第二話 傅役
3歳になった。そして、俺に傅役もつき始めた。正確には、生まれてすぐくらいからいたが、教育や護衛といった仕事をし始めたのは最近である。…なんでかなぁ。父上、なんでかなぁ。なんで傅役が林秀貞と柴田勝家なのかなぁ?史実で傅役を努めたのは誰かってのは現代でも不明だったけど。この人ら、まだ小さくてよくわかんなかったけど、数年前の稲生の戦いで俺の叔父の信勝について戦ってるはずだよなぁ。それに、この前ここで、その信勝叔父上殺されてるよなぁ。信勝叔父上のことチクった勝家ならともかく…。いや、すごいありがたいよ。英才教育を受けられるのは。でもさぁ、もうちょっと違う人選んでも良かったんじゃないの?万が一俺がぶち殺されたらどうすんだか……。ん?待てよ?ちょっと前に、信勝叔父上が殺された。その年は、永禄元年、つまり1558年!俺は1555年生まれか!さらに、なんとなく記憶でわかってはいたけど、俺が今いる場所は清州城!っし!よっしゃー!情報ゲット!
「おや?若?いかがなされました?」
「ん?どれどれ…熱はなさそうだがな。」
秀貞に顔を覗き込まれ、勝家におでこを触られる。やべ!顔に出てたか!
「な、なんでもない。なにもないぞ、ちょうちょがとんでただけだよ。さどのかみ。ごんろく。」
「そうですか、よかったです。」
「そうすか。そうですか。若君は虫がお好きですか。ハッハッハッハ。」
おれは傅役の二人に、自分が精神年齢20歳を超えることがバレないよう、ある程度成長するまで、子どものように振る舞うことにした。これが思いの外効いて、この二人にはすごくかわいがってもらっている。これはこれでいい。俺は、史実事項の確認として、秀貞たちを呼ぶ。俺の運命を左右するからな。
「ところでさどのかみ、ごんろくよ。」
「はっ。いかがなさいました?やはり体調が――」
「ちがうぞ、ききたいことがあるんじゃ。」
勝家と秀貞が胸を撫で下ろす。
「ハハハ、若様は好奇心旺盛ですなぁ」
「これなら織田も安泰ですなぁ。」
どの口が言ってんだか。父上を裏切って殺しかけといて…。まぁいい。
「さどのかみ、ごんろく、きのう、とと様とかか様とねたときにな。」
秀貞たちが首を傾げる。
「とと様が、いまがわというりんごくのたいぐんが、あとすうねんいないに、わしらのもとへせめこんでくると言うておった。とと様やおぬしらは、かてるのか?」
秀貞はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと俺の前に膝をつく。
「……若は、ご心配なされているのですな」
「……」
少し俯く。
「ちちうえは、しんでしまわないか?もし、しんでしまったら、われらは、おだけは、どうなるんじゃ?」
「――!」
秀貞の表情が変わった。
俺自身も、その言葉だけは少し本気で不安だった。
桶狭間は歴史学者の俺から見て、はっきり言って歴史上類稀なる勝利だと言っても過言ではない。バタフライ・エフェクトという言葉があるように、俺の行動で、なにかが変わってしまう恐れだってある。だからこそ、父が死ぬ可能性を考えてしまう。
秀貞は俺の頭にそっと手を置いた。
「ご安心くだされ」
「……ほんとうか?」
「はい。殿は、そう簡単に負ける御方ではございませぬ」
そこへ、後ろから低い声が聞こえた。
「その通りですぞ、若」
「今川がいくら大軍を率いようとも、所詮は公家、尾張の精強なる兵には勝てませぬ。」
「ごんろく……」
「若君のお父上は、我らが仕える御方。必ずや勝利されましょう」
「そうです、それに、万が一のことがあれば、我らがこの命に代えても、殿を、あなた様のお父上を守り抜きまする。」
……勝家はそう言い切った。
俺は二人の顔を見る。
「わかった、かんしゃする。」
幼子の俺にできることはない、それに、桶狭間の戦いは二年先だ。気長に、父上が史実通り勝利なさるのを待とう。
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