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次元の違い

今回も遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。それから、今回のお話の都合上、前話の最後の部分を少し修正させていただきました。よろしければご確認ください。


 観兵式が終了した日の夜、賢司は自室にて1人思案を巡らせていた。


(何故だ? 貴族派は今日、なにかしらの計画を実行するつもりだったのではないのか? そう思ったから警戒態勢をいつもより厳重にしたというのに……蓋を開いてみれば何事もなく、全てが順調に進んだ……本来ならば喜ぶところなのだろうが……)


 賢司としては全く喜ぶ気にはなれなかった。ただ……


「ま、考えても手掛かりが無い以上は時間の無駄、か。仕方がない。取り敢えず警戒はしておこう。ちょうどこの前から挑戦している魔法の練習にもなるだろう」


 そうして賢司はある物を寝床の下と部屋の入り口の扉、窓の縁に設置して眠りについた。





 数時間後……

 時刻は深夜0時を回ったあたりであり、この世界ではほぼ全ての人間が寝静まっている時間……


 そんな時間に帝都の家々の屋根を猛烈な速度で走り抜ける黒装束の人影が9つ。その圧倒的運動能力を見れば、身体強化魔法を使用しているのは明白。

 しかし、彼らの姿を見かけた者は1人としていない。それほどまでに彼らの動きは俊敏かつ、高度な隠密技術が使われている。



「全員しっかり付いてきているな?」


 集団の指揮官と思しき人物が口を開き、仲間全員に問うた。それに対して周囲の仲間たちは静かに首を縦に振ることで返事とする。そしてその間にも一行は黙々と屋根の上を越え続け、ついに宮廷とは別に造られた皇族の住居、大和城が見えてきた。


「さぁ、皆の者仕事の時間だ!」


 指揮官の男が小声ながらも仲間に檄を飛ばすと、全員が一斉に大和城の敷地内へと侵入した。当然ながら大和城の警備は厳重である。

 結界魔法も施され、一定間隔に警備兵が何人も配置されている。しかし……、


(思ったよりも楽に侵入できたな……。やはり特級の結界魔法を操れるこの俺にとって、大和城の結界構造を見抜き、無効化するなど造作もないことであったな。部下たちも無事侵入出来たようだ)


「お前たち、用意はいいか?」

「「は!!」」


 指揮官の男の問いに他の者たちが短く答える。その様子に満足した男は少し口角を上げた後……


「散開!」


 バッ!!


 男の号令で他の者達が一斉に大和城への侵入を開始した。近場にいた武士たちも次々と討ち取られ、気がつけば辺り一体に警備兵はいなくなった。


(よし! いける! 次は……)


 男は作戦が順調に進んでいるこの状況に満足することなく次の作戦行動に移った。


「後は目標を始末して帰還するのみ!」


 男は小さく独り言を呟くと、目的を達成せんと動かしているその足をさらに早め、魔法で高めた身体能力にモノを言わせて大和城を駆け上った。





 賢司が疲れを癒すために眠りについて約2時間ほど経った頃、賢司の耳にピコン、ピコンという警報音のようなものが鳴り響いた。

 それは、


(ふむ、窓のふちに仕掛けた感知魔法の魔法陣に何かが引っかかったな……。感知範囲が半径200メートル程だというのを知った時はなんと頼りないことかと思ったが、いざ使用してみると案外使えるものだな)


 賢司はそんなことを考えながら、寝床から体を起こしてそばにある台に置いてあったお茶を魔法で温め直し、侵入者の到着を静かに待った。


 そして、数十秒後……


 窓の鍵をなんらかの道具を使って開けて入ってくる人物が1人。その人物はまだ賢司に気づいていないようだったので、賢司から声をかけた。


「こんな時間に許可も無く人の家に上がり込むとは感心せんな」

「っ!? き、貴様は!?」


 まさか裏の仕事の達人である自分が子供1人の気配にも気付けずキョロキョロしていたことに驚きを隠せないのか、男は賢司のことを警戒しながら後退りして距離を取った。


「ん、何だ? 私が目的でこの部屋まで来たのだろう? ならばそんなことを聞かずとも、貴様が目的としている人物なのではないか?」

「なるほど、貴様が第三皇子、賢司だな?」

「ふむ。確かにそうだが、随分と口の利き方がなっていない客人だな」


 賢司はそう言って立ち上がり、枕元に置いてあった軍刀を手に取る。すると男は最大限の警戒体勢に入って賢司を睨みつける。


「動くな!! 本来ならば寝ている間に気づかれず殺すつもりだったが、バレてしまったものは仕方がない! そこからさらに一歩でも動いてみろ! 貴様を今すぐ殺してやるぞ!」


