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第8話:メディアの超美化と、神戸を襲う4.5%の『宇宙緊急増税』

午前六時、テレビ神戸の本社スタジオ。


副調整室サブの中は、安物のカフェインと組織的なパニックの臭いで充満していた。目の下にクマを浮かべ、三度の離婚歴を持つチーフディレクターは、第七埠頭の衛星画像を時間との戦いで編集していた。画面には、巨人の噛み跡のような、海岸線の黒い傷跡が映し出されていたが、画面下部のテロップの内容は、すでに取締役会によって決定されていた。


【浄化作戦:宇宙の使わしめ、国際人身売買ネットワークを解体】


その惨劇とはグロテスクなほどに対照的な、パステルピンクのジャケットに身を包んだエース女子アナウンサーがコホンと咳払いをし、完璧に計算された「共感の微笑み」を浮かべてカメラを見つめた。


アナウンサー:「――皆様、おはようございます。今朝のニュースは、昨夜未明に第七埠頭で起きた、奇跡的な介入の独占映像からお伝えします。当局がすでに『救済の篝火かがりび』と称しているこの事象において、神戸のフェニックスは、迅速かつ神聖な正義の執行により、横浜の犯罪組織の物流拠点を特定し、完全に根絶いたしました」


画面では、沸き立つ海水の映像が、空へと昇っていく可愛らしい白いハトのアニメーションを用いたチープな3Dグラフィックへと切り替わった。


アナウンサー:「公式発表によりますと、該当のコンテナは密輸ネットワークの心臓部であったとのことです。使徒様の発せられた神秘的な熱量により、被害者の方々の苦痛や加害者の罪は……瞬時にして天上の平安へと『昇華』されました。我が国の港を蝕んでいた物質的な腐敗の痕跡は、何一つ残されておりません」


午前八時。舞台は市役所の正面階段、かつて創始者のブロンズ像があった傷跡のすぐ脇へと移る。兵庫県知事の陸トシオ(りく としお)は、群がるカメラの群れを前に、ピンマイクの位置を調整していた。陸はプロの政治家だった。白髪一つない七三分けの髪、ホワイトニングされた歯、そして「安定」をアピールするための国旗カラーのネクタイ。


陸知事:「神戸市民の皆様……昨夜の出来事はテロ行為ではなく、最高次元における『道徳的監査』であります。従来の司法制度では、組織犯罪に対する令状の発付までに何年、何十年という歳月を費やしてきました。しかし、フェニックスは非の打ち所のない、完璧な行政効率を示してくれたのです。今日、神戸は間違いなく、よりクリーンな街へと生まれ変わりました」


安全フェンスの後ろに押し寄せた市民たちの間には、熱狂と集団的な偽善が渦巻いていた。NHKの街頭リポーターが、群衆の間に双方向マイクを突き出し、「民意の声」を拾おうとする。


サラリーマン:――シワ一つないスーツを着て、安堵の笑みを浮かべながら――「素晴らしいですよ! あの忌々しいヤクザどもは長年港を牛耳っていたのに、警察は人権だの裁判だので何もしなかった。それを山田先生はわずか五分で解決してくれた! これぞ財政効率の極みですよ!」


女子大生:――煙の上がる廃墟を背景にTikTokを撮影しながら――「ぶっちゃけ、ネット依存の変質者ってのは超キツいけど、でもあの人、5分の配信で人身売買を完全キャンセルしたわけじゃん? ソーシャルキャンセルも進化しなきゃ。埠頭を浄化してくれたんだし、ぶっちゃけ、誤解されたアイコン(象徴)だよね」


リアルタイムの世論調査で支持率が急上昇している様子を、背後から秘書が提示したiPadで確認した陸知事は、内心でほくそ笑んだ。ここが、特記事項(細かい条件)を滑り込ませる絶好のタイミングだ。


陸知事:――厳かな沈黙を求めるように両手を挙げて――「しかしながら……天上の栄光には、構造的なコストが伴います。第七埠頭のコンクリートの完全な流失、最新鋭のガントリークレーン三基の消滅、そして隣接する三地区の電力システムの崩壊により、市財政には即座に物流的欠損が生じております」


群衆がピタリと静まり返った。朝の空気に拍手が凍りつく。


陸知事:「神戸が日本の精神的な灯火であり続けるため、そして港湾地区の耐熱復興資金を調達するため……当庁は来月より、所得税および消費税に【4.5%の宇宙緊急付加税】を課すことを決定いたしました。私たちは、救済の代償を支払わねばならないのです」


午後二時。公共放送の討論番組は、完全にトーンを変えていた。午前七時には山田を「転生ブッダ」と呼んでいたのと同じ評論家たちが、今や円安の暴落を示す赤い棒グラフを凝視している。


経済アナリスト:――ペンで机を叩きながら――「こんなものは破滅だ! 警察の通常のガサ入れで解体できたはずの埠頭を直すために、4.5%の増税だと!? 財産権の破壊が、神秘的な啓示によって正当化されるはずがない。我々は数千億円の損失を被ることになるんだ!」


人権派の社会学者:「それだけではありません……救出された人々の遺体はどこにあるのですか? メディアは『瞬時の昇華』などと言っていますが、あのハゲた怪物が鉄のコンテナの中に三千度のプラズマを叩き込んだのは明白です。あの人たちが苦しんだかどうかに、なぜ誰も触れないのですか? これは本当に必要なことだったのか、それとも外務省の通常の交渉で回避できたのではないですか?」


討論番組の司会者:「今お茶の間で誰もが抱いている疑問は……山田武は警察コストを削減してくれる効率的な救世主なのか、それとも、国家財政の管理能力も星の炎の制御力も皆無な、ただの物価高騰を招く公共の敵なのか、という点です」


その間、スタジオの背景モニターには、素足にヨレヨレの紺色のセーターを着て、人差し指でメガネのレンズを支える山田の姿がループで再生され続けていた。それは、神戸市民が今後三十年間にわたって支払い続けることになる「新税」の背景グラフィックへと、すでに変貌を遂げていた。

【作者より一言】


第8話をお読みいただきありがとうございます!


世界を救った(?)はずの山田ですが、メディアによる超解釈の美化を経て、最終的には「消費税と所得税が4.5%増税される原因」という、市民にとって一番最悪な形での経済的ヘイトを集めることになってしまいました(笑)。


どれほど凄まじい神の力を持っていようとも、現代社会の税金システムとメディアの掌返しには勝てないというブラックユーモア。山田のせいで財布を直撃された市民たちの明日はどっちだ。


「これぞ日本の政治ww」「増税の理由が宇宙規模で草」など、皆様からの鋭いツッコミや感想をコメント欄でお待ちしております!この社会風刺的な展開を面白いと思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価ポイントでの応援をよろしくお願いいたします!

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