Phase25. 父さん
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
「ゆうちゃん、カレンダーに丸がついているけど、明日って何があるんだっけ?」
レミアがユウに尋ねる
「うん、明日は特別な日」
ユウはスマホをいじりながら答える。
「?」
「久しぶりに父さんと会うの」
「あ、そっか…。そういえばそうだったね」
レミアに微笑みを見せるユウ
ユウのスマホには父からのメッセージが届いていた。
ユウの父、北山セイゴロウはユウの母やユウと別の場所に住んでいる。ユウの名字である『菖蒲塚』は母方の姓。セイゴロウは結婚する際シイナの姓『菖蒲塚』をたいそう気に入り、母方の姓に改姓したのだった。結婚はセイゴロウからシイナに熱いプロポーズをしたのがきっかけだったらしい。
結婚後最初は上手くいっていた。しかしセイゴロウの酒癖が悪くあちこちに迷惑を掛けてしまった。さらにシイナは普段温厚だが、短気でせっかちなところがあったため、夫婦間でいざこざが絶えなくなる。ユウも子供の頃から夫婦喧嘩の渦中に巻き込まれ、夫婦の仲裁に奔走したりもした。ユウは昔はセイゴロウが嫌いでたまらなかったが、成長するにつれセイゴロウを理解するようになる。
しかしユウが15歳の時にセイゴロウの浮気が発覚した。セイゴロウは幼少期に辛い経験をしてきたため、他人に甘えがちな傾向があった。そんなセイゴロウは近所の飲み屋にいた優しいお姉さんにコロッと騙されてしまったのだ。それでとうとうシイナの堪忍袋の緒が切れ、2人は離婚した。離婚直前にはユウがセイゴロウを庇うなどの行動を見せてもいたが、その労は報われず。結局セイゴロウは実家に戻り、家業である魚屋を継いだ。
離婚後もセイゴロウはユウの養育費を毎月欠かさずシイナ宛に送っている。
離婚後、ユウは最低でも年に1度以上、セイゴロウと面会することを許されている。
「ゆうちゃん。明日はあたしも一緒について行っていい?」
「れーちゃん、ごめん。明日だけは勘弁して。去年はあたしの体調不良で会えなかったから、その分のお返しもしたいの」
「そう…。いい思い出ができるといいね」
「うん。ありがとう」
レミアの言葉にユウは笑顔で応えた。
「じゃ、ちょっとシャワー浴びてくる」
「いってら~」
ユウは一人、部屋を出た。
「ユウの両親って、離婚してたんだね」
ユニがレミアに尋ねる。
「なんか色々あったらしいよ」
「ふ~ん」
何故か顔がほころぶユニ。
「どうしたの?」
「いや、ユウの心を読んでて、いじらしいというか、微笑ましいというか…。辛い経験もしっかり糧にしているんだなぁって、何だかこっちも嬉しくなっちゃうのよね」
「…判るような気がする」
「ねぇ、レミア。ユウとユウの父親が会う光景、私の透視能力を通してのぞき見しない?」
「透視能力ならあたしも使えるよ」
「でも私の方が能力強いし、二人の心の動きもリアルタイムで見られるよ」
「ユニも興味あるんだ…」
「だって私の大事な後継者だもん。気にならないわけ無いでしょ」
微笑みを交わす二人。
土曜日の午後5時、秋の気配が漂う空はうっすらと赤く染まり始めていた。
ユウがいつも利用している駅の前、自家用車送迎場で父の車を待つユウが立っていた。
やがて1台の白いライトバンが自家用車送迎場のロータリーに入ってくる。その車を運転しているねじりはちまきをした男を見てユウが手を振る。程なくライトバンはユウの前に止まった。助手席の窓が開く。
「久しぶり。元気か?」
運転席から顔を覗かせるユウの父、セイゴロウ。
「心配を掛けてごめんね」
「こっちに乗れ」
ユウはセイゴロウに促されてライトバンの助手席に座る。ちょっぴり魚臭いニオイが懐かしい。
「じゃ、行こうか」
車は動き出した。ユウの住む街の中心地までおよそ40分ほどのドライブとなる。
