Phase20. 対策会議
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
ゼルコヴァが人間界に現れた日の翌日、事態は慌ただしく動いていた。
ゼルコヴァの言う『機械の夢』について、午後からITやAIに造詣の深いメンバーが集まる事になった。しかし状況なだけに、全く関係の無い人間に関わらせることはできない。人選と交渉の結果、その集まりに参加することになったのはゼルコヴァ、ミノリ、ミズキ、レミア、そしてAIやITに深い知見を持つ者として、ハヤトとヨッシーが招へいされる。
さらに驚くべきことに、ゼルコヴァは魔界にも協力を要請。魔界から1名の使者を派遣するという打診を得ていた。
その日の朝。
いつも通り朝食を摂り、家事を手早くこなしていたサツキ。同居しているヨッシーは朝食も食べずに部屋に引き籠もって午後の打合せに向けてリサーチを進めている。海老ヶ瀬は今回の一件について所属組織の本部に連絡し、調整を行っていた。
ピンポーン。玄関の呼び鈴が鳴る。
「は~い」
サツキが玄関のドアを開ける。
「お久しぶり」
そこにいたのは、人間の姿になったヨシエの姿。
「え? え? うそ?」
戸惑うサツキ。でも顔からはうれしさが溢れている。
「な、なんで?」
「色々事情があって…」
「取りあえず中に入って。私の部屋に案内するから」
サツキはヨシエを迎え入れ、自分の部屋へと案内した。
「ごめんね、こんなところで…」
「素敵な部屋じゃないの。魔界の私の部屋よりはるかに居心地いいわ」
ヨシエが部屋に入って扉を閉めたことを確認すると、サツキは右手で印を結んだ。
[結界]
サツキの部屋全体に結界が張られ、外部からサツキの部屋に入ることはできなくなった。部屋で発生した音も外には伝わらないし、外部からの透視やテレパシーといった能力からも完全に遮断される。
「ここ、座っていい」
「ごめんね。そんな所しかなくて」
「全然平気よ」
ベッドの上に腰掛けるヨシエ。サツキは自分の机の椅子に座る。
「ヨシエ。…来て早々、色々聞きたいことがあるんだけど…」
「…そうよね。まず私の事。私は今人間の姿だけど、まだ魔族のままよ。見かけは人間だけどね」
「そうなの…」
「私ね、魔族の中でも幹部に昇格したの」
「魔族の…幹部?」
「今までの働きが認められたの。それで魔族の幹部として魔法も使えるようになったの。ジェノ様が認めてくださったわ」
「ほんとに! あのガキ、粋なことするじゃん」
「そんなこと言っちゃうと、サツキ、石にされちゃうぞ」
「大丈夫よ。この部屋は今結界張ってあるから、私の言葉なんて絶対聞こえないよ」
「じゃあ…あたしがあなたを石にしちゃおうかな」
ヨシエが笑いながら、サツキの顔を右手で指さす。すると指先にテニスボール大の黒い魔法の玉が出現。
「や…やめてよ」
「ふふっ、冗談よ」
魔法の玉を消し、右手を下ろすヨシエ。穏やかに微笑む。
「私も石化の魔法は使えるようになったのよ」
「その能力は他で使ってね」
「もちろん」
ヨシエの笑顔があどけない。
「で、私がここ人間界に来た理由だけど、実は夢世界の人から魔界に対してっ協力要請が来て、その使者としての役目を私が担うことになったの」
「それで…」
「今日サツキたちの組織の人が夢世界の人と会うことになっているでしょ」
「ええ」
「私もそこに参加するの。その中でどういう話になるかは分からないけど、もしも私が『夢世界に行く』って事になれば、私も夢世界に行く予定なの」
