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第7話 境界線

最後に交わしたりるちゃんとの会話が少しだけ引っ掛かっている。


(俺、今日出勤のこといつ言ったっけ?)


些細なことかもしれないが、それが妙に閊えていた。


「さて、仕事しますか」


モヤモヤとした何かが胸中に渦巻いても、仕事は待ってはくれない。


「うわッ!なんスかこの量!」

「来週末の連休に向けて業者が一気に送り込んで来たんだよ。今週は入れ替え景品多いぞ」

「うっへー……マジッスかこれ……倉庫整理したばっかりじゃないッスか……」

「文句言うなって、いいからお前も手伝ってくれ」

「ウッス……」


それからはかなり忙しかった。


「あ、お兄さーん!位置直しお願いします!」

「あ、はーい、少々お待ちくださいね」

(クッソ、こっちは作業中だぞ……)

「あ、すいませーん」

「あ、少々お待ちくだ……」

「景品が遠くに行っちゃって直して欲しいんですが」

「……ちょッ、ちょっと待ってくださいね」

(ちょっとくらい待ってくれよ……)


景品の入れ替え作業中でも客はひっきりなしに話しかけてくる。

仕方のないことだが、新作景品が並んでいないとそれはそれでまた新たな火種を産みかねない。


(なんでこんな時に限って柏木さんいないんだ……)

「ハジメ、巡回飽きた。ダルい」

「とばり……」

「お腹空いた」

「もう少し辛抱してくれ」

「巡回ヤダ。死ぬ」

「んなことで死んでたまるか」

「チッ、無能が……」

(俺のセリフだわ)


文句を垂れつつも、とばりはフラフラと巡回に戻っていった。


「ハージーメーさーん♡」

「あ、りるちゃん」

「なんか、忙しそう?」

「あー、うん。少しね。今日は柏木さんがいなくてさ」

「あー、あのおっぱいおっきい女の人」

「新作景品の入れ替えが多くて大変なんだよ……」

「ほんと、大変そう」

(柏木さんの名前が出た途端、強張ったような……?)

「……そうか、あの女いないのか」

「へッ……?なんか言った?」

「ううん、なんにもー」


そう言って笑うりるちゃんだったが、どこか嘲笑さが溶け込んだ笑みだった。


「おい、兄ちゃん!」

「あ、はい!」

「これ獲れねーんだけど」

「ごめん、りるちゃんまた後でね」

「はーい♡」


腕に刺青の入ったガタイのいい強面の人に声を掛けられ、りるちゃんに一礼したあとすぐさま対応に入った。


「これさー、設定間違ってんじゃないの?」

(うわぁ……めんどくさいタイプだな……)

「お客様、いかがされましたか?」

「どうしたもこうしたもねぇよ!ぜんっぜん獲れないじゃねーか!」

「そうですよね、何回かやっていただいても獲れないと不安にもなりますよね」

「お兄ちゃんやってみてよ、どうやった獲れんのか見せてよ」

「すみません、代替プレイはルール上行っていないので、位置の調整だけ行わせていただけますか?」

「は?できないの?意味わかんなくない?」

(うッ……くっさ……)


厚化粧と香水の匂いがかなりきつい連れの女性が喚いた。

強面の方は良い格好がしたいのか、イライラが募っていくようだった。


「そんなんどうでもいいからさ、もう結構使ってんのよこっちは」

「そうよ、もう頂戴よ」

「払い出し口に落ちたもののみ獲得になりますので、お渡しはできかねます。今の位置だとかなり難しくなっているようなので、位置調整だけさせてくださいね」

(なんか、りるちゃんずっとこっち見てんな……)

「おう、取れるとこ置いてくれよな」

「次で獲れなかったらマジで許さないから」

(うるせぇなこのバカップル……)


景品の位置調整を行って無事獲得していったカップルの対応を終え、景品の入れ替え作業に戻った。


「ハジメさん、ガチで大変そうだったね」

「あ、ああ、あれね。まぁ、たまにああいうのも来るから。りるちゃんも変な人には気をつけてね」

「でも、今日のハジメさんは一味違うもんね?」

「一味……?」

「うん、ちゃんと周り見れてるって感じがするよ」

(一体何のこと言ってんだ?)