 男は混乱していた。この時間帯に任務を行えば、確実に寝ている目標の首を掻っ切るだけの仕事で終われていたはずなのに、何故か暗殺対象は起きており、おまけに気配まで完璧に消して殺しの達人である自分の背後から優雅に茶を飲みながら話しかけてきた。


 明らかに異常。どんなに考えを巡らせても9歳の子供にできる芸当とは思えなかった。しかも普段から密偵として情報収集をしている際に見かける雰囲気とは全くの別物であった。

 まるで、


(まるで……別人と話しているかのようだ。しかも……)


 男にはこの感覚に見覚えがあった。自分よりも優れている者と対峙し、負けを確信してしまっている時の感覚、それと全く同じものを今目の前の少年から感じ取っている。あり得ない、と思うと同時に冷や汗をかいている自分に余計動揺してしまう。


 男としては賢司が一番の危険人物であることは、ある程度調べがついていたのだ。本来ならば、この暗殺集団の指揮官である自分は聖皇や第一皇子や第二皇子を狙わねばならない存在。なのに今回の標的を第三皇子の賢司とした。それはなぜか、理由は単純である。武術の才能もあり、魔法も扱える才気あふれる人物だからである。男はおそらく皇族の中で1番手強いのは賢司だと踏んでいる。だから手に負えなくなる前に始末すべきだと思い、自分から賢司の暗殺を名乗り出たのだ。


 そう、分かっていたのだ。この賢司という逸材がいずれ自分達の雇い主の障壁となるであろうことは。しかしまさかこれほどとは男も思っていなかったのだ。

 

(一瞬対峙しただけですぐに分かった。私ではこの子供に勝てない、と)


 そんなことを男が考えていると、賢司が声をかけてくる。


「この私を殺す、か。ふふ、ふはは、ふはははは!!」

「き、貴様! 一体何がおかしい!!」

「出来るものならばやってみるがいい。まぁ無理だろうがな。それなりに魔法は扱えるようだが、貴様はそれだけだ。隠密としても、殺し屋としても中途半端だ」

「なっ!? 何だと!? き、貴様のような子供に何が分かる! 私は今までに百人以上もの標的を殺してきたのだ! この道の……」


 男は賢司の挑発に乗り、無我夢中で反論していたが次の瞬間……


「この道の何だ?」


 ズンッ!!


「っ!?」


 賢司が放った魔力圧に圧倒されてしまい、声を出せなくなってしまった。更に、どんどんと強められていく圧力に気が付けば男は片膝をついて死に物狂いで耐えていた。そうしなければ、地面に叩きつけられて意識を手放してしまいそうな気がしたからだ。

 そうこうしているうちに城中が騒がしくなってきた。


「ふむ、おそらく他にも襲撃者がいたのであろう? そしてその者たちも恐らく私の罠に嵌り、襲撃に失敗したのだろうな」

「な、んと、言うこと、だ……」

「さて、それではそろそろ決着の時と行こうか。おそらく魔法が使える者にはこの私の魔力圧は感知されているだろうから、すぐにでも家臣たちがやってくるだろう。諦めることだな」

「くっ!!」


 男が悔しそうな表情をしながら賢司を睨みつけているが、賢司はお構い無しに話を進める。


「それよりも貴様。先程私に対して100人以上も殺しただの、この道のなんだのと言っていたな? はっきりと言おう……それがどうした?」


 賢司はそう言うと体の周囲に氷、雷、炎の上級魔法陣を発現させてそれぞれの魔法を発動した。軍刀は氷結の強化魔法で白銀に変色し、パキパキと音を立てている。

 そして賢司の足元からは激しい稲光がバシバシと煌めいている。さらには賢司の頭上に成人男性が丸々収まるほどの大きさの火球がメラメラと燃え盛っていた。


 男はその様子を見て、もはや勝ち筋は万に一つもないと悟ったのか、武器を捨て、完全に項垂れてしまった。


「私から言わせれば、100人やそこらを殺した程度で何を粋がっているという話だ。笑わせるな。私とお前では、殺めた人の数が違う。修羅場を潜った数も違う。全ての次元が圧倒的に違いすぎる……」


 賢司はそこで一度言葉を切り、一呼吸置いてから再度口を開く。


「あまり図に乗るなよ」


 賢司はそう言うと、目にも止まらぬ速さで軍刀を抜き放ち、氷の斬撃を男の頬を掠めるように一閃した。あまりの恐怖と圧倒的な力に男は遂に意識を手放してしまった。


「まぁ、あの世界に生きた私とこの世界の住人を比べるのは少し酷かもしれんがな」


 賢司はそう独り言を呟くと、静かに軍刀を鞘に収めた。

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