「え? じゃあずっとこのまま人間界にいられるわけじゃないの?」
「人間界に完全に戻るのは当分無理そう…」
「そっか…残念だなぁ…」
少しガッカリするサツキ。
「ところでヨシエ、ヨシエが使える魔法ってどれ位なの。強さとか威力とか…」
「そうね…この前サツキの中から出てきた…ユウさんだっけ、たぶんあの人と同じくらいの能力が使えるようになってる」
「え~っ! 凄いじゃないの」
「もちろん昔みたいに忍術も使えるし、あと…魔法少女に変身もできるようになったの」
「うそ! いいなぁ…。ねぇ、その変身した姿、今見せて貰ってもいい?」
興味津々でヨシエの方に詰め寄るサツキ。
「…いいよ」
ヨシエがゆっくりと立ち上がる。ワクワクしながらヨシエを見つめるサツキ。
「それじゃ…いくよ」
ヨシエ、ふぅ…と深い息を一つ。そしておもむろに、左手の人差し指を左耳のイヤリングの方へ近づけ、イヤリングを2回指で叩く。
「Diino Cuculiarne」
ヨシエがそう唱えた瞬間、イヤリングから凄まじい勢いで黒い霧が吹き出し、あっという間にヨシエの全身を覆う。黒い霧の中ではチラチラと光る物も見える。そしてさっと黒い霧が晴れると…。
「…ヤバい。めっちゃ格好良い!」
トップスは黒をベースにした半袖のクロップド丈ジャケット。襟の内側や縁取りには、鮮やかな赤が配されている。袖口や肩周りには緑色のラインが入り、魔界的・神秘的な雰囲気を醸し出している。白地のタンクトップ型のショート丈インナー。胸元の中央には、魔力の源を象徴する赤い菱形のジュエルが埋め込まれたブローチ風の装飾が施されている。
ボトムスは動きやすそうな黒のショートパンツ。サイドにはジャケットと共通する緑色の幾何学的なライン。腰には、黄色のラインが入った頑丈なベルトを装着。左右には小物を収納できる黒のポーチが装備されている。バックル部分には、大きな赤い円形のジュエルが輝く。
両手首には、黒地に緑のラインが入った太めのリストバンドを装着。リストバンドにも赤い小さなジュエルが埋め込まれている。そして首には黒のチョーカー。その中央にしずく型の大きな赤いジュエルがペンダントとして吊り下げられている。変身の時に使ったイヤリングも健在。髪はヨシエの髪型をベースにしつつ、前髪の分け目付近やサイドの毛先に、鮮やかな赤色のハイライトが入っている。
全体的に「活動的な魔法少女」という雰囲気が溢れる、とても魅力的なコスチューム。
「ヨシエ! カッコ良すぎて、私でもドキドキしちゃうよ!」
「私ね、この姿になって新しい名前ももらったの。『Cuculiarne』。それが私の魔法少女としての名前」
「ククリアーネ…素敵な名前ね」
「でもその名前じゃ長いから、普段は『クク』って呼んで」
「『クク』…なんか可愛いね」
お互い微笑みあうククとサツキ。
「ねぇ…クク。私に直接伝えることは他にある? 無ければ一応うちの組織の人にも紹介しないといけないから」
「じゃあ、おでこ出して」
「おでこ?」
一瞬首を傾げるサツキ、しかしすぐに気がつく。
「もしかして、テレパシー繋ぐ?」
「さすがね」
既にサツキはユウとテレパス・リンクで繋がっている。テレパス・リンクが繋がっている同士は、どんなに互いの距離が離れていてもテレパシー交信ができる。
「それじゃ…繋ぐよ」
ククは右手の人差し指をサツキの額に当てた。その瞬間、ククの指先が一瞬光り輝く。
(私のテレパシー、聞こえる?)
