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《46》両統迭立→三国鼎立

皆さんこんにちは!

当作品を開いていただきありがとうございます!

 現状の把握をしよう。俺は絶賛、早見に飛びつかれて床に押し倒され、助けを求められている。そしてそんな俺を胸で顔が見えない杏果と太ももに目が行きがちな真実が蔑む視線で見ていた。


「助けて?」


 上半身を起こしながらその言葉の真意を尋ねる。人前に出た瞬間たったの一言も喋らなくなる早見が怯えたように震えている。俺もいつものように会話できるようになるまで10ヶ月かかってるのだからそれを覆して声を出していることが、どれだけ緊急事態か知らせてくれる。


 早見が指をさした先には俺の席に本来ならこのクラスにいないはずの3人の陽キャ系男子がいた。立ち上がりながらそいつらを睨むとは言わないがすこし警戒の目を向ける。早見が俺の後ろに隠れるように回った。背中のワイシャツを掴む手が、小刻みに震えてるのがわかる。


「何をしたんだ…?」


 以前早見に出したドスの効いた声を出す。しかし俺以上に連中の方が殺気立っていた。髪をワックスでガッチガチに固めたモブ蔵が俺を睨みつけながらこっちにきた。


「そんなことよりもよぉ?藤堂。テメェ、最近調子乗りすぎてなんじゃねぇか?おい…。」

「あ?」


『ワイシャツのボタンを2、3個外して裾を出してる俺カッコいい』的な勘違い系だらしないモブ助がなにやら訳の分からないことを言ってきた。


「相澤さんに新島さんを引き連れて自由気ままに振る舞いながら今度はその転校生にもうツバつけてんだろ?フザケンナよ?」

「転校生?誰のことだ?」


 ここには転校生はいない。GWでがっつりイメージの変わった子がいるだけで…。


「すっとぼけんじゃねぇよ!!じゃあいまお前の後ろにいるのはだれだ!!」

「………っ?!」


 後ろ?…なんだ…早見のことか…。


「早見…早見葵…。ずっといたぞ?この学校に…。」

「はっ?」


 怒りに声が震えた。王子様系を装おうとして失敗してるモブ太郎が素っ頓狂な声を上げた。今まで目立たないからって空気のように扱っておいて、目立つようになった瞬間から『自分のものに』と、早見の気持ちも考えずにすり寄ったって訳か…。クズい心の内が分かってくると、怒りがこみ上げずにいられなかった。


「今まで気づかなかったようだな…。突然イメチェンした文学少女が可愛すぎてちょっかい出したくなったか?」

「…ゎぃぃ。」


 背中のワイシャツがぎゅっと握られておでこをコツンと背中につけられたのがわかる。なにかぼそりと言ったが、きっと「怖い。」と言ったんだと思う。モブ助、モブ蔵、モブ太郎は「信じられない…」という面持ちだった。


「嘘つくなよ…。」

「嘘じゃねぇ…。毎週月曜に本を借りに来るし、そのせいでもう図書カードは8枚目だ。しかも図書室なのにその本の感想を喋りかけてくるしな。楽しくて乗っちまうがお陰で何度俺が大目玉食ったか…。テメェのことよりもずっと俺は早見のことを知っているぞ?」


 モブ蔵は黙り込んだ。それを契機に一気に畳み掛ける。


「それで?テメェらはなんだ?学校に来て、たまたまそこにいた美少女に声をかけたら俺に行き着いて逆ギレか?はっ!みっともねぇなぁ?お前がモテねぇのはそういうところなんじゃねぇのかよ?」

「ぐっ…。」


 図星を突かれたようで体を仰け反らせて悔しそうな表情をしたかと思うと残りを連れてゴスゴスと引き下がっていった。ああいうゴミクズみたいのがいるから弱者が泣く世界ができるんだ。


 しかし、教室中がえもいえぬ空気になった。誰かが怒られた後の特有の冷たい静けさだ。突然、パチ、パチ、パチと面白いものを見た後の拍手の音がした。音の主は榊だった。顔が完全に俺をおちょくってる。でもそんな友を見てるとさっきまでの怒りがすぅっと引いた。


「いや〜、藤堂、かっこよかったぜ?」

「その言葉がツラのせいでまったく褒め言葉に聞こえないんだが?」

「ほんとだって。俺を信じろ?」

「そういうことを言う奴はきまって嘘をつくってテンプレはご存じない?」

「あっはは〜、かもな。」


 あいっかわらずの腹立つへらへらしたツラで道徳の死んだ男、榊。道徳の死んだの言葉にたがわず、この空気なのに平然とこんなことをやってのけるあたり、もはや賞賛ものだ。でもお陰で教室が少し笑いが出てきて熱が戻った。


