Phase22. 落とし前
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
シーベランドの受付窓口前。
シーベランド内へのドールの展開を無事終え、受付窓口の外に出て来たレルフィーナ。その顔は一つの仕事をやり終えたという満足感に満ちていた。
程なく幻想王国側に飛んでいた分身のレルフィーナが瞬間移動で現れる。
「お疲れ様。何だかとても大変だったみたいね」
「ただいま~。そちらも大仕事お疲れ様」
「ゼルコヴァさんは?」
「早速向こうで仕事始めてる。人間界には戻らないって」
「そう、無事通信も通じたみたいだしね」
「あたしもどうなるかと思っちゃったよ。まさかあんなに古いコンピューター使ってたなんて思いもしなかったもの」
クスクス笑う分身レルフィーナ。
「じゃあそろそろあたしの身体に戻る?」
「そうね。ところでククは?」
「それが見当たらないの。さっきまで凄い戦闘していたことまではあたしも把握していたんだけど…」
「ま、ちょっと遠くに行ってるんでしょ。すぐ戻るよ」
「そうね」
「それじゃあたしを取り込んで」
「いいよ、おいで」
その言葉を合図に、幻想王国で奮闘した分身レルフィーナはシーベランドに新たな通信網を構築したレルフィーナの中に取り込まれた。
「さてと…」
レルフィーナはテレパシーを駆使してククの居場所探索を試みる。しかしククの姿を捉えることはできなかった。
「どこ行っちゃったんだろう…」
その時だ。
「!」
レルフィーナの周囲に妙なエネルギーがまとわりつき始める。
「何これ? 何これ!」
レルフィーナはあっという間に妙なエネルギー体に完全に包まれた。視覚・聴覚・嗅覚に異常はない。ただ、色も形もない妙なエネルギー体がレルフィーナを包んでいるのだ。やがてそのエネルギー体の外側らしき所に透明な膜が現れる。まるで透明な玉にレルフィーナが包まれたかのようだ。
<瞬間移動してみよう>
レルフィーナは玉の外への瞬間移動を試みた。しかし瞬間移動が…できない!
<え? 何で?>
レルフィーナが少しうろたえ始める。
その時、玉の外にふっと姿を現したのは…。
「クク! あたしをここから出して! あたし瞬間移動ができなくなっちゃったの」
ククはレルフィーナの方を向く。
「ごめんね。でも今はできない」
「え? どうして?」
「これから私がやろうとしていることを、あなたに妨害して欲しくないから」
「あたしが…妨害?」
「今あなたに掛けたのは『夢封じ』よ」
その言葉を聞いてレルフィーナは絶句した。『夢封じ』と言えば、かつてレルフィーナが魔界で捕らえられた時に使われた黒いエネルギー体でできた檻。その中ではレルフィーナは持ち前の魔法や超能力を一切使えない。しかし今回は同じ『夢封じ』でも外見が全然違う。
「以前ジェノ様が使った『夢封じ』は檻状のもの。でも今回私が作り出したのは透明で分厚いエネルギー体。あなたには絶対破れない『絶対夢封じ』なの」
衝撃的なククの言葉にショックを受けるレルフィーナ。
「…一体何をするつもりなの?」
「私はジェノ様から命令されたんだよ。『シーベランドを滅ぼせ』ってね」
「だめ! そんなことしちゃ絶対駄目!」
「レルフィーナ。シーベランドは魔界に対して宣戦布告をしたんだよ。その宣戦布告の意味はもの凄く重いことだよ。宣戦布告には当然ながら『布告した側』には重い責任を伴う。そして今なお、シーベランド側から魔界に対しては『宣戦布告』の撤回は行われていない。だから『シーベランド』には自分達がやったことの落とし前をつけてもらわないといけないの」
「そんな…」
愕然とするレルフィーナ。
「…でもあなたに免じて、シーベランドを完全に滅ぼすことだけは止めてあげる。あなたの面子もあるでしょうから」
薄ら笑みを浮かべるクク。
「…それって」
「ええ…ジェノ様からの命令には背くことにはなるわね。でもレルフィーナ、あなたには恩義もある。ユウが私を助けてくれた恩があるからね」
レルフィーナは思い出した。以前サツキの中にいたユウの血が、レルフィーナのコスチューム姿となってヨシエの前に現れ、ヨシエに掛けられた石化を解いたことを…。
「クク…」
「だから私はシーベランドには留目は刺さない。それがあなたへの恩返し。これでチャラよ。私もあなたがやったことの成果を信じたいからね」
そう言い残してククはレルフィーナに背を向けると、シーベランドの高い防壁に向かって歩き出す。そして防壁の前に立つと、右手を防壁に押し当てた。
「何をするつもりなの?」
「見ればわかる」
ククがそう言い放った直後、ククの両目が赤く光り、身体から不気味ささえ感じさせる真っ赤なオーラを吹き出した。その瞬間、ククの周囲半径4mほどが赤く変色しドロドロと水飴のように溶け始めた!