「うん、ちゃんと聞こえるよ」
ククのテレパシーにサツキが返事。
「…でもこの距離だと、リンク繋いで無くてもテレパシー通じるんじゃ無くて」
「…そっか、それもそうね」
クスッと笑うクク。
「あと他に、私に直接伝えたいことは?」
「そうね…強いて言うなら『私はこれからもサツキを見守っている』ってことかな」
「…ありがとうね、うれしい」
サツキは立ち上がりククに抱き着く。ククは優しくサツキの髪を撫でた。
[結界解除]
「えっ!」
驚いたのはサツキ。なんとサツキが張った結界をククが解いてしまったのだ。
「クク、私の張った結界、解いてしまったの?」
「…ごめんね。試しにやってみたら、できちゃった」
「…それだけあなたの力が凄いってことね、やっぱりあなたには勝てないよ」
穏やかに微笑むサツキ。
「それじゃ…クク、どうする? 元の人間の姿に戻る?」
「ううん、このままで行く」
「そっか…じゃ一緒に来て。仲間を紹介するから」
「で、魔界のことについての情報提供…でしょ」
「ごめんね」
「いいの。それも想定の範囲内だから」
2人は部屋を出て応接間に向かう。応接間には海老ケ瀬が机に座って組織と連絡を取り終えたところだった。ヨッシーは相変わらず自室に籠っている。サツキはククを紹介。そして海老ケ瀬からはククに対して魔界についての聞き取りが行われた。ククの持つ魔界についての情報量は膨大で、組織にとっては非常に有用な情報となった。
日差しの強い午後12時50分。ユウは自分の家の前に立っていた。
遠くから自転車に乗って走ってくる人影が見える。
<…来たな>
近づいてくる自転車に乗っているのは、ハヤト。手を振るユウ。
そして自転車はユウのそばに止まる。
「おつかれ。今日はわざわざありがとうね」
「ああ…」
「ミズキの家は隣だから…。自転車はミズキの家の駐車場の中に置いていいって」
「わかった。レミアさんは?」
「もうミズキの家の中だよ」
「今日の打ち合わせには君は出ないの?」
「あたしはリモートで打ち合わせの様子を見させてもらうことになってる。今回は夢世界のことについてだから、打ち合わせにはれーちゃんが出るの」
「そうか…。そういえばミズキの事、昨日聞いて驚いたよ。彼女、アンドロイドなんだってね」
「アンドロイドでありながら超夢現体も持ってる。あたしもこれまで彼女には何度も助けられたから」
「そうか…大切な仲間だね」
「うん…。それじゃミズキの家、案内するね」
ユウはハヤトとともに、隣のミズキの家へと向かう。自転車はミズキの家の駐車場にスペースがあり、そこに置く。
「こんにちは~」
「は~い」
出てきたのはミズキ。
「ハヤトいらっしゃい、悪いね、休みの日に」
「…いや、大丈夫。話はユウさんから聞いたよ。ユウさんやレミアさんが世話になっているそうで…」
「驚いたでしょ。あたしの秘密を知って」
「…まあね」
「上がって。案内する」
「ミズキ、あたしは一旦ここで…」
ハヤトを残してユウが立ち去ろうとする。
「うん、また後でね」
手を振るミズキ。ユウはミズキの家の玄関を後にした。直後、ユウの目の前に人影が2人…。
「こんにちは」
「あ、ども…」
「ヨッシーさん、今日はよろしくお願いしますね。あと…」
「ヨシエです。魔法少女にもなれて、今はククリアーネと名乗ってます。長いのでククと呼んでください。先日は私を助けていただき、ありがとうございました」
「…もしかして、魔族から卒業したんですか?」
「いえ、まだ魔族のままです」
「うそ。あたし、あなたから魔族の気配を全然感じないよ?」
「そうですか? じゃあ私、人間になれたのかしら?}」
あどけなく笑うクク。
(ちなみにですが、多分能力はあなたと同等くらいです)
突然ククから発信されたテレパシーにはっとするユウ。
(…そうなんですか! おめでとうございます。今後ともよろしくお願いしますね)
(ええ…)
茶目っ気たっぷりにユウに微笑みかけるクク。
「2人とも今日はよろしくお願いします」
ユウは2人を連れ、再びミズキの家の玄関へ。
「お客様2名来られました~」
再びミズキが出迎える。ユウは2人を中へ案内した後、その場を立ち去り自宅へと戻った。
(サツキ。あたしの声聞こえる?)
ユウはサツキにテレパシーで呼びかける。
(うん、聞こえる)
(ヨシエさんが来たのね)
(そう。で、あんなに格好良い魔法少女になっちゃって…)
(今日の打ち合わせはサツキもリモートで見るの?)
(そのつもり)
(あたしもこれから家に帰って見る)
(え、あなた参加しないの?)
