《45》両統迭立?4
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「逃ガサナイ…。」
「ソコネッ!」
銀色の死閃は幾重にも煌めき、銀の蛇は何度も噛み付いて来ようとしている。それを操る二人の鬼はまさに羅刹や夜叉の気迫を帯びていた。
「…ちっ…。」
乱暴に舌打ちして、真実が放つ銀閃を掌底で打ち上げ、杏果が遣わせた蛇の頭を蹴って弾き飛ばす。二人の隙をついて一気に間を開ける。二人がお互いに歩み寄って次の攻撃を仕掛けようとしている。
俺の頭の中に5分に満たぬ数分か、あるいは数十秒前のことがよぎる。
〜〜〜
「やめてくれ…。」
絞り出した俺の声は目のハイライトが消えた二人には届かなかった。まるで呪いによってその目的を遂行するためだけに動く人形ようにふらり、ゆらりと近づいて来た。その目を見るだけで気温は真冬並みに冷たく感じ、草木がたちまち枯れていくようだった。
「止まってくれ…。」
俺はジリ…、ジリ…、と後ろに下がった。脱兎が如く逃げ出せばいいものを、そうするために一瞬でも背を向ければたちまち狩り取られそうな恐怖で二人から目を離すことができなかった。
「アキ…。」
「?!…うぁっ!」
真実がその場から消えたかと思うと目の前に現れて目の紙一重を銀の閃光が走った。手にはナイフが握られていた。あとすこし反射神経が鈍かったら間違えなく切り捨てられていただろう。バックステップで距離をあけた。
「照史クンッ!捕エタ!」
「あっぶね!」
今度は杏果だった。俺が飛び退いた先の俺の手があったところに的確に銀の輪、手錠の半分が投げられていた。10mはあろうと思われる長い鎖で繋がれたもう片方はすでに杏果の手首に取り付けられており、それがカウボーイの投げ縄の要領で投げられたのだろう。鉄を切る手段がなければ捕らえられたら間違いなく逃れられない。
「ドウシテ逃ゲルノ…。」
「モウ!悪イ子ハ、メッ!ダヨッ?」
「そういう問題じゃ解決できねぇ…。」
初撃はどちらも失敗。真実は重々しい表情で呪いのような残虐なオーラを、杏果はどこか嬉々としていてまるで愉しむような声色と目が笑っていない表情で冷酷なのオーラを纏っていた。いずれも漆黒のという言葉で表現できるが全く異質なものだった。炎や吹雪なんてものじゃない。それらがなにか、もっと、この世の理を超えた力を受けたような重圧を持っていて二人を見ていると呼吸が詰まる。
コクリ、と二人はお互いの顔を見あって頷いた。おそらく共同戦線条約でも締結されたのだろう。二、三、言葉を交わしたと思ったら、真実が数歩前に出て、前衛と後衛に分かれた。そこから二人の鬼との戦闘が始まったのである。
〜〜〜
「アキトクンッ!ソロソロ大人シクシテっ!」
「できるかよ!」
放たれた片手錠を左に大きく跳ねながら言った。なにされるかわかったもんじゃない。全て確実にかわさなければ死は免れない。
「うおっ?!」
「ウフフッ!」
杏果が自分の側の手錠を外して俺に投げて、俺に投げていた側を回収していた。鎖を巧みに使った予測不能な攻撃が続く。なんとか凌いでいるけれどそう長くは持つものではない。
「アキ…。イイ加減ニシテ…。」
「ぐっ…。」
重圧感のある声とともにナイフを持った真実が切り掛かってきたので、手首を手首で受け止める。俺の足が地面にめり込みそうな重みが乗っていた。俺の骨や関節からビキビキッ!と嫌な音が聞こえた気がする。
凄まじい衝撃でじんじんする手で真実の手首を掴んで鍔迫り合いに持ち込む。2対1という人数的不利と、良心やモラルが咎めて女子には手出しができないという条件的不利が重なっている現状でも、なんとか互角に渡り合っていた。
「ナンデ…ソンナニ…抵抗…スルノ…!」
真実の声が少し震えていた。しかしそんなことは意に介さず、反抗を続ける。
「まだ死にたくないんでね…!」
こちとらここ1ヶ月、週3くらいで世界をかけた殺し合いしてるんだから!
本来の女子二人なら鎖を絡ませたりしてなんの造作もなく撃退できただろう。しかし今の二人はそうはいかなかった。鬼と化した二人はそこらの男子よりも強いかもしれない。
がしゃん!
「しまった…!」
「捕マエタッ!」
真実と鍔迫り合いをしているうちに杏果の片手錠が俺の右腕を捕らえた。ギリギリと油圧機械のような強力な力で腕を引かれる。顔に血が集まって赤く、熱くなるのがわかる。
「ぐっ…!この程度…っ!」
「ソロソロ諦メテ…アキ!」
「往生際ガ悪イヨッ…!照史クン。」
両足で踏ん張ってなんとかでその場に踏み止まる。手錠に締め上げられてナイフを抑えている片腕はガクガクと震え始めた。両腕の筋肉が熱い。いい加減こちらも限界が近そうだ。
「ナンで…ソんなに…抵抗するのよ…。」
「私ノこト嫌いになったの…。」
「えっ…?」
ぼそりと何かを言ったと思った時二人のいきなり力が抜けた。
がちゃん!!
