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第5話:神殺しの黒歴史!極道(ヤクザ)の脅迫と、靴下を履いた救世主の夜

チカチカと点滅する裸電球に照らされた廊下で、二人の黒ずくめの男が静かに佇んでいた。警察の制服も、防弾チョッキも、公式なバッジも身に着けていない。


一人は送電鉄塔のように背が高い。山田の住むアパートの価値を軽く超える、完璧に仕立てられたイタリア製スーツ。シワ一つない白シャツに、ネイビーのネクタイが美しく結ばれ、黒い革靴はドアスコープ越しに覗く教師の引きつった顔を映し出すほどに磨き上げられていた。


内藤は何も言わずに、ドライアイスの氷水に浸されたナイフのような冷たい瞳で、じっと前を見つめていた。


その隣には後藤。丸刈りの頭に、拳まで這い上がった黒い蛇の刺青。首元には、死んだ電線のように太いネックストラップのイヤホンがぶら下がっている。


彼らの背後には、さらに三人の男たち。ボスと同じ黒スーツにサングラスをかけた物静かなボディーガードたちが、微動だにせず、厳粛に、危険なオーラを漂わせて立っていた。


ピンポーーーーン!


今度の音はさらに大きく響いた。いや、社会的(そして存在の)不安から、山田の心臓が今にも胸から飛び出しそうだったからそう聞こえただけかもしれない。


後藤:「中にいるのは分かってんだよ」――ドア越しでも響く低い声。


「失礼します」とも言わなければ、誰も微笑まない。人間の持つ通常の緊張感を隠すための、不自然な瞬きさえもしない。


背後では、一人のボディーガードが腕を組み、もう一人が必要もないのにサングラスの位置を直した。


山田はゴクリと唾を呑み込んだ。気管にネジをねじ込まれたかのような、純粋な恐怖の塊が喉を締め付ける。


手垢まみれで汗ばんだ手がドアノブ――十年前に入居した時からずっと冷え切ったままの錆びた金属――にかかるが、回らない。身体が動かなかった。


背後の室内には、クッションの下に隠された成人向け雑誌と、海賊版DVDを焼かないよう必死に聖なる炎を抑え込む宇宙のフェニックス。すべてが、永遠の敗北の臭いを放っていた。


内藤が再び口を開いた。


内藤:「開けろ」――低く、だが虚空に放たれた弾丸のように明瞭な声。


その一言だけ。礼儀もなければ、「お前が山田武か?」という確認もない。


沈黙は、どんな叫び声よりも重かった。


ガチリ、と処刑宣告のような金属音を立ててドアノブが回った。山田武は、ほんの少しだけドアを開けた。油ギトギトの顔、ガムテープで補修されたメガネ、そして首元まで上がってきたオレンジ色の輝きが、廊下の容赦ない光に晒される。


内藤は一ミリも動かなかった。404号室から漏れ出た期限切れラーメンと腐った汗の悪臭すら、彼の結晶化した表情を崩すことはできない。彼はただ視線を落とし、山田の安物トランクスと片方だけのグレーの靴下を一瞥すると、再び氷の瞳を教師に据えた。


内藤:「チェーンを外せ、山田。ビジネスの話をしに来た」


山田:「あ……あの、今はちょっと、都合が悪くて。その、明日の授業の予習をしてまして……」――極限の緊張から、山田の声が裏返る。


後藤は待たなかった。刺青の入った手をドアの木枠に当て、まるでカーテンを引くかのような手軽さで押し入った。ドアチェーンがちぎれ飛び、腐ったドアフレームの破片が弾け飛ぶ。三人のボディーガードが先に踏み込み、山田を成人向け漫画のタワーへと押し付け、内藤は20万円の革靴が畳の怪しいシミを踏まないよう細心の注意を払いながら室内へと入ってきた。


天井に張り付いたフェニックスが白銀の炎を放ち、五年前のアイドルのカレンダーの端を一瞬で黒焦げにした。


宇宙のフェニックス:「血と腐敗! 硫黄の臭いだ! 山田武よ、目の前にいる者たちは最も深い堕落の刻印を押された者たちだ! 星の正義の鉄槌となり、この害虫どもを駆逐せよ!」


山田は必死に自分の胸を殴りつけ、神の鳴き声を抑え込んだ。それは金色の火花とワサビの臭いを伴う、ただの激しいゲップとなって吐き出された。


山田:「うるせえ、黙れクソ鳥!……み、みなさん、市役所の件なら、俺のせいじゃないんです。この鳥が勝手に羽を生やして操縦不能になって……像の弁償ならします、分割で、毎月五十円ずつ絶対に払いますから……!」


内藤は天井の神聖な暴走を完全に無視した。彼はローテーブルに近づき、銀のボールペンの先で飲みかけの牛乳パックをどけると、畳の上に最新型のタブレット端末を置いた。画面が点灯し、複雑なコードとプライベートサーバーのインターフェースが映し出される。


内藤:「像の件で来たわけじゃない、山田。目的はこれだ。サーバー名『黒猫クロネコ』」


山田の世界が止まった。頬に残っていたわずかな血の気が完全に引く。飛び出た両目が画面に釘付けになった。それは彼が毎晩午前三時に訪れている、地下ウェブサイトのデザインだった。彼のインモラルな聖域。


