第二章の三
第二章
3
「今日も待ってんの?」
うっ……。
「うん」
おかしいかな? おかしいかな? レイをこんな風に待ってるのって、傍から見たらおかしいのかな。
レイよりも早く部活が終わるケイくんは、私がレイを待っていると知ってから毎日私の様子を部活帰りに覗きに来る。
「……、あのさ……」
「ん?」
「や、なんでもね」
ケイくんはなんだか照れ臭そうに頭を掻いてそう言った。「?」そして、最近のケイくんは私に何かを伝えたそうだ。でも、言いにくいことみたい。いつも……、「あのさ」の続きが聞けないんだ。
私も、別に無理に聞きたくもない。言いにくいことは、たいてい嫌なこと。
「あれ? ケイ?」
そこにレイの声がスッと入ってくる。
「レイっ」「レイ!」
私とケイくんの声が重なる。
「何、2人して私のこと待ってたのぉ?」
意地悪そうに笑うレイ。うれしいくせに。
「レ……」
私はケイくんの言葉を遮った。
「レイ! 今日は早いんだね!」
「うん……。いや、ミーティングだって……。みんなでご飯食べに行くの。だから……」
レイは分が悪そうに頭を掻いた。
「行かなくてもいいんだけど……」
「何言ってんのよ! 試合前のミーティングだって言ってるでしょ?」
そこにまどかちゃんがひょいと顔を出して会話に加わる。
「いい? 試合まではちゃんとした部員なんだからね!」
「うるさいなぁ……」
レイは渋く眉を寄せる。
「それに子どもじゃないんだからユリだって1人で帰れるよ!」
まどかちゃんのその言葉に、私はなんだか恥ずかしくなった。顔が熱くなる。
「まどか! ミーティングがあるならあるって、はなから言っときなさいよね! 無駄にユリを待たせることになっちゃったじゃない……」
「いいの! いいの! レイ、私のことは気にしないで。家でしようと思ってた課題を今日もしてただけだよ。部活してるんだもん、そんなこともあるよ。私のことはほんと、気にしないでってば」
私はなぜか恥ずかしくて涙がでそうなのを堪えて、必死に笑顔を作った。バレてない? バレないで。かなしいとか、さみしいとか、そういう気持ち、伝わらないで。
くみとっちゃダメだよ、レイ。
レイは暫く私の顔をじっと見ていた。その顔からは私は何も読み取ることができなかった。
「……」
レイは暫く黙りこんでいた。
「ケイ」
そしてケイくんの名前を呼んだ。
「お、おう」
ケイくんは意表を突かれたような返事をした。
「ユリ、送ってあげて」
「あ……、もち……」
私はまたケイくんの言葉を遮った。
「いいってば!!」
少し、声が大きすぎたかも。
「……いいの、気にしすぎだって、レイは……」
「それはユリだよ」
しれっとした表情で淡々とレイは私に言った。
「ケイ、ユリを送ってね」
「任せろ。お前よりは頼りないかもしれないが……」
「うっざー」
「なんだと!」
「ユリ、ごめんねぇ、こんなバカたれでもいたほうが安心だから。最近、日が暮れるの早いでしょ?」
レイはにこっと笑って私にウインクをした。
「……うん。ありがと」
私は素直にそれを受け入れることにした。
万事解決だ。断って断って、気を遣って気を使って、困らせていたのは、本当に私だ。みんな、普通に心配してくれていただけなのに。人から、他人から、友達から、優しくされるのに、まだ慣れてない。
「ケイくん、送って」
私は言った。
「だから、もちろん送るって」
「なぁ、レイ。もうすぐ試合ならさ、それまでユリのこと送ってもいいんだぜ?」
「え……」
「あー、そうねぇ」
えー? レイ!? 何を考えてるの? 迷うことなんてないって!
「こんな日が続くわけ?」
レイはまどかちゃんにそう聞いた。
「んー、そうだねぇ。まぁ、そうかも」
ほんとですか? まどかちゃん、適当に言わないでよね!?
「じゃあケイ、あと一週間もないし、頼むわ」
「おう!」
……えー?
「行くぞ! ユリ」
私はじっとレイの顔を見ていた。知らぬ間に口がへの字になっていた。そんな私を見てレイはふっと軽やかに笑っていた。
「何よ、心配しないで。ケイのこと、信用してあげなよ」
レイはそう言った。
「なんだよ、ユリ、俺のどこが頼りないんだよ!」
……。そっか。そうだよね、私のもやもやな気持ち、なんだったんだろう。レイは、私とケイくんのこと、心から信用してる。
もちろん私だって、ケイくんのこと、信用してる。大切な友達。レイと一緒。レイの好きな人であって、私の友達。大切な。
「そんなこと言ってないよ。うん、帰ろう」
私はにっこりと笑った。ケイくんはなんだかそんな私を見ると少し照れ臭そうに顔を掻いて、「おう」とぶっきらぼうに返事をした。
「……、レイカってさぁ、ケイゴくんとつき合ってんじゃないの?」
まどかが言う。
「つき合ってないよ」
「そうなんだ! いや、邪魔が入ったんじゃないかって、みんなで噂してたんだよ」
「邪魔って、ユリのこと!? 誰が言ってんの!?」
「う、うそ、冗談……」
「ユリは大丈夫だよ、そんなんじゃない」
レイはユリとケイの後ろ姿をなんとなく眺めながらそう言った。
「そうだよね、ユリって、めちゃいい子だね」
「でしょっ?」
レイはその言葉を聞くと、とても嬉しそうに笑った。
「……はぁ。ほんと仲いいね……」
まどかは呆れたように言った。
日が暮れる。茜色の空。茜色の空を歩いて帰るのは、なんだか特別な感じ。この秋のじんわりとした存在の示し方。さみしいような、憂鬱だけど、優しいような……。
「ユリ」
「ん?」
「ユリ、俺、好きな子がいるんだけど……」
え?
それは突然の告白だった。
「……」
いや、この場合、誰誰っ!? って聞いたりするものだよね。あれ? 上手く言葉が返せない。そんな私のことをケイくんは真剣な眼差しで見つめていた。
「……、ふっ、何? 誰かが死んだみたいな顔してる」
ケイくんはそう言って笑った。
「えっ? いや、ちがくて……」
「やっぱ、レイに相談しようかなー」
はっ!? どういうこと!?
「だめっ、だめだめだめ!」
私はケイくんの腕を知らぬ間にぎゅっと握りしめ、必死に首を横に振っていた。
「そんなにダメなの?」
ケイくんは多少引いたように口をひきつらせていた。私はそれを感じつつも気にとめず、必死に首を今度は縦に振った。
クス、とケイくんはそんな私を見て笑った。
「じゃ、ユリが相談役な」
「うん、私が相談役!」
「しがみついてんの?」
「え?」
私は今の状況を確認した。ケイくんの、顔が近いし……、私の胸、あたってる……。
「はっ! あっ! ごっ、ごめッ……」
「はは。ユリっておもしろいなー」
ケイくんはなんともないように笑って、私の前を歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと待って」
「ユリ、置いてくぞ」
「ちょ、何それ! っていうか、相談聞くっていったじゃん」
「んー、今日はこのまま帰る」
なにそれ! こっちは心臓バクバクのドキドキの……。あ、ドキドキは違うけど……。
もう、ほんと、自由なんだから!
でも……、誰?
聞きたいようで、
絶対聞きたくない。




