第8話 蚕食
(いってぇ……)
大して飲みすぎたわけでもないのに頭痛が酷く訴えかけてくる。
(最近、あんま飲んでなかったし。疲れのせいもあんのかな……)
久々の連休初日だったため、この日は一日中家から出ることはなかった。
ーー
(流石に今日は買い物行かないとな)
「…………?」
(なんだ?)
買い物にでも出掛けようとしたその時、タイミングよくスマホの画面が光った。
「りるちゃん……」
それはりるちゃんからのメッセージ通知。
俺は恐る恐るメッセージ内容を開いた。
【ハジメさん、今日もお休みですよね?でも、そろそろ買い出しに行かないとまずいんじゃないですか?出不精は体によくないですよ〜♡】
「なんで、俺が休みなこと知ってるんだ……?」
そう呟いた後、すぐさま通知が届いた。
送り主は変わらず、りるちゃんからだった。
【りるも買い出し行かないと冷蔵庫空っぽになっちゃうなー、あ、そうだ!ハジメさん、よかったら一緒に買い物行きませんか?りると買い物デートしましょうよ!】
少し怖くなった俺はスマホの電源を切って、家から出た。
ーー
駅前大通りの商店街は昼間でもかなりの人で賑わっていた。
(さて、何買おうかな)
いつもの惣菜屋でコロッケを買い、スーパーで日用品と食材を買って商店街をブラブラと歩く。
(たまにはこういう静かなのもいいな……)
日頃からゲーセンで働いて、休みの日もゲーセン巡り。
正直、散歩目的で歩き回るのはかなり久しぶりのことだった。
(やっべ、洗剤買い忘れた……)
洗濯洗剤を切らしていたのを思い出し、慌ててスーパーへと戻った。
「えっと、洗剤……洗剤っと……ねぇな」
(しゃあない、別のにするか……)
いつもと同じ洗剤が売り切れていたので、その隣の少々お高いやつに手を伸ばす。
(あ……)
すると、丁度横から色白で細長い手が伸びてきて、触れてしまった。
「ああ、すみません……よかったら先どうぞ……」
「あ、ありがとうございます……え?」
「え……って、りるちゃん!?」
「わっ!ハジメさんだー!奇遇だねー♡」
「な、なんでりるちゃんがここに……」
「あれ?メッセ見なかった?りるも買い出しだよ?」
(それにしたって、こんな偶然あんのか……)
予想だにしなかった邂逅に戸惑いを隠せずにいると、りるちゃんは意地悪そうな笑みを浮かべて口を開いた。
「ハジメさん、もしかしてわたしのこと避けてる……?」
「い、いや?そんなことないよ……」
「じゃあ、どうしてメッセ返してくれないんですか?りる、悲しいな……」
「その、ごめんね?買い物に夢中になってて……」
「そうなんだ!確かに、すっごい真剣そうに探してたもんね!」
「あー、そうそう。いつもの洗剤が売り切れててさ。どうしようかなって思ってて」
「りると同じ洗剤使うの?ハジメさん、りると同じ匂いになっちゃうね♡」
「あ、はは……」
俺はこっそりポケットの中のスマホの電源を入れた。
正常に起動したのか、直後からバイブレーションがいつまで経っても収まらなかった。
(な、なんだ……?)
「りるちゃん、もしかしたら電話かも、ちょっとごめんね……」
「全然おっけーだよ♡」
りるちゃんに断りを入れてからスマホの画面を確認して、そこに映る光景に絶句した。
(に、287件!?)
全て、りるちゃんからの新着通知だった。
俺は全て既読を付けて、ざっと目を通した。
【りると買い物は恥ずかしい?】
【それとも、まだ寝てるのかな?】
【既読付いてるしそんなわけないよね】
【えー、無視はひどいなー】
【ハジメさん、買い物いこうよー】
俺は悟られないように再度スマホの電源を落とした。
「……あ、あー、気のせいだったみたい」
「ほんと?ならよかった。あ、でも、ハジメさん……」
(ち、近い近い……)
「ちゃんと見てるんだから、返してくれないと。女の子は不安になっちゃうよ?き・を・つ・け・て・ね♡」
耳元でりるちゃんの声が囁くと、鼻腔には女の子特有の甘い香りが広がった。
「う、うん、ごめんね……」
「分かればよろしい♡」
(なんか、スゲーご機嫌だな……)
「はい、これどうぞ、ハジメさん」
「あ、ああ、ありがとう……」
りるちゃんから洗剤を手渡される。今更ながらやっぱり要らないと言える雰囲気でもないので、そのままレジで精算した。
(てか、なんで着いてくるんだ……?)
「あ、あのさ、りるちゃん……」
「ん?なーに?ハジメさん」
「これからどこか行くの?」
「え?ハジメさんが行く所だけど?」
「え……」
「だってハジメさん、まだ行く所あるでしょ?」
「いや、もう帰ろうかなって思ってたところなんだけど……」
「えー、もう帰っちゃうのー?」
(本当は少し寄り道しようかと思ってたんだけど……)
りるちゃんは少々膨れっ面になりつつ、俺の腕をガシッと掴んで離してくれなかった。
「り、りるちゃん!?」
(当たってるって……)
「りる、まだ帰りたくないな〜」
「そうは言っても……」
「あ、りるいいこと思いついた!」
(なんか、嫌な予感がするな……)
「ハジメさんが次の休みの日にデートしてくれるなら今日は大人しく帰ろうかな〜」
「なッ……!」
「ねぇ、いいよね〜?」
小悪魔的な笑みが上目遣いと共に供される。
「いや、その……」
「いいでしょ?はい、決まり!」
「ちょッ、ちょっと待って!俺はまだなんにも……」
「じゃあ、来週の月曜日ね!」
(なんで、俺の次の休み知ってるんだよ……)
「あのさ……」
「んー、な〜に?ハジメさん」
「なんで、俺のことそんなに知ってるんだ?なんか、理由があるの?」
「んー?特には?」
りるちゃんは顎に指を当てて深く思案している様子だった。
「りるはただ、ハジメさんのことがもっと知りたいだけだよ♡」
「…………ッ」
(ち、ちか……)
「じゃあ、ハジメさん、約束忘れちゃダメだよ?」
そう言うと、りるちゃんは離れて逆方向へと歩き出した。
「りるもコロッケ食べたくなっちゃった♡買って帰ろーっと」
「…………」
(俺、りるちゃんの前でコロッケの袋一度も出してないよな……?)
「またね、ハジメさん♡」
(なんで……)
りるちゃんの姿が見えなくなったあとも、俺はしばらくその場を動くことができずにいた。
第8話お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけていれば幸いです。
作者はとばりが結構お気に入りのキャラです。これからも新キャラ登場予定ですのでお楽しみに!
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次回、第9話でまたお会いしましょう。