「最近は学校に行ってるのか?」
セイゴロウが尋ねる。
「うん、やっと行けるようになった。友達もできて、学校に行くのが楽しくなってきたよ」
「そうか、よかったな」
車を運転しながら満面の笑みを浮かべるセイゴロウ。・
「学校でクラブ活動とかはしているのかい?」
「今、読書部にいるの」
「ほう」
「今月から読書部の部長をしてるの」
「ほう、凄いな。大変か?」
「まあ…。でも、うちの学校の図書館、今年度で閉鎖して地域の図書館に統合する事になったの」
「そうなのか」
「高校もずーっと生徒が減ってるでしょ。だからその影響なんだって」
「経費…節減か」
「うん。でも地域の図書館は学校の近くだし、施設も綺麗だから…」
「で、部活はどうなるんだ? 図書館が無くなったら読書部どころじゃないだろ」
「うん…。だからうちの部は来年3月で廃部になるの。『読書部を残したい』って熱意ある人もいないし…」
「最近は部活そのものの運営の仕方が変わっているみたいだしなぁ」
「そうだね…」
ユウの視線が遠くなる。
車は街を離れ、海の方へと向かっている。海側を通らずに田んぼの中の国道を走るのが都心部までの標準的なルートなのだが、セイゴロウはわざと遠回りの海沿いルートを通るようだ。車は田んぼの中の県道を抜け、松林に囲まれた海岸沿いの国道へと進んでいく。
「父さんの方はどうなの? またお酒ばっかり飲んでないよね」
「いや、最近は酒をやめてる」
「そうなの?」
「医者から言われて、やめることにしたんだ」
「身体、悪いの?」
「特に悪いというわけでも無いが、健診で先生から結構言われてね…」
「でも、身体、ほんとに大事にしてね」
「ああ、ありがとう」
ユウは左手でさりげなく魔法のペンダントをつまみ、テレパシーでセイゴロウの心の中を少し覗いてみる。セイゴロウは何かを隠しているわけではないようだ。健診で肝臓の数値の悪さをかなり言われたらしい。他には心配となるような事は無さそうに見えた。
([時間よ止まれ])
ユウ以外の時間が完全に止まった。ユウは右手をセイゴロウの身体の方へ当てた。
(多分完治させることもできるだろうけど、それじゃせっかくの父さんの努力を台無しにしちゃうから、ごくごく弱い治癒の魔法で…。[父さんがお酒を止めている間は、ちょっとだけ回復を早めて])
ユウの穏やかな魔法がセイゴロウの身体にほんのりと染みこむ。
そしてユウは右手を戻した。
([時間よ動け])
何事も無かったかのように時間が動き出す。
やがて車は松林を抜け、海の見える海岸沿いに出る。
「夕日、綺麗…」
海に沈もうとしている赤い夕日がユウとセイゴロウを照らす。海の向こうには大きな島も霞んで見える。約30kmほど離れた大きな離島だ。
ユウは子供の頃両親や祖父母とともにフェリーに乗って旅行に行ったことがある。その時の楽しい思い出がふと浮かぶ。車はしばらく海岸沿いの道を進んだ後、再び砂丘と松林の中を進み始めた。
左側に海水浴場が見えてきた頃に車は右折。広大な住宅地が広がる巨大な砂丘地を駆け上がる。賑わいのある通りを抜け下り坂へ。そして電車の線路を渡り坂を下っていく。左右の住宅地は延々と途切れる事が無い。そしてようやく平場に降りたところからは遠くに水田が顔を覗かせていた。車は左折。そこからはロードサイド店舗がずらりと並ぶ。そこを少し進み、ロードサイドにある和風レストランに到着。ユウも以前来たことがある店だ。その時はユウの母親も一緒だった。
「ここで飯、食おうか」
「ここ、久しぶりだね」
「そうだな」
店へと入る。店内は食事をしたり語り合ったりする人で賑わっている。店員に案内され、2人は4人掛けの掘りごたつ式の席に着いた。
「何食う? 先に選べ。何食ってもいいぞ」
セイゴロウがユウにメニューを渡す。セイゴロウももう1冊あるメニューを手にする。
