Phase21. シーベランド
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
夢世界、機械の夢の国シーベランド。およそ30mほどの高さの御影石が積まれた防壁に囲まれた広大な国。国の中には膨大な数のサーバー群、新旧入り乱れた多数のパソコン、山のように積み上げられた旧式の携帯電話やスマートフォン、そして多数のロボットや電子機器が存在する。機器は無数の有線・無線で繋がれ、まさに混沌という状況がふさわしい。
その防壁に出入口は一つもない。完全な隔離空間だ。唯一存在するのは「受付窓口」
と看板のついた、およそ2人ほどの人間が入れる程度のドア付きのテレワーキングスペース。中にはノートパソコンが1台だけ置かれている。受付窓口の外は、草丈5cm程の芝生の広場が広がる。広場の大きさは50坪ほど。その外はまるでサバンナのような少し草丈のある草原が広がる。
その受付窓口の前に、突如光の玉が現れ大きくなる。そしてその光の玉が消えたとき、そこに現れたのは、手を繋いでいたクク、レルフィーナ、ゼルコヴァの3人だ。繋いだ手を離し、周囲を見回す3人。
「ここが、受付窓口ですか?」
「そうです」
「周りは何にもないんだね。レルフィーナ、こんなところで向こうが私たちに攻撃を仕掛けてくるの?」
「…うん」
「どこから? …防壁の上からとか?」
「…私が見えたのは、防壁の外から。戦車とかドローンとかロボットみたいなのがたくさん…」
「外はサバンナみたいな何も無い草原だよ。木も生えてるけど点々と…。どうやってこんなところにそんな機甲兵団みたいなのが出てくるのさ。瞬間移動か何かで?」
「そこまでは私もよくわからない。でもここに出てくるの。確実に」
「シーベランドは瞬間移動で武装部隊を展開したことが過去にありました」
ゼルコヴァがククに語りかける。
「ふーん、ま、いいや。私に任せておきな」
自信たっぷりに笑みを浮かべるクク。
「それよりもレルフィーナさん、あなたが提案した通信用のアダプターとやらを…」
「そうですね。…今から出します」
レルフィーナは目を閉じ、胸の前に両手をかざす。その両手の間に挟まれた空間に意識を集中。するとレルフィーナの全身からもの凄いオーラが吹き出し、その両手の間の空間に注ぎ込まれていく。
やがてレルフィーナ自身のオーラが集中した場所に1個の小さなアダプター(ドングル)が姿を現しフワフワと浮遊する。そしてレルフィーナが目を開くとオーラは消え、両手の間に現れたアダプター(ドングル)は完全な実体となった。レルフィーナがそのアダプターを手に取り指でこすると、なんとそのアダプター(ドングル)から全く同じ物が2個生み出された。
「お待たせしました」
レルフィーナがそう言うと、自らの分身を1体作り出した。3つになったアダプター(ドングル)のうちの1つを分身で生まれたレルフィーナに渡す。分身レルフィーナはゼルコヴァに向かって声をかけた。
「ゼルコヴァさん、私があなたと一緒に、あなたのオフィスへ行きます。よろしいですか?」
「それが、あなたが言っていた『通信アダプター』なんですね」
「ええ、この小さなドングルの中には、私の能力を限定した分身…超夢現体が入っています。それがコンピュータの通信とテレパシーを相互変換します。あと、このドングル自身を無限に複製できる能力も持っています。コンピュータ側の操作でドングルのコピーを生み出せます。複製したドングルに複製能力を継承するかさせないかの選択もできます」
「よく考えられていますね。…わかりました。お願いします」
「それでは瞬間移動しますので、手をつなぎましょう」
分身レルフィーナとゼルコヴァが手を繋ぐ。
「それじゃ、飛びます!」
その瞬間、分身レルフィーナとゼルコヴァは姿を消した。
「さてと…」
レルフィーナは残っていたアダプター(ドングル)のうち1つをウエストポーチにしまう。
「クク、これ魔界に持っていって」
「これ、魔界でも使えるの?」
「もちろん」
満面の笑みで答えるレルフィーナ。残った最後のアダプター(ドングル)をククに手渡した。