「!」
そのあまりの不気味さに言葉を失うレルフィーナ。ククが機甲軍団に対して溶解の攻撃をしていた事はレルフィーナもテレパシーで知覚していたが、直接その光景を目の当たりにすると、その不気味さは段違いだ。
ククは防壁にトンネルを掘るかのように防壁を溶解させながら前進していく。トンネルの大きさは人間界で言えばトラック1台が余裕で通行できるほどの大きさだ。溶解によって発生した大量の水あめのような物体はククの魔力によって消滅してしまい、ククの行く手を遮ることはなかった。
夢世界においては能力や魔力によってこんな防壁ももろともせず行き来する者は少なくないはずだ。シーベランド自身も空間転移を応用して人間界に攻撃を仕掛けている。だが防壁に穴が空くというのは物理的防御力の低下にもなり、シーベランドには大きなダメージになるだろう。
やがてククは分厚い防壁に小さな穴が空き、それが徐々に広がっていく。防壁の前に現れたのは膨大な数のサーバー群、新旧入り乱れた多数のパソコン、山のように積み上げられた旧式の携帯電話やスマートフォン、そして多数のロボットや電子機器が存在する。機器は無数の有線・無線で繋がれ、まさに混沌という状況がふさわしい。防壁に穴が空いたところで、それらを破壊しない限り先に進むことはできない。ククの周辺からは、大きなファンの音やアラーム音が鳴り始めていた。まるで堆く積まれた機器達が怯えて悲鳴を上げているかのようだ、
巨大なトンネルを完成させたクク。そこで歩みを止めた。全身を纏っていた赤いオーラは消え、赤く光っていた目も元に戻る。
「魔界に刃を向けた者達よ、罪を償いなさい!」
ククがそう宣言した瞬間、ククの全身から凄まじい量の黒い霧が沸き上がった。
「受けよ、『自滅の呪い』」
ククのその言葉と同時に、黒い霧は意思を持つかのように凄まじい勢いでシーベランド全体に流れこんでいく。うずたかく積まれた機器群の中にも黒い霧は隙間を通して深く深く浸透していく。
完全に深層部まで浸透した黒い霧は、間もなく何事も無かったかのようにすーっと姿を消した。あちこちでアラームやファンの音がけたたましく聞こえてもいるが…。
全身を纏っていた黒い霧が消えたククは、その様子を見届けたあとくるりと振り返り、外へと歩き出す。その表情は目的を達成した後の充実感に溢れていた。
一方『絶対夢封じ』の中に閉じ込められていたレルフィーナ。何と『絶対夢封じ』の中で倒れ、もがき苦しんでいた。
「ううう…」
苦悶の表情を浮かべ悶えるレルフィーナ。今の状況は『絶対夢封じ』による影響ではない。実はレルフィーナが決断した『ある選択』によるものだった。レルフィーナはこの『絶対夢封じ』から脱出するために危険な賭けに挑んでいたのだ。
そこにトンネルの中からククが出てきた。一瞬倒れているレルフィーナの様子に驚きの表情を見せつつも、くるりとトンネルの入口の方に向き直る。そしてトンネルの入口の方に向けて両手を差し出した。
その瞬間、ククの身体から膨大な魔力があふれ出し、トンネルの開口部全体を覆う。やがてその魔力は巨大な木製の扉へと姿を変えていく。巨大な扉の右隅には、人間一人が通れそうな小さな扉も設けられた。
扉を作り終えたクク。再びレルフィーナの方を向く。しかしそこには信じられない光景が展開していた。なんとさっきまで純白のスーツを纏っていたレルフィーナの姿が、得体の知れない真っ黒な物体に姿を変えていたのだ。それはやがて、新たな形へと変化していく。それは、何もかもが真っ黒な…レルフィーナの姿。 そう、かつてユウが自分自身の中に取り込んだ『ダークネス・レルフィーナ』そのものだ!
