Phase29. ユウの黒歴史
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
※本ep.内にて「AIを間接的に使用した文章記述」があります。
当該部分を【】で囲んだ範囲として明示します。
夢世界での修学旅行最初の朝。それぞれスイートルーム内の個室で一夜を明かした4人。ミズキは事前に持ち込んでいたミズキ専用の栄養補給ゼリーで朝食。他の3人はスイートルームとは別の部屋である食堂での朝食となった。メニューはバイキング形式だが、料理は用意されておらず、印刷された魔法のメニューに触れるとそれが実体化するスタイル。味は宮廷料理人が調製したものばかりなのでとてもおいしかった。
ちなみに今回の修学旅行では、ユウたち4人の時間は人間界の時間の1/5で流れている。人間界では旅行期間は3日間だが、夢世界や魔界ではその5倍の日数…つまり15日間も堪能することができるのだ。
4人の中で最も遅く朝食を済ませたユウがスイートルームに戻ると、すでにほかの3人はそろそろ冒険者コスチュームに着替えようか…という話をしていた。
「ユウ姉、遅いぞ」
「もう支度するよ。ユウも急いで」
「ユウちゃん、加速!加速!」
「ひぇ~、みんな早いよ」
「「「あなたが遅いの!」」」
全員に突っ込まれるユウ。
「それじゃ…[あたしよ、超高速で動け!]」
その瞬間、ユウの時間と周りの時間が切り離され、ユウは周りの20倍という猛スピードで洗顔、歯磨き、髪の手入れ、ちょっとしたメイクまでも終わらせた。
「お待たせ!」
「能力様様だね。ユウはいつもこうなの?」
くすっと笑うサツキ。
「ちがうよ、ね、れーちゃん」
「どうだったかしらねぇ~、結構ズルしてるじゃん」
いたずらっぽく笑うレミア。
「たまにだよ、たまに!」
慌ててユウが否定。
「それはともかく、そろそろみんなで『変身』しない? あの格好に」
ミズキが声をかける。
「そうね。私はいつでもOKよ」
サツキはワクワクしている。
「あたしもいいよ」
レミアも微笑む。
「…うん、大丈夫」
ユウも心の準備ができたようだ。
「じゃ、みんな一斉に!」
[[[変身!]]]
[変化]
4人は一斉に冒険者パーティーの姿に変身した。これは旅行前に4人がワチャワチャ相談してアイディアや希望を出しあって決めた衣装だ。
【ユウはオレンジ色と白を基調としたローブに、濃紺のハーフマントを羽織り、頭にはオレンジ色のとんがり帽子を被った魔法使い風。サツキはミッドナイトパープルと黒のレザーアーマーにショートパンツという出で立ちで、太もものダガーホルダーなどを備えたアサシン・シーフ風。ミズキはサイバーブルーと白銀の軽鎧で、驚くべきことに髪型がこれまでのショートボブからロングヘアーのポニーテールとなり女戦士らしさが溢れている。レミアは緑と白を基調としたシスター風の衣装。頭には白いシフォンを被り神聖さが溢れている。】4人それぞれが魅力的かつスタイリッシュな装いであり、このまま人間界に行ったら人気者になるだろう。ちなみに衣装のデザインは全員の希望を持ち寄った上でミズキが自身のAIマナとの共同作業で行っている。
「ムフフ…、これだよこれ!」
ユウ、にやにやが止まらない。
「ミズキやサツキのコスチューム、思った以上に格好いいね。あたしガチで惚れちゃいそう。特にミズキのロングヘアのポニーテール、超最高!」
レミアが2人の衣装をべた褒め。
「れーちゃんだってシスター姿可愛いよ。れーちゃんなら、あたし今までの私がしてきたヤバいこと、全部白状しちゃいそう」
サツキが笑いながら言う。
「でも、とんがり帽子の魔法使いの姿、私もしてみたかったな…くじ引きで勝ったら私がその格好できたのに…」
ミズキがぶーたれる。