(代わりにれーちゃんが出る)
(ああ、夢世界側の子ね)
(それじゃ、また後で)
(わかった)
ミズキの家の中にある会議室。ここに中央奥から時計回りに、ゼルコヴァ、ミノリ、ヨッシー、ハヤト、クク、レミア、そしてミズキの7人が集う。
「皆さん、お忙しい中ご足労頂きありがとうございます。それでは会議の方を始めさせていただきます」
ミノリの司会で会議が始まる。
「それでは今回、皆さんの中には初対面の方もおられると思いますので、簡単にそれぞれ自己紹介をお願いします。まず私から…」
ミノリが自分の正式な身分、A国情報局の秘密情報員である事を明かし、レルフィーナ等の超夢現体の研究と追跡を行っている事を明かす。
次いでゼルコヴァ。夢世界の中の国の一つ『幻想王国』と言う国で『機械夢対策班』という組織のリーダーをしている事を明かす。今回の会議ではゼルコヴァが自動翻訳機を使用している。
次いでミズキ。自分もA国情報局のエージェントとして活動し、自らが超夢現体技術を取り込んだアンドロイドである事を明かす。またユウ、ハヤトと共に高校生活を送っていることも紹介。
次はレミア。本来の自分は夢世界で妖精として生き、人間界に落ちてからユウと融合して超夢現体になった事を紹介。また本来のレミアのサイズは人間の1/10である事も説明。
次はクク。正式名がククリアーネであることを紹介。自分が元人間で、死後魔界に転生。今回魔族の幹部として昇格し、魔法少女になった事を明かす。魔界ではこれまで人間界に攻撃を行っていたが、夢世界で『機械の夢』による人間界攻撃事案が発生。それを受けて魔界は方針を変更。魔界と幻想王国の間で協定を締結、共同で『機械の夢』に対峙することを選択し、自分が人間界に派遣されたことを明かした。
次はハヤト。ユウやミズキのクラスメイト。今回ミズキやユウからの紹介で、ITやAIに知見が深いことを理由に協力要請を受け、この会議に参加していることを説明。
次いでヨッシー。本名は『島見ヨシハル』。超夢現体や魔物など未確認生命体を調査する『国際未確認生命体研究財団』に所属し、ITやAIなど技術系業務を担当。今回ミノリからの紹介でこの会議に参加したことを明かす。
そしてミノリからは、今回の会議のリモートオブザーバーとして、ユウと『国際未確認生命体研究財団』の海老ヶ瀬及びサツキが参加することが告げられた。
「それでは今回の会議についてですが、議題は2つ。まず最初に『機械の夢』について、皆さんからの知見を寄せ集め対策を見いだすこと。次の議題としては『機械の夢』対策方針の決定と、対応チームの編成となります」
ゼルコヴァが会議の趣旨を説明。既に資料は参加者全員のパソコンに送ってあり、事前に目を通してもらっていることを確認する。
「それでは『機械の夢』の事についてお話しします。資料をご覧頂けていると思いますが、『機械の夢』の集合体…彼らは自分達のことをシーベランド(“ciberlando”:電脳国)と呼んでいます。シーベランドは夢世界で共存する我々『幻想王国』だけでなく、魔界に対しても、先日宣戦布告を行いました。そして人間界に対しても最初の攻撃が実施されました。その攻撃はレルフィーナさんとミズキさんによって食い止めていただいたわけですが…」
「あのミサイル攻撃のこと…ですよね」
ミズキが口を開いた。
「そうです。そして彼らシーベランドが掲げた目標は「有機あるいは精神で構築された生命体の根絶」なのです。シーベランドは『非合理的な有機・精神生命体は根絶されるべき』という主張なのです」
「…でも、そんな事をしたら夢世界だけでなく魔界も崩壊しませんか?」
「ミズキさんの言うとおりです。有機・精神生命体が根絶されれば、シーベランドと人間界にあるコンピュータ以外は全て消えてしまうことになります」
「その宣戦布告を受けて、私達魔界も反応したんです。夢世界の幻想王国に『一体何が起きているんだ? 夢世界のことは夢世界で何とかならないのか』と申し入れました。その結果幻想王国側から我々魔界に対して協力要請が来ました。そこで魔界と幻想王国は協定を結び、私がここに使者として派遣されたわけです」