「俺が、なんかいつもと違うって感じ?」

「うん!だってハジメさん、今日サンドイッチ食べてたでしょ?あれ、美味しいよねぇ。りるも好きなんだー」

「は……?」

(いやいや、待て待て待て。なんで俺の昼飯がサンドイッチだって知ってんだ……?)

「さっきも裏で重い荷物運んでたし、あの気怠げそうなスタッフさんの世話まで……ほんっと、ハジメさんそんけーしちゃうなぁ……」

(なんでそんな細かいこと知ってんだよ……)

「あ、あのさ、りるちゃん……」

「あ、そうだ忘れてた!りる、この後お仕事行かなきゃだから、またねハジメさん♡」

「あ、あの!りるちゃん!?」

(なにしに来たんだ?)


特にゲームをしていく訳でもなく、りるちゃんは足早に去っていった。

俺は、胸中に渦巻くモヤの正体がなんなのか、少しだけ掴み始めていた。


(いや、何かしに来たんじゃない……見に来た、のか……?)


何を?というところまでは具体的には分からなかったが、少しだけ悪寒が走った。

その後も、妙な居心地の悪さを感じながらも景品の入れ替え作業を進めた。


ーー


「やっと終わった……」


三日がかりで景品の入れ替えが全て終わり、ようやく一段落つくことができた。


「巡回二度とやらない……」

「マジで死ぬかと思ったッス……」

「二人ともご苦労さん」


二人の頭をワシワシと撫でると満更でもない様子に少しホッとした。


「仕事終わりに飯でも食いに行こうぜ」

「奢りなら、まぁ……」

「ハジメさんゴチになるッス!」

「いや、奢るなんて一言もいってないが!?」

「言い出しっぺが払う」

「その通りッス!!」

(……まぁ、たまにはいいか)

「ったく。しゃあないな……今日だけだぞ」

「キタコレ」

「うッしゃー!やりーッス!」

「おまえらな……」


いつも通り締め作業をして俺達は店を後にした。

その間もとばりとヨウイチは随分とご機嫌だった。


「そういや、比奈子さん連休なんて珍しいッスね」

「ああ、来週末の連休前に休み取ったんだろ」

「そうは言ってもッスけどね」

「毎年この時期はひな姉いないじゃん」

「あれ?そうだったっけ……?ハジメさん、なんでなんスか?」

「お前それ毎年言ってるよな……この時期は柏木さん、実家に帰省してるんだよ」

「あー!なんでしたっけ?墓参り?とか?」

「そうだよ。そんな大事なこと忘れんな、バカ」

「ヨウイチはホントバカだからなぁ」

「二人してひどくないッスか!?」


居酒屋でたらふく飲み食いしたあと、早々に解散した。

柏木さんがいないこともあり、明日に備えて酒もほどほどにした。


(さて、俺も早めに帰って休みますか)


仕事の疲れといい塩梅で酒も回り始めた頃、帰り道を歩いているとふと背後に視線を感じ振り返る。


(気のせい、か……)


街灯以外に誰の気配も感じなかったが、どうにも心がざわついた。


(あの時のりるちゃん、なんかおかしかったよな……)


妙に裏事情に詳しい。昼食のことも、偶然という言葉では片付けられないようなものばかりだった。


(ッ……!?)


ふと思考を巡らせていると、スマホの画面がぼんやりと暗がりに光った。

画面を覗くと新着通知が一件。


「誰だよ、こんな時間に……」


とばりかヨウイチが今日の礼でも飛ばして来たのかと思い、深く勘繰りはしなかった。


「え……?」


しかし、思いとは裏腹に、送信者の名前に驚きが隠せなかった。


「りる、ちゃん……」

【ハジメさん、今日も遅くまでお疲れ様でした!気を付けて帰ってくださいね♡P.S.お酒はほどほどに♡】


背筋が一気に凍りついた。

恐る恐る振り返るもやはりそこには誰もいなかった。


「な、なんで……」


りるちゃんが近くにいるような気がしたが、当然誰もいなかった。

俺は、たまたまだと言い聞かせまたフラフラと歩き出した。


第7話お読みいただきありがとうございます!

中々ストーリーを練るのが難しくて、どういう展開にしようか?こうしたらどうか?と右往左往している日々です(笑)

更新をゆったりとお待ちいただけたら幸いです。

感想やブックマークも是非お待ちしています!

次回、第8話でまたお会いしましょう!

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