「ミズキのサイバーな戦士姿も最高だよ。それにあなたにはレルフィーナの『レル・サージュ』を使う能力もコピーしてあるから、魔法使い兼戦士としては最強だよ」
ユウもミズキの衣装を褒める。『レル・サージュ』はユウとレミアが融合したレルフィーナが自在に出し入れできる光の剣。剣の長さは使用者の意のまま自由自在で鞭のように変化させることもでき、切れ味まで調整可能。時にはレーザーガンのように使うこともできる超万能変幻自在の剣だ。これをミズキはレルフィーナから写し取らせてもらっていた。
そのとき…。
コンコンコン。
「はーい、どうぞ~」
スイートルームのドアが開く。そして部屋に入ってきたのは、騎士風の姿をしたミナミとスミレだ。
【ミナミは白地に金色の縁取りや四つ葉のクローバーの装飾が施された軽装アーマー。白と深緑色によるミニ丈のプリーツスカートに白いサイハイ丈のロングブーツというエレガントな出で立ち。一方スミレはシンプルでスタイリッシュなジャケット風の黒いアーマー。胸元には花のエンブレム。プリーツミニスカート、タイツ、ロングブーツも黒で統一され、過剰な装飾が無い分だけその内に秘めたものを感じさせている。】
「わ!」
「すご!」
「…かっこいい!」
「やばい鳥肌立った!」
ユウ達はスミレとミナミのもとに駆け寄った。
ミナミの側にはユウとレミアが近づいた。
「スミレさん、その意匠とても素敵ですね」
「城の外に出るときは大体こういう格好しているのよ、外では色々あるからね。ユウさんも魔女姿素敵よ」
「この格好って、もしかして騎士の姿ですか?」
「そうよレミアさん。私もスミレも一応騎士でもあるから…、あなたのシスター姿も素敵よ」
スミレはミズキとサツキの方に近づいて、目をキラキラさせていた。
「ミズキさん、超カッコいいです。髪も伸ばされてされてガラッとイメチェンされて、私ガチで惚れちゃいそうです」
「え、そう?」
照れ笑いして戸惑うミズキ。
「でもこの格好、ミズキが凄く拘ったのよね。『私絶対カッコいいロングヘアーになるんだー』って叫んでたし」
クスクス笑うサツキ。
「サツキさんの格好もとっても素敵。その格好ってアサシン・シーフですか?」
「ええ、一応…」
「ただの格好良さだけじゃ無くって、ミステリアスな雰囲気もあって。私、誘惑されちゃいそうです」
「スミレさんったら…」
ニヤニヤ笑うサツキ。
幻想王国王都アスティアの中心街。その光景にユウ達4人は圧倒されていた。
「これが王都…凄い活気」
ユウはしみじみと語っている。
「獣人が結構いるのね」
ミズキも興味深そうだ。
「看板に日本語が一つも無いのに、全部意味が理解できてる。何で?」
不思議そうにスミレに尋ねるサツキ。
「それはユニ様の加護を受けたからですよ。耳たぶを摘まんで加護を一時的に切ったとしても、夢世界の言葉を理解する能力は引き続き付与されたままなんですよね。私達もこの世界に最初に来たときは、その加護の能力にお世話になりました」
サツキはにっこりと微笑んで答える。
「そうなんだ…。魔法道具屋とかポーションショップとか、ファンタジーRPGの世界そのものね。レミアはここに来たことあるの?」
「…う~ん、あんまり記憶無いな。あたしは気が遠くなるほど大きい花畑で花の蜜もらってたくらいの記憶しか残ってないから」
「そんなところあるの?、私も見てみたい」
サツキとレミアが語り合う。
「ミナミさーん」
ミナミの方に向かって駆け寄ってくる人が一人。猫の頭をした獣人だ。
「どうしました」
穏やかな笑顔で答えるミナミ。
「家の子が遊んでる最中に足をケガして、凄く痛がっているんです。診てもらうことできませんか」
「どこにいるの?」
「家にいます。すぐ近くです」
「行きましょう。いま研修中なので、彼女達も同行するけど、いい」
「かまいません」
ミナミはユウ達の方を向いた。
「ちょっと寄り道するわね」
