第20話:テスト範囲外のプラズマと、雨の阪急線(残り23時間42分)
嵐の雨水が阪急線の鉄骨を叩き、金属製の手すりを震わせる激しい音が、山田武の溶けた靴底へと直接伝わっていた。地下通路を抜けた先の神戸の空は灰色ではなかった。それは三宮のビル群へと低く垂れ込める、凝縮された煤の天井であり、都市に人工的で早すぎる黄昏を強制していた。
山田は線路の中央を進んでいた。枕木を固定する灰色の砕石が、彼の左足の下で音を立てていた。濡れた花崗岩の上に、彼の破れたスニーカーは一歩ごとに焦げたゴムの痕跡を残し、そこから白い水蒸気の小さな渦が立ち上っていた。右手に持った緑茶の水筒は、熱で変形してまるでプラスチックの骨の破片のようになり、そこから漏れ出る濃い液体を雨が瞬時に洗い流していった。
電車は走っていなかった。兵庫県内の鉄道網は、3時間前に大阪の総合指令所から完全に遮断されていた。レールの沈黙は絶対的であり、ただ遠くから防災行政無線のスピーカーが最後通牒を繰り返す低いうなり声だけが響き、その残響が大丸百貨店の誰もいないファサードに跳ね返っていた。
彼の頭上200メートルの位置で、3つの固定された光が雲の切れ間を割った。ヘリコプターではない。防衛省の『富士偵3型』偵察ドローンだ。石英ガラスの球体に保護された内蔵光学レンズが同調して回転し、その赤外線センサーを教師の胸へと正確に固定していた。
東京の作戦本部のモニターに映る山田のシルエットは、もはや人間のものではなかった。それはソフトウェアのゲイン上限を飽和させる、熱核の白い傷痕そのものだった。
山田:「――もし……もし明日欠勤したら……校長は補欠リストから臨時の身代わりを呼ぶでしょうね。24時間以上の無断欠勤に対する、それがプロトコルです。今年度の先任権のポイントを失ってしまう。県の……県が定めた評価baremo( baremo )がすべてゼロになってしまう」
山田は枕木の上で立ち止まり、ドローンの赤い航法灯を見つめながら呟いた。
宇宙的物質:「お前はまだ死体の内側で、書類の整理番号を探しているのか、役人め。世界はお前のような男を記録する書類など持ち合わせていない。小松基地では、戦闘機がケロシンのタンクを満たしている。彼らはお前の死を以て、その数式を埋めようとしているのだ」
寄生虫は咆哮しなかった。その声は、山田の喉頭をせり上がる濃密なプラズマの滴りであり、彼に黄金色の唾液を吐き出させた。その液体がレールの鉄を腐食し、小さな穴を開けた。
山田:「数式なんかじゃ……数式なんかじゃない。佐藤は14歳だった。彼女の母親が……春に西宮の茶菓子を持ってきてくれたんです。娘がド・モアブルの定理を理解できたお礼だと言って。あの菓子は……西宮の菓子だった。職員室で一人で食べた。甘すぎたんだ」
山田は水筒を握る指に力を込めた。プラスチックが悲鳴を上げて軋んだ。
教師は左手を顔に当てた。鼻梁の軟骨に完全に融解して張り付いたダクトテープの粘着剤が、鋭い痛みを引き起こし、彼は頭を歪めた。唯一汚れていないレンズ越しに、彼は南の地平線を見つめた。そこには、鉛色の海を背景に、第7突堤のガントリークレーンのシルエットが切り取られていた。
山田:「もし私が……もし私が突堤に行けば、内藤はそこにいるでしょうか。彼はハードディスクを持っている。あの……あのフォルダが入ったハードディスクを。もし省庁がサーバーを消去したら、あのフォルダだけが、私が……私が山中高校にいた証明になる。私が8時半の授業を行ったという、唯一の証明に」
宇宙的物質:「あの極道の詐欺師がお前のために用意しているのは、さらなるコンクリートだけだ、チョークの獣め。お前を産業廃棄物の焼却炉として利用し、今度は国家がお前を射撃の標的にする。私にこの熱の直径を広げさせよ。12分あれば、この湾の温度を1万度まで上昇させられる。すべてのインフラは再び溶岩へと戻る。プラズマの前で生き残る契約など存在しない」
山田:「もう……もうプラズマはいらない。プラズマは……ケンジの脂の匂いがする。プラズマは公式の試験範囲には入っていません」
山田の膝がバラストの上で震え、その声には脆さが混じっていた。
金属的な昆虫の群れのような高い羽音(ハム音)が、線路の上の空間を満たした。1機の富士ドローンが垂直に下降し、山田のわずか15メートルの高さでホバリングを開始した。軍用コンピュータで変調された合成音声が、機体のシャーシに備え付けられたスピーカーから飛び出した。
偵察ドローン:『――対象、山田武。阪急線セクションにおいて貴殿の熱特性を記録した。残り時間、23時間42分。第7突堤への指向進路を監視中。線路から逸脱するな。針路のいかなる変更も、「第二段階の敵対行為」とみなす――』
ドローンは再び上昇し、リチウムバッテリーのオゾンの匂いを残して、灰色の雲の天井へと消えていった。
山田は激しさを増す雨の中、線路の真ん中に一人取り残された。雨は彼の爪のチョークを洗い流していったが、生徒たちの煤を彼の腕の皮膚へと固着させていった。彼には作戦などなかった。神の怒りも、人間の尊厳も持っていなかった。ただ歩く疑問符であり、県を焼き尽くそうとする宇宙の寄生虫と、重火器の炎で全てを消し去るための秒針を既に動かし始めた政府との間に挟まれた、一人の非常勤の教師に過ぎなかった。
彼は再び左足を引きずった。溶けたゴムの粘着音が、濡れた枕木に対して再び響いた。
神戸の「最終的な月曜日」まで、あと23時間42分。ハゲた神は、第7突堤のコンクリートに向かって歩き続ける。勤務時間が終わってしまった後、他にどうすればいいのか、彼には分からなかったからだ。
【作者より一言】
第20話をお読みいただきありがとうございます。
防衛省の偵察ドローン『富士偵3型』に監視されながら、雨の阪急線の線路を歩く山田武。彼が固執する「8時半の授業の証明」と、西宮の甘すぎる茶菓子の記憶が、彼の崩壊しかけた理性を辛うじて繋ぎ止めています。
宇宙的物質が提案する「1万度の湾岸の海」という破滅の誘惑を、教師としての感覚(「試験範囲に入っていません」)で拒絶する山田ですが、その行く手には内藤慶次と国家の罠が待ち受けています。
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