第135話 UFOキャッチャー
バッタ屋にて。
「なあ、ゲームセンターが忘れられない。あのウハウハの日を昨夜、夢に見た」
「分かるよ。馬鹿みたいに硬貨がゲームに落ちていく。客は狂ったみたいに夢中だ」
「おお、それ! それ!」
「これも一種のバブル経済か。バブル経済を知ってしまうと、懐かしくてもう一度って思ってしまう」
「経済用語は分からんけど。うん、懐かしいぜ」
「となると、UFOキャッチャーだな。プリクラってのもあるが。俺としてはUFOキャッチャーを勧めたい。何でかというと、カリーナに頼まれた」
「何をだよ?」
「未亡人、力がない子供。そんな領民ができる仕事ってな」
「慈善事業か。それが何でゲームセンターの再来なんだ?」
「ぬいぐるみを取るゲームだ。ぬいぐるみ作りは、そういう人達の仕事になる」
「何だ投げ輪かよ」
「システム的にはそうだな。ただ、がに股のトングみたいなので、ぬいぐるみを挟む」
「まあ、作ってみるか。投げ輪もあれで、商売にはなってる。あれと同じぐらいの客入りでも、それなりに稼げるだろう」
UFOキャッチャーは何と1日で完成した。
魔法があると、加工が早い。
ゲーム難易度の調整をすれば、本当の完成だ。
お金を入れてボタンを押すと、音楽が流れる。
そしてアームが動く。
うん、UFOキャッチャーだ。
問題は魔法でイカサマされることだ。
これは魔力感知の魔道具で防げる。
遊んでない時の電飾みたいな光もばっちりだ。
「客が来ないぞ」
「最初は来ない。そんなものだよ」
子供が通り掛かる。
「ママ、あれほしい」
「仕方ないわね。おいくらかしら」
「これは遊びですぜ。露店の投げ輪のゲームをやったことは?」
「子供の頃にやったわ。懐かしい。このぬいぐるみはゲームの景品ってことなのね」
「ええ。最初の1回はサービスします」
UFOキャッチャーが始まった。
難易度は低めに設定してある。
でないと、口コミが広がらない。
「ママ、挟んだ」
「ええ、ゆっくり。ゆっくり。あっ!」
「わーん、落ちた!」
「悔しい。もう1回」
「バッタ屋、ほら流行の兆しが見えるだろう」
「ああ、ウハウハな夢が脳内に描かれたぜ」
「真似されて、すぐにだめになるけどな」
「ぬいぐるみの原価計算が難しいぜ。良い布を使うと、できが良くなるのは、素人でも分かる。原価が高くなると、客が少なくなる」
「人気を長持ちさせるのは、ぬいぐるみのデザインに掛かってる。問題は安くてデザインの良い物を、どうやって作るかの方法だな」
「そんなの大手の商会に負ける未来しか浮かばん。たぎったのが、しぼんじまったぜ」
「諦めるなよ。魔法か魔道具でぬいぐるみを作る。弾丸の魔法で行けないか」
「できるだろうけど。だけどよ、そんなので良い物ができるのかよ」
「設計図はプロに作らせる。それを魔法で再現する。子供だろうが、未亡人だろうが、魔力はある。魔力が空になったら、手作業の仕事をすれば良い。カリーナに良い提案が出来そうだ」
「設計図を魔法に反映するって、どうするんだ?」
「精神魔法だろう」
「禁忌に片足を踏み込んでるぞ」
「じゃあ、魔力通信だ」
「それなら問題はなさそうだな」
「じゃ、やってみろ。任せた」
「おい、丸投げかよ」
母と子は、ぬいぐるみを獲った。
子供がぬいぐるみを抱えて嬉しそうだ。
今回の景品は、土産物店から買った。
ぶっちゃけ赤字も良い所。
テストだからな。
数日後、ファントムがイメージ通信魔道具を持ってきた。
綿と布と糸を用意。
カリーナがテストする。
「弾丸ですわ。まあ、可愛い」
ころんと、猫のぬいぐるみが落ちた。
「俺が記念に貰って良い?」
「はい、さし上げますわ」
街に分身で出掛けると、UFOキャッチャーが至る所にある。
バッタ屋の店名が入っているのが読めた。
儲けられるうちに、というわけだな。
設備投資を回収できるまでに、他の商会が乗り出さないと良いけどな。
金貨10万枚を賭けても良い。
絶対に真似される。
サマンサ先生じゃなかった、サマンサ教授が歩いているのが見えた。
なんかどこかで見た女性を連れている。
「こんにちは」
「あら、ライド君。こんにちは。ゴーレムですね」
「まあ、そうです。そちらの女性は?」
「彼女は助手兼、使用人のハイドよ」
あれっ、どこかで聞いた名前。
えっと、どこだ?
うーん、もやもや。
磁気の件での、バッタ屋のモヤモヤが感染したか。
気持ち悪い。
ハイドは美人ではないし、なんというか影が薄い。
まるでファントムだ。
てか、この魔力は本人じゃないか。
姿は騙せても、魔力は騙せない。
隠蔽魔法で女性に化けているんだな。
サマンサ教授の条件が女性だったから。
無茶をする。
絶対に、ばれるだろ。
思い出したよ。
ファントムに改名させる前はハイドって名前だった。
「思い出した。彼女は知り合いだったよ」
「カクルド家の紹介状でしたから、顔を合わせていても不思議ではないですね」
「お久しぶりです」
女の声だ。
ちょっとハスキーだけど。
こんなこともできるんだな。
元から女ってことはないよな。
うーん、分からん。
かなり、上手く擬態できている。
「ハイド、ユーフォーキャッチャーをやっちゃいますよ」
「はい、教授。頑張って」
「これは力学の問題ですね。それに重心を加味すれば。……。どうです。取れたでしょう。こんなのは軽いものです」
サマンサ教授が魔法を使ったのを知ってる。
計測系の魔法だな。
イカサマだけど、グレーゾーンだ。
「収納」
ハイドがぬいぐるみを仕舞う。
「汗かいたから、一緒に風呂に入って帰りましょう」
「すみません。ちょっと見苦しい物があって、疼くんです」
「傷ですか。それとも火傷?」
「言いたくないです」
エッチな気分になって不味いからとは言えないよな。
やっぱり男だな。
ファントムが女だったら、今までちょっと不味かった場面がある。
ヒヤヒヤさせやがって。
「そう言えば、そんな話を聞きましたね。精神の平穏のために勘弁してやって下さい」
「ハイド、ごめんなさいね。ライド君に言われて、そういうのがトラウマになってる人がいるのを思い出しました。無神経なので、この話題はこの限りで終りにしましょう」
「そうして、頂けると嬉しいです」
ちょっともありがたそうではないな。
強引に誘われてたら、一緒に混浴してたに違いない。
油断できない奴だ。




