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混沌の予兆

 賢司が敵の指揮官を捕えるのに成功するのとほぼ同時刻、大和城では混乱が発生していた……



 ここは聖皇奉文の寝室。


 ピコン、ピコン


「む? これは……賢司が言っていた……」


 奉文は自身の耳に聞こえてきた警報音のようなものによって目が覚めた。そして寝床の近くに置いてある収納棚から魔銃を取り出し、周囲を警戒した。

 賢司が作ってくれた魔導具を寝室にいくつか配置してあるので、心配はいらないと思いつつも念の為に魔銃で警戒する。


 そうして一分ちょっとが経過した頃、窓をこじ開けて侵入してきた者がいた。この者は賢司を襲撃した指揮官と違い、直ぐに奉文の気配に気づいて攻撃を仕掛けてきた。

 これは至極当然の流れと言える。何故なら賢司は前世も今世も戦闘員であるのに対して、奉文は非戦闘員。故に気配をすぐに感知されてもおかしくはない。


 そうこうしているうちに襲撃者が奉文の寝床に向かって突撃してきた。


「おのれ、何者だ!?」

「遅い!」


 奉文は魔銃を襲撃者に向けて撃とうとするが、相手の動きが早過ぎて全く捉えきれずに寝床の近くまで接近を許してしまった。そして襲撃者は手にする刃物で奉文を切りつけにかかった。

 しかし次の瞬間……、、


 ガキィーンッ!! ビリビリビリッ!!


「なっ!? こ、これは……!!」


 襲撃者が振りかざした刃物は見えない壁によって弾かれたのだ。更に、襲撃者の身体をとてつもない威力の電気が蹂躙した。


「ふん、残念だったな。あの子が用意した結界魔法陣の前には、貴様の一撃など無力に等しいようだな。流石は我が息子! よく勉強しておるようだ」

「け、結界だと? カハッ…!! そ、そうか……ハァハァ、貴様の、三男賢司の、仕業だな!?」

「うむ。いかにも。だがそれよりも、皇族に向かってその口の利き方はいかんな。皇族に対する暴言及び叛逆行為、これは立派な不敬罪だぞ」


 奉文は感電して動けない襲撃者に魔銃の銃口を突きつけながら淡々と罪状を告げた。

 それに対する男の反応は……


「ハハハ!! 殺せるものならば殺してみろ! 今回の事態の真相は永遠に闇の中となるがなぁ!」


 男は物凄く堂々とした態度でそう言い放った……と思っていたが、、


「ふむ。強がりなど余の前では通用せんぞ? 何せそういう腹芸は我々のような政を執り行う者が1番得意としておるのだからな」

「くッ…!!」

「さぁ、断罪の時間だ。本来ならば貴様は極刑に値するので、もっと重い処刑方法を執られるのだが、貴様はどうせ使いっ走りであろう。もっと罪ある者もおるだろうからな。故に今回は知ってる限りのことを話せば、慈悲を与えて楽に殺してやる」

「くッ…!」


 襲撃者は奉文を睨みつけていたが、やがてこの状況下で抗ったところで何もできやしないとでも考えたのか、抵抗の意思を見せなくなった。

 

「うむ。良い心がけだ。では、早速尋問に移るとしよう」



 

 そこからは奉文がいくつか質問をしていき、襲撃者は答えられる限りの情報を吐いた……と思われたが、、


「よし、これで一旦尋問は終わりだ」


 奉文の言葉に襲撃者の顔が一瞬緩んだ。しかし次の瞬間、その顔は絶望に染まる。


 コンコンっ


 奉文からの質問を上手くはぐらかし切ったと思っていた襲撃者だったが、そうは問屋が卸さないとでも言いたげに状況がどんどん悪い方向に向かっていく。


「入れ」


 奉文は襲撃者から目を離さないように魔銃の銃口を扉の方へ向けた。


「失礼します、父上。怪しげな者を捕えたので連れて参りました。真司も同様に捕まえたようです」


 入ってきたのはこの国の第一皇子たる貴文であった。奉文は貴文の姿を確認すると、その横に無造作に縛られて寝かされている黒装束の男に注目する。


「ふむ、お前も襲撃にあったのだな」


 そう言いながら魔銃の銃口を襲撃者に向け直して貴文に話しかける奉文。それに対して貴文は何事もなかったかのように会話を続けた。


「はい父上。今回のこの件、賢司の予想通りでしたね」

「そうだな。我々が大きく動いたが故に貴族派も何か仕掛けてくるであろうとは思っていたが、まさかこんな強行手段に出てくるとはな」

「父上、状況的に彼らしか犯人に当てはまらないとはいえ、まだ確定したわけではありません。決めつけはよろしくないかと」


 淡々と現状を述べる貴文を見て、知らぬ間に感情が昂っていた自身の状態に気付き、一旦気持ちを落ち着かせる奉文。


「うむ、確かにそうであるな。取り敢えず"本格的な"尋問をしてみないことには何も始まるまい。あとのことは頼めるか? 貴文よ」

「仰せのままに、父上」


 奉文と貴文はそれでひとまず大丈夫だという雰囲気で話を終えようとするが、これから自分がどんな目に合うかを察した襲撃者たちにとっては真反対の心境と言ってもいい状況。

 奉文は喋れば楽に殺してやると言っていた。襲撃者としてはもはや自分が助かる道はないと察している。しかし、どうせ死ぬのならば速やかにあの世に行きたいと考えている襲撃者。楽に尋問と処刑を行うと言ったのはあくまで奉文であり、第一皇子の貴文ではない。

 もしかしたら自分は想像を絶する苦痛を伴う拷問を四六時中試された後、殺されるのではないかと考えると襲撃者としてはいち早くこの状況を打破したいと考える。


(クソ……自決用の猛毒は高価であるために今回は用意してきていない……ならば!!)