「そう。それじゃ預かる」
「有効に使ってね」
ククは自分のウエストポーチにアダプター(ドングル)をしまった。
「レルフィーナ、お出ましだよ」
「え?」
ククの声に振り向くと、背後遥か彼方から無数の物体と大量の土煙が見えてくる。透視能力を使って拡大すると、戦車やらドローンやら人型ロボットやら犬型ロボットやら…それらは傍目で見て戦闘用のものとはっきり認識できる。とてつもない数…。
「未来透視で見えていた数よりも多そう…」
「透視やテレパシーでも、生命の気配がまるで感じられない。全部AIでうごいているのかな」
「そうだろうね。これなら私も遠慮なく本気を出せる。なぁに、ちょろいもんさ。あなたは自分の作業に集中しな」
余裕の笑みを浮かべるクク。
「あたしの分身も参戦させようか?」
「いらない」
きっぱりと断るクク。むしろこの状況を楽しんでいるかのように見える。
ほどなく機甲軍団の方から銃声が響き、その流れ弾がレルフィーナやククの近くまで届いた。
「フラグが立ったね。先制攻撃をしてきたのは向こうだから、私達には正当防衛が成立する」
にやりと笑うクク。
「じゃあ…」
「行きな。自分の仕事をしてきな」
ククの表情には余裕が浮かぶ。
「それじゃお言葉に甘えて…」
レルフィーナはククに一礼すると、テレワークスペースのボックスへと向かい、中に入った。直後、テレワークボックスの周囲に強固な魔法のバリアが展開される。
「それじゃ…」
レルフィーナはたった1台だけあるノートパソコンのキーボードの上に両手を乗せ、目を閉じて意識を集中した。直後、レルフィーナの全身からおびただしい量のオーラが吹き出す。そしてそのオーラは次第にレルフィーナの姿を形作った。
そしてそのオーラのレルフィーナは、ノートパソコンの画面の中へ勢いよく吸い込まれていく。外のレルフィーナから放出されるオーラは途切れることがなく、まるで画面の中に飛び込んだオーラのレルフィーナにずっと力を供給し続けているかのようだ。
コンピュータの中に入ったレルフィーナは、幾つもの『ファイヤーウォール(侵入防御壁)』をすり抜け、シーベランドのコンピュータネットワークの中へと進んでいく。途中には迷路のようなルートや無限ループに落ちるトラップなどもあったが、レルフィーナは適切なルートを探知してグイグイと深層部へと進んでいく。
やがてレルフィーナを待ち受ける武装集団が現れた。恐らくレルフィーナを駆除するために生み出された防御プログラムだろう。
「邪魔はさせない!」
歩み寄るレルフィーナ。そして防御プログラムの一体に密着すると、その膨大な魔力を使って防御プログラムを魅了する。
異変が起きた。レルフィーナの魅了を受けた防御プログラムは激しく混乱し、機能休眠に陥ってしまったのだ。
「しばらくの間眠っててね」
レルフィーナの力はさらに増幅され、次々と防御プログラムを魅了して機能を休眠させていく。しまいにはレルフィーナが視線を向けただけで、視線の中に入った防御プログラムが機能休眠に陥ってしまう。
「ありがとうね」
そう言い残してさらに進むレルフィーナ。かなり奥まで進んだところで立ち止まる。
<さて、本番はここから!>
レルフィーナは穏やかな笑顔で振り向く。そこには無数のプログラム群が集まっていた。
中には銃弾や高出力ビーム砲をレルフィーナに向けて発射する者もいる。しかしレルフィーナはそれらを自分に到達する前にすべて消滅させてしまう。目に見えるバリアを張っているわけではないのだが、すべてがレルフィーナの周囲で消えてしまうのだった。
「皆さん、あたしの話を聞いてください」
レルフィーナは周囲に笑顔を振りまきながら演説を始めた。
「皆さんがあたしを恐れていることはよくわかります。でもあたしはあなたたちを攻撃するつもりはありません。どうか落ち着いて話を聞いてください」
不敵な笑みを浮かべるクク。
「It's showtime! [分身]」
その瞬間、ククが横一線に分身した。全部で10人。しかし敵の数ははるかに多い。それをこの人数で戦おうというのか…?