内藤:「その配信ネットワークは、俺たちのシマだ。お前がこの神殿に溜め込んでいるダウンロードデータは、すべて俺たちの手を経由している。密輸品を運ぶ船も、市場に供給される女たちも……すべて俺たちがコントロールしている」


山田のシャツの裏で、フェニックスが地殻変動のような怒りで暴れ始めた。教師の胸が赤熱し、ベージュの生地を焼き焦がしていく。己の「器」の精神的腐敗を生み出した張本人が同じ部屋にいると知り、激怒した神はアパートの壁を突き破らんばかりに炎の翼を広げようとした。


宇宙のフェニックス:「罪の苗床を作った者たちめ! 肉体の商人ども! アルゴリズムはお前たちを灰にすることを要求している!」


内藤:「俺たちを滅ぼせば、山田……そのサイトは消える」――内藤は動じることなく、山田の燃え盛る胸を真っ直ぐに見つめた。――「それだけじゃない。俺たちのメインサーバーには自動プログラムが組んである。俺の心臓が止まれば、お前のダウンロード履歴、フォーラムへの書き込み、IPアドレスのすべてが、この街のすべての警察官のメールアドレスへ一斉送信される」


フェニックスの炎が凍りついた。天井に届きそうだった神秘の翼が、一瞬で収縮する。


星々を喰らい、銀河全体を浄化できるはずの宇宙の超越存在が、地球で最も卑劣で世俗的な「脅迫」の前に敗北した瞬間だった。神は精神リンクを通じて山田を見つめ、英雄としての憤怒や、悪に屈するくらいなら死を選ぶという覚悟を期待した。


だが、山田は少年漫画の主人公ではない。現実への恐怖に震える、哀れなアングラコンテンツ中毒者だ。


山田:「な……何をお望みですか?」――ガタガタと歯を鳴らし、惨めに乞うように内藤を見つめる。


内藤の口元が歪んだ。システムの罠は完璧に噛み合った。炎の神の宇宙的理想主義など、お里が知れた四十男の官僚的臆病さの前には無力だった。


内藤:「明日午前二時、横浜の敵対組織が第七埠頭でコンテナを四つ陸揚げする。そこへ行って、すべてを溶けた鉄屑に変えてこい。ボルト一本残すな。上手くやれば、お前のVIPアカウントは維持してやる。週に三回、和牛弁当も差し入れよう。そして、お前の履歴は一生鍵をかけたままにしてやる」


フェニックスの残余エネルギーのせいで床から三センチほど浮遊したまま、色あせたトランクスと壊れたメガネの山田は、機械的に頷いた。


山田:「第七埠頭……あの、靴下は……履いていってもいいですか?」


後藤:「……好きにしろ、この生ゴミが」――後藤が底知れない嫌悪の目を向ける。


内藤はタブレットを回収し、スーツのジャケットを整えると、振り返ることもなく出口へと歩いた。ボディーガードたちが道を開け、山田は再び十二平米の薄暗がりに取り残された。


天井で、フェニックスが消え入るような光を放ち、寂しい火花が畳の上に落ちた。宇宙の存在は、この世界で最も残酷な真実を理解したのだ。どれほど神聖な光をこの腐った器に注ごうとも、人類の泥の深さは、星々の輝きよりも常に厚いということを。


宇宙のフェニックス:「こんなことに加担してはならん! そのコンテナには人間の囚われの身が、陵辱が、宇宙の精神への裏切りが詰まっているのだぞ!」


山田:「……だから何だよ」――平坦な声で呟いた。


山田は使用済みの下着が詰まった黒いゴミ袋を引き出したが、そこにあったのは冬の間の鼻水が乾いたティッシュと、古い黒靴下だけだった。


彼はゆっくりと服を着始めた。唯一清潔な黒い靴下、トイレットペーパーのようにペラペラになったグレーのスウェットパンツ、そして25年前に父親が着ていたヨレヨレの紺色のセーター。片方の紐がちぎれたボロボロのスニーカーを履き、洗面所の鏡を見た。


鏡に映る姿は、惨めそのものだった。死人のように青白く、ガムテープが貼られたメガネ。だが今、その飛び出た両目の奥には、かすかな、だがこれまでとは違う光が灯っていた。

【作者より一言】


第5話をお読みいただきありがとうございます!


宇宙の力を得た「最強の存在」が、裏社会の最も泥臭い脅迫の前に膝を屈する――これぞ本作の真骨頂です。神のフェニックスですら、日本の警察に自分のネット履歴をバラされる恐怖(社会的死)の重さには勝てませんでした。


「靴下は履いていっていいですか?」という山田の情けないセリフからの、ラストのどこか哀愁漂う着替えシーン。この最低な男の、ちょっとだけ変わった目の奥の光が、次の横浜のヤクザとの全面戦争(?)でどう転がるのか……。


このダークで滑稽な展開を面白いと思っていただけましたら、ぜひ評価のポイントやブックマーク、コメント欄でのツッコミをお願いいたします!皆様の応援が執筆のモチベーションになります!

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