 襲撃者はなんとか僅かに動くようになった右手を奮い立たせながら懐に手を入れる。ここまで来れば、もはや襲撃者にとって勝ったも同然と言える。

 何故ならば……


「……!? 貴様動くな!!」


 貴文と護衛の武士たちはモゾモゾと動く襲撃者に気付き、静止を呼びかけた。しかしもはや時遅く、襲撃者は懐に隠していた大爆発を起こす魔導具を起動してしまっていた。つまり自爆である。


「こ、こいつッ!!」

「死なば諸共と言うやつだ!! 貴様らに良いようにさせてなるもの……グフッ!?」


 最後の力を振り絞って叫んでいた襲撃者だったが、咄嗟に奉文が魔銃を発射したことでその命は力尽きた。しかし、爆発の魔導具が止まる気配は一切無い。


 誰もがもう間に合わない! そう思ったその時、


 シュッ!!


 ものすごい速度で駆け抜けていった人物が魔導具を掴むと、窓から身を乗り出してその魔導具を上空目掛けて放り投げた。

 次の瞬間……



 ドガーーーンッ!!!



 凄まじい轟音と共に上空で大爆発が起こった。あまりの爆発に目を瞑ってしまっていた貴文たちだったが、不思議と爆風や衝撃は来なかった。次第に爆発の光も収まり目を開ける。するとそこには……


「……!? き、貴殿たちは!」

「お助けするのが遅れてしまい、大変申し訳ございません陛下、並びに貴文殿下」

「私もすぐに駆けつけることが出来ませんでした。申し訳ございません」

「い、いや助かったよ。非常に危ないところだった。礼を言うよ。北条卿(ほうじょうきょう)、南条卿(なんじょうきょう)」

「勿体なきお言葉です、殿下。しかし、此度の件は我々の失態でございます」

「北条卿の言う通りです。我らは賊の侵入を許してしまった……」


 奉文らの救助に入った男たち、近衛抜刀隊隊長 北条信長(ほうじょうのぶなが)大公と特戦魔導師団隊長 南条家康大公はそう言うと跪いて謝罪した。


「確かに城まで侵入されたのは失態だったね。かと言って北条卿も南条卿も私と同じ人間だ。体は一つしかないんだ。あれもこれもと完璧に対応するのは不可能だよ。故に今後は出来得る限りでいいからこういう事態が起こらないように細心の注意を払ってくれればいいよ。ですよね? 父上」

「うむ。結果的には我ら一族を守り切ったのだ。特に南条卿、其方の結界魔法のおかげで我らは衝撃波すら感じなかった。胸を張って良い。ただ貴文の言うように、今後はこのようなことが無いように精進してくれれば良い」


 2人のその言葉に北条大公と南条大公は深く頭を下げ、短く「御意」と答えた。


 その後、奉文らは賢司や真司たちとも合流し、更にはより強固な魔法警備を施しておいた王妃咲子らの部屋に向かう。そこでも侵入者たちはしっかりと捕らえられており、自爆した者以外の襲撃者全員の捕縛に成功したのだった。



 こうして真夜中の大和城で起こった皇族暗殺未遂事件は一旦の収束を迎えた。







 場所は変わり、とある貴族の帝都における別荘にて……


 

 バリィーーーンッ!!


「一体どういうことだ!? 何故"影(かげ)の目(め)"の連中から一つの連絡も入ってこない!」

「そりゃ、全員やられたということでしょうが。石丸の旦那」

「そんなことありえるか!! 全員が中級以上の魔法を扱える精鋭部隊なのだぞ! 特に指揮官の漆(うるし)は上級魔法使いで、結界と身体強化に関しては特級を操るんだ。並の者では触れることもできまい!」

「確かにね〜」


 屋敷の主である石丸伯爵は目の前で壁に寄りかかり、腕を組みながら雑な言葉遣いで話しかけてくる男に怒りを覚えるが、何とか気持ちを落ち着かせて話を続ける。

 普段の石丸伯爵ならば絶対にあり得ない対応だが、この男には寛大な対応をしている。


 それは何故か……理由は単純明快。この男が唯一、石丸伯爵の全幅の信頼を受ける男だからである。あらゆる魔法が上級にまで達しており、その上で身体強化と氷、冥闇魔法は特級を操る。貴族派陣営最強の男である。


「でもそれが出来てしまう何かがあったから今彼らはここに居ないし、報告すらできない状況ということでしょう?」

「う、うむ……恐らくな」

「ならばもうここに用はないでしょう? あとは最終手段を取るだけだ。でもそれにもまずは、真相が明るみに出る前に自領に戻らないと、今は何もできませんぜ」

「分かっておる。お前もすぐに支度をしろ」

「了解」


 

 こうして貴族派トップの石丸は帝都での活動を断念し、直ぐに召集できる貴族だけを集めて自領への帰路についた。他の貴族たちには出来る限り早く帝都を出よと手紙を送った。

 

 賢司たちの知らないところで着々と状況は動いている。そして今はまだ誰も知らない。近いうちに国家存亡の危機が訪れる程の混沌がこの国を飲み込もうとしているということを……


 

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