第17話:服務規程第4節!救急車の赤ペン採点と、三宮へ消える焦熱の足跡
非常階段の屋根の、あのブルーシートの端から雨水が滴り落ちていた。しかし、コンクリートの階段に触れた水は流れることなく、アンモニアと焼けた繊維の臭いを孕んだ湯気の糸となって、ジュウジュウと音を立てて蒸発していった。メープルシロップのような色と粘度を持ち、しかし腐った赤色の筋が混じった濃厚な液体が、一段また一段と重苦しく流れ落ち、山田の左足のスニーカーから伸びる、溶けたゴムの糸の間を縫うように進んでいた。
眼下の中庭では、すでに沈黙が破られていた。兵庫県警の3台の大型機動隊車両は、もはや綺麗な防衛線を維持していなかった。二階の窓ガラスがリアルタイムで融解し、2年B組のコンクリートの壁が柔らかいプラスチックのように外側へ歪むのを目撃した運転手たちは、純粋な条件反射のパニックに陥ってギアをバックに入れ、正門のあじさいの植え込みに鋼鉄製のバンパーを激しく激突させていた。
中庭に残された20名のSAT隊員たちに、無線からの指示は届かなかった。県の無線チャンネルは、炸裂による電磁パルス(EMP)で焼き切れた中継器の静電気ノイズ(スタティック)を撒き散らすだけだった。周囲の湿気でヘルメットのバイザーを曇らせた男たちは、南校舎の非常口の扉を凝視していた。彼らの透明な盾は、怯えた動物の鱗のように互いにぶつかり合い、カタカタと規則正しい音を立てて震えていた。
その時、非常口の観音開きの扉が崩壊した。衝撃音はなかった。木材がただ、完全に炭化して、焼け落ちた蝶番から外れて濡れたアスファルトの上へと転がったのだ。
山田武が、その敷居に姿を現した。
嵐の風が彼の顔を正面から打ったが、冷たい雨も彼の皮膚から放射される熱を和らげることはできなかった。紺色のウールセーターはほぼ完全に消失しており、露出した青白い、平坦な胸には、宇宙のフェニックスの黄金の光が人工心臓のような周期で脈打つ、焼け焦げた胸毛の瘡蓋が広がっていた。眉間と鼻梁の間で溶けたあの工業用ガムテープの黒い粘着剤の残骸が、ドロドロとした合成液体の滴となって彼の左目へと流れ落ち、彼にチクチクとした不随意の瞬きを強いていた。
彼の右手には、あの緑茶の滴る古い水筒が握られていた。熱によって蓋のプラスチックが持ち手に溶接され、歪んだ切り株のような形状に変形している。
SAT隊長:「タ、対象を確認……! 撃て(ファイア)! 中央の胴体に照準を合わせろ! 撃て、ふぁ……!」――ヘルメットの拡声器越しに、あまりの恐怖に裏返った無様な声を上げる。
隊長の持つMP5短機関銃が、3点バーストの9ミリ弾を吐き出した。銃声は乾いており、雨のカーテンにかき消されそうに鈍く響いた。
だが、弾丸が山田の皮膚に触れることは決してなかった。彼のボロボロのセーターから15センチ手前の空間で、大気は寄生虫の気圧によって瞬時に「溶融した鉄」ほどの密度に達したのだ。鉛の芯と銅のジャケットでできた弾丸はその場でペシャンコにつぶれ、輝く3枚の液体金属のコインへと姿を変えて虚しく地面へと落ち、赤熱したアスファルトに穴を穿った。
山田が一歩前へ踏み出した。右の合皮靴は普通のコツンという音を立てたが、左のスニーカーは踏み潰されたガムを引き剥がすような音を立ててコンクリートに粘着した。
山田:「……県庁の服務規程……第4節により……授業時間内における敷地内での火器の使用は、厳格に禁止されています。皆さん全員を……全員を懲戒処分の対象とします」――唯一綺麗なままの右のレンズ越しに、拡声器の隊長を見つめながら。何千回と繰り返してきた生徒指導のトーンそのものだった。
今回、宇宙のフェニックスは山田の脳内で何の音も発しなかった。その必要がなかったからだ。寄生虫はすでに教師の末梢神経系を完全に掌握しており、人間の道徳がもたらす抵抗を一切受けない彼の精神解離を、完璧な導電体として利用していた。
山田は左腕を上げた。あの変形した水筒を握る腕を。
