第二章の四
第二章
4
「あぁ~!! あと1日!あと1日!」
すごく嬉しそうな顔をしてレイが躍るように私に近づいてきた。
「……、あと、1日だね」
私はそんなレイとは対照的な顔で言葉を返した。
「……」
「ねぇ、ユリ」
レイが真剣な顔をして私を見ていた。ドキッとする。何?
「今日、一緒に帰ろうか?」
「え?」
「なんか、変だよ最近」
「ぜんっ、ぜん! 全然変じゃない! 超元気だし?」
私は顔を真っ赤にしてそれこそわざとらしすぎる空元気を演じた。全然、ほんとぜんっぜん上手くたち振る舞えないのね、私。
「そう……」
レイは何かを察して、大人っぽく困ったように笑った。
「ま、明日で部活も終わりだしね。明日の試合、来る?」
「もちろんだよっ!」
私は上手く笑ってみせた。
「……」
レイはまた少し困ったように笑った。
「ケイは……」
「ケイくん、行くって」
下を向くようにして呟いたはずのレイの顔がパッと上を向いた。私とバッチリ目が合う。
あぁ……、やっぱりケイくんのとりこなんだね。
「ほんと!?」
レイの大人っぽさが消える。かわいい恋する女の子の顔。
「心配だったの?」
私は聞いた。
「……、だって、あんまり興味なさそうだったし、あいつ。私も、なんだかんだケイの試合とか、恥ずかしくて見に行かないし。でも、今回はユリが来てくれるから……。少し、期待はしてたの」
胸が痛い。
「なん……で私が来るから?」
「ユリ、私の試合楽しみにしすぎてたから、勢いあまってきっとケイも誘うんじゃないかって、勝手な想像だよ」
その時のレイは、いつものレイと違った。私のことを頼ってるレイ。いつも、私のこと守ってくれてたレイ。こんな些細なことでも、ケイくんを試合に連れていくってそれだけでも、レイは、嬉しいよね? こんなに喜んでくれるんだよね。
「ユリ、ほんとありがと!」
レイが私に抱きついた。
「え! なっ、何がっ!?」
私は顔を真っ赤にして聞く。
「知ってるって。なんだかんだ言って、ケイのこと誘ったのはユリのくせにぃ!」
そう……だけど。
だけど……。
「こらー! レイカ! 行くよっ!」
まどかちゃんの声で我に返る。
「はーい!」
レイが私から離れる。離れる……。
「レイっ!」
私は思わず叫んだ。
「? どうしたの?」
レイの顔は優しい。
「……。ううん、最後、頑張ってね」
「うん! 明日、かっこいいとこ見せるからね」
レイは手を上げた。私もそれに答えて手を上げる。
レイとまどかちゃんは廊下を走っていった。その靴音が小さくなっていく。そして、聞こえなくなる。しんと静まり返っていく。
そして……。
「ユリ」
「ケイくん」
「帰ろう」
この時間がやってくる。
「俺、ユリのことが好きだ」
絶対、聞きたくなかったのに。そんなことはできなかった。真っ直ぐな目に見つめられて、私はその言葉を聞いた。レイの目と似てるの。それはとても苦しかった。2人とも大好きだよ。
でもね、ケイくんの「好き」は私のレイへの「好き」の気持ち。私のケイくんへの「好き」は、ケイくんのレイへの「好き」の気持ちなんだよ。
「ごめんな。ずっと、好きだって言って、言って、言い続けて。ユリにとっちゃ困る話だよな? でも、俺のお願い聞いてくれてありがとう」
ケイくんから送ってもらった次の日に私は告白された。
私の無言の表情を見て、ケイくんは悟った。私は酷い。酷いことをしたと思う。黙って、何も言わないで。でも、その後も何事もないように送ってくれた。
私は何事もないように送ってもらった。帰り際に、いつも言うの。「ユリ、好きだよ」って。
「……約束、したから」
私はそれだけ言った。
「うん。約束したな、俺たち。明日のデート」
デッ……
「デートじゃないよ! 2人で遊ぶんでしょ!?」
私は必死の否定をした。
「ははっ、傷つくよ? 俺」
「あ、ごめん……」
「約束……。俺、明日ユリと2人でデートしたらさ、綺麗さっぱりこの気持ち忘れて、また友達な!」
爽やかなケイくんの顔が私の胸を締めつけるの。
「明日、一緒にレイの試合見に行くんだよ。それが約束ね」
私は確認するようにケイくんに言った。ケイくんの顔が少し厳しくなった。「?」
「……。それは、デートじゃないよ」
「なっ! でも、行くって言ったじゃん!」
これだけはだめ。絶対行って! 一緒に来て! そこは否定しないで。レイを否定しないで。レイに絶対ばれないで。私のせいでレイを悲しませないで。協力して。私のこと好きなら、協力して。友達なら、協力して。
「……。試合終わったら、ちゃんとしたデートしよ」
「……」
「試合の終わり際に抜けて、ちゃんと2人でデートしよ。そしたら、本当に諦めるから」
そんな。
「レイのこと、少しぐらい忘れてくれよ。いつだって3人じゃなくたっていいだろ? 叶わない恋をしたけど、ユリ、1日でいいんだよ」
「……そしたら……その気持ちは封印してくれるの?」
「うん」
「誰にも言わないの?」
「うん」
我ながら酷いこと聞いてることはわかってる。でも……どうしても……。
レイのこと、守りたいから。
「レイにも言わない?」
「恥ずかしくて言えない」
なにそれ。
でも……。
「わかった」
私はうわの空で、それでもそう答えた。