ダークネスは赤く光る目を開け、ゆっくりと立ち上がる。そしてその瞬間『絶対夢封じ』はまるでシャボン玉が弾けるかのように、粉々に砕けて消失した。
「あなたは…」
ククはジェノからダークネスのことは聞いていた。以前ジェノがレルフィーナの体細胞を魔の力で培養して生み出した、魔界最初の魔法少女。そのダークネスはユウによって殺されたと聞いていた。
ククの方を見て、にやりと笑うダークネス。
「いい戦いっぷりしてたわね。後輩の魔法少女さん」
「…あなたはもしかしてダークネス・レルフィーナ? …殺されたんじゃ無かったの?」
ククは身構える。ダークネスの強さはククも十分承知していた。
「誰だいそんなデマ流したのは? あたしはこの通りまだ生きてる。ユウやレルフィーナがあたしを殺せるわけ無いじゃない。ユウの策にはめられて取り込まれただけ。そして今度はあたしを『夢封じ』を破壊する道具として呼び出しやがった。全くワガママで汚い女だよ」
そう語るダークネスではあった。しかしククには彼女がそれほど怒りを露わにしているようには見えなかった。
「ねぇ、あなた。ククリアーネ…だっけ。せっかくの初対面だし、2人で力比べでもしない?」
「…?」
ダークネスがククの方に右手を突き出しぎゅっと拳を握る。その瞬間、ククの身体を凄まじい念力が襲い、ククの身体をグイグイと締め上げていく。
「そういうことなら…」
ククも右手をダークネスの方に突き出し、ぎゅっと拳を握る。ククの凄まじい念力がダークネスをグイグイと締め上げていく。
「いいねいいね! たまらないねこの強さ! でも、あんたの力はこの程度かい? まだ本気出してないでしょ!」
ダークネスはニヤニヤしながらククを挑発。
「これでどう!」
ククの全身から赤いオーラが一気に吹き出し、ククの目が赤く輝き出す。と同時に、ククの念力が桁外れに強くなり、グイグイとダークネスを締め上げる!
「そう、これだよ! この本気を待っていたんだ!」
ダークネスは苦痛で顔を歪めるどころか、まるで快感を味わっているかのような歓喜の表情…。
「これであたしも本気になれる!
そう告げた瞬間、ダークネス体から真っ黒なオーラが吹き出し、ダークネスの目が煌々と赤く輝く。そしてククを締め付ける念力の強さも桁外れに跳ね上がった!
あまりの苦痛に顔を歪め始めるクク。しかしダークネスの快楽を味わう表情には歪みが無い。この力比べはダークネスの勝利に終わるのか…。
その瞬間、ダークネスの姿に一瞬ノイズが走った。その直後、ダークネスの念力は急速に力を失う。
「ダークネス!」
慌ててククも念力を緩める。二人とも全身から放っていたオーラは消え、目の色や光の放ち方も平常時の状態に戻った。ククがその場に倒れたダークネスに近寄り心配そうにダースの様子をのぞき込む。ダークネスの体にはなおも時折白いノイズのような物が走っていた。
「ダークネス、大丈夫?」
苦笑いを浮かべるダークネス。
「どうやら活動限界が来ちまったらしい…。悔しいね…。でもあんたとの力比べ、楽しかったよ。今回はあたしの負けだ」
ふう、と一息つくダークネス。なおも姿に白いノイズが入る。ノイズはだんだん多くなっていく。
「あたしはもうすぐあの白い女の姿と入れ替わる。その前に一つだけ…。ククリアーネ、あんたは強い。そしてジェノの坊主の手駒で終わるタマでもない。あんたは自分の力を有効に生かしな。後輩としてあんたが出てきたことを、あたしは心の底から誇りに思うよ」
「…ありがとうございます」
「…じゃあな、あばよ」
ダークネスがそう言い残すと、気を失った。その瞬間全身に凄まじい量のノイズが走り、その姿が徐々に気を失ったスーパーシャイニング・レルフィーナの姿に戻っていく。
目を覚ますレルフィーナ、目の前にククがいることに少し戸惑いの表情を見せる。
「あ…」