ミナミとスミレ、そしてユウ達はその順人の家へと向かう。
「スミレさん、こういう事ってよくあるんですか?」
ミズキが不思議そうにスミレに尋ねる。
「そうね。しょっちゅうかな。ミナミの力は強力だし、おまけに私達は王家直属だから依頼する人が払うのはとても安く済むの。他の医者に診てもらうより遥かに安上がりなわけ」
そうこういううちに、ミナミに声を掛けた獣人の家に到着。英の玄関では足に包帯を巻かれて痛がっている子供の獣人が。
「痛いのね、今直すからちょっと待って。スミレ、この子の身体を支えて」
スミレがミナミが治療しやすいように獣人の子の姿勢を支える。そしてミナミは獣人の子の包帯を巻いた足に触れた。
「身体の悪いところ、全部治れ」
ミナミがそう唱えた瞬間、ミナミと獣人の子の身体が光に包まれる。痛がっていた獣人の子は痛みが取れたのか、次第に落ち着きを取り戻していく。やがてミナミと獣人の子を包んでいた光が消えた。
「どう?」
「もう全然痛くない」
そう言いながら包帯を取る獣人の子。
「傷も消えてる。おばさん、本当にありがとう!」
そう言って獣人の子は元気に家の中へ戻っていった。にこやかに獣人の子に手を振るミナミ。
「本当にありがとうございます。助かりました。お礼は本当にこれだけでいいのですか?」
「ええ、銅貨1枚を超える謝礼を受け取ることはできませんので」
穏やかな笑顔で獣人の親から銅貨を受け取るミナミ。そしてその場を後にする。
「ミナミさん、凄いですね」
レミアが目をキラキラさせながらミナミに語り掛ける。
「あなたにもできるでしょ、同じ事が」
微笑みながらレミアに答えるミナミ。
「スミレさん、ご存じだったら教えていただきたいのですが…」
ユウがスミレに尋ねる。
「ここの世界の貨幣の価値観がよく判らないんですけど、教えていただけますか」
「夢世界ではお金の単位は『ドラ』っていうの。ユウさん達の所の貨幣価値だと…のりを巻いたおにぎり1個を買えるくらいかしら」
「…そうなんですか」
ユウは『ドラ』という単位が人間界の『ドル』に似ていることに気づいた。つまり人間界の1米ドルと同じと考えれば良さそうだ。
「で、銅貨1枚は何ドラなんですか?」
「1トラよ」
ということはミナミは日本で170円程度で獣人の子の治癒を請け負ったことになる。
中心街を通りぬけると前方に巨大な球が見えてくる。
「あの山全体が『ダンジョン・トレーニング・センター』ですよ」
ミナミがサツキに声を掛ける。
「え、あの山全体が?」
「ええ」
「でかっ!。ユウ、あそこの山がダンジョンだって」
「ガチで? あの大きさヤバくない?」
「今透視してみたけど。あの山の中を丸々くりぬいているみたいね」
驚くユウに比べてミズキは意外と冷静だ。
そして6人はついにダンジョン・トレーニング・センターの巨大な入場門の前に立つ。ここは単なるダンジョン攻略トレーニング施設としての機能の他に、売店、宿泊施設、医療施設、そして冒険者ギルドとしての機能も持つとユウ達は聞いていた。
「なんか緊張する…」
不安そうな表情のユウ。
「私は逆にワクワクしてるよ。ミズキもそうでしょ」
サツキがやる気満々でミズキに声を掛ける。
「そうね。とっても興味深いわ。れーちゃんはどう?」
ミズキはレミアに声を掛ける。でもレミアは少し浮かない表情。
「なんとか…がんばってみる」
レミアの笑顔は傍目で見ても作り笑いっぽく見えた。
「中に入りましょ」
ミナミが先導し、中に入る。少し入ったところにホテルのフロントのような場所が見える。何人か立っているスタッフの中で、ミナミはブロンドヘアで長くとがった耳を持つ女性のところへと向かった。
「マリーネ、元気でやってる?」
『ミナミ様、いつもお世話になっております」
明るい笑顔で答えるマリーネ。
レミアがすぐ側にいたスミレに尋ねる。