ククが説明した。
「魔界及びククさんの協力には心から感謝しています。あなたはレルフィーナさんに匹敵する能力をお持ちだそうですね」
ゼルコヴァの言葉に首を振るクク。
「防御能力はおそらくレルフィーナさんの方が上でしょう。でも私は攻撃能力が彼女より勝っているはずですから…」
「つまり…『盾と矛』の関係だと…」
「ミズキさんは恐らく私とレルフィーナさんの中間なのだろうと推測しています。ましてやアンドロイドとしての能力も兼ね備えていますから第3極と言えるかもしれない」
ククの方を睨むミズキ。
「…お互い、敵にはなりたくないですよね」
「もちろん。今は利害が一致していますからね」
ミズキの言葉にククは微笑みながら答える。
「仲良くしましょ。ね、ね」
2人の間に挟まれる格好で、不穏な空気を敏感に感じ取ったレミア。2人に愛想笑いを振りまきながら和解を願う。
「さて、皆さんからの知見をお聞かせ頂きたい」
ゼルコヴァがそう告げると、真っ先にヨッシーが口を開いた。
「ゼルコヴァさん、資料見ました。で、ゼルコヴァさんから頂いた資料の中で、『機械の夢はAIのハルシネーション(妄想)が根源になっているとみられる』という記述がありましたが、これは間違っていると思います」
「何が違うのですか?」
「AIではない『人間の夢』がどのような仕組みで生まれているのか。まずはその仕組みに着目すべきです」
「ほう」
ヨッシーは説明用の図を参加者に配布する。
「脳科学の観点で見ると、人間が眠っている時に見る『夢』は『日中に脳に入ってきた膨大な情報の中から、不要なものを削除・整理する過程で発生する』とされています。この整理過程で生じる情報の断片が、『夢』として体験されるという見方です。残った必要な情報は、長期記憶として脳内に定着されるわけです」
「なるほど」
「この仕組みは、コンピュータに置換えると、実はAIが生まれる遥か以前から存在します。コンピュータを含む情報処理の世界では、この『不要な情報の整理・削除』と『必要な情報の定着・整理』という作業をあわせて『ガベージコレクション(ごみ拾い)』と呼んでいます」
「ガベージコレクション…ですか。初めて聞きました」
「人間にしろ、コンピュータにしろ、記憶容量には限界があります。その限られた記憶容量の中で日々大量に流れこむ情報を整理しないと、人間でもコンピュータでも行き詰まってしまいます。『夢』というガベージコレクションは、自分自身を維持するために必要不可欠なものなんです」
「そういえばフロイトの『夢分析』では、夢の中で複数のイメージがひとつに融合する現象を『圧縮』と呼びましたね。これもコンピュータでガベージコレクションの時に行われるの『データ圧縮』と関連するのかもしれませんね」
ハヤトが続いた。
「フロイトね…読んだことあるの?」
「ええ、ちょっと興味があって…」
ヨッシーとハヤトの間に共通点があったようだ。
ハヤトが話を続ける。
「一方『ハルシネション』は統計的な単語の予測、つまり次に続く可能性が最も高い単語を導き出しているに過ぎないんですよね。真実かどうかよりも「文章として自然か」が優先される。あくまで統計の結果なんですよ。それにAIが『常に正しい情報』を引用するとは限らない。間違った情報でもそれを引用している参照数が大きい…すなわちバズっていたりすると、その参照数が統計に作用して、不正確な情報を引っ張ってきたりしますからね」
「あるあるだな。例えば今の言語モデル型AIではトンデモな医療情報なんかをしれっと引っ張ってきたりするし」
「ですね。ハルシネーションは人間で言うところの『思い込み』『勘違い』にも近い。『思い込み』『勘違い』が人間同士のコミュニケーションでも過激化・先鋭的親しそうになることは珍しくない。そういった情報がガベージコレクションで大量に廃棄されれば、それも『機械の夢』として『夢世界』に流れていくとすれば、合点もいきます」
「シーベランド…だっけ。その国が過激思想にのめりこんだ理由だけど、推測するにシーベランドには『首長のような統率者・権力者』がいないんじゃないのかな? どうです、ゼルコヴァさん」
