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第25話:地下4階崩壊!凍てつく防弾ガラスと、退職金の強制徴収

液体窒素の静寂は、ほんの一瞬しか持続しなかった。前触れも、警報音も、一佐や技術官が排気レバーに手を伸ばす猶予すら存在しなかった。


山田が血まみれの歯の間に咥えていた厚さ2センチのチタンの破片は、テコとして使われたわけではなかった。老教師はそれをエポキシ樹脂の床へと吐き捨て、その直後、廃車プレスの油圧のような軋みを立てて彼の腱が限界まで緊張した。彼は両の手のひら――あの黒いケラチンと硬化した灰の鉤爪――を、5層構造の防弾アクリルガラスのプレートへと直接押し当てた。


バンカーの安全ガラスは、熱によって外側へ爆発したのではなかった。地下4階で起きたのは、負のエントロピーの圧倒的な移動(転移)だった。彼の指が触れた瞬間、アクリルは亜原子レベルの凍結による刹那の結晶化を起こした。透明な物質は瞬時に不透明化し、古い業務用冷凍庫の霜のように白く染まり、1兆個の幾何学的な亀裂へと砕け散った。


山田はただ、胸でそれを押し出しただけだった。


6トンもの防弾アクリルガラスがガラス質のひょうの雨となって霧散し、観察室のコントロールデスクへと刃物のように鋭い破片を撒き散らす鈍い破裂音が響いた。最初の衝撃により、海自の技術官は椅子から立ち上がる暇もなく首をはねられた。頭部を失った彼の遺体はモニターの前に座ったまま、キーボードを汚す前に空気中で凍結していく血の調べを、規則的なリズムで噴き上げていた。


気圧差に突き動かされ、マイナス196度の液体窒素の霧がコントロールルームへと一気に流れ込んだ。タッチパネルは乾いた電気爆発の音を立てて次々と弾け飛んだ。軍人たちの汗と熱気で満ちていた室内の空気は、一瞬にして極寒の砂漠へと変貌した。一佐のマグカップに入っていたコーヒーは固体の一塊へと凍りつき、わずか1秒で陶器のマグを真っ二つに叩き割った。


主任研究員:――砕け散ったガラスの上に膝から崩れ落ち、冷気が肺に侵入して気管支が灼けつく中、手袋をはめた両手で喉を固く押さえながら――「――総員……退避……シャフトを……シャフトを閉鎖しなさい……」


山田は破壊された枠組みを跨いで進んだ。その動きには、もはや跛行(足を引きずる)の不揃いな不器用さはなかった。バリウムによる麻痺は弾道的な硬直、すなわち全裸の踵の下で床の鉛プレートをきしませる機械的な歩幅へと変換されていた。自衛隊の緑の布地も府中刑務所のジャージも、すべては過去の遺物だった。剥き出しになった彼の肉体は繊維質の筋肉の異常組織であり、完全に開き直った胸の火山岩のクレーターからは、凍りついた床に触れるたびにシセオ(蒸発音)を上げる黒い泥が滴り落ちていた。


彼は一佐の前で足を止めた。頭蓋骨にめり込んだフレームに残された唯一のレンズが、通路の天井で明滅する緊急警報の赤い光を反射していた。


山田:――彼の声はもはや歯の根で振動してはいなかった。それは彼の胸のクレーターから直接吐き出される地鳴りのような咆哮であり、基地のスピーカーの周波数を完全に歪ませていた――「――空白の……枠(席)は、文科省の統計には算入されません。もし私を住民票から抹消すれば……県の予算は別の部署へ流用されてしまう。誰かが……誰かがこの消毒の超過勤務手当(残業代)を支払わねばならないはずだ……」


研究員は視線を上げた。彼女のまつ毛は霜で白く染まり、唇は寒さで裂けていた。規定の「南部拳銃」のホルスターへ手を伸ばそうとしたが、教師のシルエットから放射される絶対零度によって感覚を失った彼女の指は、制服の襟に衝突した瞬間に枯れ木のようにポキポキと折れ曲がった。


宇宙的物質コズミック・フェニックス / 山田:――一つの歪んだ灰色物質へと溶け合わされた唯一の思考、最終方程式――「――絶対零度に規則レギュレーションなど存在しない、役人よ。宇宙の冬もまた、秩序の一つの形態だ」


山田は右手を伸ばし、彼女の頭蓋骨を掴んだ。圧力も、テコも必要なかった。彼の指は、わずか一瞬で女性の細胞熱を完全に吸い尽くした。一佐の皮膚は灰色、次いで白へと変わり、その両眼は不透明な二つの氷のビー玉へと凍りついた。部屋の隅で唯一生きていたモニターの中で、彼女のバイタルサインがゼロへと急降下した。


老教師がその肉体から手を離すと、遺体は床へと崩れ落ち、瀬戸物が割れるような乾いた音を立てて3つの凍った肉塊へと砕け散った。


山田は移送通路の先を見据えた。奥にある貨物用エレベーターの扉が、緊急灯の光の中で明滅している。地上にある海上自衛隊横須賀基地のスピーカーから、コードレッドのサイレンが猛烈に鳴り響き始めた。


横須賀基地の拡声器:「下部セクターの全人員へ警告。地下4階にて封じ込めエラー(ブレチ)が発生。第3段階の化学凍結プロトコルを起動せよ。繰り返す、対象『CTA-01』が隔離室外へ脱出した――」


山田は歩調を速めなかった。彼は検察の事務官が自分の拠出金ファイルを詰め込んだ「廃棄物件」のスタンプ付きの段ボール箱を拾い上げ、それを石の胸へと押し当てた。黒い泥が、まるで工業用接着剤のように段ボールを肉体へと固定した。彼はエレベーターのシャフトに向かって歩き始めた。


ハゲた神は今、自らの手で退職届(解雇通知)にサインを済ませた。そして窒素と硝酸に汚れたその手で、退職金フィニキトを強制徴収するために、東京の地上へと上っていく。

【作者より一言】


第25話をお読みいただき、ありがとうございます。


ついに地下4階の絶対防衛ラインが完全崩壊しました。

厚さ2センチのチタンを噛み砕き、5層の防弾アクリルを一瞬で凍結・粉砕した山田武。彼が放つ「絶対零度」の前では、自衛隊の最新技術も一佐の拳銃も、ただの凍った瀬戸物のように砕け散るしかありませんでした。


「宇宙の冬もまた、秩序の一つの形態だ」というフェニックスと山田の融合した思考は、冷徹な官僚機構に対する彼なりの「究極の規則ルール」の提示でもあります。衣服を失い、怪物と化しながらも、「廃棄物件」の段ボール箱(自分の人事書類)を胸に接着して地上を目指す姿は、シュールでありながら圧倒的な恐怖です。


コードレッドが鳴り響く横須賀基地。地上で彼を待ち受けるものは何か……。


「一佐の最期がエグすぎる」「段ボール箱を大事に抱えてエレベーターに向かう山田先生の執念がヤバい」など、皆様からの感想コメントをぜひお待ちしております!

ここからの地上決戦も盛り上げていきますので、ブックマークや評価での応援をよろしくお願いします!

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