第21話:第一章完結:出席簿の終焉と、第7突堤のケイ酸塩(残り4分)
防衛省の最後通牒が期限を迎える4分前、火曜日の午前8時26分。神戸の第7突堤は、 まるで工業用屠殺場のような、静止した銀色の光に包まれていた。雨は上がっていたが、塩分を含んだ湿気が護送車のフロントガラスやアルパカのスーツにまとわりついていた。
舞台は、鋼鉄とコンクリート、そして企業の冷笑が作り出した半円状の空間に整えられていた。左側では、自衛隊とSAT(特殊急襲部隊)の隊員70名が硬直したファランクスを形成し、89式5.56ミリ小銃の銃口を金属製の通路へと向けていた。右側では、アイドリングの低い唸りを上げ続ける造集組のコンクリートミキサー車の脇に内藤の部下たちが控え、トレンチコートのポケットに手を突っ込み、薄暗がりの中で火のついた煙草を漂わせていた。その半円の中央、化学熱を放ちながら未だに泡立っている生コンクリートのピットの真上で、内藤慶次は14階のオフィスから直接運び下ろされた黒い革製のオフィスチェアに腰掛けて待っていた。
内藤は防弾チョッキを着ていなかった。彼は足を組み、左の膝の上にムラーノガラスの灰皿を乗せていた。そのトカゲのような目は、突堤で途切れている不使用の引き込み線レールの端をじっと見つめていた。
最初に音が響いた。濡れた、規則的な、忌まわしい足音だ。
山田武は左のスニーカーを引きずりながら、第7突堤へと足を踏み入れた。鉛色の海を背景に切り取られた彼のシルエットには、もはや人間の対称性など微塵も残っていなかった。青いウールのセーターは肋骨の焼けた皮膚と完全に融合し、胸部は白く爛れてかさぶたに覆われ、周囲の空気を歪めるほど濃密な黄金色の蒸気を放っていた。鼻梁の軟骨の上で乾燥したダクトテープの粘着剤の塊は黒い組織となり、彼の左目を永久に半分閉じさせ、その眼球は血走っていた。
彼は変形した緑茶の水筒を右手に持ち、まるでそれが自分の存在を証明する最後の公式文書であるかのように、溶けた取っ手を固く握りしめていた。
教師の姿を目にした瞬間、70丁の小銃の安全装置が解除される乾いた音が、一斉に港の空気に響いた。造集組のミキサー車が同時にその回転を止め、突堤には、コンテナの上を舞うウミネコの鳴き声さえ聞こえるほどの絶対的な沈黙が訪れた。
内藤:「――遅かったですね、先生。1時限目の開始まであと4分だ。校長はすでに、職務放棄による免職の書類にサインを終えましたよ」
内藤は椅子から立ち上がることなく、手袋をはめた2本の指で葉巻を口から外して言いました。
山田:「――ハード……ハードディスクを。職員室のハードディスクを取りに来たんです。2年B組の成績簿が……東京の中央サーバーに転送されていない。私が評価(成績)を入力しなければ……生徒たちが全員『欠席』扱いになってしまう……」
山田はコンクリートのピットから7歩手前で立ち止まり、唯一汚れていないレンズ越しに内藤に焦点を合わせるため、頭をわずかに傾けた。その声は平坦で、ひび割れた口笛のような微弱な擦れ音だった。
内藤は短く、乾いた嘲笑を漏らしたが、その笑いは港の湿った空気の中ですぐに霧散した。彼は肘を膝につき、前傾姿勢になって、山田の袖口にこびりついている人間の脂のかさぶたを凝視した。
内藤:「どの生徒のことだ、山田? お前の生徒たちはすでに今期の損失バランス(損害賠償)の一部だよ。陸知事はすでに災害特別補償の書類に実印を押した。文部科学省にとって、2年B組の教室は消毒手続き中のただの空白スペースだ。お前は墓場で万年筆を探している幽霊に過ぎん」
山田:「私は……私は授業をしました。8時半ちょうどに。カリキュラムは消化した……試験の……Aブロックは必須項目だったんだ……」
山田が水筒を握りしめると、爪のチョークが細かい粉となって剥がれ落ちた。
宇宙的物質:「あのアルパカの爬虫類の喉を掻き切れ……私の熱気流で護送車ごと焼き尽くせ……この県を再び珪素へと戻すのだ……奴らを灼け!」
寄生虫が彼の食道の中で身をよじり、突堤の鉄骨を軋ませるほどの咆哮を上げた。ガントリークレーンが金属の悲鳴を上げて振動した。
山田:「黙れ……! もし私が……もし私がプラズマを使ったら、ハードディスクが壊れてしまう。あの……あの建設会社のフォルダだけが、国家が私を雇用していた証明なんだ。私が……私がただの廃棄物ではないという、唯一の……!」