「と、藤堂の旦那ぁ…?」

「ん?」


 お調子者の長門がおずおずと聞いてきた。俺の機嫌を伺うためじゃない、早見について聞きたいんだろう。


「この人がRINEのバカルテットで話題に上がってた早見さんですかい?」

「そうだが?」

「ほんとにイメージがらりんこですなぁ。亡霊とか言ってたのは嘘なんかじゃ、あーりやせんか?」


 道化師らしく言葉がおかしい。でも普通の言葉を使う相手ってのはこいつが気を許していない相手。それだけ俺は信用にたると言うことだろう。


「亡霊…。」


 後ろでぼそりと悲しそうに呟いた早見が白く燃え尽きた灰のようになっていた。すっぽりすっぽかした上、半分悪口みたいな言葉を聞かされればそうになるだろう。


「あーいやすまん!前はほら…!」

「ごめんなさい悪気はなかったんですすいません。」

「…。」


 二人でまくし立てるように言い訳するとすぱっと色が戻ってきた。声色も表情もよくわからないけどそれ以外のことは多分人よりもずっと表現豊かだ。早見との会話は表情を読むと言うより空気を読むことで成り立つという俺の持論。


「ところで早見はなにをしに?」


 早見は同じ文系だけどクラスは隣だからここにいるのはおかしい。


「…。」


 パタパタと席に走っていって押し付けられたのはずっしりとした紙袋。中身はこの間、図書館で話していた『死亡フラグがたっちゃいました』シリーズ。バナナと段差に加えて、缶と車、カレーとスプーン、なぜかヘリコプターからミサイルが撃たれてて逃げてるものもある。


「この間の…。」

「…。ちょっと…多いと…思うけど…。」

「そうさね。ひと月くらいかかるかも…。」

「ぃぃ…。読んで…。」

「ありがとう。それで、これが俺のおすすめ。」


 ガサリとバックから取り出したのは『万能査定士K』シリーズ。渡された早見は無言だったけど頭にハテナマークを出していた。


「『人が死なんミステリー』って知ってるか?」

「…。」


 ふるふると首を横に振っていた。絹のように細くサラサラした髪がふわふわ揺れる。『人が死なんミステリー』はほぼこのシリーズの表題だから知らないってことはきっと未読なんだろう。


「なら良かった。割と有名ではあるけどな。少し頑張って探した。」

「…ありがと。」


 声色も花が咲いたような雰囲気も嬉しそうだった。本棚の奥まで探した甲斐があったと言うものだ。喜ばれるとこっちも嬉しくなる。


「ちょーっと、早見さん借りるねーアキー!」

「すこーしこっちに来てちょうだい。早見さん。」


 突然二人がふらりと俺の後ろから現れて早見の両腕をさらっていく。早見は無言、無表情でとずるずる引きずられていった。「ひゃぁ〜。」と間延びした悲鳴をあげる、こっちに向けて出された手が虚しい。


「女が3人よれば?」

「『姦しい』ってか?一人は喋らんぞ?」

「たしかに。」


 榊とそんなくだらないことを話しながら連れ去られていく早見を遠い目をして見送った。


「ところでお二人さん?」


 長門がへらへらしながらこちらに寄ってきた。話を切り出したのは俺だが、長門の顔をみたら「失敗した!」と思った。榊も同じようで苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「なんだ長門、いきなりゴマすって。」

「そろそろ長門はゴマなくなるんじゃないかな?」

「そりゃ、胡麻油製造工場は大助かりだな。あとは絞るだけだ。」

「長門のゴマすり胡麻油かぁ…。需要あるかな?」

「Don’t think. Feel.」


 二人でくっだらないことを言ったのは「へへへっ」と長門が悪徳商人顔で笑う時は大抵、いやな交渉がある時だと相場が決まっているからだ。


「いやーGW終わるとそろそろ中間テストだなぁって…。」

「「「あっ…。」」」


 教室が再び凍りついてピシッとヒビが入った。ガクリと膝から崩れ落ちた生徒は数多。俺も冷や汗が吹き出してきた。


「うわぁぁぁ!!!もうおしまいだぁ!」

「もう無理よぉ…、私はここで首を吊って…。」

「早まるな!希望はまだ…、まだ…、俺から吊る!!」

「おとーさん、おかーさん!俺を産んでくれてありがとう!」


 正に阿鼻叫喚地獄。男女問わず頭を抱えるどころか、どこからともなく持ち出した頑丈なロープを結んでる奴も、窓の柵に足をかけている奴もいる。


「俺はちょっと…。」

「どこに行こうと言うのかね?トウドウくん?」


 逃げようとして、榊に捕まった。ここのテストは休学の補講が地獄のように、テストで赤点を複数とると地獄の補習が入る。どれが落とし穴に化けるかがわからないから全教科万全の用意をしないと貴重な青春の夏休みが全部勉強に消える。なんてここの教師陣は教育熱心なんだろうなぁ、と逃げたくなる。


「長門…君はなんでタイミングで言ってくれたんだ…。」


 榊も頭を抱えている。道徳が死んでるから遅刻連発、授業態度最悪なこいつはテストを落とせば単位も落ちるからあまり意識したくなかったんだろう。心中、お察し…無理だな、俺はそんなに態度悪くないから。


