第3話 退勤時間
ーー嫌な予感は的中した。
(くっそ!なんだよこれ!?)
「すみません、オーサーマンのフィギュアって入ってますか?」
「あのー、オーサーマンの寝そべりぬいぐるみってどこですか?」
「すみません!順番にお伺いしますね!」
(オーサーマン、恐るべし……)
映画公開初日にも関わらず、午前中に映画を観てきたであろうカップルや家族連れで店内は大変賑わっていた。
(コミケかよ……なんだよこの人の数……)
あまりの人の多さと熱気に、頭がクラクラしてくる。
その途端、背筋が少し凍るような気配を感じた。
(なんだ、この感じ……)
どこかで誰かに見られている気がした。
(気のせい、だよな……?)
「すみませーん!」
「はーい!ただいまー!」
接客と手直しの連続に息つく暇もない。
賑わう店内の中にいつもの少女の姿を見つけた。
「ハジメさん!」
「……あ。りる、ちゃん」
「んー……なんか、お疲れです?」
「すみませーん、お兄さん!」
「あ、はい!ただいまー!ごめんね、今ちょっと立て込んでてーーまた今度」
(せっかく来てくれたのに申し訳ないな……)
「……そっか、忙しいんだ」
りるちゃんの元を離れて一組ずつ対応に当たる。
心のどこかで申し訳なさが勝っていた。
「あ、ハジメさんみっけたッス!」
「おお、どうしたチビスケ」
「チビスケは余計ッス!……って、そんなことより、比奈子さんが探してたッスよ!巡回代わるんで、行ってくださいッス!」
「おお、じゃあ、任せたわ」
(柏木さん、俺になんの用だろ)
ビデオコーナーへ向かうと柏木さんの姿があった。
「あ、ハジメ君。ごめんね、忙しいのに……」
「大丈夫ですよ。それより、なんかあったんですか?」
「このゲーム機、ボタンの接触悪いみたいで……ちょっと見てもらえないかな?」
「全然いいですけど、再起動とかは試したんですか?」
「うん、何度か試してみたんだけど、やっぱりダメみたいなの……」
「ちょっと見てみますね」
ボタンを叩いて遊ぶ音ゲーのタッチが効きづらくなったらしい。
ネジを外して分解してみると原因はすぐに分かった。
「あー……これ、部品の劣化ですかね。少し亀裂入って破損してます」
「直せそう?」
「これくらいなら大丈夫ですよ。部品交換すればすぐ稼働できると思います。ちゃちゃっとやっちゃいますか」
「ホント?よかったぁ……」
(柏木さん、ベテランだけど、根っからの機械音痴だもんな)
交換用パーツに差し替えて稼働テストも問題なかった。
工具箱を整理していると小さな影がそれを覆った。
「ハジメさん、なにしてたんですか?」
「ああ、りるちゃん。音ゲーの部品交換だよ。お客さんが遊べなくて困ってたみたいでさ」
「へー!ハジメさんってすごいんですね!自分で直せちゃうんだッ!」
「あ、いや、俺は部品交換しただけで……」
(そんな大層なことはしてないんだけどな)
「ーーハジメ君、お疲れ様!ありがとね!」
「柏木さん、丁度終わった所ですよ。あれくらい余裕ですから」
「ふふっ、頼もしいなぁ」
「……チッ…」
(え……?今、なんか聞こえたような気が……)
振り向くと、柏木さんを睨みつけるりるちゃんの姿があった。
(な、なんだ……?)
「あら?こんにちは」
「……どうも」
「りるちゃん?どうかした?」
「……邪魔だな」
「……えっと、ごめん。りるちゃん、なんか言った?聞き取れなくて……」
「いえ!こっちの話です!それよりハジメさん、また教えてほしいところがあって!こっちです!」
(うわッ!ちょッ……!急に引っ張らないでくれ!つうか胸!胸あたってるからッ!)
俺の気などお構いなしに、りるちゃんは半ば強引に腕を引いてビデオコーナーから引きずり出していった。
「ハジメさん、今日って何時までお仕事なんですか?」
「あー、えっと、ラストまでだよ」
「閉店時間って、確か21時ですよね?」
「お店はね。でもその後に片付けとか諸々あるから、上がり時間はその後になるかな」
「ふーん……じゃあ、わたし待ってますね」
「えッ!?」
(な、なんで?)
「わたしが待ってたら、迷惑ですか……?」
(いや、ちょッ、その顔はズルいだろ……てか、一旦離れてくれないかな……)
りるちゃんは俺の腕を抱きしめたまま、潤んだ瞳で見詰めてくる。
さながら、拒否権など最初からないのではと思わされる。
「いや、迷惑とかじゃなくて……」
「じゃあ、いいですよね?待ってても」
「その……遅くなるとまずいだろ……」
「なにがまずいんですか?おいしいのまちがいでは?」
(おいしい?なんのこと言ってんだこの子)
「と、ともかく……りるちゃんは可愛いんだから夜道はなにかと危険だろうし、早く帰ったほうがいいよ」
「え……」
(あれ?俺、なんか間違ったこと言ったか?)
りるちゃんの顔は茹でダコのように耳まで真っ赤になっていた。
「……もしかして、私のこと心配してくれて……?それに、かわいいって……」
「え、あー……そりゃ、そうだろ?」
(だって、女の子だし)
「……ハジメさんって、結構大胆なんですね♡」
「は……?」
(なんのことだ?)
「……今日は大人しく帰りますね。また来ます、ハジメさん」
「あ、ああ……また、お待ちしてます……?」
りるちゃんの後ろ姿はどこか嬉しそうで、随分と満足気な足取りだった。
(ほんと、なんなんだよあの子)
りるちゃんが帰った後も、俺はオーサーマンを求める客の群れに忙殺されていた。
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次回、第4話でまたお会いしましょう!




