《44.5》両統迭立?3
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「……。」
「あれ?ウチの学校にあんな可愛い子いたっけ?綺麗な髪だなぁ…。」
「……。」
「さぁ?俺も初めて見た。」
「……。」
「転校生じゃね?ぶっちゃけ俺タイプ。」
「……。」
わたし、早見葵が照史に髪を切ってもらってから今日が初めての登校。ヒソヒソと純愛小説の冒頭のような言葉が聞こえるけどわたしは転校生じゃないし、どんな人か気になるけど、振り返って美女と目があったりしたら不細工なわたしの心が耐えられないからスタスタとすこし急いで目立たないようにその場から逃げる。
男らしく、ワイルドに刀で切ってくれた前髪は照史製だからそのままが良かったんだけど、あんまりにも美意識にかけるから、数十時間の苦悶と煩悶との決闘の末に、いつもはお母さんに頼んでいた上、最近は全然切ってなかったけど、勇気を出して初めて美容院に行って切りそろえてもらった。
美容師さんに「どんな感じにしますか!」と聞かれた時にはいつも通り全然言葉にできなかった。「こ…これを…。」と初めて買ったファッション雑誌の切り抜きを見せてそれに似せてもらった。前髪と毛先を数センチ切りそろえてもらっただけであまり変わってないけど、美容院を出た時に今まで髪で隠れていた目が太陽光で眩んだ時にはまるで生まれ変わったような気がした。
でも、この間、休日の楽しみの図書館巡りで照史と会った時はびっくりした。せっかく前髪を切ったのに髪型も服もダサいままだったから、話しかけようか躊躇ったけど、少しだけ変わったわたしを見て欲しくてその愛しい名前をよんだ。持てる勇気を全て振り絞って頑張ったのに返ってきた言葉は「どなた?」だった。ショックで気絶しそうだったけど崩れそうな意識をつないでなんとか照史のいる方にまわったら、「早見か。」とすぐに気付いてくれたし、「すっかり綺麗になったな。見違えたよ。」って褒めてくれた。嬉しくて、一言一句違わず覚えている。
両手の紙袋いっぱいに入れているのは約束のミステリ小説。少し重いけど照史が気に入ってくれたらいいな。あっ、照史の教室が見えてきた。いるかなぁ…。
教室の後ろのドアに立ち、真反対の机を確認する。照史の机にバックがない。多分まだ来てないんだ…。
「やぁ。うちに何か用?誰か呼ぼうか?」
「…。」
話しかけて来たのはいつも照史と一緒にいるヒョロクズメガネ。名前は榊陽介、彼女がいるせいか女関係はまともでも、悪気なく普通に遅刻したり授業中に爆睡してたりと照史は「性格というより、道徳が死んでる。」って言ってた。今日みたいに早いのは全くレアケースっていうのはちゃんと照史の交友関係を調べてあるから知っている。でもわたしからは声がかけられなかったから良かった。勇気を出して尋ねる。
「…と…。」
「えっ?」
「あ…と…。」
うまく声が出ない。人を相手にするといつもそう。上がっちゃって心臓がばくばくしてうるさいし、体が熱い。ほんとはもっと照史とおしゃべりしたいのにそれが邪魔ですぐに終わっちゃうことが多くてしょんぼりする。うまく聞き取れなかったらしく榊が耳に手をメガホンのようにして集音率を上げ、「もう一回!」とジェスチャーしてきた。照史のためにもうすこし頑張って声を張る。
「照史…。」
「えっ、あー、藤堂か…。藤堂?!いるかー?!」
すこし困った顔をして教室に向かって榊が声を張り上げる。応答がない。やっぱりいないみたい。残念…。早く来て…。
「んー、いないらしい。」
「……。」
「用があれば後でそっちいくように伝えるけど?」
「……。」
首を横に振る。そのまま返答を待たずに教室に入り込んで照史の席に向かう。一番窓側の一番後ろ。席替えはまだだから、絶対に間違えない。椅子に座る。
照史の空間に残った残り香が、自分の椅子に座るよりも安心感をくれる。
ーもうこれは照史に後ろから抱きしめられているのと変わらないよね?
そう考えるだけで幸せな気持ちがこみ上げてきて、顔がにやけはじめた。こんな顔…照史に見せられない、と机に突っ伏した。でもそれが逆効果、机からも照史の匂いがする。
ー照史に…包まれてる…。ダメ…こんなの…孕んじゃう…。
「ねぇ!キミっ!」
頭の上から声がふってきた。顔を上げてみると照史のクラスのちょっとイケてる感じの…陽キャ?…そんな感じのモブ男3人がいた。いきなりのことだったので怖い。
「平気?机に伏してるけど…。」
「うっひゃぁ可愛いなぁ!転校生?」
「大丈夫か?保健室まで連れて行くぞ?」
「…ぇ…ぁ。」
同時に話しかけられて頭の中がパチパチとスパークを起こす。突然のことで動揺しておし黙るということすらできない。
「体調悪いのかな?」
「どこからきたの?」
「さあ!俺の肩に掴まって!保健室まで運んで行こう!」
「…ぃゃ…っ!」
3方向からかけられる声にそちらを向き直るだけで精一杯。圧迫感のあるペースに気圧されて呼吸がしにくくなる。小さく上げた悲鳴とは真逆に「照史…たすけてぇ…。」声にできない絶叫を上げた。
「……!」
「……………っ!」
「………うんだぁ…。」
2つの邪魔な音と一つの聞き慣れた声。廊下の騒ぎが激しくなった。男子生徒の暴言各種が耳に届く。
「藤堂!またそれか!」
榊が半分驚き、半分呆れの素っ頓狂な声を上げる。目線の先には照史が女の子2人を連れてきていた。このクラスの委員長、相澤真実さんと別のクラスの幼馴染、新島杏果さんだ。
「違うんだぁ…これは勝手になったんだぁ!」
悲鳴とも絶叫ともつかぬ声を上げて教室に入ってきた照史はすこしお疲れっぽい。なにしてたんだろう?
「んなわけあるかぁ!」
体育会系メンドくさい。長門…なんだっけ?まぁ、そんなのがうるさい。
でもわたしにはそんなことはどうでもよかった。現れた。助けてと願ったら…、また、来てくれた。いつもそう…一人で寂しい時とか、いつも照史から話しかけてくれた…。
両腕に無駄なものをくっつけているけれど、彼は、照史は、助けを呼んだらここに来てくれた。「あっ、待って!」と制止をかけるモブ3人の声を振り切ってわたしはがら空きのその胸に思いっきり飛び込んだ。
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