「何にしよう…かな?」
和食や中華を中心に様々な料理がメニューに並ぶ。目移りして迷うユウ。
「じゃあ、これにしようかな…」
「ん? 量多くないか?」
「『ミニ』だから多分大丈夫だよ」
ユウが選んだのは、『ミニタレかつ丼とミニへぎそばのセット』だ。少しお腹も空いていたし、もし食べきれなければ『奥の手』も…。
「俺はこれでいいや」
セイゴロウが選んだのは『麻婆拉麺』。
店員を呼び、料理を注文。
「最近麻婆拉麺ってこの辺りで人気みたいだね」
「背脂ラーメンとか濃厚味噌とかあっさり醤油とか、もともとこの街はラーメンの旨いのが多いからな。昔近所にあった店が出してた、干鱈をダシに使ったラーメン、俺はあれが今でも一番旨いと思ったよ。お前、ちっちゃい頃食わなかったか?」
「そんなの覚えてないよ」
クスッと笑うユウ。確かに子供の頃、家の近所にラーメン屋さんはあったが、何年も前に閉店してしまっている。
「ところでユウ、母さんとはうまくやっているか?」
「…う~ん」
言葉を詰まらせるユウ。
「…前みたいにもの凄いヒス起こすことは無くなったけど、とにかくあたしに干渉してくるの。どうでもいいような細かいことまでグダグダネチネチ言ってきて…。あたしもよっぽど我慢してるんだよ」
「ふむ」
「昨日だって部屋のドアをあたしが閉め損ねて完全に閉めないまま出て行ったのをぶち切れして『きちんと閉めなさい』とか言うのよ。自分だって閉め損ねて放置すること結構あるくせに。あと、黙ってあたしの部屋に入って掃除とかして勝手に物動かしちゃったりして…。あたしにだって自分の部屋は掃除してるし、あまり見せたくないものだってあるの。プライバシーも何もあったもんじゃ無いよ」
「ふーん」
「あたし、正直言って、まだ母さんから『お灸をすえる』って根性焼きされたの、まだ根に持ってるよ。母さんにそんな思いを抱えるの凄く嫌だけど、やっぱりあたしにとってはあれはトラウマなの。あの時父さんが母さんに色々言ってくれたことには本当に感謝しているけど…」
「そんな事もあったな」
「とにかく、母さん自身が完璧でも何でも無いのに、まるで自分が全能の神みたいにあたしを叱りつけるのがたまらなく嫌なの。言葉や態度に一貫性もないし、あの人の気分を伺いながら生きるなんて辛すぎるよ。高校卒業したら、家を出たい。母さんと同居生活するの、ほとんど罰ゲームだよ」
「うーん…」
「お待たせしました。ご注文の品をお持ちしました」
店員が注文した料理を持ってきた。ユウとセイゴロウの前に料理が並べられる。
「あと…」
「ひとまず食おうか。話は後にしよう」
ユウの言葉をセイゴロウは遮った。そして二人はそれぞれの料理を食べ始める。
「麻婆拉麺、辛くない?」
「いや、他の店よりは食べやすいな。旨い」
「あたし辛いのイマイチなんだよね」
「これなら食えると思うぞ。スープ飲んでみるか?」
「いらないよ…」
苦笑いするユウ。セイゴロウが冗談で言っているのはユウも百も承知。
ユウは先にタレかつ丼を食べ終えた。残るはミニへぎそば。だが…。
(奥の手、使うか…)
ユウはペンダントを一瞬だけ握る。その瞬間、ユウの胃に少し余裕ができた。そして残っていたへぎそばを美味しく頂く。
「アイスコーヒーでも、飲むか?」
麻婆拉麺を既に食べ終えていたセイゴロウがユウに声を掛ける。
「…うん」
セイゴロウは店員を呼び、アイスコーヒー2つを追加注文。ついでに食べ終わって空いた2人の食器を下げてもらう。
「全部、食えたな」
「若いもん」
無邪気に笑うユウ。奥の手…魔法を使ったのはもちろん秘密。
ほどなくアイスコーヒーが席に届く。同時に店員はお冷やも継ぎ足してくれた。
「ユウ、お前の言いたいことはだいたい判った」
「母さんは、自分が間違ったことをしたとしても絶対に謝ってくれない。それがあたしには許せないの」