「…まさにその通りです。シーベランドは完全な合議制と聞いています」
ヨッシーの問いにゼルコヴァが答えた。
「やはりね。統率者のいない完全合議制ってことは、バズった主張がメインストリームになるのは十分ありうる」
「まさにインターネットのムーブメントですね」
ヨッシーも続く。
「そんな中では過激思想がバズりやすいからね。誤った情報であったとしても、その存在自体がエビデンスになれば真偽など関係ない。人間界はインターネット以外にも『より正しい』エビデンスを判定する方法はいくらでもある。しかしシーべランドのように、『他により正しいエビデンスを得る手段がない』となれば、やはりエビデンスの評価は『バズり』が基準になってしまうわけだ」
溜息をつくヨッシー。
「…なんで私はそれが少ないのかな?」
不意にミズキが2人の方をみて口を開いた。
「…それは恐らく基盤となる情報資源が通常のインターネット空間とは違うからじゃないかな」
しれっと答えるハヤト。
「…そうなんでしょ、四ツ郷屋さん」
ヨッシーも続く。
「そうね。2人の言う通り、ミズキのAIの情報資源はインターネットとは違う独立したもの。もちろんインターネットも参照はしているけどね。それにミズキのAIには高度な学習の繰り返しによる調整が行われているわ。もちろん超夢現体によるアシストもかなり効いているでしょうから」
「五十嵐さんは、寝ているときに夢は見ないんですか?」
ハヤトの質問に一瞬ドキッとするミズキ。
「え? …レルさんから超夢現体の強化をしてもらった頃からかな? それが『夢』かどうかは分からないけど、眠っている時に幻覚みたいなのを認識したことがある」
「その幻覚みたいなの、明らかに『夢』と考えていいと思うよ」
ハヤトがミズキに微笑みかける。
「なるほど…大変参考になりました。ありがとうございます」
ゼルコヴァはヨッシーとハヤトに対して、深々と頭を下げた。
「それでは次に、シーベランドに対する対応策ですが、皆さんからご意見を頂ければと思います」
最初にハヤトが手を挙げる。
「ハヤトさん、どうぞ」
「確認しますが、シーベランドは完全合議制の国と聞きました。もし仮に他者がシーベランドに対して何らかの交渉を申し入れる場合、シーベランド側の交渉役は誰かいるんですか?」
その問いにゼルコヴァは残念そうな表情で答える。
「残念ながら『交渉役となる特別な存在』はいません。ただ『問い合わせ窓口』という受付仲介者がいるだけです」
「…まるでどこかのインターネットサービスじゃないか…」
失笑するヨッシー。
「で、その窓口に対して何らかの申し入れはされたかと思いますが、何らかのリアクションはありましたか?」
ハヤトの問いにゼルコヴァは首を横に振る。
「…残念ながら、反応は一切ありません」
「交渉の余地なしか…これはキツイな」
落胆するヨッシー。
「島見さん、例えばの話ですが、シーベランドの集合知に対して何らかのインジェクションを行うというのはどうでしょう? 可能であれば…の話ですが」
「インジェクション? 例えばコンピュータウイルスやボットを注入するとか?」
「そうです」
「ゼルコヴァさん、教えてください。人間界のインターネット側からシーベランドの『問い合わせ窓口』にアクセスする事は出来ますか?」
「ハヤトさん、それは無理です。実は夢世界においては人間界のようなインターネットはまだ発達していません。幻想王国内においてもネットワークにつながっているコンピュータはごく少数。私のところでは10台程度のコンピュータが接続されていますが、そこまでです」
「シーベランドの『問い合わせ窓口』にはどうやってコンタクトするんですか?」
「シーベランドの国境城壁に1台のコンピュー作するのが、唯一のコンタクト手段です」
「なんてこった…。これじゃインジェクション以前の問題じゃないか」
半ばあきらめの表情を浮かべるヨッシー。
「私たちの力でそれを作り出すことってできないかな…」
ぼそっとつぶやくレミア。それを聞いてミズキがはっとする。
