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第1話 出会い

4月11日

内容に加筆修正しました

ゲーセン店員をやっていると、いろんな客に出会う。

常連、初心者、難癖クレーマー……。

ーーでも、あいつみたいにグイグイ来るヤツは初めてだった。


ーー


「ふわあぁ、ねっむ……」


都内のショッピングモールにあるゲーセンで働いている俺は、今日も遅番だった。

この日は連日深夜まで続く新作ゲームのプレイで寝不足気味だった。


(客、あんまこないといいけど……)


心の中でそう願いつつ、俺は決まっていつも通り。始業時間ギリギリに店に着いた。


「ちわー」

「ウィ〜ッス……って、なんスか、その目。クマできてるじゃないっスか、ハジメさん!」

「ああ、これなぁ……」

「もしかして……ま〜た遅くまでゲームやってたんッスか?」

「そのまさかだよ」

「呆れた人ッスわ……だから、いつまでたっても彼女できないんスよ!」

「いいんだよ、俺はゲームが恋人なんだから」

「やべぇッスわ、ある意味尊敬ッスわ……」


年下の後輩、結城 陽一に軽く窘められるも受け流す。そもそも、欲してやいないものなどこちらから願い下げである。


「とはいえ、身体のこと、少し心配よ?ちゃんと食べてるの?そんなガリガリで……」

「大丈夫ッスよ、比奈子さん。ハジメさんは陰キャ童貞のゲームヲタクッスけど、案外身体丈夫だし、力持ちなんで」

「……殺すぞ」

「うわぁッ!助けてくださいッス!比奈子さん!」

「まったく、どいつもこいつも……バカばっかり……」


柏木 比奈子は頭を抱えて、陽一はそんな柏木さんの後ろに隠れてオドオドしていた。

これがいつも通りのやりとり。そんな日々に、俺はそれ以上何も求めてなどいない。


(今日も一日、無事に終わりますように)


俺は心の中でそう呟いた。


ーー


「すみませーん!」

「はーい!ただいまー!」

「景品、遠くに行っちゃって……直してほしいんですけど……」

「はーい、どちらの台でしょうかー?」


平日の割にかなり忙しかった。

夕方を少し回った辺りからピークが一段と増した気がした。


(なんで今日こんな混むんだよ……)


こんな時に限って寝不足の代償が付いて回る。

なんとか客を捌き切って、一段落つくと。何度か景品の獲得アナウンスが店内にこだまし、客たちが店を後にした。


(ああ、疲れた……)


軽く腰を伸ばしていると、どこからか小さな呻き声が聞こえた。


「ふぐッ、ぬぬっ……うぅッ……」


(ん?あの子……)


どこかで見覚えのある少女が、かわいいクマのぬいぐるみが入った筐体の前で険しい表情をしていた。


(よくうちの店に来る子だ……)


黒髪ツインテールの、俗に言う地雷系ファッションに厚底ブーツを装備した女の子が拳を握り締めて何やらブツブツと呟いていた。


「うぅッ……ラスト、一回……絶っっっっ対、欲しいッ……!!」


最近流行りの【くまぐまシリーズ】の抱っこサイズぬいぐるみが横たわっていた。


(そう言えば、結構前からやってるような気もするな……)


ピーク時間の少し前に視界の端でプレイしていたような気もし、それならば小一時間くらいかと試算してみる。


(ラストって言ってるし、相当やってたのか?この子)


遠目から見てもわかるほどに殺気立っていた。

次で必ず仕留めるといった気迫が犇々と伝わってくる。


(まぁ、少しくらい、いいか)


「……あのぉ、お客様?」

「ふえッ!?は、はい……?」

(……結構、いや、普通にかわいいな)

「よかったらなんですが、少しお手伝いさせていただいてもよろしいですか?」

「えッ……?」

(ヤッベ、急に話しかけたらただの痛いヤツじゃねーか!)


少女は魂の抜けた面持ちでこちらを見詰めていた。


「あ、いや、その……結構頑張って長くプレイされてたみたいなので、景品の位置も少し惜しいし……もう少し近くに寄らせて貰えたら取れるかと思ったんですが……」

「…………」


(……待てよ?結構長くやってたとか、ずっと見てたストーカーみたいになってるじゃんかよ、俺!)


女の子の肩が小刻みに震えているのがわかった。


(これ、もしかして……通報案件?俺の人生、終わった……?)


即座に弁明しようと次の言葉を探していると、女の子が突然グッと距離を詰めて口を開いた。


「ほ、ホントですかッ!?まぢ、神っ!」

「は……?」

「お兄さん、わたしのことずっとみてたんですよね……?」

(うっ……)

「わたし、もうこれしかなくて……まぢでどうしようかと思ってたんです……お兄さん!お願いしますッ!」

(顔ッ!顔近いってッ……!!)


女の子は一歩下がって深々と頭を下げた。

心の底からこの景品が欲しいのだという気持ちが伝わってくる。


「あ、あぁ、えっと……じゃあ、少しだけ……」


俺はポケットから鍵を取り出して扉を開け、ぬいぐるみの位置を調整する。


(よし、こんなもんだろう)

「お待たせしました」

「おおッ!」


女の子はこれでもかと瞳を輝かせ、最後の100円玉を投入した。


「あの、これは、どうすればいいんでしょうか……?」

「そうですね、いい感じにエッジに寄りかかってるので、ギリギリ掴むと獲得口まで運んでくれるかもですね」

「や、やってみます……」


少女は俺の言うとおりにレバーを操作して、角度や位置を微調整しながらボタンを押した。

ぬいぐるみが宙に舞う。そして、アームが天井まで上がり切る直前でぬいぐるみを離したーー。


「……と、取れたああぁぁぁぁッッ!!」


落ちたぬいぐるみはエッジにぶつかった反動でうまく獲得口に吸い込まれていった。


「おめでとうございます」


少女は少し屈むと獲得口からぬいぐるみを取り出した。


「超ッッ!!かわいい♡♡♡」

(君のほうが、100倍かわいいだろ)


獲得したぬいぐるみを満面の笑みで抱き締める。


(こんなに喜んでくれるとはな……)

「今、袋お持ちしま……」


景品袋を取りに行こうとすると、袖をグッと引かれ、思わず顔が近付く。


「お兄さん!超〜絶、アリガトっ!!」

(か、かわいい……)


少女は大輪の花が咲くように笑った。


「お兄さん、また来るね」


去り際、少女はまたひとつ笑ってみせた。


「次もまた、教えてね?」


(それは、反則だろ……)


俺の鼓動はどうにも収まりがつかなかった。


ーー



はじめまして、塩味しおみ うすめと申します。

ご覧いただきありがとうございます。

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次回、第2話でまたお会いしましょう!

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