「てな訳で、そろそろお二人に教えを〜請いたいなぁ〜と。」

「藤堂…お前は…。」

「古典、日本史、現文、と英語は…お前だな…。地学なら。」

「俺は数Ⅱと数B、コミュ英語と英表、世界史か…。」


 榊と俺でお互いに長門に教えられそうなものを相談をする。長門は決してやる気がないわけじゃない。ただ朝練で疲れて授業中に意識に反して体が寝落ちゃうだけだ。お陰で勉強の二度手間だがな…。県大会出場常連じゃなけりゃ見放すレベルで頭は残念。二人で叩き込んでなんとか赤点回避枠。


「おねげぇしまさァ、兄貴達ィ。」

「場所は…苔バ…?」

「藤堂の家は…?」

「いいけど。…勉強しろよ?」

「俺の成績表の各教科ごとの評価の一番目が10中5なら遊べたけどな…。」

「関心・意欲・態度は0っぽそうだよな、陽介は…。」

「1を通り越しこしちまったなぁ…。」

「なんとか3は頑張ってる。提出物だけはやってあるからな…。」

「長門、休みはどうなってるんだい?」

「日曜定休。」

「銀行かよ…。次の日曜な…。掃除しとくわ。」


 3人顔を見合わせて「はぁ…。」とため息。前期中間は範囲が狭い分、テストではめちゃくちゃ深く問われる。それこそ教科書のどこに書いてあるんだと苦情をつけたいくらい。


「す、凄いことになってるね…。」

「これぞ、死屍累々ってかんじ。」

「……///。」


 地獄に仏とはこのことか、会議を終えた3人が戻ってきた。早見が顔を真っ赤にしていたが、何が話されていたか気になる。女王さまが来たように周りの男子達がだらけるのをやめて、スクッと立ち上がって背筋を伸ばす。全く現金な連中だ。


「アキ?」


 真実が腕を組んでこっちをみてきた。腕に胸が乗っていて強調され、立ち上がった奴らの目線を集めまくっていた。逆に遠くで寝てる奴らは杏果のむっちり黒ニーソの太ももに釘付けのようす。


「テスト勉強。」

「あー…、はぁ…、場所は?」

「俺のアパート。日曜。」

「空いてる。いつもの?」

「助かるわ。」

「ん。」

「喜べお前ら、理数の真実さまが数学教えてくれるって。」

「いや、これ会話なんすか?藤堂さん…。」


 3人がポカンとしている。杏果だけは「もう見慣れちゃった…。」と言わんばかりの顔である。


「もうキーワード検索だね。俺と麗奈でもそんなことできないよ…。」

「お前と彼女を一緒にすんなや。こちとら17年の付き合いだ。」

「そうよ!アキとあたしはずっと一緒なんだから!」

「うおっと…。」

「ひゅーっ!」


 なぜか嬉しそうに飛びついてきた真実を受け止める。猫か何かのように頬ずりしてくるのが可愛らしいが暑いからやめてほしい。杏果が拳を作って「ぐぬぬ…。」とした表情をしてるし、早見の目が見開かれてて呪殺してきそうだ。


「あ、今週の日曜日、空いてるから私もいくねっ?私も教えてあげる!」

「そりゃ助かるわ。ウチは慢性的な人手不足だからな…。」

「助かるね…。二人では限界だったよ。主に堪忍袋が…。」


 杏果が手帳カレンダーを見ながら言ってきた。講師は一人でも多くいてくれた方がいい。長門の勉強の吸収の悪さは水をたっぷり含んだスポンジで水を吸おうとするくらいダメだからやっててやきもきする。長門自身はやる気があっても吸収しないんじゃ暖簾に腕押し糠に釘、翌日には忘れられているなんてしばしばで発狂しそうになる。精神的安定のため、インターバルは長い方がいい。


「……。」

「ん?早見もくるか?」

「……!」

「それじゃ、よろしくな。」

「……♪」


 服の裾を引いた無表情な早見がこっちを見上げていたので誘ってみたら無表情のまま、嬉しそうなオーラを放って首を縦に振った。艶やかな漆黒の髪が光を反射する。


「真実?」

「任せて。二人とも、ここの最寄駅集合ね。時間は後で。」

「わかったわっ!」

「……!」


 とりあえず、勉強会の話はまとまった。今回は講師も多くてなんとかなりそうだ。


「それと、アキ。」

「ん?」

「早見さんが協定に加わったよっ!」

「んん?」

「まぁ、その、それだけ。」


真実と杏果がかわるがわる言ってきた。新たに何か裏で密約ができたらしい。さっき早見が赤くなってたことに関連あるのだろうか?


「「「あの〜、藤堂さん、いえ、藤堂さま!!」」」

「今度はなんぞや?」


 呼ばれて振り返ると男子生徒が全員土下座していた。なんか、崇め奉られているみたいだ。


「「「俺にも古典!教えてください!!」」」

「………本音は?」

「「「新島さんと相澤さんと早見さんにお近づきになりたいです!!」」」

「だろうと思ったよ!却下!」

「「「そんなぁ!殺生なぁ!」」」


 一つ、めんどくさい案件が増えた…。それと同時に教師が入ってきたのでお開きとなった。

ここまでご一読いただきありがとうございました!

感想等ございましたらツイッター、感想欄にて受け付けております。


ブクマ、評価していただけたら泣いて喜びます!

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