冷たい音を立ててナイフと手錠が地面に落ち、手は開放された。しかしその音は俺にとって二人の頬を伝う一粒のクリスタルが落ちて砕けた音に聞こえた。
「一緒にいるって言ったじゃない…。」
「そばにいるって約束したよね…。」
「あっ…。」
二人とも、泣いていた。ぺたりと地面に崩れて、顔を両手で覆って俯いた。
「ごめん…。そんなつもりじゃ…。」
慌てて二人の手を取る。全くそんなつもりはなかった。自分に迫る命の危機を避けていたことは間違っていない筈だ。でもそれが二人を泣かせてしまうことになるなんて微塵も思っていなかった。
「嘘よ!」
「嘘言わないでぇ!」
「ッ!!」
真実と杏果が同時に震えた声で叫んだ。慟哭とも取れるその悲痛な叫びが俺の心を抉った。その痛みに耐えきれなくなって俺は二人を抱き寄せた。
「本当にごめん…。」
胸を貫いて、心に触れさせることができれば今の痛みを伝えられるのに…。自分の矛盾した行動では到底、許しを請えるものではないだろう。そんなことはわかっていても体も口も勝手に動いていた。
「ごめん…。」
許されなかったとしても許しを請い、より強く抱きしめるだけが、今の俺にできる最大の贖罪だった。
「…ふふっ。」
「…うふふっ!」
不敵な笑い声が、耳元で聞こえた…。次の瞬間、がっしりと半身づつ二人に指一本まともに身動きできないレベルでホールドされた。
「えっ?」
「「捕まえたぁ!」」
「はっ?!いったっ!」
なにが起きたか理解できない。泣いていたと思っていた女の子たちがニッコニコの笑顔で俺に飛びついてきたのだ。地面に押し倒されて地面に頭を強打したせいか、目の前のことが理解できないせいか、頭の中がぐるぐるぐるぐるしている。
「さすが真実ねっ!」
「でしょ?アキのことは一番わかってるんだから!」
俺の上で二人の美女が嬉しそうに笑いながらパタパタ足を振っていた。まったくもって状況が把握できない。
「えっ?なに?嘘泣きなの?!」
「そうよっ!真実発案ねっ!」
「アキなら絶対にこうするって信じてたの!アキ!大好き!」
完全に一杯食わされた。俺に対する真実ならではの作戦、ということか…。敵わないな…と素直にそう思った。発案者の真実は作戦がうまくいって嬉しそうに俺の首に巻きついていた。あまりに思いっきり抱きしめるものだからすこし首がしまってて苦しい。
「でも、もしこれが通じなかったらあたし本当に泣いてたかも…。」
「そうだったらきっと私は照史くんを殺して私も死ぬわっ。」
「そうか…。それは…大変なことだ…。ハハハ…。」
本人たちはそう言っているけど、一瞬でも二人の目に流れた涙のその跡は…。俺にはどっちかはわからない。それでも、もしも本物だったなら…。そう思うと勝手に二人の涙の跡を手で包むように拭っていた。
「さて、そろそろどいてくれ…。」
「「重くない!」」
「そんなこといってませんが?!」
なぜか二人は声を合わせてすこし怒ったように跳ね起きた。
いきなりなんだよ…、合計で少なくとも100kgはあるんだ、重いに決まっているだろ、なんて言葉は生き残りたいからしまっておく。
「教室行くかー。」
そう言って立ち上がるや否や二人は定位置に戻った。言うまでものなく俺の両腕。二人を引き連れて下駄箱で靴を履き替えて教室へと向かう。その間の廊下はずっと二人に巻きつかれていたため、もはや公開処刑のようなものだった。廊下を進むにつれ行きかう男子生徒諸君から突き刺さる俺に視線も多くなり、俺の足取りはだんだん重くなっていった。最後は俺の方がズルズル引きずられているようでもはや市中引き回しというか学中引き回しの体をなしていた。
「死ね藤堂。」
「なんやアイツ、いてこましたる。」
などなど教室が近づくうちに知人の数も多くなり、血気盛んなお言葉に心が打ちひしがれながらに教室へ向かう。いつも通る道なのにいつもの数百倍は長い気がした。教室に入ると榊がこっちに向かって驚いたような顔をしていた。
「藤堂!またそれか!」
「違うんだぁ…。これは勝手になったんだぁ!」
情けない声しが出てこなかった。もう俺にすら意味がわかっていない。榊の声を聞いて、一斉にクラスメイトがこちらを向く。
「んなわけあるか!」
長門が首を突っ込んできた。恋愛裁判をされた後にこのザマでは今度はどんな罰を科せられるか…。そう思うと俺は否定を叫ぶことしかできなかった。
「グエッ!」
突然、俺の体は床に押し倒されていた。ゴツン!と本日二度目の頭強打、いよいよ耐えに耐えかねた男子生徒が暴挙に出たか?と思って胸の上にいる人を見る。
「早見?!」
飛び込んできていた犯人は早見だった。クラス中からどよめきが起こる。
「助けて…。」
「助けて?」
いつかの夜と同じ声で助けを求められた。それと同時に肩をガシッとやられた。
「これはどう言うことかな?」
夜叉が問う。
「説明してねっ?」
羅刹がそれに続いた。
「あっはは〜。」
ただ俺の口からは乾いた笑いのみがあるばかりだった。
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