「気がついた? あなたがダークネスになっていたときの記憶ある?」
「…ごめん。全然無い。ダークネス、あなたに何か酷い事した?」
「ううん、とっても優しかったよ」
「そう…」
レルフィーナは全身に原因不明の痛みがかなり残っていることに気づいていた。痛みそのものは治癒能力でいずれすぐ消えるとは言え…。レルフィーナはその事をあえてそれ以上追求することはしなかった。
はっと気づいてレルフィーナが飛び起きる。慌ててククも飛び退く。
「クク! そういえばシーベランドはどうなったの! どこまで攻撃したの!」
「…どこまで覚えてる?」
「あなたが防壁をドロドロに溶かしてトンネル掘って…」
レルフィーナはククが掘ったトンネルの方に視線を向ける。そこには大きな木製の扉がトンネルをしっかり閉ざしていた。
「あの扉、あなたが作ったの?」
「ええ。掘りっぱなしでも良かったんだけど、さすがに無防備すぎるから…」
「そう…そこまで気を使ってくれたのね。ありがとう。…あと、あなた向こうで呪いを掛けていたでしょ! あれはどうなの? 酷いことになるんじゃないの?」
首を横に振るクク。
「確かに呪いは掛けた。『自滅の呪い』っていうのをね」
「そんな…」
ショックのあまり顔を両手で覆うレルフィーナ
「それじゃあシーベランドはいずれあなたの呪いで滅んでしまうの!」
「違う違う、よく聞いて!」
両手を降ろすレルフィーナ。目にはうっすらと涙が滲んでいる。
「今回の『自滅の呪い』は特殊な掛け方をしているの。攻撃的な思想や過激な思想を持つ存在にだけ呪いが発動するようにしてある。それ以外には呪いは発動しない。だから呪いが発動するのはごく限られた存在に限られるわ」
「…ねぇ、最初は発動対象になったとしても、途中で考え方が変わったらどうなる?」
「途中で考え方が変われば呪いの発動はそこで止まる。あと呪いの有効期間もおおよそ5年で止めている。1年ごとに呪いが弱くなるようにもしている」
「そう…。あたしとしては呪いを掛けられた事そのものはとても不本意だけど、ククはそこまで抑えてくれたのね。…ありがとう、感謝するわ」
少し安堵するレルフィーナ。ククに頭を下げる。
「…でもクク、あなたそれで本当に良かったの? あなたジェノから『シーベランドを滅ぼせ』って命令されたんでしょ。何か罰でも受けるんじゃないの?」
ククを心配するレルフィーナ。
「…まぁ、小言は言われるだろうね」
クク、苦笑い。
「でもあなたがシーベランドにしたことは、シーベランドを無害化させるのに十分役立つはずだよ。それにこれももらったし…これはジェノを説得する材料にも十分なるし」
ククがレルフィーナからもらったドングルを取り出し、レルフィーナに見せる。
「レルフィーナ。あなたがやったのは、色々と革命的なことだと思うよ。それも平和的な革命ね」
ククはドングルを自分のウェストポーチに再びしまう。そしてゆっくり立ち上がった。
「それじゃ私、ここから直接魔界に帰るよ。人間界のみんなにはよろしく言っといて」
「サツキには挨拶しなくていいの?」
「大丈夫。彼女とはテレパスリンク繋いでるから、いつでも会話できるし…。そうだ、私、あなたともテレパスリンク繋いでいい? お互いその方が便利でしょ」
「ちょっと待ってね…」
レルフィーナは少し考え込む。何しろ今のスーパーシャイニング・レルフィーナはミズキとレミアの融合体。そのレミアも素のユウとレミアが融合したレルフィーナの再変身した姿…と言う段階を追っているので、テレパスリンクのつなぎ方が複雑になるのだ。何とか調整をして、ククと全員がテレパスリンクで上手く繋がる算段を済ませる。
「OK、大丈夫。私の方から繋がせて。全部で3本同時に繋ぐから」
「3本?」
「ごめんね。あたし融合体だから繋ぎが複雑なの。ミズキ、レミア、ユウの3本分を同時に繋ぎたいの」