「スミレさん、あの受付の人、何だか凄い魔力量を感じるんですけど」
「マリーネは凄腕の魔法使いなの。昔は冒険者として大活躍していたのよ」
「そうなんですか?」
「ここの施設の主要スタッフがみんな元冒険者なのよ」
「へー」
感心するレミア。
「そろそろまた冒険の旅に出たいと思わないの」
ミナミがマリーネに尋ねる。
「今はここの仕事で満足しています。ここで鍛錬もできますし…。今日は人間界からいらっしゃった能力者の皆様の引率ですね。女王陛下から連絡を頂いております。レミア様、サツキ様、ミズキ様、そしてユウ様ですね」
「はい」
「今、センター長のガイアにも連絡しました。こちらに来ていただくところです」
「ガイアと会うのも久しぶりね」
微笑むミナミ。
「それでは人間界から来た皆様には、こちらを使ってレベル判定をさせて頂きます。
マリーネはカウンターの下から大きな水晶玉を取り出し、カウンターの上に置いた、
「まずはレミアさん、あなたからやってみてください」
「…はい」
レミアは水晶玉の上に手を載せる。すると今まで透明だった水晶玉が真っ白に染まった。
「え、あ、もう一度お願いしてよろしいですか?」
「はい」
レミアは一旦水晶玉から手を離す。すると水晶玉は透明に戻る。そして再びレミアが手を載せると、水晶玉は再び真っ白に染まった。
「少々お待ちください。水晶玉のトラブルかもしれませんので、今技術スタッフを呼び出しました」
レミアはマリーネが強力なテレパシーを使って他のスタッフと連絡を取り合っていることに気づいていた。
<やっぱりこの人、ただ者じゃなさそう>
その時だ。フロントの天井からゴソゴソと音が…
「マリーネ、呼んだ?」
ニヤニヤしながら天井から逆さまになって顔を出した技術職らしきホビットらしき男。
「ゼオ! お客様の前よ。そんなところから顔を出しちゃダメでしょ!」
天井から顔を出したホビットに対して注意するマリーネ。
「だってここが一番近道だったんだもん。しょうがないだろ」
身軽な動きで床に降り立つゼオ。
「で、水晶玉が壊れたって?」
「いきなり測定限界値を超えちゃったのよ」
「マリーネ、それはお客様のレベルが本当に測定限界値を超えているからじゃないのか? だとしたらお客様に対して失礼だぞ」
ブツブツいいながらゼオは水晶玉を調べたり、水晶玉に聴診器のような道具を当てたりする。
「やっぱり壊れてないよ。このお客様のレベルが本当に測定限界値を超えているんだろうよ」
「そ、そうなの? レミア球、た、大変失礼いたしました」
レミアに対して謝るマリーネ。
「いいですよ。気にしないでください」
笑顔で答えるレミア。
その後、ユウ、ミズキ、サツキが水晶玉でレベル測定を行った。ユウはオレンジ色、ミズキは藍色、サツキは黒色に水晶玉が染まり、いずれも測定限界値を超えていた。
「人間界にこんなに高いレベルの人がいるなんて…」
タジタジの表情のマリーネ。
「マリーネ、あなたも私達も測定限界値を超えているんでしょ。普通の事よ」
微笑みながら答えるミナミ。
「いやでも百戦錬磨の私達はともかく…」
「何やら賑やかなようだな」
カウンターの脇からライオンの頭をしたガッチリとした体格の獣人が現れる。
「センター長!」
その獣人に声を掛けるマリーネ。
「お久しぶりね、ガイア」
「おお、ミナミ! ひさしぶりだな。そしてスミレも! マーブルズの活躍の話はいつも聞いているぞ 王家は窮屈じゃないか?」
楽しそうに話すガイア。
「色々良くしてもらっているので…」
遠慮がちに答えるスミレ。
「スミレの破壊力は最強だからな。うちのパーティーメンバーに是非欲しいよ」
「そんなことしたら、みんな大災害に巻き込まれますよ」
クスクス笑うミナミ。
「もちろん君も一緒にだよ」
「その言葉は女王陛下の前で仰ってくださいな。その代わり、とんでもない地雷を踏み抜くことになりますよ」