火炎の噴射はなかった。彼の指先から放たれたのは、濃縮されたガンマ線と亜原子プラズマの光束だった。あまりにも眩いその白い線は、一瞬の間、神戸の灰色の昼を完全に消し去った。光束は、あじさいの左側から正門の出口にかけて、中庭を斜めに一刀両断した。
最初の大型機動隊車両が、完璧な二つの半体に両断された。車体の3ミリ厚の鋼鉄は曲がることすらなかった。切断線上で蒸発したのだ。エンジンのシリンダーブロックは熟したメロンのように真っ二つに割れ、トランスミッションオイルを撒き散らして、車体が地面に落ちる前に青い火の玉となって爆発した。車内にいた2名の隊員は、ただ消滅した。彼らのナイロン製の制服と骨は、超高温のガス流へと統合され、そのまま背後にある事務棟を貫通し、3枚の耐力壁を突き破って直径4メートルの強制換気トンネルを開けた。
二次的な熱波が、徒歩の隊員たちをなぎ払った。
あのメガホンのSAT隊長は、自身のヘルメットのポリカーボネート製バイザーが瞬時に内側へと融解し、悲鳴を上げようとする彼の口を塞ぐようにして、沸騰したプラスチックの層となって眼球と頬に癒着していくのを見た。彼は膝から崩れ落ち、すでに燃え上がっているタクティカルグローブで、自分の顔の皮膚を肉ごと引き剥がした。彼の隣では、3人の隊員が気圧の急激な減圧の直撃を受けていた。光線が作り出した気圧差が、彼らの眼球を眼窩から外へと強制的に吸引し、熱が皮下脂肪を乾燥させるよりも早く視神経を引きちぎった。彼らの足は2本の裂けた炭の杭と化し、自身の防弾チョッキの重みに耐えかねて崩壊した。
神戸の細かい雨は今、機動隊車両のタイヤの化学成分のせいで緑がかった色をして泡立つ、液状化したアスファルトのクレーターの上に降り注いでいた。生き残った数少ない隊員たちは、重傷を負い、制服を炎に包まれながら、生徒たちが朝残していった透明なビニール傘の残骸の上に剥がれた皮膚の痕跡を残しつつ、外のフェンスへと這い進んでいた。
山田は地面を見なかった。溶けたスニーカーを引きずりながら、中庭を横切って正門へと歩き続けた。
フェンスの向こうの幹線道路では、陸知事の会見を受けて恐る恐る接近していた地元テレビ局のジャーナリストたちが、中継車の中で完全に凍りついていた。NHKのカメラのモニターには、軍用燃料の黒煙の中を進む山田のハゲたシルエットが映し出されていた。振動のせいでカメラのレンズにはヒビが入っていたが、映像は送信され続けていた。
山田は正門の門柱の脇で足を止めた。そこには、山中高校の公式な看板が学校の「集団生活のルール」を掲げていた。彼は、まだチョークの粉で汚れた爪が残る右手で、ポケットから無印良品の赤色のゲルインクボールペンを取り出した。熱で部分的に変形していたが、ペン先はまだ機能した。
彼は前方へ手を伸ばし、ドアが開いたまま放置されていた一台の救急車の白いボディ(側面)に、明瞭な、事務的な筆致でこう書き込んだ。
【2年B組:大問Aの総合評価――評価対象物の紛失により、未受験(欠席)とする】
彼はボールペンを、スポーツウェアのズボンの生き残ったポケットにしまい込んだ。学校の敷地境界線を越え、風が港へと運んでいくあの「焼かれた肉」の臭いを、もう洗い流すことのできない雨が降る三宮の幹線道路へと、彼は足を踏み入れていった。
【作者より一言】
第17話をお読みいただきありがとうございます。
2年B組を「評価対象物の紛失により未受験」として処理し、無印良品の赤ペンで救急車に記録する山田武。彼の脳内では、未だに「服務規程第4節」のルーティンが回っています。SATの装甲車をプラズマで両断し、隊長をプラスチックまみれにしながらも、彼はただの「真面目なインターン教師」であり続けようとしています。
テレビカメラのレンズのヒビの向こうで、全国、そして世界へと生中継されてしまった「ハゲた神」の脱出劇。三宮の雨の中に消えた山田を、国家と内藤はどうやって「処理」するのか……。
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