると左から順にサツキ、ユウ、レミア、ミズキの順で並ぶ。
サツキの左にはスミレ、ミズキの右側にはミナミが立つ。
「そろそろですよ…」
スミレが4人に囁く。
「これから『謁見の儀』を執り行います。幻想王国、女王陛下、ユニム・コーリア様、お出ましです」
ミナミが高らかに宣言。と同時に、ユウ達はカーテシーの姿勢を取り、頭を下げる。
窓側通路の奥から足音が近付いてくる。そして姿を現したのは、頭にティアラを付け、緑色を基調に金色の細かい刺繍を施した華やかさと気品を兼ね備えたドレスに身を包んだユニの姿。右手には背丈とほぼ同じ長さで金で装飾された緑色の杖を持っている。
これまでの庶民的で親しみやすい姿と打って変わり、女王らしい気品・風格・神々しさを放っていた。
ユニが玉座の前に立ち4人の方ににこやかな表情を向ける。ミナミとスミレもユニの両脇に移動し、4人の方を向いた。
「ユニム・コーリア女王陛下」
頭を下げたまま、ユウが大きな声で語り始める。
「この度は、女王陛下のご厚意により、私ども4人を夢世界及び魔界への修学旅行ということで招へいを頂き、誠にありがとうございました。参加者を代表して、心より感謝申し上げます」
一息つくユウ。
「まだまだ至らぬ私達ではございますが、私達の旅にご同行いただきます白鳥ミナミ特別補佐官及び黒山スミレ特別補佐官のご指導ご鞭撻のもと、夢世界と魔界をより深く理解したいと存じます。女王陛下におかれましても、引き続き忌憚なきご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます」
ここまででユウの代表挨拶が終わった。
ここでユニが口を開く。
「顔をお上げなさい」
ユニの声で4人はカーテシーの姿勢を解き、直立姿勢に。その時正装した神々しいユニの姿を見た4人は戸惑ったり溜息をついたりしている。
「菖蒲塚ユウ、五十嵐ミズキ、東島サツキ。よくぞ夢世界にお越しくださいました。そしてレミア・レミル。あなたの人間界での活躍ぶりには心より感謝を述べます。今回はあなたが引き寄せてくれた優秀な人間界の人材とともに、夢世界と魔界でさらに深い見聞を得られることを期待しております。そして、レミア・レミル、あなたには本日付で『人間界特派員』としての役目を正式に任じます。今度も引き続き、人間界で多くの人材獲得に努めて下さい」
レミアとユウは顔を合わせて微笑み合う。
「それではこれから夢世界と魔界を旅する皆に対して、『加護』を付与します」
ユニが高らかに宣言。
「皆様、頭をお下げください」
ミナミがそう告げると、ミナミとスミレがユニの方を向き頭を下げる。ユウ達4人もそれを見て頭を下げた。
ユニが持っていた杖を高く掲げ、歌にも似た呪文を詠唱し始める。するとユニの身体と杖が煌々と魔法の光に包まれる。その力の強さは離れていたユウ達でさえはっきりと感じるほどだ。
やがてユニの呪文の詠唱が終わる。
「加護よ、皆のもとへ!」
ユニがそう告げた瞬間、ユニの杖から魔法の光がミナミ、スミレ、サツキ、ユウ、レミア、ミズキのもとへ飛び、全員の身体を魔法の力で包み込む。暖かく、そして力強い『加護』が身体の中に染みこんでいく。
やがて全ての魔法の光が消え、ユニは高く掲げていた杖を降ろした。
「皆さん、おなおりください」
ユニが皆に告げる。
「この『加護』は、旅行期間中の皆さんの命と心と体を守ります。もしも何か傷を負ったとしても、それは一瞬で回復するでしょう。心置きなく、旅を楽しんでくださいね」
ユニの表情は緊張感が薄らいだようにも見える。
「これをもちまして『謁見の儀』を終了いたします」
ミナミが宣言。と同時に、ミナミとスミレはユウ達の列の方へ移動。
「女王陛下がご退座されます」
スミレがそう告げると、ユニは玉座を降り、窓際の方から後方の通路へと消えた。
「さあ皆さん、戻りましょうか」
皆が後ろをむき、『謁見の間』の出口へと進む。そして扉を開け、スイートルームの方へと戻った。
「あ~、緊張したぁ」
ユウが早速ソファーにどっかりと座り、顔が緩む。
「ゆうちゃん、お疲れ様」
隣に座るレミア。
「ユニの衣装も『いかにも女王』って感じだったね」
サツキがその隣に座る。
「ユウ姉さ、ユニへの挨拶の文言、あそこに入る前に練習してたのと違ってなかった?」
ミズキがユウに尋ねる。
「あ、あれ? うん、中に入った時に練習してたのが全部飛んじゃったから、即興で考えて言ってみた」
「え! あれ即興だったの」
驚くミズキ。ユウはペロッと舌を出して微笑む。
「うん」
「信じられない…。さすがユウ姉だわ」
「それはともかく…これはちょっとね」
浮かない表情のサツキ。何故か左手に手裏剣を持っている。
「…どうしたの?」
サツキの方を見て不思議そうな顔をするレミア。
「ユニがあたし達に掛けてくれた『加護』。ありがたいんだけど、これちょっと過保護過ぎると思うのよ。見て」