「そっか。じゃ、お願いするわ」
レルフィーナは立ち上がり、自分の右人差し指をククの額に当てる。その瞬間、3本のテレパスリンクが同時に繋がった。
「OK。やっぱり融合体のテレパシーって賑やかだね」
微笑むクク。
「ごめんね~」
両手を合わせてククに詫びるレルフィーナ
「クク。あたし達、また会えるかな」
「できれば楽しいことで会いたいね」
「…早く人間界に戻れるといいね」
「う~ん、どうかな? 魔法少女にもなれたし、これからの事は色々考えてみるよ」
「そう…」
右手をレルフィーナに向かって差し出すクク。
「それじゃお別れ。色々ありがとう」
「…また…きっとまた会おうね」
レルフィーナも右手を差しだす。互いに固い握手。
手を離すとククはレルフィーナに背を向けて歩き出す。その先に魔界へと通じる光のゲートが出現。ククは背中越しにバイバイをしながらゲートへと向かい、最後にちらっとレルフィーナの方に視線を向けてゲートの中に吸い込まれる。
そしてゲートは消失した。
「さてと…あたしもかえ…?」
何気なくククの掘ったトンネルに設置された木製の扉の方へ視線を移すレルフィーナ。するとその扉の前に見知らぬ人物が立って興味深そうにその扉を眺めていた。…よく見ると、立っているのは女性のようだ。ふんわりとしたウェーブのかかったピンク色のロングヘアに、ベージュのセーターとブラウンのふんわりとしたスカート、そしてブーツというナチュラルで暖かみのある服装。一般の市民だろうか? …しかしこのシーベランド周辺には人間が住む居住地はない。一体どこから…?
「…あの」
その女性に声を掛けるレルフィーナ。女性はくるりと振り向く。非常にチャーミングで親しみやすい笑顔の少女。ちょっぴり抜けたところがありそうな雰囲気がまた愛嬌を感じさせる。そして首から下がっているのは大きな緑色の宝石をあしらったペンダントは何となくレミアを彷彿とさせる。
「レルちゃん! おつかれさま! ずっとずーっと見てたよ!」
その少女は満面の笑みで駆け寄ってレルフィーナに抱きついた。突然のことで何が何だか分からず戸惑うレルフィーナ。
「あ、あの…」
レルフィーナはふとあることに気づいた。少女が人間界の言葉…それも日本語を流暢に話していたのだ。
「あなた…もしかして人間界の人ですか?」
少女は不思議そうな表情をしているレルフィーナの顔を見てにっこり微笑む。
「ううん違うよ。私こっちの世界の子。ここからずーっとずーっと遠くにある幻想王国ってところの子」
その言葉にレルフィーナは耳を疑った。
「ちょっと待って。夢世界の人がなんで人間界の言葉…しかも日本語を流暢に話せるの?」
少女、ようやくレルフィーナから離れる。
「ん~と、『レルちゃんと同じ言葉で話したい』って思ったら、今の言葉で話せるようになったの」
レルフィーナは『あれっ?』っと思った。レルフィーナの能力は『自分の願いを即現実にできる』こと。彼女の発言が本当だとしたら…。
「あと…あたし、あなたと今まで一度も会った記憶が無いんだけど…」
「…そっか、初対面だもんね!」
何の屈託も無く答える少女。
「でもあなた、あたしをずーっと見ていたんでしょ? 失礼かもしれないけど、あなた、誰? どこであたしを見ていたの?」
「そっかぁ~、それもそうよね」
頭をかきながら照れるような仕草を見せる少女。
「あたしの名前はユニム・コーリア。長いからユニって呼んで。あと、レルちゃんを見ていた場所は、さっきも言ったとおり、ここからずーっとずーっと遠くにある幻想王国ってところ。私、そこで一応、女王って役目をしているの」
「えーっ! じょ、女王様!」
たじろぐレルフィーナ。
「あー、ダメダメッ。私、かしこまられるのがすーっごく苦手なの。私そんなに偉くないし! だからレルちゃんは私と普通にタメで話していいよ」
「…いいの?」