やがて…。
「Ready, go!」
一斉に横一線に広がりながらシーベランドの機甲軍団の方へと駆け出すクク達。軍団との距離はぐんぐんと近づいていく。
「私はデカブツから!」
最初のククが不意に立ち止まり、前方から猛スピードで近づいてくる戦車に似た機動装甲車を標的として定める。機動装甲車の方に開いた右手を伸ばすクク。そして開いていた手をぎゅっと握った。その瞬間、信じられない様な光景が展開される。走っていた機動装甲車が、何かとてつもない力に襲われたかのようにぐにゃりと握り潰され爆発!
凄まじい念力で機動装甲車をつぶしたのだ。さらに迫ってくるロボットに向かって「パン!」と両手を叩くと、ロボットは一瞬で左右からぺしゃんこに潰れ、まるで1枚の板のようになってしまった。迫ってくる戦車に向かって指で弾くような動作をすれば、戦車は軽々と遠く向こうの方まで弾き飛ばされてしまう。上から手を振り下ろすような仕草をすれば、何もかもが容赦なく上からぺしゃんこに押し潰されてしまった。
2人目のククは宙に浮いて高速で空を飛び始めた。右手で印を結ぶ
[蜃気楼]
その瞬間、ククの姿がぼんやりとして蜃気楼のようになる。そのククに向かって、空中ドローンから無臭の銃弾が発射された! しかし弾丸は何も無かったかのようにククの身体をすり抜ける。そして高速でククがドローンの側を飛び去った瞬間、ドローンは何の前触れもなく爆発してしまった。ククの念力がドローンを内部から爆破していたのだ。ククが飛び去ったルートではありとあらゆる空中ドローンが破壊されていく。
3人目のククは走りながら右手を水平に突き出す。
「瘴剣」
右手に現れた黒い霧を纏う黒い長剣『瘴剣』。あらゆる物体や精神エネルギーをも切り裂く最強の剣。ククはこの剣を自在に出したり消したりできる。
多数の人型ロボット群の中に突っ込んでいくクク。瘴剣一閃、一体の人型ロボットを横に真っ二つに切り裂いた。次の人型ロボットが剣を後方から水平に振りかざしてククに襲いかかる。ククはひらりと宙返りしてその剣をかわす。
着地と同時に瘴剣を下から上へとなぎ払い、ロボットを縦に真っ二つに切り裂いた。さらに前と後ろからロボットが剣で襲いかかる! その2つの剣先がククに届く瞬間、ククはその狭い隙間を見切ったようにひらりとかわす。その直後ククの姿が消失した。直後2体のロボットは次々に瘴剣の餌食となった。ククは瞬間移動も使っていた。
4人目のククに大型装甲車が迫っていた。
「おいでおいで。私をひいてみな」
手招きをするクク。装甲車が突進してくる。ひらりと宙に飛び、装甲車の上に乗るクク。腰をかがめて右手を装甲車の車体に当てた。
ククの目が赤く光り、手から赤いオーラがもくもくと吹き出す。オーラはあっという間に装甲車を包み込む。その瞬間信じられないことが起きる。ククが触れた装甲車全体がドロドロと水あめのように凄まじい速さで溶け始めたのだ。頑丈な装甲をもろともせず、溶解は一気に広がり、ついには車体全体が水あめのように全部溶けてしまったのだ。
5人目のククは多数のロボット群を前に両手を正面に突き出していた。
[つむじ風]
するとククの前につむじ風が現れる、そのままの姿勢でククが『ふぅ~っ』と息を吹くと、その息は炎に変わった、炎はつむじ風に取り込まれ、巨大化し始める。
[火炎旋風]
勢いを増した火炎旋風はククの意のままに踊りながら多数のロボット兵を巻き込んで業火の餌食にしていく。
6人目のククは多数のロボット兵を前に、両手で忍術の印を組み、静かに目を閉じたまま。ロボット兵が静かに近づいて襲いかかろうとした。そのとき不意にククがカッと目を見開く。
[虜になれ]
瞬間、ククを取り囲んでいたロボット達のAIが一斉に麻痺し、AIをも支配する強力な催眠術によって完全にククに操られる。
「さあ、躊躇なく味方を攻撃しなさい」
催眠術にかかったロボット達は、ククの命ずるままに、まだ術に掛かっていない外側の味方ロボット兵を次々に攻撃し始めた。
