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真堂正道の覚悟

 真堂が貴族派の手の者を捕らえたという衝撃の報告を聞いてからは、皆が真剣な表情をしながら会議を続けていた。


「で? その捕らえた者は今どこにおるのだ?」

「はい陛下。実は既にその者を部屋の外に連れて来ております」

「そうか。流石だな。連れてまいれ」

「かしこまりました」


 真堂はそう言うと従者に指示を出して捕らえた者を連れて来させた。


 ドサ!


 連れてこられたのは身長175センチほどの痩せ型の男で、口に猿ぐつわをされた状態で縛られている。

 そして男が真堂たちの目の前まで連れてこられたのを確認した真堂はおもむろに口を開く。


「君、何をボーッとしてるんです? 陛下の御前ですよ」


 真堂がそう言うと、男はギョッとした顔をして奉文や賢司たちに視線を向ける。そして彼なりに体勢を整えて賢司らの方へ体を向ける。それを見た奉文は真堂に視線を向ける。


「陛下、ご覧の通りこの男でございます」

「ふむ、それは分かったが具体的にこの男が何をしたんだ? まさか怪しかったから、などという不確かな推測だけで連れてきたわけではあるまいな?」

「勿論でございます。この者が指揮していたとみられる黒装束の不審者数名が式典における行進順路に対して何やら仕掛けのような物を施しておりましたので、全員まとめて捉えた次第です」

「ふむ。確かにそれは怪しむに値するが、捕えるほどのことか?」


 奉文のその発言に対して、真堂は朗らかな笑顔を浮かべながら返答する。その笑顔を見た賢司はもし見当違いだった場合、貴族の家の者相手に間違ってましたでは通用しないのに余裕だなと思いつつも、黙って2人のやりとりを見守る。


「仰る通り、それだけであれば捕えるほどのことではございません。しかし……」

「しかし?」

「その仕掛けから素人では気づかないであろうほどの微弱な魔力反応を検知したとすれば……どうでしょう?」

「そ、それは誠か!?」


 奉文のその問いに真堂は静かに首を縦に振ることで肯定の意を示す。流石にこの話は見過ごすわけにはいかないと奉文も思ったのであろう。今では先ほどの疑惑の混じった視線は一切ない。

 おまけに普段から冷静な賢司もこの話には驚きを隠せない。


(それが本当だとするならば、貴族派は本格的に行動を起こすつもりなのかもしれないな……特にこういった式典の時は不審な行動をとっても、民衆に紛れて衛兵に気付かれにくい)


 ただこれが皇族への叛意だと断定するにはもう一つ確認しなければならないことがある。もはや確定的ではあるのだが、賢司は昔から何事においても限りなく完璧に近い状態を求める主義であった。故に証拠を増やせるのであれば、増やすに越したことはないと考え、真堂に質問を投げかけた。


「真堂卿、一つ質問してもいいかな?」

「はい! 賢司殿下、私にお答えできることでしたら何でもお答え致します」

「ありがとう。では聞きたいんだけど、貴方が問答無用でその男達を捕えたんだ。まぁほとんど確定だろうと思うけど、彼らが設置していた魔導具らしき物は式典に不必要なものであり、そこに設置されるのは明らかにおかしい物、という認識でいいのかな?」


 賢司がこの質問を真堂に投げかけると、真堂は真剣な面持ちで深く頷いた。


「間違いございません。軍の行進をするのに、道端に魔道具など設置しても邪魔なだけです。例えそれが兵たちに利のある物であったとしても、歩きにくくなるのは確実です。そして1日目の行進ではあのような物を設置していなかったというのに今日に限ってコソコソと準備をし始め、加えてそのことを皇家の方々もご存知なかったとなると、もはや言い逃れはできませぬ」

「なるほどね。それに加えて貴族派の者という情報も得られたとなると、捕えるには十分な理由だね」

「えぇ。そういうわけですので、この者を今一度忠誠を誓い直すための評価材料としてご考慮頂けないかと愚考いたします」


 賢司としては、数だけで言えば最大勢力の貴族派相手にここまでやってくれたのだし、考えてみてもいいのではないかと思った。しかし、最終決定を下すのはこの国の聖皇である。


(さて、父上はどうされるのか……)


「うむ! 真堂卿、貴殿の申し入れを受け入れようぞ。今後ともよろしく頼む」

「陛下の寛大なお心に感謝致します。では……」

「ただし!」

「?」


 奉文からの返事が良いものであったことで笑顔になっていた真堂に対し、奉文が被せるように言葉を発した。


「貴殿が我等に付くことは認めるが、このような特例を許すのはこれが最初で最後だ。二度目は無いと心得よ。次に皇家の意に背くようなことがあった際には、問答無用でその首斬り落とされると覚悟せよ。良いな? この条件を呑めるのであれば、我らは快く貴殿らを迎え入れようぞ」


 正直なところ、賢司は奉文への称賛の気持ちを隠せなかった。あまりにも完璧な落とし所だと思ったからだ。


(このような絶好の機会を逃すというのは最も悪手。だからと言って簡単に皇家を裏切った人間を再び簡単に引き入れるのは体裁が悪い。前例を作ってしまうと、今後もし悪事を働く貴族が出てきた場合、同じ形で許してもらえると勘違いしてしまう者が増えかねない……その辺りを考えての先ほどの発言か。やはり父上はすごいな)


 賢司は奉文の言葉に感心すると同時に恐ろしさも感じていた。あのような発言を本気の目をしながら言えるのだ。普段の奉文は優しい父親という印象が強い賢司にとってはとても新鮮な光景であり、かつ非常に強い安心感を覚えた。

 そして聖皇奉文の言葉に対する真堂の反応は……


「そう仰られるのも当然でございます。ですので陛下の先ほどのお言葉、しかとこの胸に刻みます」

「うむ。であるならば我らは貴殿らを心から歓迎しよう」

「感謝申し上げます」


 

 こうして皇族派にとって一番の気がかりであった常道派が仲間に加わったことで三勢力のバランスが完全に崩壊した。今後、捕らえた貴族派の手の者の取り調べも進められ、貴族派が今回企てていた計画も明るみに出るかもしれない。そう考えるとやはり常道派を仲間に引き入れたのは正解であった。賢司はそう思わずにはいられなかった。

 しかし……、



(今回捕らえた者だけでは、首謀者まで辿りつかないかもしれないな……)


 賢司としてはそのような懸念もある。常道派を仲間に入れることができたのは本当に大きいが、かと言って全てが順調に解決できるとは限らない。

 

(特に前世で元軍人だった私と違って、腹芸が得意であろう貴族が今回の相手だ。軍人と違って血の気が多い者ばかりというわけでもないだろうからすぐに早まった行動は取らないだろうし、証拠の隠滅も上手いはずだ。となると実行犯を捕らえたところで一体どこまでの情報を得られるのか……)


 賢司はそこが疑問なのである。


(しかし、今の段階でそんなことを考えても無駄か。とにかく今は今後の動きについて話し合わなければならない)


 賢司は一瞬の間にそのように考え、その後は奉文ら皇家のメンバーと真堂で、今後の貴族派の者達への対処やこの後の観兵式についてを話し合い、解散となった。



 そして観兵式は無事に全ての項目を終え、中央街道付近の屋台や飲食店なども大盛況となり、多大な経済効果を産み出した後、閉幕となった。

 軍事面、経済面、政治面全てにおいて今回の観兵式は最高の成果を収めたと言える。



 そうして、慌しかったお祭り気分の帝都は落ち着きを取り戻していき、静かに日が落ちていくのであった。

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