第2話 再来店
(今日は平和だ)
昨日と打って変わって店内は落ち着いていた。
「ハジメさん!休憩どうぞッス!」
「おお、じゃあ行ってくるわ」
「ごゆっくりッス!」
(喉、乾いたな……)
俺は財布を取りに事務所に戻った。
「あ!ハジメくん」
「なんですか?柏木さん」
「あとでちょっと重い荷物あるから運んでほしくって……ごめんね、休憩中に」
「全然いいですよ、それしか取り柄ないんで」
「もう、そんな卑下しないの」
「はいはい」
事実、俺の良さなどそんな程度のものだ。
それでも、柏木さんはどこか困ったような含みを込めた顔で笑った。
ーー
「おっも……」
休憩上がりに倉庫へ行くと、荷物の山が積み重なっていた。
「何が入ってんだよ、これ……」
「ああ、それ?怪人戦士 オーサーマンのフィギュアよ」
「ああ、最近人気のアニメのヤツですね」
「そうそう、そのアニメの劇場版が明後日公開だから今日中に入れ替えしときたくて……ごめん、手伝ってもらっちゃって」
「全然いいですよ、ヒマなんで」
「ありがとね、ハジメくん」
柏木さんは満面の笑みで微笑んだ。
(美人、スゲー……)
箱を開けると右手に剣を、左手に光線銃を持ったオーサーマンが所狭しと並んでいた。
(なんでこんなものが人気なのかね)
世論に悪態をついたところで景品は自動では並んじゃくれない。
俺は黙々と作業を続けた。
ーー
「ハジメさ〜ん!!ヘルプッス〜!!」
「……んだよ、ヨウイチ。こっちはオーサーマンで手一杯だっつの」
「フロア巡回、人足りないッス!お客さんめっちゃ増えて来ました〜!助けてくださいッス!」
(今日もかよ……)
夕刻ピークに限界を迎えたヨウイチは半べそ掻きながら助けを求めにやってきた。
「ごめん、ハジメくん。後はなんとかやっておくから、行ってあげて」
「ウィッス」
(げッ、なんだこれ……)
フロアに出ると中高生からサラリーマン、カップルまで幅広い年齢層がUFOキャッチャーに興じていた。
(……あれ)
視界の端に見覚えのある黒いツインテールが映った。
(あの子、昨日の……)
少女はどの筐体で遊ぶか決めかねているのか、はたまた誰かを探しているかのようにキョロキョロと辺りを見回していた。
(あ……)
ーーふいに、少女と目が合った。
その瞬間、満面の笑みを浮かべて小走りに駆け寄って来る。
「あ!おにいさーん!」
(うおッ!近ッ!)
「昨日アシストしてくれたお兄さんですよね?」
「……え、ああ」
少女は覗き込むように俺の顔を見詰めた。
(背、ちっさ……てか、近すぎだろッ!距離感バグってないか!?)
上目遣いに一瞬ドキッとするも、平静を保つように心掛けた。
「今日は音ゲーやりたくて……まさか、またすぐお兄さんに会えるなんて思わなかったです」
「あ、ああ、俺もだよ……」
「……もしかして、これが運命ってヤツなんですかね?」
キラキラと輝く瞳に「そんな大層なもんじゃない」なんて言えるわけもなく、俺は沈黙を貫いた。
「あ!そうだ!お兄さん名前なんて言うんですか?」
「……へッ?な、名前……?」
客に名前を聞かれるなんて初めてのことだったので変な声が出た。
少女は名札に目をやると呟く。
「なか、とう……?」
「あ、ああ……そうだよ」
「中塔さん。って、言うんですね。あ、わたしの名前はーー」
「あ!いたいた、ハジメ君!」
少女が何かをいいかけた矢先、柏木さんが割り込む。
「柏木さん?どうかしたんですか?」
「ごめん、ちょっといい?……あら?お客さん?」
「すみません、今この店員さんに聞きたいことがあって。もしかして、わたし、お邪魔ですか……?」
「ごめんなさい、そんなことは全然ないの。ゆっくりして行ってくださいね。ごめん、ハジメ君。また後で」
「はい、また」
「失礼します」
柏木さんは少女に一礼するとそそくさと倉庫に戻っていった。
(柏木さん、なんの用だったんだ?)
「……お兄さん、あのお姉さんと仲いいんですか?」
「へッ……?」
「あの人と、仲いいんですね……」
(な、なんだ……?さっきまでと雰囲気が違うような……)
「ああいう、大人の女性が好きなんですか?確かに、おっぱい大きかったですけど」
「いやいや、そういうんじゃなくて、ただの先輩ですよ」
「結構、親しそうでしたよね?私と話してる時より……なんか、ヤダな……」
(なんだ、今の……ちょっと怖かったな……)
一瞬見えた表情には陰が潜んでいた。
笑っているのに、彼女の目だけは笑っていなかった。
「ま、いっか」
そう言うと少女は俺の方に向き直って、より一層距離を詰めた。
「そんなことより、お兄さんの下の名前、ハジメって言うんだ」
ーー中塔 弌。
ひょんなことから、フルネームが割れてしまった。
店員と客の境界線が少しだけ破られた気がした。
「ねぇねぇ、ハジメさん」
(だから、なんでこの子一々距離詰めてくるんだよ……)
「わたしは植原 りるだよ。りるって呼んでね、ハ・ジ・メ・さ・ん♡」
(!?!?)
突然腕に抱きついたかと思うと、俺の耳元で妙に艶めかしい声で囁いた。
「また後でね、ハジメさん」
りるは腕を解放するとビデオコーナーの方へと歩いていった。
俺の右腕には何か柔らかい感触と、女の子特有のいい香りがしばらく離れなかった。
ーー嫌な予感と共に。
第2話お読みいただきましてありがとうございます!
一話ずつですが、少しずつ投稿していきますのでどうぞお付き合いくださいませ。
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次回、第3話でまたお会いしましょう!