「…まだその癖は直ってないんだな。…あいつも年相応に丸くならないといけないのに、変なところで突っ張ってしまうから」
「でしょ!」
「ユウ、人ってのは誰だって弱いもんだ。そして誰だって間違いを犯す。それはたとえ親であってもだ。俺も別れる前に散々間違いを犯したし、母さんだって間違いを犯してきた。誰にも迷惑を掛けずに生きてきた人間なんて一人もいない」
「うん」
「でもな、『謝る』ってのは『恐怖』になることもあるんだ。お前も小さかった頃そういう経験が有っただろ。覚えているか? お前が家の玄関のガラス割ったときのこと。お前はビクビクしながら俺と母さんに告げてきたよな。でもお前は謝らなかった。だから俺は怒った。あの時何故お前自身が謝らなかったか、覚えているか?」
それはユウが小学4年の頃の出来事、母親に叱られ、外に出されてしまった際、ユウは腹いせに玄関の扉を蹴り、はめ込まれていたガラスを割ってしまっていた。
「…あの時は、まさかガラスが割れるなんて思ってなかったし」
「あの時お前は『謝る』事に激しく恐怖を感じていたんだよ。『謝る』事が『自分を否定することになってしまう、母さんに負けてしまう』って恐怖を感じていたからだろ」
「…そうだったかも」
「今の母さんもある意味そうだよ。お前に意地でも謝らないのは『親としてのプライド』と『お前に負けてしまうことに対する恐怖感』があるからだよ。親ってのはもの凄いプレッシャーなんだ。親は子供をきちんと育てなきゃならない。子供がとんでもないことをやらかしてしまったら、親が周囲から責められて、子供の責任を取らなきゃいけないんだ親は子供をきちんと育てなきゃならない。子供がとんでもないことをやらかしてしまったら、親が周囲から責められて、子供の責任を取らなきゃいけないんだ、わかるだろ」
「…うん」
「母さんは親だからこそ、お前に対しては厳しいことを言うだろう母さんは親だからこそ、お前に対しては厳しいことを言うだろう。それは母さんがお前に対する責任を一身に負っているからだよ」
「…」
「確かに母さんは気が短くてせっかちだし、すぐ感情的になる。でもそれは母さんの持って生まれた特質だし、今更それを変えるのも難しい。母さんの持って生まれた特質だし、今更それを変えるのも難しい。だがな、ユウ。お前は賢い。上手く立ち回れば『母さんを手懐ける』ことだって出来る筈だ」
「『手懐ける』だなんて、まるで動物の調教師みたい」
「…まあ、言い方はアレだが、お前が逆に母さんの立場を理解した上で、母さんの行動を先回りすればいいんだ。お前の掌の上で母さんを踊らせる…そんな感じだ。そうすれば母さんは喜んでお前を助けてくれることになるだろう」
「あたしにできるかな…そんなこと」
「できるさ。お前も今、読書部の部長なんだろ」
「え、あ…うん」
「『長』がつく…人の上に立つってことは色々苦労も伴うだろ。部員を動かすのは大変だろ」
「まあ…」
「子に対する親もそれと同じだ。だが子は育ちやがて大人になる。上下から対等になり、やがてその立場は逆転する。いずれお前は親を支える立場になる。今からその練習を始めればいいんだ」
「…」
「人の上に立つってのは大変なことだ。みんなの意見を調整しなきゃいけないし、『こうしたい』と行動しても大抵それに抵抗する『揺り戻し』ってのが起きる。でもそこで怯んではダメなんだよ。お前自身が正しいと信じていることなら、多少の『揺り戻し』や軋轢があったとしても、それをやり遂げる強い意志が必要なんだ」
「『強い…意思』か…。あたし結構優柔不断なところがあるし…」
「それは『優柔不断』なんじゃなくて、『争うのが怖いから、面倒なのが嫌だから、争いから逃げている』だけなんじゃないのか?」
「…」
ユウ、セイゴロウの鋭い指摘に何も言えない。言われたとおりだ。