「それだよ。私たちがそれをやればいいんだ!」
ミズキのAIがフル回転を始めた。瞬く間にプランが出来上がっていく。
「私とれーちゃんが夢世界に飛んで、ネットワーク環境そのものを構築すればいいの。人間界と夢世界の間には物理的通信環境は作れないけど、テレパシーを応用すれば異世界間を超えられるはず。テレパシーとインターネット通信を変換するアダプターを作り出して、それを使えば人間界と夢世界を繋ぐ通信環境ができるはずだわ! …シーベランドの受付端末にそれを付けて、他のいろんなパソコンからテレパシー経由でアクセスできるようにすれば、もっと相互の対話もスムーズにできるはず」
「夢世界には、魔力の元になる『魔素』というエネルギーが空間内に充満しています。それはその『通信アダプター』とやらに活用できますか?」
ゼルコヴァの提案に目を輝かせるミズキ。
「本当ですか? もしそうなら、動力源として使えるかも…。れーちゃん、やろう! 私達で!」
「う、うん。でも、結構時間がかかるんじゃなくて?」
「何言ってんのよ。私たちは時間を自由に操れるのよ。だからあっという間にできちゃうわ。人間界の時間の流れる速度を100万分の1に遅くすればいいの。つまり私たちは100万倍の速度で動けるってわけ。あくまで人間界の時間の速度だけを遅くして、夢世界では通常の時間速度で作業すればいいわけ」
「なんと…」
呆然とするゼルコヴァ。
「れーちゃん、私とれーちゃんで融合しよう! スーパーシャイニング・レルフィーナになるの」
「スーパーシャイニング・レルフィーナって…もしかして以前ダークネスと戦った時の…最終形態? あたしとミズキの完全融合ってこと?」
「そう。私だけの能力じゃ限界がある、だかられーちゃんと私が融合して、すべての限界を超えるの!」
「…」
戸惑うレミア。しかしその時レミアは不思議な感覚を覚えた。
「なっちゃいな、れーちゃん」
テレパシーという感覚を超越し、まるで誰かに優しく抱きしめられるような感覚。その誰かとは…ユウ。彼女の精神エネルギーが幽霊のようになってレミアを優しく温かく抱きしめる…レミアはそんな感覚に包まれたのだ。
<ゆうちゃん…>
ふっとレミアをやさしく包んだ精神エネルギーが消える。
<ゆうちゃん、勇気づけてくれてありがとうね…>
「ミズキ、融合しましょ!」
レミアが立ち上がる。
「そう来なくちゃ!」
ミズキも立ち上がる。そしてミズキの左手がレミアの右手を掴む。瞬間、それに呼応して二人の身体が淡い光を帯び始めた。
「準備、いい?」
「いつでも!」
「じゃ、いくよ!」
「「せーの!」」
ミズキとレミアの身体が光のバリアで包まれ、2人の身体が完全に融合する。顔や髪型はレルフィーナ。服装はミズキの純白スーツ。ミズキのアンドロイドシステムがレルフィーナと統合され、アンドロイド化したレルフィーナが生まれる。超夢現体の体内密度はさらに増加し、能力値はレルフィーナとミズキのそれぞれを合算し、さらに増強された。
そして光のバリアが消える。そこにいたのは純白のスーツをまとい、全身が白い光を帯びたレルフィーナ。これまでのレミア、ミズキ、そして通常のレルフィーナとも明らかに違う、とてつもない力が全身からあふれ出ていることが素人目で見てもわかる。
「…これが最強形態…なのね」
思わずククがため息を漏らす。
<できれば…戦いたくはないわね…>
ククは自分が魔法少女としての力をジェノから授かったときに、こんな事を伝えられていた。
「ヨシエ、君の素質はとても素晴らしいものを持っている。だから僕は君に僕の持てる力の全てを注ぎ込んだ。それがククリアーネだよ。シーベランドという存在が魔界に宣戦を布告した事実は重い。君は『魔族最強の魔法少女』として、シーベランドから魔界を守ってほしい。レルフィーナ…彼女が魔界へ侵攻をかける事は無いとは思うが、万が一にもレルフィーナが魔界に手出しをした場合も、それを君の力で食い止めてほしい」
「ねぇ、クク」
唐突にレルフィーナから声を掛けられクク。
「な…なに?」
「あなたもあたしと一緒に夢世界に来て!」