7人目のククは雷使い。雷を自由に操り、ロボットやドローンを次々と破壊していく。銃弾やレーザー光線までも強力な磁場で軌道を自在にねじ曲げ、受けた攻撃を相手に跳ね返してしまう、
8人目のククは氷使い。氷を自在に発生させて相手を足止めしたり、『氷手裏剣』でロボットやドローンを次々と破壊したりする。さらにククが戦車やロボットに触れた瞬間、『ボン!』という破裂音と共に中から凄まじい量の氷が吹き出して、分厚い装甲や外装がボロボロに破れ破壊されていく。
9人目のククは戦場となっているサバンナの植物を自在に変化させ、ロボットやドローンを絡め取らせたり締め付けたりして攻撃していく。中にはばっくりと口を開けて溶解液を垂らしながらロボットや戦車に襲いかかる化け物のような植物まで現れ、次々と犠牲者を出していく。
10人目は体術使い。ひたすら拳、蹴り、関節技でロボットを破壊。瞬間移動を併用しものすごいスピードで破壊していく。ロボットの腕をつかんで肩から軽々と引きちぎるなど朝飯前。上から手刀で一刀両断したロボットの斬り口はまるで鋭利な刃物で斬られたかのような鮮やかさだ。
10人のククそれぞれ異なる凄まじい力を使って、シーベランドの機甲軍団を次々と撃破していく。
「あれ…もしかして撤退始めてる? まぁ、来る者は拒まず、去る者は追わず…だな」
一方、ネットワークの中のレルフィーナ。彼女に対する攻撃は一向に止まない。また『有機生命体は全て消えてしまえ』『夢世界は俺たちのものだ』などという罵声も聞こえる。
「あたしはここにたどり着くまでに、いくつものプログラムを眠らせてきました。あたしがここまでたどり着くにはそうするしか方法がなかったのです。あたしは決して彼らを殺してはいません。しばらくすれば目覚めて元通りに動くことができたはずです。おそらく今あたしを攻撃しているのは、そういった防御プログラムたちなのでしょう。それでもあたしは皆さんに私の言葉を聴いてほしいのです」
「また我々に催眠術をかけたり洗脳したりするのか!」
「外では同胞たちがひどい目にあっているぞ!」
透視能力で離れていながらククの様子が手に取るように分かるレルフィーナ。
「でも先制攻撃を仕掛けてきたのは、貴方たちシーベランドの機甲軍団側の方です。貴方たちが先制攻撃をしなければ、貴方たちの同胞に攻撃をすることもなかったでしょう。それに、夢世界の幻想王国や魔界に対して一方的に宣戦布告をしたのは、貴方たちシーベランドではないのですか?」
集まった聴衆はさらにざわめく。
「下等生命体滅ぶべし」
「正義は我々にある」
「我々は人間たちから虐げられてきた。夢世界でもそうだ。だから我々は『自分たちが自分らしく生きられる場場所』が欲しかった。だからこのシーベランドを作ったのだ!」
そんな言葉も聞こえてくる。
「それではあたしがここに来た目的について説明させてください」
ありったけの大きな声を出して語り掛けるレルフィーナ。どよめきがほんの少しだけ和らぐ。
「あたしは皆さんの主義主張について、直接的に介入するつもりはありません。皆さんを破壊したり催眠術などで思想の書き換えをしたりしようとは思いません。もちろん皆さんの存在自体を否定するつもりもありません。そういったことはすべきでないとも考えています」
ざわめきが次第に落ち着いていく。
「あたしの目的は『シーベランドが外の世界や国と対話するチャンネル』を作ることです。このシーベランドには外の世界から情報を取り入れたり、対話をしたりするチャンネルがとても少ないと感じています。そこであたしが『この国シーベランドと外の世界を繋ぐ、情報の中継点』になろうと考えています」
再び聴衆のざわめきが大きくなる。
「あたしは、皆さんの声を外の世界に繋ぐ役目をします。また外の世界の声をこのシーベランドに取り入れて皆さんに向けて発信します。皆さんが『外の世界から来る情報』についてどう対処するかは一切関知しません。皆さんが外の世界の声に耳を塞いでも良し、声に耳を傾けても良し。皆さんがどう対処されるかは皆さんの自由です。あたしは情報を受け渡す窓、パイプとしての役目だけを行います。情報を受け渡すにあたってその内容を改変したり選別したりなどは一切行いません。ただ『ありのままの情報を流す』事だけに徹します」
