第16話:2年B組の溶解!関数電卓禁止の遺言と、リノリウムの脂の池
二階の空気は、もはや学校のそれ(もの)ではなかった。揚げられた人間の脂、オゾン、そして焼け焦げた装甲車両の内装の臭いが立ち込めていた。そこは、組織的な猟奇虐殺と、精神分裂的な現実解離の境界線を完全に踏み越えた世界だった。
2年B組の壁時計の長針が、機械的な音を立てて三分進んだ。午前八時三十三分。
教室内の唯一の音は、32本のHBの鉛筆が、ざらついたコピー用紙の試験用紙を擦る規則正しい、まるで軍隊のような擦過音だけだった。山田は教壇の後ろに身じろぎもせず立ち、木製の縁に両手を置いて、生徒たちのつむじを見つめていた。彼の胸から漏れ出る余熱のせいで、古い水筒の緑茶が、錆びた臭いのする一本の湯気となって立ち上っている。
突如として、廊下が軋んだ。警告も、拡声器による呼びかけも、内務省のいつもの交渉プロトコルすらなかった。古い木製の引き戸は、スライドすることすらなかった。超音速の破片(破片)を撒き散らす油圧ラムによって、合板の扉ごと粉砕されたのだ。飛び散った木片は、散弾銃の弾丸のような威力で最前列の生徒たちの眼球と頬を貫いた。鉛筆が床に転がり、彼らが上げた最初の鋭い悲鳴の合唱は、タクティカルブーツの足音にかき消された。
特殊急襲部隊(SAT)の隊員4名がクサビ型の隊列で突入し、黒いポリカーボネート製の防弾盾の重量で最前列の机を押しつぶした。彼らの背後から、細身の後藤が悠然と姿を現した。トレンチコートのボタンを外し、両手をポケットに突っ込んだその表情には、官僚特有の退屈さが浮かんでいた。彼の帽子の鍔から、破壊された敷居の上へと、細かい雨のしずくが滴り落ちていた。
後藤:「――山田先生。チョークを置きなさい。陸知事があなたの臨床封じ込め命令(拘束令状)に署名した。両手をハゲ頭の上に乗せて、廊下へ出ろ。協力するなら、子供たちに大問Aの続きを解かせてやってもいい」――蛍光灯のジーというノイズの向こうから、奇妙なほど澄んだ声が響く。
山田は動かなかった。ガムテープで固定されたメガネの左レンズに、盾の陰から覗くMP5短機関銃の短い銃口が反射した。校長に職員室へ呼び出されるたびに彼の胃を収縮させていたあの馴染み深い恐怖が、物理的な実体へと変貌していった。 苦い、焼けるような胃液が喉元までせり上がってくる。
山田:「まだ……あと四十二分、あります。県の公式な試験を妨害することは……認められない。カリキュラムが……、成績は東京のシステムにアップロードしなければならないんだ……」――彼の声はかすれ、喘息持ちのような鋭い喘鳴となって漏れた。
後藤:「東京のシステムは、もうあんたを消去したよ、山田。あんたはもう公務員じゃない。ただの【産業廃棄物】だ」――あまりにも白すぎる歯を覗かせ、首を横に振る。
後藤が人差し指を上げた。左側のSAT隊員が一歩前へ出、短機関銃の照準器の中に教師のハゲ頭を捉えた。
それは、一ミリ秒の出来事だった。山田の過ちは悪意によるものではなかった。ただの計算違いだ。向こう側で何が起きているかも見ずに、体全体でドアを押し閉めようとする臆病者特有の、純粋な過失。銃口と壊れたメガネの間に壁を築き、自らを守るために、山田は脳内で寄生虫に密度の拡張を命じた。単なる防御用のスクリーン。封じ込めの方程式のつもりだった。
だが、宇宙のフェニックスは学校の幾何学の法則などには従わなかった。寄生虫は火薬と恐怖の臭いを嗅ぎつけ、制御棒を引き抜かれた原子炉のように反応した。
宇宙のフェニックス:【解放だ(リバティ)!!!!】
その炸裂は音速ではなかった。摂氏三千度の熱量と気圧の衝撃波が、半径六メートルの圏内で教室をなぎ払ったのだ。
最前列の生徒たちには、悲鳴を上げる時間さえ与えられなかった。黄金のプラズマが彼らを正面から直撃し、体液を一瞬で沸騰させた。彼らの目や細胞の中の水分が超高温の蒸気へと変わり、机の木材が燃え上がるよりも早く、彼らの頭蓋骨と上半身を内側から爆発させ、骨髄と蒸発した血液の悍ましい飛沫を撒き散らした。教室内の空気が一瞬で消費され、完全な真空状態が発生した。それが後列の生徒たちの肺から酸素を強制的に吸引し、肺胞をズタズタに引き裂いたため、少年少女たちは自身の気管支の破片を試験用紙の上に吐き出した。