「臨機応変に対応を変えることも時には必要だ。でも『面倒ごとが嫌だから争いから逃げる』のは良くない。信念があるなら、面倒ごとや争い事があっても、それには立ち向かわなければいけないよ」
セイゴロウの言葉がユウの胸に刺さる。
「あたしに…できるかな?」
「最初は上手くいかないだろう。失敗するだろう。人間誰しも最初から何でもうまくできるわけじゃない。でもその失敗を繰り返せば成長として積み重なって、いつかできるようになるんだよ」
「失敗しても…いいのね」
「大いに失敗しろ。それは全てお前の財産になるんだからな」
ユウの中で色々と貯まっていたプレッシャーが氷解したような気がした。
「…ありがとう、父さん」
ユウの目からいつの間にか涙がこぼれていた。
「あ、俺、何か変なこと言ったか」
「ううん、嬉しいの。あたし凄く嬉しいの。あたし、父さんの子供で良かった…」
少しの間ユウは泣いた。全ての不安を涙で溶かすように…。
ちなみに、このシーンを透視していたユニやレミアも涙で顔を濡らしていたのは言うまでも無い…。
少し時間をおいて、ようやくユウは平静を取り戻す。
「それじゃ、そろそろ出ようか」
「…もう、帰る?」
「いや、せっかくだ。夜景でも見に行かないか?」
「夜景?」
「コンベンションセンターの最上階で」
コンベンションセンターは街の中心部にある。そこにある都心部で屈指の高層ビルの最上階からは港や街の美しい夜景を観ることができた。
「行きたい…」
「決まりだ。行こう」
ユウは再びセイゴロウの白いライトバンに乗り、都心部へと向かう。高速道路のような広いバイパス道路をしばらく走り、都心へと向かう幹線道路へ、そして都心中央部を流れる大きな川沿いの道へと進み、河口のフェリーターミナルの隣にあるコンベンションセンター前の駐車場に車は到着。空には幾つも星が輝く。そして目の前にそびえる高層ビル。
「行こうか」
セイゴロウはトレードマークの捻りはちまきを取っていた。
2人はコンベンションセンターへと向かう。そして建物の中にある屋上階専用のエレベーターに乗り最上階へ。エレベータを降りて少し歩くとそこに見えていたのは…。
「わぁ…綺麗」
ユウは美しい夜景に見とれる。
「家は向こうの方かな?」
セイゴロウが指を差す。
「う~ん、どうだろう。わかんない」
『ちょっとズレているかも…』と思いつつも、あえて口にしないユウ。
「そういえば父さん、はちまき取ったの?」
ユウがセイゴロウに尋ねる。
「そりゃあ、せっかくのお前とのデートだからさ」
「え?」
一瞬きょとんとするユウ。
「じょ、冗談は止めてよ」
「ハハハ、でもお前、母さんの若い頃によく似てきたな」
その言葉に戸惑うユウ。
「やだ、あたしどう返したらいいの?」
ユウ、完全にうろたえる。
「お前は俺の大事な娘だ」
ユウを横からぎゅっと抱き寄せるセイゴロウ。
「父さん…ちょっと恥ずかしいよ」
照れるユウ。セイゴロウはユウから離れる。
「そういえば角海君とは上手くやっているのか?」
「え? 別に…」
「彼と付き合っているんじゃないのか?」
「はへ?」
頓珍漢な声を上げるユウ。
「そ、そ、そんなの…何にも無いよ」
「顔が赤いぞ」
「やだ、父さんったら…いじわる」
「ハハハ。でも彼はいい奴だと思うぞ」
「…か、彼は、今は友達です!」
「今は…な」
「もう!」
思わずユウはセイゴロウの身体を軽く叩く。
「何かいい話が出てきたら教えてくれな」
「…」
ぷーっとふくれるユウ。セイゴロウはニヤニヤしながらユウを見つめていた。
2人はコンベンションセンターを出て高速道路を走り、約40分ほどでユウの自宅前に到着した。
「父さん、今日はありがとう」
「こちらこそ…」
「これ、父さんに…」
ユウはハンドバッグの中から小さな化粧箱を取りだし、セイゴロウに渡す。
「もらっていいのか?」