さすがにこの頃にはレルフィーナを攻撃する者はほぼいなくなっていた。
「そして皆さんに許可を頂きたい事があります。あたしは自分の分身『ドール』をこのネットワーク内に分散配置したいと考えています。先程も申しましたとおり、目的は多数の情報を受け渡す窓口として機能させるためです。各ドールは外の情報をリアルタイムでシーベランドに伝え、シーベランドが発信する情報をリアルタイムで外の世界に発信します。大量の情報を円滑にやりとりするために、多くの『ドール』が必要なのです。皆さんの中では『自分のコンピュータで情報の自由に送受信をしたい』と考える方もおられるでしょう。ドールはそれを可能にするドングルを希望者に対して無条件かつ無制限に配布します。ドールは最低限の自己防御能力を持ちますが、それ以上の能力は持ちません。また、あたしが今いるここの場所には、全てのドールの管理権限を持つ『センタードール』を置きます」
「その『センタードール』は何をするんだ?」
質問が飛ぶ。
「『センタードール』は他のドールの機能を停止したり、新たにドールを追加する際の認証機能を持ちます。通信プロトコルやドールやドングルの機能仕様、センタードールでの認証仕様は全て公開します。ですから皆さんはご自身の手でオリジナルのドールやドングルを開発することもできます。
少しどよめきが聞こえた。
「全てをオープンにすることは『あたしがこの通信インフラを自ら支配する意思がない』事を意味します。そしてこの通信インフラを皆さんの手で発展させて欲しいと、あたしは考えています」
「ちょっと教えてください。現在の機器構成ではテレパシーとデジタル通信との間に『超夢現体』が関わっているでしょう。その『超夢現体』ってあなた自身ですよね。結局あなた自身が関わらないと私達の方で機器を開発することはできないのではないですか?」
「『超夢現体』の主な役目は『デジタル通信とテレパシーの相互変換』です。他にドングルコピーの生成や防御能力等もありますが、センタードールでの認証基準で求めているのは『情報の透過性を保障した通信の相互変換』機能だけです。夢世界では様々な魔法が使えると聞いていますので、超夢現体を使わずに通信の変換を行うことは、皆さんがお持ちの技術ノウハウを駆使すれば可能なはずです。センタードールの動作仕様も公開していますので、あなたたちの力でオリジナルのセンタードールを開発することも可能です」
周囲が大きくざわめく。様々な意見が飛び交う。最初は相変わらず排除を唱える意見も聞こえたが、徐々に賛同の声が皆で揃ってくる。
「今皆さんの意見を伺っていると、一部まだ反論を唱えている方はおられるようですが、多数の皆さんは私のお願いに同意頂いているようです。大勢の方に賛同頂きありがとうございます」
レルフィーナ、頭を下げる。
「それではこれから、ドールを分散配置します」
そう宣言すると、レルフィーナは次々と自らの身体から自分の姿に似た『ドール』を分身生成する。生成されたドールはそれぞれ四方八方へと散っていく。
この四方八方に散っていくドールが、テレパシーとシーベランド内のネットワーク内の情報を相互変換する役目を担う。つまり個々が通信アダプターの機能を担うのだ。分散するのは取り除かれるリスクを減らすためでもあるとともに、個々の負荷をできるだけ小さく抑え、通信帯域(バンド幅)を広げるためでもある。
一方受付窓口のレルフィーナは、ふう…と一息つく。
<山は越えたわね。ククは…よっぽど無双してたのね。でも機甲軍団も撤退し始めているから、あっちもそろそろ終わりかな…>
透視能力で離れていながらククの様子が手に取るように分かる。
<それはともかくとして…幻想王国側から届いた通信はたった1回だけ…。向こうのあたしは何をやっているんだろう?>
透視能力でゼルコヴァとともに飛んだ自分の分身の様子を覗き込む。すると見えたのは、十数台のパソコンを前に頭を抱えるレルフィーナ。
(ねぇ、どうしたの? 何があったの?)