クスクス笑うミナミ。
「さてと…」
ガイアはユウ達4人の方を向く。
「ようこそダンジョン・トレーニング・センターへ。私がセンター長のガイアだ。君達のことは女王陛下から伺っている。皆、優秀な能力者だそうだな。一人ずつ名前を聞かせてもらえないか? まずは君から。」
「あ、私、サツキです」
「アサシン・シーフか。魔物の能力を持ち精神も肉体も鍛え上げられているそうだな。君と一緒に冒険の旅をしたいぞ。次、君は…」
「レミアです。私だけ夢世界出身です。昨日女王陛下より人間界特派員を拝命しました」
「おお、君が今回のメンバーを見つけたんだな。噂は聞いているぞ。で、次…」
「ユウです。菖蒲塚ユウと言います。よろしくお願いします」
「おお、君が女王陛下が指名した次期女王候補だな。女王陛下の惚れ込みは尋常じゃ無かったぞ。肩肘張らずに女王陛下を見習えば、いい女王になれるぞ。そして最後、君」
「ミズキと申します。よろしくお願いします」
「君かぁ、機械生命体でありながら強力な魔法を扱えるという凄い戦士は! 噂は聞いているぞ。君とも冒険の旅に行きたいな。わはは…。マーブルズ、君らもこの子らと一緒に我々と本物の冒険の旅に行かないか?」
「お戯れはそこまでにしませんか?」
クスクス笑うミナミ。
「そうだな。では、サツキ、レミア、ユウ、ミズキ。これから君達が取り組むトレーニングについて説明しよう。君達の能力は極めて高い。だから弱い相手と戦っても君達のためにはならない。そこで、最初に準備運動のような戦闘をこなした後、君達にとって能力的にほぼ互角な相手と戦ってもらう」
「互角な…相手? いいね」
ニンマリとするサツキ。
「対戦相手は今回シーベランドから派遣されたアンドロイドのプロトタイプだ」
「アンドロイド…ですか」
少し戸惑うミズキ。
「但し、そのアンドロイドだが、魔法も使える。『魔法少女』と言うものをモデルにしたらしい」
「アンドロイドの魔法少女…まるでミズキだね。でも、ミズキは最強だもん。心配ないよ」
微笑むユウ。
「その対戦相手のデータシートがこれだ」
ガイアは書類が綴じられたクリップボードをまずミズキに渡す。
「プリンシャント…」
ミズキが資料に書いている文字を読んだときだ。
「ひっ!」
ユウが素っ頓狂な声を上げる。顔がみるみる真っ赤になり、強烈な目眩がユウを襲う。
「ゆうちゃん! 大丈夫? どうしたの?」
レミアがユウの身体を支える。
「…ミズキ。その後、もしかして…『アイリス』とか『カメリア』とか書いて…ある?」
「うん」
「終わったぁ…。何てこと。ダメだ、あたしもう立ち直れない」
完全に身体から力が抜けるユウ。
「ユウ、どうしたの。何か知ってるの?」
サツキが尋ねる。
「知ってるも何も…、それ、あたしが『レルフィーナ』の前に物語のプロット作ってた魔法少女達だよ。超恥ずかしいよ~。あたしの黒歴史がなんで今更…」
両手で顔を覆うユウ。
「ユウ姉の…黒歴史?」
ミズキが不思議そうに尋ねる。
「あたしね、小学生の頃から『戦う魔法少女』に憧れていたの。自分でもそういう作品作って売れっ子作家になりたいって思ってたの。…確か小学5年の時だったかな…。夢中になってパソコンに打ち込んが『虹のプリンシャント』っていうお話。虹の色にちなんだ7人の女の子が魔法少女になって闇の怪物と戦うっていうプロットを考えて、7人のキャラクター設定まで考えていたの。…でも途で『これって結局弱い者いじめと同じかもしれない』って思えたの。実際、プリンシャント達の攻撃力を強くし過ぎてた。だから『プリンシャント』を書くのは止めて、『戦わない魔法少女』として『レルフィーナ』を生み出したの。プリンシャントの能力を全て引き継ぎながら、決して相手を倒さない『優しい魔法少女』を作りたくて…」
ユウ、半泣き状態。