山田は歯を食いしばり、顎から暗い血の筋が流れ落ちた。彼は水筒を自分の太ももに強く叩きつけ、肋骨から溢れ出ようとしていた黄金色の輝きを力ずくで圧殺した。
内藤は薄く笑った。それこそが彼の待っていた確証だった。この老獪な政治的動物は、教師が自身の神経症(強迫観念)によって完全に無力化していることを見抜いていた。山田は神などではない。ただ自分の勤務時間が終わったことを受け入れられない、解雇された労働者に過ぎないのだ。
内藤:「隊長。アクティブ(対象)は十分に熟した。物理的封じ込め(保全手続き)を開始してください。弾薬は使うな。本省は横須賀の対抗策研究所のために、その腺を無傷で回収したがっている」
内藤は右手を挙げ、SATのファランクスに向かって合図を送った。
映画のような銃撃戦は存在しなかった。それは官僚的かつ工業的な、ただの包囲工程だった。
造集組の2台の散水タンク車が並行して前進し、山田を左右から挟み込んだ。車両の側面から突き出た4本の機械アームから放射されたのは、網でも砲弾でもなく、高密度液体ケイ酸塩ポリマー(高分子凝集剤)の容赦ない奔流だった。それは原子炉のメルトダウンを封じ込めるために建設会社が開発した、特殊冷却化合物だった。
灰色で泥状の流体が、正面から山田の肉体を直撃した。
その流体は教師の胸の熱に触れても蒸発しなかった。極限の熱特性と反応するように設計されていたからだ。液体はわずか2秒で硬化し、厚さ30センチの人工火山岩のかさぶたへと変貌した。それは彼の腕と足を完全に密閉し、突堤のコンクリートへと彼を奇怪な彫像のように固定した。フェニックスの黄金のプラズマは岩の下で狂暴に脈打ち、灰色の表面に黄色い亀裂の線を走らせたが、冷却剤は寄生虫が熱を発生させるのと同等の速度でそのカロリーを吸収し続け、細胞レベルで温度を安定させていった。
山田はケイ酸塩のブロックの中に完全に埋没し、かろうじて頭部だけを突き出した状態で膝をついていた。硬化時の圧力で眼鏡の割れていない方のレンズも粉砕され、融解したダクトテープだけがそのフレームを辛うじて顔面に繋ぎ止めていた。
内藤はオフィスチェアから立ち上がった。イタリア製の革靴を乾燥したコンクリートに擦らせながら、彼は石のブロックへとゆっくり歩を進めた。山田の顔面からわずか数十センチの距離で足を止めると、内藤はトレンチコートから黒いUSBメモリ――組織のファイルを暗号化したハードディスク――を取り出し、左側で泡立っている生コンクリートのピットの中へと無造作に投げ落とした。
黒いプラスチックは灰色の泥の中に沈み、3秒もしないうちに5メートルの工業用コンクリートの下へと消え去った。
内藤:「――数式は簡略化されましたよ、山田先生。出席簿は閉められた。良い夏休みを」
内藤は教師の焦点の合わない硝子のような目を上から見つめ、そう言い残した。
内藤は背を向け、エンジンをかけたまま待機していた黒いトヨタ・センチュリーの後部座席に乗り込み、一度も振り返ることなく第7突堤を去った。彼の背後で、港のクレーンが再び動き出し、SATの車両がハゲた神の囚われた石のブロックを取り囲み、軍用の緑色の防水布が彼の頭上から被せられた。
こうして、神戸の「黒い月曜日」の最後の光は、完全に掻き消された。
【作者より一言】
第21話をお読みいただき、そして『第一章・神戸編』の完結までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
圧倒的な破壊力を持つ宇宙的物質を宿しながらも、最後まで「2年B組の出席簿」と「自分が廃棄物ではないという証明」に縛られ、自らプラズマを抑え込んでしまった山田武。そして、その小市民的な強迫観念を完璧に利用し、弾丸一発すら使わずに工業用ポリマーで彼を「物言わぬ彫像」へと変えた内藤慶次。
USBメモリが生コンクリートの底に沈み、山田の日常の証明が永遠に抹消された瞬間は、作者としても書いていて胸が締め付けられるものがありました。
第一章はここで幕を閉じますが、横須賀の研究所へと運ばれる「非常勤の怪物」の運命、そして第二章から始まる新たな展開にぜひご期待ください!
「内藤の冷徹さが最高に極道」「山田先生のラストの姿が切なすぎる」など、第一章の総括となる熱い感想コメントをぜひお寄せください!
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