「うん! 遠慮しないで!」
改めてユニの姿をしげしげと眺めるレルフィーナ。確かに『女王』という風格はまるで感じられない。どこにでもいそうな少しおっちょこちょいそうな気さくな女の子。着ている服装も至って庶民的で、落ち着いたクリーム色の厚手のセーター、ブラウンのティアードスカート、ダークグレーのタイツ、ブラウンのショートブーツという出で立ち。
「…で、いつから私を見ていたの?」
「ずーっと。レミアちゃんがユウちゃんと出会う頃からだよ」
ユニは自分の顔の横で左人差し指を立てる。すると指先が光を放ち、その頭上にユウ・レミア・ミズキ・レルフィーナのこれまでの歩みが次々と表示される。自分達が経験した過去が次々と映像化され感心するレルフィーナ。
「…これって、本当にあなたが見たの? あたしの記憶を読んでいるんじゃ無くて?」
「あなたはまだ私を信用してないでしょ? だから私はテレパシーであなたの記憶を読めないよ」
ユニの言葉にレルフィーナははっとする。そこまでユニはレルフィーナの特性を見抜いて…。
「だからこの映像は私の記憶から印象的なシーンを引き出しているの」
「ユウとレミアの出会いのシーンも…」
ユニは魔法を止めた。すると頭上に映し出されていた映像も消える。
「でね、レルちゃん。お願いがあるの」
再びレルフィーナにすり寄るユニ。
「な…何?」
「これからレルちゃんは人間界に戻るんでしょ。その時に私も一緒に連れてって欲しいの、人間界に」
「え?」
驚くレルフィーナ。
「私もね、あなただけで無く、向こうにいる人たちにも話さなきゃいけないことがあるの。みんなに関わるとっても大事なことを…」
「大事な…こと?」
「そう。とっても大事なこと」
ユニの顔が急に真剣な表情に変わる。
レルフィーナはユニの心をテレパシーで読もうとする。でもガードが堅くてユニの心が全く見えない。
「あなたを…信用していいの?」
「みんなの未来を左右する大事なこと、それを伝えに行きたいの」
「…」
「無理に…とは言わないよ。ダメならそれでも良い。でもレルちゃんや周りの人には、これから起きることを事前に伝えておきたいの。何も情報が無いとみんなとても困ってしまうはず。事前の情報があれば、対処も楽でしょ」
「まあ…」
「じゃ、お願い」
再び弾けるような笑顔でレルフィーナにすり寄るユニ。
「一緒に…行きましょうか」
「そう来なくっちゃ!」
ユニはレルフィーナからぱっと離れると、自分自身の身体に魔法を掛ける。するとユニの服装が夏用の衣装に早変わり。白い半袖シャツに、薄いベージュのベストを羽織り、足下はタイツが消え素足にサンダルという夏らしい衣装になった。
「確か人間界でレルちゃんがいた所って、確か真夏よね。だから着替えた」
「本当に何もかも知っているのね…」
レルフィーナは笑顔を返す一方、内心少し複雑だった。
<やっぱり能力はあたしとほぼ同じみたい…>
「じゃあ私がゲート作るから…」
ユニは自分の背後に光のゲートを出現させ…。
「あ、そっか。私がゲートを出したらマズいよね。つい出しゃばっちゃって…ごめんなさいね」
慌てて自分が作ったゲートを消すユニ。
「レルちゃん、お願いしていい?」
満面の微笑みでレルフィーナに依頼するユニ。
<この子なりに結構気を使っているみたい…>
「うん、それじゃ…」
そう言うとレルフィーナは自分の背後に人間界への光のゲートを生成した。
「それじゃあ女王様、人間界へ一緒に行きましょうか」
ユニの方へ左手を差し出すレルフィーナ。
「だからぁ…、そう言われるの本当に苦手なんだってば」
苦笑いしながら右手をレルフィーナの左手と繋ぐユニ。
「じゃ、行きますよ」
レルフィーナゲーテの方へと進む。
「お供いたします♪」
にこやかに微笑むユニ。
そして2人は光のゲートに飛び込み、人間界へと旅立った。