「あなた小学4年でそんなことしてたの? …ユウ、あなた天才過ぎるよ」
驚くとともに呆れるサツキ。
「ユウ姉は他の人とはどうも違うな…とは思ったけど、やっぱり私もユウの才能は凄いと思うよ」
穏やかにユウに声をかけるミズキ。
「二人ともそういってくれると…嬉しい。でも何で私のノートパソコンにだけ保存していたものがシーベランドに…」
ユウは少し落ち着きを取り戻したように見えた。
「恐らくシーベランドはユウ姉に注目していたんじゃ無いかな。だからユウ姉のパソコンにウィルス仕込んでデータをこっそり抜き出したのかもしれない」
「それって犯罪じゃん。それに私のパソコン、毎日ウィルスチェックしてるよ」
少しムッとするユウ。
「でも未知のウイルスだと、ウイルス対策ソフトでもウイルスを見逃すことあるよ。向こうに戻ったら、私がユウ姉のパソコンをチェックしてあげるよ」
「ミズキ、ありがとう。ありがたくお願いするわ」
ミズキの笑顔に、ユウもほっと胸をなで下ろした。
「ミズキ、あたしにもデータシート、見せてもらっていい?」
体制を立て直したユウ、微笑みながらミズキに声を掛ける。
「いいよ」
データシートが綴じられたらクリップボードをミズキから受け取るユウ。それを見てユウは思わず涙を浮かべた。
「この子達、魅力的な姿になったのね。よかった…。あたしのプロットにはイラスト無かったから…。可愛くしてくれて嬉しいよ…」
4人のプリンシャントは以下の通り。
プリンシャント・アイリス。藍色のスーツを纏い、空気と空間と次元を自在に操る。空気を様々な武器に変換したり、空間のねじ曲げ・閉鎖・抜け道を生成したり、0次元の虚無から3次元の物体を生み出したり逆に消滅させたりする能力は極めて強力だ。聴覚や嗅覚も人間の数千倍の能力を持つ。
プリンシャント・カメリア。赤色のスーツを纏い、命と肉体と精神を自在に操る。一見普通の少女なのに肉体の能力は極めて高く、筋力・瞬発力・持久力のどれをとっても常人を遥かに超えている。相手の心臓を一瞬で麻痺させて死に至らせたり、死んだ者を無事に蘇生させる事もできる。さらに念力・透視・精神干渉も難なくこなす。
プリンシャント・ソレイル。黄色のスーツ。光と電気を自在に操る。静電気や雷や磁力を操り、光の進行方向までも自在にねじ曲げることができる。まだ電気で動く機械を思うままに支配し操ることができるため、ミズキにとっては天敵になるだろう。敏捷性も極めて高い。
プリンシャント:エクレール。緑色のスーツを纏う。緑色のバラ『エクレール』をモチーフとし、植物・大地・そして物質と重力を自在に操る。地面の中に身体を浸透させて姿を消したり、地面を自在に操って生き物のように扱うことができる。物質変換能力で臨むも度を何でも生み出すことができる。さらに重力操作能力によって相手に荷重重力を付与したり、重力を応用して自分への攻撃を相手に跳ね返すこともできる。
4人の中で共通する能力としては、浮遊能力、透視、不可視(透明)化や変身、瞬間移動がある。これだけでもチート級の能力のオンパレードだ。
ユウは自分の脳内で生成した各プリンシャント達の戦闘能力や戦闘スタイル、想定される能力の使用方法など、プリンシャントに関する細かい情報を他の3人にもテレパシーで配信した。
データシートを一通りめくったユウ。不意にガイアの方を見る。
「ガイアさん。ガイアさんはこの子達と戦った経験はあるんですか?」
ニンマリとするガイア。
「もちろんだ。彼女達は強いぞ。特に魔法能力に関しては明らかに群を抜いている」
「私も戦ったことありますよ」
マリーネが声を掛けてきた。
「4人それぞれ能力に個性はあるけど、とても強力でバランスが取れてたわね」
「マリーネさんも魔法を使うと聞きましたが、彼女達に勝てましたか?」
「1対1だと勝てるけど、4対1だとかなり厳しいわね」