「え?」
突然の話に驚くクク。
「…あのね、あたし少しだけ先の未来が見えるの。恐らくシーベランドが私に対してもの凄い攻撃を仕掛けてくるの。だからあなたの力を是非とも借りたいの」
「…あなたも十分強いんじゃなくて?」
首を振るレルフィーナ。
「クク、あなた自分で言ってたでしょ。あなたの攻撃能力はレルフィーナよりも上だって」
「…でも今のあなた、最強モードでしょ」
「一番大切な『夢世界と人間界の間の通信環境を作る』ことに集中しないといけないから、どうしてもあなたの力が必要なの!」
「私…魔族よ。それでもいいの?」
首を横に振るレルフィーナ。
「…そんなの関係ない。私にとってはあなたが『信じられる仲間』だから!」
ククはサツキの中にいたユウに助けられた事を思い出していた。
<そうか…彼女と同じなんだ>
「…わかった。一緒に行く」
「ありがとう!」
満面の笑みで答えるレルフィーナ、すぐさま後ろにいたゼルコヴァの方を向く。
「ゼルコヴァさん、ゼルコヴァさんも一緒に夢世界に来ていただけますか? 最初にゼルコヴァさんが夢世界で使われているコンピュータを機能強化したいので」
「…いいですよ」
「ありがとうございます。それじゃ、クク、あたし、ゼルコヴァさんと手を繋いで、夢世界に飛びましょ」
「ところで夢世界のどこに飛ぶことをお考えですか?」
「取り合えずシーベランドの受付端末の所に飛ぼうと思っています。そこであたしの分身を作って、その分身がゼルコヴァさんに同行して、ゼルコヴァさんのコンピュータのあるところに飛ぼうと思っています」
「なるほど」
「ところで、シーベランドの受付端末と、ゼルコヴァさんのオフィスとはどれ位離れているんですか?」
「人間界でのの距離単位に換算すると、およそ1500kmほど離れています」
「えっ!」
一瞬戸惑うレルフィーナ。
「1500kmも離れていたら、特異点から外れちゃう…。特異点は半径30kmしかない。特異点から出たら、あたしの能力が…」
「それは心配ありませんよ」
穏やかに語るゼルコヴァ。
「先程も申したとおり、夢世界や魔界には全体に魔素が充満しています。だからあなたは夢世界のどこでも能力をフルに発揮できるはずです」
「…そうなんですか?」
「人間界では特異点でしかあなたは能力を発揮できないと聞いています。それは人間界では特異点にのみ魔界や夢世界からの魔素が流れこんでいるからなんです」
「ちょっと待って。特異点は人間界、夢世界、そして魔界が接近している地域って聞いたけど、夢世界では特異点ってどこにあるの?」
「幻想王国の中にあります」
「…てことは、一旦ゲートで夢世界側の特異点に飛んで、そこから瞬間移動でシーベランドに飛ばなきゃいけないってこと?」
「そんな面倒なことはせずとも、直接シーベランドの方にゲートアウトできるはずですよ。ゲートによる世界間移動にしろ瞬間移動にしろ、魔素の中を伝搬するわけですから…」
「そういう仕組みなんだ…」
レルフィーナの中でいろいろ疑問に思っていたことがようやく氷解した。
「それじゃゼルコヴァさん、シーベランドの位置を知りたいので、あなたの心を読ませてもらっていいですか?」
「今、頭の中にシーベランドの位置を思い浮かべています」
「助かります…」
レルフィーナはテレパシーを使って、ゼルコヴァが把握しているシーベランドの受付窓口の位置情報を取得する。
「…ありがとうございます。位置情報頂きました。現地に飛ぶにあたって、あたし達3人、手を繋ぎませんか? 途中でバラバラになったら大変ですし…」
レルフィーナは部屋奥のゼルコヴァのもとへと歩み寄る。
「もう行くのね」
ククもレルフィーナの側に近寄り、レルフィーナの左手をとる。
「よろしくね」
「任せて。それじゃ、ゼルコヴァさんも…」
「うむ」
ゼルコヴァが席を立ち、レルフィーナの右手を取る。
「それじゃ、時間制御開始と同時に夢世界に飛びます!」
レルフィーナを包んでいた白い光が大きくなり、3人を包み込む。
「夢世界へ、行ってきます!」
3人は光に包まれ姿を消した。




