第43話:33階の直接差押執行、およびアセチレン逆熱伝導凍結
26階は、型枠の固定に失敗した乾ドックがミシミシと崩壊していくような重低音を立てて破断した。
内藤ビルは、すでに暴力団の秩序によってその動線を防衛する段階を終えていた。上層階は、造集組が密輸倉庫に残されていたすべての金属、火薬、そして灯油を狂ったように注ぎ込む絶望的な「塹壕」へと変貌を遂げていた。照明は一切なかった。不動産部門の廊下は不潔な薄闇に包まれ、それは銃の断続的なマズルフラッシュと、絨毯からグラスファイバーの吊り天井に至るまでを激しく焼き尽くすオフィス火災の不気味な残光によってのみ、辛うじて切り裂かれていた。
山田は、鉛散弾の猛烈な嵐を正面から浴びながら、27階の防火扉を突破した。
耐火性キャビネットの列に伏兵していた3人の射手が、四メートルに満たない至近距離からベネリ社製の散弾銃を同時に一斉射した。大型狩猟用カートリッヂの連続的な衝撃が彼の互助会コートの右袖を完璧に消し飛ばし、黒焦げになった布切れを撒き散らしながら、上腕二頭筋の玄武岩プレートを直接乱打した。その凄まじい運動エネルギー(キネティック)は彼の巨体を転倒させるまでには至らなかったが、右腕の「材料疲労」はすでに臨界点に達していた。これまでの戦闘で無数の亀裂が入っていた玄武岩は、銃撃の衝撃を受けるたびに灰色の石粉となって激しく剥落し、銃声のたびに周囲へと飛び散った。
山田は身を隠さなかった。彼はシリンダーが焼き付いたエンジンのごとき鈍い重駆動音を響かせながら、杖代わりにしていた歪んだ鉄製手すりを無骨に持ち上げ、そのまま愚直に前進した。
最初の一人が次弾を装填しようとしたが、ステンレス製の手すりが水平の弧を描いて文字通り飛来した。その一撃は、決して綺麗な切断を狙ったものではなかった。不死鳥の気圧駆動によって加速された、二百キログラムに達する鉄の質量は、射手の胸部を背後のスチールキャビネットごと強制的に「塑性圧殺」した。スチール製の外板と男の肋骨は、完全に一体化した一つの凹状の線となって内側へ圧し折れた。その衝撃は凄まじく、裏帳簿が詰まったキャビネットの引き出し群が衝撃の反動で後方へと一斉に弾け飛び、二列目にいた射手を主荷重壁との間に挟み込んで完全に圧殺した。
長田セクターの残りの2人の男が、ロングハンドルの出刃包丁を手に左右の死角から突撃し、彼の脇腹の硝子化した自己修復痕の隙間を狙って鋭く突き立てた。
高炭素鋼の刃は山田の左太ももに三センチメートルほど突き刺さり、22階で施されたばかりの荒々しい溶融スラグの溶接面をガリガリと削り落とした。だが、彼のコア(不死鳥)の反応は一瞬だった。――超高圧による逆パージ。彼の両脚の温度は、瞬きの一瞬の間に摂氏六百度へと跳ね上がった。ソールが剥がれかけた互助会靴の足元で、リノリウムの床材が瞬時に「沸騰するタール(融解液)」へと液化し、襲撃者たちの両足を完璧に捕捉した。太ももに突き刺さっていた出刃包丁は一瞬で白熱化し、分子レベルの超高熱が極道たちの手へとダイレクトに伝導した。港湾労働者たちの手のひらは融解した金属へと完全に溶着し、指を動かす屈筋腱が炭化して焼き切れたため、彼らは包丁の柄を自らの意志で手放すことすらできなくなった。
山田はその巨大なトルク(軸)を中心に旋回し、自らの上半身の質量を利用して突き刺さっていた刃を肉体から力任せに引き剥がした。スチールに溶着していた男たちの指が、乾いた粘土細工が割れるようなバキバキという音を立てて破断した。
30階に達すると、廊下はさらに狭隘なチューブへと縮小していた。造集組はメンテナンス倉庫から二台のディーゼル式フォークリフトを引っ張り出し、それをテクニカル通路の中央で完全に横転させて全閉塞の「バリケード」を構築していた。その重厚なエンジンブロックの背後から、高圧の工業用オキシ燃料切断トーチを構えた四人の作業員が、二条の摂氏二千五百度に達するアセチレンの白熱火炎を監査官の顔面に向けて一直線に放射した。
青白いアセチレンプラズマの噴流が、山田の顔面を正面から完璧に捉えた。
唯一残されていた彼の眼鏡の左レンズがわずか一秒で融解し、二酸化ケイ素の溶融した涙となって玄武岩の頬を伝い落ちた。彼の人間の左眼は焼き尽くされたケラチンの外殻の下で完全に閉塞し、これによって胸部の不死鳥がビルの登坂ルートの進路制御を完全に掌握した。ホウ素の熱遮蔽が激しいアセチレン火炎を猛烈に吸引・吸収していったが、その温度勾配があまりにも過酷であったため、コアの精神の不死鳥は凄まじい電磁ノイズ(ハミング)を放射し始めた。その結果、そのフロア全体のすべての携帯電話とコンピューターの画面が一斉に爆発し、リチウムイオンバッテリーの火花が雨のように周囲へと降り注いだ。