「…でしょうね。何しろ彼女達の能力をデザインしたのは私自身ですから、彼女達の恐ろしさはあたしが一番良く知ってます」
「そうなの!」
ユウの発言にマリーネも驚いた様子。
「ところでガイアさん、『プリンシャント』は全員で7人いるはずですが、残りの3人はシーベランドから提供を受けたんですか?」
「そうなのか? 我々の所に派遣されたのはこの4人だけだ。そもそも7人いると言うことさえ知らないぞ」
ユウの質問にガイアも戸惑った様子。
「私が能力デザインしたのは7人です。残り3人は火を自在に操る子、水や氷を自在に操る子、時間を自在に操る子がいます」
「なんと…」
「でも大丈夫だよ。多分私達は彼女達より強い。それにユウ姉とれーちゃんには最後の切り札がある。ね!」
ミズキはユウとレミアの方を見てウィンク。
きょとんとするユウ。そのときレミアが微笑みながらユウの胸をツンツンとつつく。そしてレミアからテレパシーでユウに送られてくるレルフィーナのイメージ。
「そっか、その手があったね」
ユウもようやく笑みを取り戻した。
にっこり笑うユウ。ユウはデータシートをレミアに渡す。
レミアからデータシートを受け取ったサツキ。不敵な笑みを浮かべる。
「相手がユウの黒歴史だからこそ、ぶっ飛ばさないといけないよね」
データシートがガイアのもとに戻された。
「それでは向こうの医務室で、全員出発前のメディカルチェックを受けてもらう。医務室にはルネスという怖くて優しいお姉さんがいるから、言うことを素直に聞くんだぞ」
ガイアは4人をダンジョン入口前にある『医務室』という部屋を指さした。
「ミナミさんとスミレさんはどうするんですか?」
レミアがスミレに尋ねる。
「私達はここであなたたちの戻りをゆっくり待っているわ」
「すみません、ミナミ様、スミレ様」
マリーネが声を掛ける。
「どうしたの?」
ミナミがマリーネに尋ねる。
「急で申し訳ありませんが、ギルドの方からお二人宛に緊急のお仕事の依頼が来ました」
「私達にとってはここでゆっくりしているより、そういうのをこなした方が面白そうね」
微笑みながらスミレに語り掛けるミナミ。
「…はぁ。仕方ないですね」
少しガッカリしながらも笑うスミレ。こういう展開はミナミやスミレにとってはもう慣れっこなのだ。
「じゃあ皆さん、しっかり戦ってらっしゃい」
ミナミは4人を医務室の方へと送り届けた。そして再びカウンターに立つマリーネの所に戻る。
「実は…」
医務室はセンターのフロントに似たクラシカルな雰囲気。廊下の長椅子で呼び出しを待つ4人。
「五十嵐ミズキ、中に入って」
中の部屋から女性らしき声。
「はーい」
ミズキが中に入る。診察室もクラシカルな雰囲気。明らかに異質なのは、隣にあるベッドがとても大きく、しかもそこには魔方陣が描かれている事だった。
診察室の医師は白衣を着た女性。どうやらダークエルフのようだ。黒く長い髪をポニーテールでまとめ、目つきはとても鋭い。
「ベッドの上に寝て」
ぶっきらぼうにミズキに指示するルネス。ミズキは真央方陣の描かれた別途の上に仰向けに横になる。その瞬間、ミズキの上に幾つもの画面が現れた。どうやらミズキを検査した結果のようだ。その画面をしげしげと眺めるルネス。
「ほう。…実に興味深い。お前が噂で聞いた『機械と超夢現体のハイブリッド』だな。ダンジョン行きは問題ない。お前は戻って、今度はレミア・レミルを呼べ。以上」
ミズキはベッドを降りる。ルネスに礼を言って部屋を出た。次いでレミアが診察室に入る。
この後、サツキ、ユウの順で呼ばれる。4人全員『問題なし』となった。
医務室を出て再びカウンターに戻り、結果をマリーネに報告。
「良かったね。それじゃみんな、張り切って行ってらっしゃい。ダンジョン入口はあそこよ」
4人はいよいよダンジョンの中へと歩き始めた。