窓ガラスは外側へ向けて割れたのではなかった。一瞬で融解し、液状化したガラスのカーテン、赤熱したケイ素の雨となって後列の生き残りの頭上に降り注いだ。そして、彼らの髪、頭皮の肉、そしてグレーの制服の繊維を、一つのドロドロとした塊へと融着させていった。
山田は瞬きをした。自身のセーターのウールが焼けた白い煙と、ケラチンや焦げた豚肉のような臭いが、三秒間彼の視界を曇らせた。嵐の風が、かつて窓があった空間から吹き込んできたとき、そのパノラマ(光景)が明らかになった。
SATの防弾盾は、アルミホイルのようにへし折られ、隊員たちの防弾チョッキから溶け出した金属を滴らせながら、廊下の突き当たりの壁に突き刺さっていた。後藤はもう存在していなかった。衝撃波によってドアの枠にあまりにも強い力で叩きつけられたため、彼の肉体は液状化していた。ただ、黒い脂の焦げ付きと、壁のコンクリートに突き刺さったいくつかの歯の破片、そしてプラズマと溶けたリノリウムの血だまりに浮かぶ、彼のフェルト帽の切れ端だけが残されていた。
しかし、2年B組の内部では、もはや沈黙は官僚的なものではなかった。それは、夜勤が終わった直後の【屠殺場】の沈黙だった。
教壇の右側では、積分計算のトップだった佐藤双子が、鉄製の机の脚に骨盤ごと癒着した、二つのかりんとうのような炭化人形と化していた。彼女たちの顔は唇を失った二つの黒い仮面であり、永遠の苦悶の表情の中に、白く焼けた歯並びを露出させていた。中央では、いつも職員室の冷蔵庫に彼の弁当を保管してくれていた少年、ケンジが仰向けに倒れていた。熱波が彼の顔の皮膚を薄紙のように剥ぎ取ったため、露出した赤い顔面筋肉が、未だに機械的な痙攣を繰り返していた。ゆで卵のように白く硬直した彼の両目は、天井を凝視したままだった。
32名の生徒のうち、呼吸をしている者は一人もいなかった。三角関数の試験用紙は、床一面に広がる人間の脂の池の上で、今なお一枚一枚個別に燃え続けており、小さな炎の長方形が、クラス全員の炭化した上半身を照らし出していた。
山田は自分の両手を見つめた。白チョークで汚れた爪、あのいつもの小市民的な白い肌のままだった。ただ、今は人間の脂の微小な滴が点々と付着し、彼の手首を伝い落ちていた。彼の食道の中の寄生虫は、血のボウルを舐め終えたばかりの猫のように、ゴロゴロと満足げな厚みのある音を響かせていた。
山田は人差し指でメガネを押し上げた。ガムテープは熱で溶け、彼の鼻梁の皮膚と直接融合して、黒い粘着剤のドロドロとした塊と化していた。彼は壁時計を見上げた。午前八時三十六分。時計のガラスにはヒビが入っていたが、長針は依然として、カチリ、カチリと、無関心な金属音を刻み続けていた。
山田:「……大問Aは、関数電卓は使えないと……言ったはずです」――最前列の、顎を失って煙を上げる頭蓋骨を見つめながら。現実解離によって完全に脳を破壊された彼の声は、平坦で、いかなる感情の刻印も奪われていた。
彼は左右非対称の踵を回転させた。ゴムの溶けた左のスニーカーを引きずり、リノリウムの床に黒い粘着質な糸を引きながら、炎が世界に切り開いたあの虐殺の爪痕を通って、彼は廊下へと歩き出した。
【作者より一言】
第16話をお読みいただきありがとうございます。
一線を越えました。
これはもはや能力バトルの領域ではなく、小市民の保身と宇宙の暴力が引き起こした「最悪の放送事故」です。子供たちの命よりもカリキュラムの提出を優先しようとする山田の強烈な現実解離が、2年B組を完全に生贄の祭壇へと変えてしまいました。
炭化した佐藤双子、顔の皮を剥がれたケンジ、そして脂の塊となった後藤。
すべてが終わり、人間の脂が滴る手でメガネを直しながら「関数電卓は禁止」と言い放つ山田武。この男は狂人なのか、それともシステムが生み出した究極の怪物なのか……。
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