第131話 ストレス軽減
久しぶりに、バッタ屋でスキル屋をやってる。
一時期は流行ってたが、魔力を枯渇させなければ、スキルはなくならない。
慣れれば、その辺は感覚で分かる。
なので、同じ人は何回も来ない。
へますると別だけど。
「言われた通りに今日スキル屋をやると、看板を何日か前から出しておいたぜ」
「うん、列は思ったほど長くないね」
「告知してくれる何かがあると嬉しいんだけどな」
「一斉メールか」
「何だそれ?」
「情報を表示する端末に一斉に報せが届く」
「コンピュータの発展形はそんな感じか」
「うん、ネットワークを構築しないといけないけど」
「場末の魔道具屋には話が大き過ぎて駄目だ」
「カクルド家にアイデアを話してみるよ。光ケーブルが引けたら良いんだけどな。電波の通信回線でも良いけど」
「専門用語は分からん」
「理解できたら、この店の店主から引き抜いて、従業員1万人ぐらいの事業を任せてたよ」
「俺に期待するなよ。トイレ便器製造ぐらいが俺の器だ。あれだってきつかった」
「ゲームセンターはどうなった?」
「あれな。飽きられて、競争相手に負けた。競争相手は、でかい商会だからな。太刀打ちなんかできない。ゲームの開発って金が掛かり過ぎだ。おまけに、そのゲームが流行るか分からん」
「あるあるだな」
「商売は難しい。他では手に入らない変な魔道具を売るのがこの店の特徴だ」
「そんなのは知ってる」
「で、何かないか?」
「うーん、今日の客は次第かな」
「何でそうなる?」
「まあいろいろと」
新しい呪いが判れば、それが札になって、新商品になるかも知れない。
客を捌く。
付き添いがいる客だ。
「ええと、治療かな?」
「この娘は馬鹿なんです。前はこんなじゃなかった。ある日とつぜんこうなった」
「えへへっ、幸せ」
おお、笑顔は無邪気で可愛いが、知性が感じられない。
小さい子供みたいだ。
見てみるか。
おお、呪いがある。
馬鹿になる呪いか。
こいつはちょっと、危ない呪いだな。
麻薬みたいな効果の呪いだ。
人体に副作用はないようだ。
それは救いだな。
呪いを解除してやる。
「ああー! 私は! なんてお馬鹿だったの! あんなことをいろいろして、ああ恥ずかしい!」
「呪いだよ」
「納得した。これで恥ずかしさが消えたわ。呪いなら仕方ない。病気みたいなもの。毒を盛られたと思って、恥ずかしさを我慢する」
どうやら、呪いに掛っている時のことを、覚えているらしい。
「大銀貨1枚だよ。お大事に」
ええと、効果を薄くしたら、この呪いはどうなるかな。
客を全て捌いてから、札を作ってみた。
「ぺたんとな」
「くっ、実験台にしやがって、でも不思議とイライラしない」
「なるほど、効果はストレス軽減か。元の呪いは、精神病用かな」
「酒を飲めない人には良いかもな。ぴきーん。これは売れるぞ。魔道具店長の勘」
「健康被害があるか分からない。犯罪奴隷で実験するんだな。死にはしないだろう。問題は中毒性だな」
こいつの売れる勘は分からない。
ゲームセンターを潰してるからな。
数日後、見に行ったら、ストレス軽減の札が爆売れしてた。
臨時の店員が5人もいる。
「おお、福の神様! いらっしゃい! 今日はなんの御用で?! 何でも言っちゃって! 出来ないことなら、口笛吹くけど!」
バッタ屋の良い笑顔。
後頭部に札が貼ってあるのがチラッと見えた。
「おい、試験はちゃんとしたんだろうな」
「したよ。ばっちり。任せて。どんと来い」
ハイテンションだな。
ちょっと、人格が変わってないか。
健康被害が出たら、バッタ屋に責任を取らせよう。
回復魔法でたいがいは何とかなる。
駄目ならエリクサーだな。
俺なら安価で作れる。
客は病んだ感じの人が多い。
「これを使わないと眠れないんだ」
ああ、精神安定剤の代わりかる
「上司の罵声が凄くって、これがないと刺してた」
物騒だな。
「忙しいのが悪い。これがないとミスを連発して、余計に忙しくなる」
イライラするとミスが多いよな。
役には立ってるようだ。
多少の副作用は仕方ないのかな。
古代の遺物だろうから、古代では使われてたのだろう。
でも原理が分からないんだよな。
脳内の電気信号か化学物質だとは思うんだけど。
脳内麻薬を作り出す電気信号かな。
うーん。
たぶんそんなことだろうな。
使えりゃ別に良いけど。
副作用がありそうで怖い。
俺は使わないぞ。
「麻薬を売っていると通報があった! 逮捕する!」
守備兵が来て、バッタ屋が逮捕された。
だよね。
そんな落ちだと思った。
原理が分かれば、無実かどうかわかる。
バッタ屋は牢屋行きかな。
差し入れしてやろう。
原理を考えていたら、バッタ屋が戻ってきた。
「酷い目に遭ったぜ」
「良く釈放されたな」
「こんなこともあろうかと、札にすっとする薬を塗っておいた。ありふれた薬だ」
「せこい言い訳だ」
「ばれなきゃ良いんだよ。売った者勝ち」
守備兵が札を取り締まる法律は、禁制品でもない限りない。
札の魔力回路は解析できないからな。
はっきりと禁忌と呼べるような効果が無い限り、取り締まれない。
副作用が出て大勢が死んだら、きっとバッタ屋は処刑されるな。
惜しいひとを亡くしたよ。
「天国で安らかに暮らしてくれ」
「殺すなよ」
「ちゃんと実験しないと、死ぬぞ」
「ああ、懲りたから、1ヶ月ぐらい試してみる。守備兵に書類を提出しないといけないし」
「起訴猶予かよ」
「ああ、もちろん。ここ数日の儲けで、実験する費用は稼げた」
こいつ、懲りないな。
実験費用を出すのが嫌だったのか。
なんというか、こいつらしい。