サツキはおもむろに手裏剣の刃を右手の人差し指に当てた。
「サツキ!」
驚くレミア。
「いいから見てて…」
サツキの右手人差し指から一筋の赤い血…。その瞬間、流れた赤い血と傷口がピンク色の光で覆われ、ほんの3~4秒でその光が消えた。
「傷口が…無くなっちゃった」
唖然とするレミア。その声を聞いて、ユウやミズキも注目する。
「『加護』の力は確かに凄いしありがたいとも思う。でも、これじゃあ効き過ぎじゃないかな? 明日私達ダンジョンに行くんでしょ。こんな無敵状態じゃ面白くも何ともないよ」
サツキの言う通り、明日は皆で冒険者パーティーのコスプレをして、夢世界にある『ダンジョン・トレーニング・センター』に行くことになっていた。そもそも夢世界にはダンジョンは無いらしい。ただダンジョン探索を楽しみたいという住民は少なくないそうだ。むやみな殺生も夢世界では禁止されているという。そこで、ダンジョン探索を一種のスポーツとして楽しめるようにしたのが『ダンジョン・トレーニング・センター』というアミューズメント施設だ。ここではかなりリアルにダンジョン探索をシミュレートでき、架空の敵とも思う存分戦闘できる。ただ、この戦闘ではたとえプレーヤーが致命傷を負ったとしても命を落とすことは絶対に無く、プレイヤーは十分な安全対策と完全な治癒を施されて施設を出ることができるという。
「せめてこの『加護』のオン/オフをあたし達自身でコントロールできるとありがたいのよね…」
「サツキの言う通りね。私も過保護だと思う」
ミズキが口を開いた。
「あなたと気が合うなんて、珍しいわね」
にやりと笑うサツキ。
「何も珍しくないよ。私だって元を辿れば兵器なんだから」
不敵な笑みを浮かべるミズキ。
「そう来ると思ってたわ」
不意に誰もいない場所から聞き覚えのある声。そこを見ると正装のユニが姿を現していた。
「ユニ女王…陛下」
思わず声を上げるユウ。
「もういいのよ、タメ口で。今は公式の場じゃ無いんだから…」
ユウに穏やかな表情で語り掛けるユニ。
「で、サツキ、ミズキ、さっきの『加護』の事だけど、『ダンジョン・トレーニング・センター』では加護は無効になるから心配しなくていいわ。元々あの施設にはプレーヤーを守るための加護が施してあるから、そっちが優先されるの。あと、加護のオン/オフの件だけど、自分の耳たぶを3秒間摘まむと、加護のオン/オフが切り替わるようになってる。オフの時でも瀕死の状態になったときは強制的に加護が働くようにしてあるわ」
「そう、それなら…」
早速サツキが自分の耳たぶを3秒間摘まむ。
<加護が無効になりました>
サツキの頭の中で声が聞こえた。
見るとミズキも自分の耳たぶを摘まんでいる。
「まぁ、あなたたちにはそもそも加護なんて不要なのかもね。でもこっちもあなたたちを預かる責任があるから、加護を付与させてもらったの。理解してね」
ユニは頭をかきながら答えた。
「ところでせっかくなんだから、このドレス姿、記念写真撮ろうよ!」
サツキがみんなに声を掛ける。
「賛成賛成! スマホを…」
ユウは目を閉じて念じる。するとユウの手にスマホが現れた。瞬間移動で引き寄せたのだ。
「私も! …[透かし寄せ]」
サツキの手元にもスマホが現れる。
「やっぱりそうよね」
既にスマホを手にしているミズキも微笑む。
「スミレさん。あたし達4人撮ってもらえます?」
ユウは席を立ちスミレのもとへ。スミレにスマホを渡そうとする。
「あ、ダメダメ。私が撮ると撮影に失敗するどころか、スマホ壊しちゃうから…」
「そうね、スミレの破壊力はもの凄いから…。私に貸して」
ミナミが笑顔で手を差し出す。ユウはミナミにスマホを手渡し、撮影方法を説明。ユウはサツキとミズキのスマホも受け取り、それもミナミに預けた。
「じゃあ、3つのスマホで同時に撮影すればいい?」
「いや、3つもスマホを同時操作するなんて…」
「私はできてよ」
ミナミがそう言うと、3つのスマホがフワフワと宙に浮き、レンズを3人の方へと向けた。
「…そ、それじゃ、お願いします!」
ユウは他の3人の所に寄り添う。
「はいこちらを向いて~」
カシャッ! 3台のスマホが同時にフラッシュライトを光らせた。
「え、もう撮ったの?
「写真を撮るときは『ハイ。チーズ』って声を掛けてください。それが今の日本の流儀なんで」
「…そうなのね、私達の時代はそんなかけ声無かったから」
微笑むミナミ。穏やかにそれを見守るスミレ。
そして4人は何枚も記念写真を撮った。集合写真だけでなく、個人毎のソロショットも撮影。
「そろそろ私も混ぜてもらっていい?」
ユニ、ノリノリである。
それからユニ、ミナミ、スミレも混じって、皆で写真を撮り合って楽しんだ。せっかくのドレスアップ姿。こういう機会はなかなか無い。
明日は朝食後いよいよ王都の街へ。そして念願の『ダンジョン』が待っている。




