第24話:規則なき空白!チタン剥離と、絶対零度を喰らう魔獣
3週間後、地下4階の熱封じ込め細胞房は、化学的な下水臭に満ちていた。山田の胸膜に注入された冷たい硫酸バリウムゲルは、もはや清潔な医療用流体ではなかった。それは彼の胃液や21日間の隔離による腐った汗と混ざり合い、灰色がかった粘ついた粥状の物体へと変貌し、老教師はそれをセラミック製のキューブの隅々に吐き散らしていた。オリーブグリーンのジャージはすでに存在せず、山田はチタンプレートの上に全裸でうずくまっていた。太ももの皮膚は、有機分泌物のかさぶたによって床に膠着していた。
もはや、その尊厳の剥奪は制度的なものだけではなく、生物学的な領域に達していた。公民権を剥奪したことに伴い、国家は彼からプラスチック製のカトラリー(スプーン)すら取り上げていた。1日に2回、扉の下部にある空気圧式の給食口がプシューという排気音とともに開き、冷たく固形化された、無味乾燥な栄養ペーストの入ったステンレス製のトレイが差し込まれる。
最初のうち、山田は教職員食堂での作法をどうにか維持しようと試みていた。指をまるで箸であるかのように動かし、こぼれたペーストを機械的な動作で太ももで拭い去っていた。だが、今はもう違う。寄生虫の末梢的な飢餓が、彼の顎の平滑筋を完全に支配していた。山田は床にうつ伏せになり、トレイの鋼鉄に顎を押し付け、そのペーストを口で直接貪り食った。その際、彼の口から漏れる鈍い唸り声と、金属に対する規則的な歯のクリック音(咀嚼音)が、研究所のインターホンを通じて不気味に響き渡っていた。
防弾アクリルガラスの向こう側、テレメトリーモニターの緑色の点滅に照らされた観察室で、海自の主任研究員はタッチパネルのゲイン(増幅率)の倍率を調整した。彼女の指先が、ガラスの上で微かに震えていた。
主任研究員:「――左下葉のバリウム密度の再確認を」 彼女の声は緊張し、窒素タンクの残量をチェックしていた当直の技術官に向けられた。「――分析ソフトウェアが冗長性エラー(キャリブレーションミス)を起こしている。ここ6時間で密度が12%にまで急落しているわ」
海自技術官:「自動インジェクターは最大出力です、一佐。30分前にマイナス5度の冷却剤を2リットル投入しました。しかし……しかし、センサーが中心温度の低下を感知しません。36.5度で完全に固定されています。正確に、通常のนี่人間の体温です」
主任研究員:「冷気を吸収していない……消化しているんだわ。寄生虫はもうゲルから身を護ってはいない。核を保護するための装甲材として、バリウムを同化し始めているのよ」
モニター越しに山田の背を丸めたシルエットを見つめながら、主任研究員は忌々しげにつぶやいた。
細胞房の内部で、山田が頭を上げた。その動作は純粋に野生のそれであり、巣穴の空気の振動を感知した捕食者の反射だった。眼鏡を固定していた青い伸縮性ベルクロは汗で腐り、数日前に千切れていた。唯一汚れていない方のレンズのプラスチックフレームは、腫れ上がった眼窩の肉に直接めり込み、乾燥した血液とケイ酸塩樹脂のかさぶたによって辛うじて固定されていた。
もはや、非常勤講師特有のあのチック症状のような瞬きはなかった。網膜の毛細血管に飽和したガンマ線の放射により、完全に黄色く染まった彼の両眼は大きく見開かれ、天井の液体窒素散水ノズルの格子をじっと見つめていた。
山田:「――Aブロックが……Bブロックと融合した。もはや……もはや評価基準(配点)が存在しない。もし文部科学省が……文部科学省が私の枠(席)を剥奪するならば……その枠は法的な空白地帯となる。そして空白には……空白には、規則など存在しない……」
彼の声はもはや平坦な擦れ音ではなかった。それは重低音の咆哮であり、床の溝を流れる排水を同心円状に振動させるほどの低周波だった。
宇宙的物質:「海の底に32の机がある。内藤のセメントには、原子を止めるほどの密度はない。肋骨のテフロン針を感じろ……あれはもう金属ではない……燃料だ」
今度は、神格は食道の奥から語りかけなかった。フェニックスの声と山田の思考は、変形した一つの脳組織として完全に溶け合っていた。寄生虫はもはや侵入者ではなく、この怪物の神経系そのものだった。
背骨を不自然な角度で後方へと折り曲げる猛烈な痙攣とともに、山田は立ち上がった。彼の両膝が、生木がへし折れるような音を立てて軋んだ。胸の人工火山岩の瘡蓋が真っ二つに裂け始めたが、その亀裂から漏れ出たのは黄金のプラズマではなく、融解したバリウム、工業用ケイ酸塩、そして過熱された人間の血液が混ざり合った、ドロドロとした黒い流体だった。
彼はチタンの壁へと近づいた。歩いてはいなかった。重い歩幅で這うように進み、彼の足の指はセラミックプレートの上に黒い脂の足跡を残していった。彼は右手――かつて8時半の授業で白いチョークを握っていたその手――を掲げ、硬化したケラチンと灰の鉤爪のように伸びた爪を、厚さ2センチのチタン合金に直接突き立てた。
金属は熱によって歪んだのではなかった。彼の腱が放つ圧倒的な空気圧によって、引き裂かれたのだ。山田はバンカーの耐荷重構造に指を沈め、コントロールルームのマイクの許容量を超える110デシベルの金属悲鳴とともに、チタンの肉片を剥ぎ取った。
天井の散水システムが即座に作動し、マイナス196度の液体窒素の白いカーテンを放出して、細胞房を凍てつく霧の中へと埋没させた。
観察室の技術官が悲鳴を上げ、椅子ごと後方へと飛びのいた。
海自技術官:「地下4階セクターに熱アラーム! 対象の温度が上昇して……いや、違う! 絶対零度以下に急降下しています! センサーが内部から凍結していく!」
液体窒素の霧の向こう側で、山田のシルエットは停止しなかった。極寒はもはや彼の檻ではなく、彼の生息地(環境)だった。
ハゲた怪物、この『非常勤の魔獣』は、観察室の防弾アクリルガラスへと向き直った。血に染まった歯の間に引きちぎったチタンの破片を咥えたまま、彼は主任研究員をまっすぐに見つめた。宇宙の寄生虫はついに国家の官僚機構を完全に消化し尽くし、ピットの底に残されたその獣は、もはや試験が何たるかなど忘却していた。ただ、この檻をいかにして噛み砕くか、それだけを理解していた。
【作者より一言】
第24話をお読みいただき、ありがとうございます。
国家の管理が生み出してしまった、最悪の『非常勤の魔獣』。
バリウムを消化して自らのエネルギーと装甲に変え、絶対零度すら自らの「生息地」として適応してしまった山田武の姿は、もはや神というよりは、冷徹なシステムに対する執念が生んだ生物災害です。
かつて生徒のためにチョークを握っていた手が、今や厚さ2センチのチタンプレートを素手で引きちぎり、その口には剥ぎ取った金属片が咥えられています。「真空には規則など存在しない」という彼の言葉通り、彼は自分を縛っていた文科省のレギュレーションごと、この横須賀の監獄を物理的に「無効化」しようとしています。
チタンが引き裂かれ、センサーが内側から凍りつく中、地下4階の防衛ラインはどうなるのか……。
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