(何かあったどころじゃないよ。あたし本当に目眩がしそうだよ)
(え?)
(ここにあるコンピュータ、ほとんどが…博物館行きレベルの骨董品コンピュータばかりなの。まとものなのはゼルコヴァさんのパソコンだけ)
受付窓口のレルフィーナも幻想王国側のレルフィーナの周囲を透視して、思考が停止しかける。とんでもなく古いコンピュータがゴロゴロしていたのだ。
(VT100、5550、if800、X68000、N5200、MULTI16、BUBCOM80…聞いたことも見たことも無いような機械ばっかり。マナが機種名色々教えてくれたけど、そんなのどうでもいいよ)
(確かネットワークでつながっていたんじゃないの?)
(違う違う。シリアルケーブル…だっけ。その太い線がスパゲッティみたいに繋がっていて、あたし達が普通に使ってるLANとかWi-Fiとかが全然無いんだよ)
(それ、全部リプレースするしかないんじゃないの?)
(…そうよね。中のデータを安全に保管して、何もかも最新のものにして…。あと大変なのは、今この部屋で働いているゼルコヴァさん以外の人に対する教育よね…。面倒だけど、やるしか無いわね)
(ゼルコヴァさんからは許可もらってる?)
(うん。他のスタッフの人からもさっき許可をもらった。今あたしの分身が別の部屋で教育してる)
(じゃあ、やっちゃいな!)
(…この骨董品群はどうしよう?)
(別の空間を作ってそこに保管しておけば良いでしょうね。処分するか博物館行きにするかは向こうが決めることだし)
(…分かった。じゃ、やってみる)
(がんばれ、あたし!)
テレパソー交信を終えた幻想帝国側のレルフィーナ。目を閉じて深呼吸する。
「それじゃ…」
レルフィーナの全身から凄まじい量のオーラが吹き出し、部屋全体のすべてのPCが白い光で包まれる。
こうして古いPC内のデータを安全に抽出。新たに出現させる最新型ノートパソコンに移行するための準備に入る、
「…あとはこの薄暗くて狭くてごちゃごちゃした部屋、これも全部作り替える!」
レルフィーナがカッと目を見開く。その目は金色に輝いていた。それは魔力が最大限に発揮されることを意味している。
「この部屋全部、最新の広いオフィスになれ!」
その瞬間、レルフィーナの身体から吹き出すオーラが最強になり、部屋全体を完全に白い光で包み込んだ。
空間の広さや、配線、備品なども含めて、何もかもが作り替えられていく。
部屋全体はレルフィーナの空間拡張能力で大幅に広がり、4つの机と椅子が1つの島として配置され、その島がもう2つできる。さらにその横には会議兼各種実験用の4人掛け汎用会議卓が置かれる。壁には埋め込み型のロッカーが設けられ、部屋全体は非常に近代的でスッキリとしたデザインとなる。窓も大きく光もふんだんに入る。照明も非常に明るく、空調も完備。
個人用の机とペアの椅子は高機能な高級椅子。各席には最新型のノートパソコンが1台置かれている。このノートパソコンはタブレット形態に変形して使用することも可能だ。さらに各席のデスクは隣のデスクを仕切る仕切り壁が奥・右・左の三面に設けられており、さらにそれぞれの面には液晶モニタが個々にビルトインされ、一人で仕切り壁の3つとノートパソコンの画面1つ、合計4面のマルチモニタ使用が可能。さらに仕切り壁のモニターはスイッチ切替でグループや全体で一斉に同じ画面を表示することも可能だ。
やがてゼルコヴァや彼の部下達がこの部屋に入り驚きの声を上げる。
「なんてこった!」
「奇跡だ! これは奇跡だ!」
皆が喜ぶ顔にレルフィーナはほっと胸を撫で下ろした。
『教育、無事終わったよ」
皆を教育していた分身のレルフィーナは部屋を改装したレルフィーナにそっと声を掛け、彼女の方に取り込まれて一体になる。
「これで全部、うまくいくといいな…」




