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第14話:トカゲの尻尾切り!機動隊の包囲網と、生コンクリートの共同墓地

三ブロック先、贈集会ぞうしゅうがいの自社ビルの14階。内藤慶次は人差し指で叩くようにして、iPadの画面を消した。BBCの告発レポートが放っていた青い光が彼のトカゲのような両目から消え去り、オフィスは午前六時の薄暗がりに包まれた。


内藤は磨き上げられた黒い木製デスクの後ろに座ったままでいた。彼の周囲では、黒いスーツに完璧に結ばれたネクタイを着用した側近たちが、一歩も動かずに深い沈黙を守り、彼の一挙手一投足をまるで生死に関わる暗号であるかのように解読しようとしていた。


内藤:「――陸知事にかけろ。個人の携帯だ」――声を荒らげることもなく、判決を下すかのような冷徹さで命じる。


一人の側近が即座に頷き、緊張で震える指で素早く番号をダイヤルした。


回線が繋がるのを待つ間、内藤はデスクの左上の引き出しを開けた。キューバから輸入した葉巻を取り出す。国家危機のような重大な局面にしか火をつけない代物だ。贈集会の家紋が刻印された銀色のジッポライターで火をつけると、カチリという金属音が、静まり返ったオフィスの中で銃の撃鉄を起こしたかのように響いた。


彼は深く煙を吸い込み、薄い唇の間から濃厚な白い煙を吐き出した。彼の視線は、正面の壁に掲げられた山田武の公式写真へと向けられていた。その隣には、完璧な教師の伝説を仕立て上げるために贈集組ぞうしゅうぐみが偽造した、いくつかの学術表彰状が並んでいる。


写真の中の山田は、いつものようにガムテープで固定されたメガネの奥から、うつろで飛び出た両目をパチくりさせていた。内藤は最後の一太刀のような煙を、その教師の顔に真っ直ぐに吹き付けた。


14階の室内の沈寂は凄まじく、葉巻を吸い込む微かな音さえも重苦しく響いた。内藤は山田の無表情な写真を見つめ続けていた。陸知事にとって山田は選挙の「奇跡」であり、大衆にとっては「都合の良い神」だったが、内藤にとってあの教師は最初から、明確な【賞味期限】のある資産に過ぎなかった。


側近が震える手で衛星電話を差し出してきた。回線の向こうから聞こえる陸知事の声には、記者会見で見せるようなあの官僚的な抑揚は微塵もなかった。自分が立っている地面が足元から崩落しつつあることに気づいた、政治という名の獣の悲鳴だった。


陸知事:「――内藤……アメリカ側が東京(政府)に説明を求めている。この十分間で外務省から三回も電話があった。BBCが貨物船の熱紋データを公開し始めたら、NHKの報道規制だけでは抑え込みがきかないと言っている。……埠頭のダンプカーはどうする!?」――受話器のスピーカー越しに、激しく取り乱した呼吸が漏れる。


内藤:「ダンプは止めない。陸、そのまま走らせろ。夜が明ける前に第七埠頭を生コンで埋め尽くさなければ、東京地検に『物理的な証拠』を掘り起こされることになる。今この瞬間、俺とあんたを府中刑務所の監房から隔てているのは、あのセメントだけだ」――灰色の煙を吐き出し、オフィスのガラス窓を曇らせながら。


陸知事:「だが、あのレポートは我々が共犯だと直接指名しているんだぞ!? 『組織的な清掃』などと書かれている! 市場が開く前から、県内の建設会社の株価は暴落(ストップ安)寸前だ!」


内藤:「よく聞きなさい」――冷徹なまでの冷静さで、デスクをトントンと指先で叩く。――「世論というものは、いくらでも形を変えられる柔軟な生き物だ。明日の朝八時、あんたは全国放送のテレビに出る。BBCの報道は否定しない。その代わり、話の『焦点』をずらすんだ」


陸知事:「焦点をずらす? 三十二人も死んでるんだぞ、内藤!」


内藤:「山田武は公務員の管理を超越した『神秘的な浄化の妄執』に突き動かされ、独断で暴走したと発表しろ。県は彼の力を治安維持のためにコントロールしようと試みたが、あの宇宙的実体は国際条約と互換性がなかった、と言い訳するんだ。あいつを殉教者に仕立て上げようが、狂人にしようが俺の知ったことじゃない。だが、国家(お上)の身内だけは綺麗でいなきゃならない」


陸のラインから長い沈黙が流れた。聞こえるのは、オフィスのサーバーが発する低い作動音だけだ。


陸知事:「……もし、山田が喋ったらどうする? 組織のデータや、贈集組との契約について口を開いたら?」


内藤はモニターの隅に目をやった。そこではスクリプトが、あの教師の暗号化されたハードディスクを完全に支配していることを示し続けていた。山田に殉教者になるような度胸などないことを、彼は完璧に見抜いていた。あいつはチョークと方程式のルーティンにしがみつくしか脳のない、ただの臆病者だ。


内藤:「山田は何も喋らない。明日の朝八時半には、あいつは教室に入って三角関数の追試を行っているはずだ。自分の時間割ルーティンにしがみついてさえいれば、世界が港での出来事を忘れてくれると信じ込んでいる。そのまま高校へ登校させろ。警察に周囲を包囲させるが、まだ連行はするな。国際社会からのプレッシャーという熱で、あの怪物を自分の教壇の中でじっくりと煮詰めてやればいい」


内藤は返事を待たずに電話を切った。そして、ドアの影に佇み、黒い革手袋をギュッと軋ませて嵌め直している後藤の方へと振り返った。


内藤:「後藤。明日の弁当の手配はもういい。山中高校へ行け。もしあの教師が、陸の演説が終わる前に学校から逃げ出そうとしたり、あるいは胸の寄生虫が公式発表のシナリオに従うのを拒んだ時は……」


後藤:「――分かりました、兄貴」――歯を剥き出しにして、不敵に歪んだ笑みを浮かべる。――「俺たちの方で、方程式を単純化してやりますよ」


オフィスのモニターには、兵庫県警の機動隊の車両が、山中高校へと続く幹線道路に配置され始めているリアルタイムの映像が映し出されていた。日曜日から降り続いていた細かい雨は激しさを増し、三宮のアスファルトを激しく叩き洗い流していく。14階の室内では、内藤のキューバ葉巻の煙が天井へと昇り、一限目のチャイムが鳴り響く前に神戸の運命を決定づける、冷酷な戦略の軌跡を描いていた。

【作者より一言】


第14話をお読みいただきありがとうございます!


「ヤクザの若頭」内藤による、冷徹極まるトカゲの尻尾切り。山田を「宇宙の力に狂った暴走教師」として世界への生贄に捧げつつ、その裏でダンプカーを走らせて証拠をコンクリートで固めるという、大人の泥臭い権力闘争が極限に達しました。


機動隊に包囲されながら、月曜日の朝に「三角関数の追試」をやろうとしている山田の日常と、静かに殺意を研ぐ後藤の対比。一限目のチャイムは、山田の人生の終わりのゴングとなるのか……?


「内藤の悪役っぷりが最高すぎる」「国を巻き込んだ生贄システム、エグい」など,皆様からの感想や応援コメントをお待ちしております!物語がさらに加速していきますので、ぜひブックマークや星の評価ポイントでの応援をよろしくお願いいたします!

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