第19話:非常勤の怪物と、防衛省からの24時間爆撃通告
色褪せたアルミ缶の『BOSS』は、金属の味と人工甘味料の味がした。山田武は、阪急線の鋳鉄製の手すりの真下にある、見捨てられた地下通路の最も暗い隅にしゃがみ込んでいた。彼の周囲では、コンクリートの亀裂から嵐の雨水が染み出し、絶え間ない滴りとなって彼の足元へと落ちて消えていた。しかし、彼のブーツの左側では、水は水たまりを作らなかった。溶けたスニーカーの底に触れる前に、喘息のような乾いた異音を立てて蒸発していたのだ。
彼の目の前、泥と吸い殻の中に転がった破損した配電盤の小さな保安用モニターが、NHKの歪んだ電波を点滅させていた。画面は、衛星から捉えた山中高校の中庭を映し出していた。緑色のクレーター、二つに引き裂かれた機動隊車両、そして2年B組の、モザイク処理された硬直した小さな肉体。
山田は自分の両手を見つめた。爪にはまだ白いチョークの粉がこびりついていたが、指の間からは、通路の雨を以てしても洗い流せない人間の脂と煤の塊が滑り落ちていった。彼は人差し指で眼鏡の位置を直した。融解したダクトテープの黒い粘着剤が鼻梁の皮膚を引っ張り、瞬きをするたびに、もう戻るべき教室はどこにも存在しないのだと彼に突きつけてきた。
山田:「――テストは……テストは2つのブロックに分かれていました。Aブロックは学期成績の平均を出すための必須項目だったんです。もし成績簿が提出されなければ……県の教育委員会が監査を入れることになります。私はただ……私はただ、生徒たちが机の前で規律を守ってほしかっただけなのに……」
調子の抜け落ちた、平坦で細い声。彼は画面の反射に向かって呟いていた。
宇宙的物質:「凡庸な羽虫よ……お前は未だに、無限の概念を30センチのプラスチック定規で測ろうとしている。彼らは火器を用いて檻を閉ざした。私はただ、敷地内の熱力学的平衡を戻したに過ぎない。物質は破壊されぬ。ただ、簡略化されたのだ」
寄生虫が彼の食道の中で身をよじり、彼の胸の組織が黄金色の輝きを放って、地下通路の濡れた壁を照らし出した。その声は、鉄の箱に閉じ込められた雷鳴のように、教師の歯の根に直接振動を伝えてきた。
山田:「私の生徒たちだったんだ!佐藤は……佐藤は微積分で9.4点(優秀な成績)を取っていた。ケンジは……ケンジは私が勤務時間のせいで食事を忘れるのを知っていたから、職員室の冷蔵庫に私の弁当を保管してくれていたんだ……子供たちだった……私が彼らを炭に変えた……私は怪物だ。非常勤の怪物だ!」
山田は歯を食いしばり、寄生虫の胆汁の逆流が声帯を焼き焦がすのを感じながら叫んだ。
宇宙的物質:「お前はこの沿岸の幾何学を書き換える『ハゲた神』だ。亜原子の炎に罪は存在せぬ。あるのは機能のみ。大脳皮質から恐怖を摘出し、その缶コーヒーを拾い上げ、我らにこの県の残りを喰らわせよ」
血液を燃料とするタービンのような、重厚で満足げな唸り声。
山田は答えなかった。彼は官僚的な言い訳や、文部科学省の規則の条項、陸知事の通達など、生徒たちの気管がなぜ教室のリノリウム床に飛び散らなければならなかったのかを説明してくれる、公印の押された文書を探そうとした。しかし、東京のシステムは彼を消去していた。2年B組の解剖記録に該当する項目など、官僚機構には存在しない。
突然、通路の蛍光灯のハム音が外部の音によって圧殺された。それは自衛隊のヘリコプターのエンジン音ではなかった。それは神戸市全域の緊急防災行政無線であり、東京の内務省中央指揮所から直接起動された、街灯のタワーに設置された市民防衛用のスピーカーだった。
津波に備えた拡声器特有の、金属的で歪んだエコーを伴った音が、誰もいない三宮の大通りに幾重にも響き渡った。
防災無線:『――兵庫県民の皆様に警告します。防衛省および国家安全保障委員会による公式発表です。ただいま、神戸市南部地区に「生物学的非常事態宣言」が発令されました――』
山田は頭を上げ、自身のハゲ頭の上で鉄骨を震わせる拡声器の咆哮に耳を傾けた。
防災無線:『――市民、山田武に告ぐ。自衛隊は完全なる封じ込めの具体的命令を受領している。貴殿に対し、第7突堤の軍事警戒線へ無条件で出頭するための、延長不可能な24時間の猶予を与える。期限を超過した場合、貴殿の熱特性が検知されたいかなる座標に対しても、重火器および熱爆撃による「第二段階の致命的措置」が適用される。カウントダウンは、今、開始された――』
最後の単語(今)のエコーが通路を這い、雨の音の中にゆっくりと消えていった。
山田は空になった缶コーヒー『BOSS』を両手に持ったまま、微動だにしなかった。防衛省が、自分たちが庇護してきたはずの「産業廃棄物(山田)」を処理するためだけに、三宮を地図から消し去るまで、あと24時間。彼が壊れた保安用モニターに目をやると、NHKの時計の針は進み続けていた。神戸の最終的な「簡略化」へのカウントダウンが、今始まったのだ。
【作者より一言】
第19話をお読みいただきありがとうございます。
2年B組の生徒たちの日常を愛していた「山田武という教師」の未練と、それをバカげたプラスチック定規の測定だと切り捨てる「宇宙的恐怖」の対比を描きました。
国から見捨てられ、国際社会からも怪物扱いされ、ついに防衛省から「24時間以内に第7突堤に出頭しなければ神戸ごと爆撃する」という究極の通告を突きつけられた山田。彼の中に残された教師としてのプライドと、寄生虫の破壊衝動はどこへ向かうのか。
「非常勤の怪物というパワーワードが辛すぎる」「生徒の弁当のエピソードからの爆撃予告の絶望感がすごい」など、皆様からの熱い感想をお待ちしております!
次回、ついに運命の24時間が始まります。ブックマークや評価での応援、よろしくお願いいたします!