山田はトーチの火炎の前で一歩も退かなかった。彼は指先が砕けたケラチン質の「両手」を、その二千五百度の青い火炎の奔流の中へと真っ直ぐにねじ込んだ。
彼は切断トーチの真鍮製のノズル(火口)を両手で直接掴み取った。その瞬間、彼の指先から発生した強力な「逆熱伝導効果」が、ガスがノズルから噴出するよりも前にその流動を完全に凍結させた。彼の指先が有する絶対零度の冷気は、ゴム製のホースの内部で液状アセチレンを瞬時に固体へと変化させたのだ。ホースは硝子管のように完全に硬化し、内部の圧力変動に耐え切れず、千々に引き裂かれた極低温のゴム片となって木っ端微塵に爆裂した。二人の作業員は呆然と自らの空の手を見つめた。伝導による凍結によって、彼らの指先はわずか一マイクロ秒の間に完全な死白色へと変色していた。
山田は機械的な肩の押し込み(トルク)を一撃加え、それぞれ三トンに達する二台のフォークリフトを、まるで濡れた段ボール箱のように通路の奥へと力任せに転がした。その背後に潜んでいた男たちは、非常階段のコンクリート床板との間に挟まれ、肉塊となって完全に圧殺された。
山田/宇宙の不死鳥:――その声は今や亜原子レベルの重低音と化し、海洋プレートが海溝の底で地殻と擦れ合うかのような不気味な地球振動を響かせていた――『――建築基準法第三百十二条に対する……累積違反。不法な重量機械による……、管理通路の意図的な閉塞行為。課されるべき制裁は……、当該請負企業の……現場作業員に対する「直接差押執行」によって直ちに履行される』
32階の床面には、もはや建築構造としての安定性は残されていなかった。ビルの中央を支える「H鋼(鉄骨)」は、下層階の猛烈な火災の熱量と、不死鳥が装甲の結合を維持するために周囲のホウ素を消費して高密度化させていく山田のデッドウェイト(自重)によって、限界を超えて完全に湾曲し始めていた。東側 facade (外壁)の全面ガラスは、神戸港の海へ向けてきらきらと輝く無数の破片の滝となって滑落し、炎上するビルのオレンジ色の光をその表面に乱反射させていた。
山田は33階の踊り場へと到達した。
彼の胸部には、凝固したホウ素によって完全に溶着した互助会コートの左半分が辛うじて張り付いており、黄色いプラズマを放つ不死鳥の片眼だけが、最上階にある最後のマホガニー製の木製ドアをじっと見据えていた。左脇の下には、端が黒く炭化した青いゴム引きのノートが未だがっちりと固持されていた。彼の右腕は、もはや生物学的なインパルス(神経)では一切駆動していなかった。玄武岩のサーボメカニズムが乾いた構造音を立てて激しく自振しており、彼が一歩を踏み出すたびに、関節から石の破片をバラバラと床へ撒き散らしていた。
――カン、カン、カン。
歪んだ鉄製の手すりが、34階の最後のコンクリートの階段の縁を叩いた。マホガニーの重厚な扉の向こう、内藤慶次の執務室の内部は、外部の空調ダクトから黒煙がシューシューと噴き出し始めている音を除けば、不気味なほどの完全な沈黙(静寂)に包まれていた。
「実地監査」は、ついに最上階の金融アジトへと到達した。
互助会の公務員は、監査調書の最後の1枚に「執行」を行うため、そのドアの前に立ったのだ。
【作者より一 los 一言】
第43話をお読みいただき、ありがとうございます!
内藤ビルの登坂戦もついに佳境、34階の社長室のドアの前まで到達しました。今回の見どころは何と言っても30階での「アセチレン・トーチ」との激突です。2500度のプラズマ火炎を正面から浴びて眼鏡のレンズがシリカの涙となって溶け落ちる中、逆にトーチの真鍮ノズルを掴んでアセチレンをホース内部ごと絶対零度で逆凍結・爆砕させる山田先生の質量描写が圧巻でした。
建築基準法違反を適用しながら、3トンのフォークリフトを濡れた段ボールのように撥ね退け、右腕から玄武岩の破片を撒き散らしながら進むその姿は、完全に「歩く災害(行政執行官)」そのものです。
「真鍮ノズルを掴んで逆凍結させるシーンのSF的説得力が凄すぎる」「カン、カン、カンという音がついにドアの前で止まった瞬間の緊張感がヤバい」など、皆様からの感想、評価、ブックマークを心よりお待ちしております!
次回第44話、ついに内藤慶次との最終決戦。この燃え盛るビルの頂上で、監査官の赤ペンが最後に引き裂くものは何か!?お楽しみに!