「うん」
ユウはハコをセイゴロウに渡した。
箱にはリボンが掛けられており、大きな窓が設けられている。その窓から見えるのは、「おとうさん がんばって!!」という文字が描かれた、白いタオル。
思わず顔がほころぶセイゴロウ。
「…ありがとうな」
満面の笑みを浮かべつつも,少し恥ずかしそうなユウ。
「じゃ、あたし帰るね」
「母さんによろしくな」
「うん」
ユウは車を降りて家の中へ向かう。振り向いてセイゴロウに手を振った後、ユウは家の中に入った。セイゴロウはそれを見届けると、もらったタオルを助手席に置く。そして車は静かに走り去った。
「ただいま」
家の中に入ったユウ,母のいるリビングに顔を出す。母は何をすることもなく、テレビを見ている。
「おかえり。父さんに会ってきた?」
「…うん」
「元気だった?」
「うん」
「そう…。お風呂まだ火がついているわよ」
「ありがとう…」
ユウはリビングを去る。さすがに父のことをあれこれ話せる雰囲気では無さそうだ。
ユウは自分の部屋のドアを開け、中に入る。そしてドアを閉めた直後…。
「ゆうちゃ~ん…」
人間サイズのレミアが突然ユウに抱きついてきた。
「…もしかして、ないてる?」
確かにレミアは涙を流して泣いている。
「な、何があったの?」
「ユウ、あなたの感動ドラマにレミア、どハマりしちゃったのよ」
しばらくユウは、ユニの言っていることが分からなかった。
「もしかして、透視であたしのこと見てた?」
「全部ね。最初から最後まで…。心の中まで全部」
ユウはまだ泣き止まないレミアの頭を優しく撫でる。
「ゆうちゃん…。あたしゆうちゃん大好き」
「どうしたのいきなり」
「あたし、ユウちゃんと別れたくない!」
レミアの言葉にユウも胸が熱くなる。あと2ヶ月ちょっとで2人は別れる運命にある。
「あたしだって、れーちゃんと別れたくなんてないよ。でもあなたには大事な役目があるんでしょ」
「そんなのどうでもいい! ゆうちゃんといたい!」
「…困った子ね」
その時レミアの身体が光を帯び始めていることにユニが気づく。
「やば、魔力暴走し始めてる」
ユニがレミアの魔力暴走に介入し、抑え込もうとした。しかしユウがユニの方に視線を向けウィンクをする。
「…受け入れる…つもり?」
ユニはユウの心を読む。ユウも多少レミアの魔力暴走の影響を受けているようだ。しかしユウはそれも優しく受け入れようとしている。周りに被害が及ばない限りなら、今はレミアの感情の赴くままを受け止めたい…そういう意思がユウの中に明確に表れていた。
「…なら、割って入るのは野暮か」
諦めるユニ。レミアの魔力暴走はさらに強まり、いよいよユウの意識を飲み込み始める。
光の中で向き合うレミアとユウ。2人の顔が次第に近づく。そしてついに互いの唇同士が…触れた。
「あ~、見てらんないよ!」
両手で顔を覆い照れ笑いするユニ。
「この、幸せ者が!」
ユニの捨て台詞がレミアとユウに届いたかどうかは定かではない。
約30分間、レミアの魔力暴走は続いた。
そしてレミアが気を失ったところで、魔力暴走はようやく止まった。
ユウもその場にへたり込む。
顔を覆っていた手を下ろし、少しあきれた顔でユウの方を見るユニ。
「まったくあなたって子は…」
ユウは反応する気力もあまりないらしい。しかしそれでも笑みを浮かべる。
ユニはユウの首に下がっている魔法のペンダントを左手で指さす。
「そのペンダントのネックストラップ、もう少しおしゃれにしてあげるね」
ユニの左手人差し指が一瞬光ると、ユウのペンダントのネックストラップは木の玉がついた茶色い紐から、シンプルな細いシルバーのチェーンストラップに姿を変えた。
ペンダントをつまみ上げストラップを確認するユウ。
「…ありがと。今日は疲れた…」
そう言い残してユウも眠りに落ちた。




